大人も子どもも関係ない!…映画『シャザム!』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年4月19日
監督:デヴィッド・F・サンドバーグ
シャザム!
しゃざむ
『シャザム!』あらすじ
ある日、謎の魔術師からスーパーパワーを与えられた少年ビリーは、ヒーロー「シャザム」に変身できるようになる。筋骨隆々で稲妻を発することができるが、外見は中年のシャザムに変身したビリーは、悪友のフレディと一緒にスーパーマン顔負けの力をあちこちで試してまわり、悪ノリ全開で遊んでいたが…。
『シャザム!』感想(ネタバレなし)
ヒーローになりたいですよね(威圧)
幼稚園児の男の子に「将来の夢は何?」と聞くと今でも返ってくる答えのひとつに「ヒーロー」があります。たいていはその子が見ている特撮ヒーローです。そりゃあ、憧れますよね。だって子どもが認識できる世界で一番カッコいい存在ですから。女の子だって特撮ヒーローを見ていたら「ヒーロー」になりたいと答える子もいるでしょう。
そして成長してちょっと数年をとっただけで、すぐさま“将来の夢候補”から「ヒーロー」は消えてなくなります。現実的な職業ばかりを答えるようになり、中高生にもなれば公務員だなんだと安定路線。でもそれが大人になるってことだから…。
いや、ちょっと待ってほしい。本当にそうか?
単にヒーローとか口にするのはダサいし…と大人ぶっているだけじゃないか? 内心では今もヒーローになりないなぁ…って思っていませんか?
そういう私は良い大人ですけど、ヒーローになりたいですよ。今だって特殊能力とかほしいですよ。私の4畳半の心のスペースの隅っこの壁には今も「ヒーローになる」という目標が、チラシの裏紙に鉛筆で書かれて飾られていますよ。
え、でもヒーローになったら犠牲の中で悪と戦うために苦悩しなきゃいけないって?
いや、それは考えていなかった。ほら、葛藤とか、そういうのいいかなって。ただでさえヒーローじゃなくても人生は悩みごとの連続ですし。
ヒーローになりたいという動機はとりあえず「特別」になりたいということに尽きます。そういうものです。他に深いことなんて考えていません。
そんな「大人」という悪しき殻によって封印された純真な童心をもう一度蘇らせてくれる映画。それが本作『シャザム!』です。
『マン・オブ・スティール』から始まった「DCエクステンデッド・ユニバース」の7作目…ですけど、もうユニバースは忘れていいのかな。ね。たぶん関係者もスーパーマンに頼んでちょっと時間を巻き戻して無かったことにしてほしいと思っているんじゃないですか。
でもまさかこの『シャザム!』がここまで高評価になるなんて夢にも思いませんでした。「ジャスティス・リーグ」チームに所属すらしていない、ぽっと現れただけのコイツがいきなりDC映画の救世主『ワンダーウーマン』に迫る批評家からの称賛でデビューしましたからね。
それだけでもミラクルなのですが、本作の監督も凄いのです。“デヴィッド・F・サンドバーグ”という人で、この人はスウェーデン出身でもともと短編アニメをYouTubeに投稿するという割と今もたくさんいる個人クリエイター的な活動をしていて、2013年に短編実写ホラー作品の『Lights Out』が視聴回数が1億回を超えるバズりを見せ、一躍映画界への切符をゲット。そのままその『Lights Out』を長編映画化した『ライト/オフ』で長編映画監督デビュー。続いて『アナベル 死霊人形の誕生』を手がけ、すっかりジャンル映画界の有能監督の仲間入りを果たしたのでした。
ちなみに一部の映画情報サイトでは短編映画『カン・フューリー』を製作したデヴィッド・サンドバーグと混同されていたりしますが、別人です。
このエピソードからもわかるように“デヴィッド・F・サンドバーグ”監督は凡人から一気に勢いに乗っている監督に変身できたわけです。これがまさに『シャザム!』の物語とシンクロしているのもユニークですよね。『シャザム!』はごく普通の少年がスーパーマン的最強パワーを偶然手に入れて、見た目まで変わっちゃう話ですから。
それにしても『アクアマン』のジェームズ・ワン監督といい、DC映画はホラー映画界の非アメリカ系に救われているなぁ(そもそも“デヴィッド・F・サンドバーグ”監督もジェームズ・ワン組みたいなものですしね)。もうこうなったら完全にこの路線を主軸すること決定ですね。
なんか公開前の日本宣伝で吹替絡みで一部映画ファンの反感を買い、炎上したみたいですけど、まあ、些細なことです。私は映画を見る時は、もう自分の脳内で勝手に字幕や吹き替えを形成した“ような気分”になって楽しんでますからね。これが私の特殊能力です。
某ライバル・アメコミ映画大作の登場前に皆でワイワイ楽しんでください。
オススメ度のチェック
ひとり | ◎(とにかく楽しい) |
友人 | ◎(みんなでも楽しい) |
恋人 | ◎(二人でも楽しい) |
キッズ | ◎(子どもでも楽しい) |
