くるみ割り人形と秘密の王国
映画『くるみ割り人形と秘密の王国』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Nutcracker and the Four Realms
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2018年11月30日
監督:ラッセ・ハルストレム、ジョー・ジョンストン

あらすじ

愛する母を亡くして心を閉ざした少女クララは、クリスマスイブに鍵のかかった卵型の入れ物をもらう。その夜に誰も知らない秘密の王国に迷い込んだクララは、その世界でプリンセスと呼ばれ戸惑いつつも、やがて大きな戦いに巻き込まれていく。

ネタバレなし感想

クリスマスとクルミの関係

冬の到来を感じさせる光景というのは皆さんいろいろ思い浮かべることがあると思いますが、北海道では「エゾリスの冬支度」が挙げられます。エゾリスというのは、こげ茶色で、冬毛がふさっとしている、ちょっと大きめのリスで、日本では北海道にのみ生息しています。このエゾリスは冬眠しないので(同じく北海道に暮らすシマリスは冬眠します)、秋になるとせっせとドングリやクルミを集めては地面に埋めて冬のときの食料確保に勤しむのです。エゾリス自体、住宅地そばの公園や林にも住んでいるので、目撃するのは比較的簡単です。雪のどっさり積もった冬になれば、秋に埋めた木の実を掘りだすエゾリスの姿が朝方に見られます。

なんとも微笑ましい光景ですが、人間も大昔はリスと競い合うように一緒にクルミなどを集めては食べていたのでしょうから、本来はライバルです。しかし、時代が進むにつれて、人間にとってクルミは冬、とくにクリスマスの定番の食べ物という季節的なアイテムに変わり、それを奪い合う相手もリスから人工地によくいるネズミへと変化していきました。

でも、日本人はあまりクルミとクリスマスを関連させる習慣はないですよね。ナッツという健康食のイメージが強いかな。

それでもヨーロッパを中心とする地域ではまだまだクルミの存在感はあり、それを象徴する道具が「くるみ割り人形」です。その名のとおり、堅いクルミを割るための人形のかたちをした道具ですが、装飾品としても人気。なんで兵士や警官の姿をしているのだろうと思うのですが、庶民にとって上の立場にいる権力者を模した人形に「クルミを割る」という単純労働をさせることでスカッとしていたらしいです。昔から市民たちはこうやってストレス発散していたんだな…。

前置きが長くなりましたが、その「くるみ割り人形」といえば、チャイコフスキー作曲のバレエ「くるみ割り人形」が有名で、そのバレエの原作となったのがE.T.A.ホフマンの童話「くるみ割り人形とねずみの王様」です。

この童話はこれまでもいくつも映画化されており、日本ではアニメ映画化もあったのですが、今回、映画界のキングダム、ディズニーが実写映画化に乗り出しました。そして生まれたのが本作『くるみ割り人形と秘密の王国』となります。

明らかに内容からしてクリスマス・ムービーとして製作されており、本国では満を持して季節的タイミングを狙っての公開だったのですが、結果は芳しくないようで…。2018年のディズニーは明暗がハッキリ分かれていますよね。『A Wrinkle in Time』という実写映画を3月に公開していますが、こちらも評価も興収もイマイチ。続く『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』も痛恨の墜落。それなりに上手くいった実写は『プーと大人になった僕』くらいでしょうか。
『プーと大人になった僕』感想(ネタバレ)…何もしない映画
まあ、相変わらずアニメとマーベル映画は史上最高レベルの絶好調なので、たぶん痛くも痒くもないのでしょうけど。

本作のお話自体は王道のファンタジーなので、これまでの『シンデレラ』や『美女と野獣』のような最近のディズニーが実写化してきたプリンセス系のストーリーのラインにあります。そういうのが好きな人は抵抗感もなく、観られるはずです。ちなみに元の童話「くるみ割り人形」については知識は何もいらないので安心してください。

純粋なファンタジー好きにはたまらない映像になっている一作です。

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

精巧なホンモノの世界

本作の特筆できるポイントはやはり美術でしょう。

『シンデレラ』や『美女と野獣』でもそうでしたが、ディズニーはプリンセス系の実写映画を作るたびにアート・デザインに並々ならぬ技術を注ぎ込んでいます。

最近はすっかり現代技術に感化され、どうしても「どうせ全部CGでしょ?」と考えてしまう観客も多いと思います。しかし、本作も確かに宮殿の城など遠景の映像はCGを駆使しているでしょうが、それ以外のミニマムなシーンはスタジオの大規模なセットです。序盤の華やかなパーティ会場、クララが迷い込んだ雪深い森、カラフルでファンタジックな個性が光る国々の街並み、無数にうごめくネズミ集団と戦う暗い森、宮殿内部のラストバトルを行う場所など、徹底的に細部まで作り込まれています。あの森なんてどうやって作っているんだ?というぐらいのクオリティで、さりげなく凄い風景が作中にどんどん映っています。「CGじゃないの?」という驚きで反応されにくいのが可哀想ですが…。

これこそ映画の面白いところですし、私自身好きな部分ですが、個々の職人技の集大成によって、現実ではありえない世界を実際に作ってしまう…まさに魔法のような技は見ていて楽しいものです。たぶん演じている俳優陣も見事なセットでキャラになりきるのは最高の体験でしょう。

もちろん、こんなことが実現できるのは贅沢な資金を投入できる天下のディズニーだからこそなのですが。ただ、ディズニーのこの部分へのこだわりは昔から今も変わらない良さです