『シャザム!』感想(ネタバレあり)
怖がらせるのは得意です
『シャザム!』を観てまずは思ったのは、“デヴィッド・F・サンドバーグ”監督の手慣れている感じ。この監督、『シャザム!』が長編3作目で初のビッグバジェット作品ですよ。それでこの手際。アメコミ映画は大予算でいろいろな大人の事情も絡んでくるため、決して映画監督にとって自分の能力を全開にするのに適した環境ではないことも多いのですが、やっぱり“デヴィッド・F・サンドバーグ”監督はもともと才能があるのでしょうね。実に上手く整理されてまとまっている映画だなと思いました(まあ、この製作環境の良さは『死霊館』シリーズを始め『アクアマン』も手がけるプロデューサーの“ピーター・サフラン”の尽力もあるかもですが)。
ちゃんと本作にも“デヴィッド・F・サンドバーグ”監督らしさたっぷりの作家性がいかんなく発揮されているのも素晴らしい点。
予告動画や宣伝などではコミカル一色のようにアピールされていましたが、観てわかるとおり、結構ホラーテイストも一部では強め。これは『ライト/オフ』や『アナベル 死霊人形の誕生』とホラー映画を手がけてきた監督の持ち味が光っているところ。
冒頭、1974年。まだ幼い少年のサデウス・シヴァナが後部座席に乗り、父の運転する車で助手席に乗る兄とともに道路を移動している場面。魔術師シャザムの暮らす「永遠の岩(Rock of Eternity)」にひとり迷い込み、拒絶され、また車に戻ってきて、悲劇が起こる。この一連の流れは非常にホラーの王道に沿っています。サデウスが父兄から何も信じてもらえない孤独さを抱えているのもいかにもホラー映画の主人公っぽい部分ですし、おもちゃ(文字が出てくるやつ。名前はなんていうのですかね?)をトリガーにするのもホラー映画的(『アナベル 死霊人形の誕生』でも“おもちゃホラー”がたくさん見られます)。
また、要所要所でがっつり凄惨に人が死ぬのも印象的。七つの大罪の力をその身に宿したサデウスが復讐のために父の経営するシヴァナ産業の役員会議を強襲する場面とか、なかなかの殺戮。モンスターパニックです。全年齢映画なのでもちろん血とかは描かれないのですが、それでも制約の中で観客を最大限怖がらせるツボをちゃんとわかっている監督ですね。
これだけ人の命をなんとも思っていないヴィランなのだと演出するからこそ、後半の主人公が身を寄せる家の子どもたちにサデウスが迫るという危機が訪れた時、観客にもヤバいと思わせる緊迫感につなげることができています。ビリーを水責めにして言葉を封じるシーンなど、戦い方も良いエグさです。
優秀なホラー映画監督をアメコミ映画に起用するという金鉱脈をDCは見つけたんじゃないでしょうか。
ふざけすぎな子どもっぽさ
一方でコミカルなときはとことんコミカル。ふざけている度合いで言えば、DCトップクラス、いやアメコミ映画トップクラスかも。“しょうもない”ギャグの連発です。
そもそも「シャザム!」というヒーローの設定時点がもう真面目に考えるだけアホらしいんですよね。魔術師協議会がなんたらという、意味不明な組織の培ってきた魔術の結晶で、ソロモンの知恵(SOLOMON)、ヘラクレスの剛力(HERCULES)、アトラスのスタミナ(ATLAS)、ゼウスの万能(ZEUS)、アキレスの勇気(ACHILLIES)、マーキュリーの神速(MERCURY)の頭文字をとって「シャザム(SHAZAM)」というダサいにもほどがあるネーミングセンス(ビリーも最初に聞いたとき噴き出してましたが)。ソロモンの知恵というほど賢そうではなかっただろうとか、ゼウスの万能があるならそれでじゅうぶんじゃないかとか、いや、根本的になんで“筋肉ムキムキ”なんだとか、ツッコミだしたらキリがない。
その能力もタガが外れていて、スーパーマンのように怪力もあって空も飛べるわ、ワンダーウーマンのように銃弾を跳ね返せるわ、フラッシュのように高速移動もできるわ、手から電撃ビームもだせるわ、特殊能力の大盤振る舞い。できないのはアクアマンの魚と会話する能力くらいでした。
このオーバーすぎる能力を手にしたビリー(シャザム)とそのサイドキック的なポジションのアメコミオタクであるフレディがはしゃぎまくる前半はシンプルに愉快。『ボヘミアン・ラプソディ』ですっかり一世をまたも風靡したQUEENの「Don’t Stop Me Now」に合わせて、ノリノリで能力テストをしていくくだりは、そりゃあ楽しいだろうなと、こちらも仲間に入りたくなる気持ち。
そこからのサデウス登場でアメコミ映画らしいVFX全開のド派手バトルが展開されるわけですが、ここもやはりコミカルは維持。日常にあるものを使ってドタバタと戦闘が繰り広げられる感じは『アントマン』っぽいですね。この賑やかな場面の中でも、『ビッグ』(1988年)など映画のオマージュをさりげなく入れているのも映画ファンには楽しいです。
“見た目は大人”という触れ込みでしたが、演じている“ザッカリー・リーヴァイ”が童顔なせいで全然大人っぽさがゼロなのがハマっていますね。
大味な能力の大バーゲンで、ひたすらコミカルな本作ですが、話のロジックは意外にしっかりしています。それは戦闘も同じ。ビリー自身、能力を使って戦うことには不慣れなので、最初のvsサデウス戦は劣勢です。でも終盤の遊園地を舞台にしたクライマックスバトルではサデウスにはない“あること”が武器になることを知って形勢逆転。ちゃんと「シャザム!」と叫べば元の体に戻るという特性を活かして戦うなどテクニカルな一面も。オーバーすぎる超人能力でゴリ押しするわけではないのが良さです。
だから皮肉にも、もうこの時点でヒーローの完成度としてスーパーマンやバットマンを超えています。凄いぞ、シャザム…。
ヒーローになれる人間、母親になれない人間
ヒーロー映画の歴史を振り返ると、『ダークナイト』三部作に始まった“シリアス時代”が終わり、最近のアメコミ映画は完全に“コミカル時代”、そして今と未来は“みんなヒーロー”時代へと転換している感じがしていました。『アントマン&ワスプ』や『スパイダーマン スパイダーバース』で描かれていたように、人種も年齢も性別も関係なく、誰でもヒーローになれるというのが昨今の潮流です。
そう考えると、『シャザム!』は“みんなヒーロー”時代を代表する理想的な一本になったなと強く感じます。
そのためにまずは「ヒーローって何?」という基本事項を作中ではテンポよく語っていきます。「ヒーローは人助けをするもの」だとか、「ヒーローの正体は隠さないといけない」だとか、そういうお約束のルール。
それらを観客と一緒にざっくりおさらいし、ビリーがヒーローとして目覚めた後、いよいよお待ちかねのサプライズ、“みんなヒーロー”な大見せ場の登場。
ビリーが引き取られた里親の家にいる子どもたちがなぜ人種も年齢も性別も体格もバラバラなのか。ここでその意図が明かされることに。それぞれがビリーのシャザムの能力を分かち合い、思い思いに自分を解放して戦っていくさまはまさにカタルシス。マイノリティヒーローのレアリティさえも冗談のネタにして好き勝手に暴れるこのチームに敵はなし。アベンジャーズもジャスティス・リーグも必要ありません。
本作はあらためて「ヒーローになりたい」という素直な気持ちと向き合った一作です。こう言うと“ヒーローには興味ないです”という意見も出てきそうですから、言い方を変えるなら“誰しもが自分とは別の自分に憧れを抱く”ということはあるでしょう。いわゆる「アルター・エゴ」ですね。本当はこうであればいいのに…こんな存在になってみたかった…そんな普遍的な願いをフィクションで叶えたい。誰でもあることじゃないですか。
またこういう子どもたちが姿の異なる能力を持った大人になるというパターン…最近だとアメリカで予想外の大ヒットを見せた『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』でも同じでした。たぶんこの感覚が今の若者に受けやすいのでしょうね。
本作は主軸となる物語は笑いありのハッピーな方向性ですが、個人的にはビリーの母親のエピソードが良いなと思っています。ビリーが子どもの頃にはぐれてしまって生き別れたあの母親。実は生きていることが判明し、ビリーが感動の再会を期待していざ会ってみると、やんわりと跳ね返される。本当は意図してビリーを警察のところに置いて立ち去ったと吐露する母親。
つまり、この女性は「母親」になるだけの能力を持っていなかった…「アルター・エゴ」との食い違いに苦悩していたんですね。本作は決してこの母親を責める内容になっていないのが印象的であり、シャザム的な“万能能力お気楽主義”に陥っていない、なによりの証拠となる苦さです。世の中にはこういう人もいっぱいいる…だからこそ能力を持つ者は誰かのために行動しよう…それが“道しるべ”になれば…。ビリーのあの母親に対する別れ際の行動こそ、最高のヒーロー的な献身だと思います。
とりあえずDC映画は安定路線を確保したなと。なにより本作がDC映画の“道しるべ”になりましたからね。もうこれでDC映画の心配するのはもうやめようっと。『シャザム!』の続編も楽しみです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 91% Audience 88%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
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続編の感想記事です。
・『シャザム!神々の怒り』
作品ポスター・画像 (C)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
以上、『シャザム!』の感想でした。
Shazam! (2019) [Japanese Review] 『シャザム!』考察・評価レビュー