こういう空間創造への情熱と執念は、ディズニーランドなどのテーマパークにも反映されています。あれもただの遊園地なら乗り物だけに特化すればいいのに、ディズニーの作る“それ”は全部にこだわる。だからなんとなく歩いているだけでもワクワクしてきてしまう。この経験はわかる人も多いはずです。

CG時代になっても、実在のモノを作るクリエイティブ精神は継承しているというのは凄いことですし、私もディズニーの素晴らしさのひとつだと思います。

その素晴らしい魅力を存分に堪能できる映画でした。

くるみ割り人形と秘密の王国

3世代女性陣の新しい女性像

精巧に再現された世界観でイキイキと活躍する役者陣も魅力的。とくに3世代の女性キャラクターは本作の華です。

ヒロインであるクララを演じた“マッケンジー・フォイ”。ディズニーのプリンセス系映画の主演を飾るにふさわしい「ザ・ヒロイン」っていう感じのオーラがこの若い女優にも備わっていました。この“マッケンジー・フォイ”、映画ファンなら記憶にあるかもしれませんが、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』で主人公を泣かせたあの娘ですよ(ちょっと語弊のある言い方)。厳密にはあの娘の幼少期を演じていました。そんなあの子がすっかり大人っぽく成長した姿を本作では見られて…きっと『インターステラー』の主人公はこの『くるみ割り人形と秘密の王国』を観たら号泣ものですよ(世界観が違います)。

クララのキャラクター性は、古き良きではなく“古き悪き”なステレオタイプ的プリンセス像にハマらないよう細心の注意が払われている感じでした。コスチュームからすでに意識してます感がビンビンです。ベタなプリンセスっぽい美しいドレスの恰好をするのは一時的。後半は「くるみ割り人形」と同じ兵士スタイルで、斬る蹴るでアクティブに戦います。ディズニーの「華麗に戦う系女子」で行きますよ!という姿勢がよくわかる…。機械いじりが得意という設定はどうしても『インターステラー』を思い出してしまう私でしたが…。

そのクララが出会う「お菓子の国」の統治者シュガー・プラムを演じたのは“キーラ・ナイトレイ”です。同じくディズニーの『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズにて「華麗に戦う系女子」を先に実践していましたから、まさに先輩です。ただ、今作では“キーラ・ナイトレイ”はこれまでにないエキセントリックなキャラを怪演し、しかも後にヴィランだと判明。これまた既存の女性らしさを良い意味でぶち壊しつつ、自由奔放で楽しそうでした。

この二人だけでも充実しているのですが、本作はもうひと世代があって、それを担ったのが「第4の国」の反乱者マザージンジャーを演じた“ヘレン・ミレン”です。なかなかの大物女優を持ってきたなという感じですけど、マザージンジャーのキャラクター性がまたインパクト大で、絶妙に敵か味方かわからない雰囲気が見事。

この3世代女性陣のアンサンブルが、これからのディズニーのフェミニズムの宣誓を象徴しているようでした。

ネズミは悪くない

そんなこんなで良さはいっぱいあるのですが、作品単体としてあんまりノれない部分も…。根本的にダメとかではなく、全体的にもう一歩踏み込みが足りない感じでしょうか。

3世代女性陣のフレッシュさが光っているわりには、ストーリー展開は王道。精巧な世界観で繰り広げられる展開を描く映像はそこまでの斬新さもなく…。4つの王国があると壮大なスケールを謳っているにもかかわらず、ほとんど国をまたにかけた冒険などもないので、こじんまりとしていますし…。ただ、これは擁護しているわけではないですが、本作はこのあたりも全部狙ってこそなのかもしれないですね。

というのもご存知のとおり「くるみ割り人形」といえばバレエ。本作はトップバレエダンサーを参加させるなど、バレエ部分にも相当なリスペクトを捧げていることが窺えます(残念なことに私はバレエはさっぱりなのですが…)。

つまり、本作はいかにも最近のVFX満載の映画にありがちなカメラがぐわんぐわん動く系の映像よりも、一方向から眺めるようなステージ鑑賞風の固定映像スタイルでいこうというコンセプトなのかもしれません。一方向演出といえばバレエを鑑賞するシーンでは、オーケストラ演奏の指揮者が影で表現されるという『ファンタジア』オマージュがありましたね。また、ストーリーもあえて王道でいくことで、3世代女性陣の新しさを際立たせようという狙いなのかも。

そう考えるとわからないでもない。が、目の肥えた一般観客にはおそらく物足りないのではないかな…。もちろん、子ども向けと考えるならばずいぶん贅沢なクリスマスプレゼントだとは思いますけど。

本作の監督は『僕のワンダフル・ライフ』で犬派を号泣死させたことで記憶も新しい、名匠“ラッセ・ハルストレム”…だったのですが、再撮影時にスケジュールが合わなかったことで、ディズニー絡みでは『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』で縁のあった“ジョー・ジョンストン”にバトンタッチしています。それがどう影響したかは不明ですが、VFX畑の“ジョー・ジョンストン”監督に交代したというのは、勘ぐれば一般受けしやすいエンタメ成分をこれでも追加したのかもしれませんね。

最後に邪推をひとつだけ。ディズニーは…ネズミを悪く描けない縛りでもあるのかな…。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 34% Audience 37%
IMDb
5.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 4/10 ★★★★

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↑『僕のワンダフル・ライフ』…同じくラッセ・ハルストレム監督作。犬好きを泣き死にさせかねない映画です。
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