ドラゴンも映画も目立っていないけど…映画『ピートと秘密の友達』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2016年)
日本公開日:2016年12月23日
監督:デビッド・ロウリー
ぴーととひみつのともだち
『ピートと秘密の友達』物語 簡単紹介
『ピートと秘密の友達』感想(ネタバレなし)
なんだか目立たない
漫画やアニメの実写化は日本では常に不安視されますが、世界には勢いに乗っている会社があります。それはディズニーです。
ウォルト・ディズニー・ピクチャーズはこれまでディズニーが手がけてきた名作アニメを次々と実写化する企画を進めています。すでに『シンデレラ』(2015年)と『ジャングル・ブック』(2016年)が公開されていますが、今後も『美女と野獣』、『ムーラン』、『ダンボ』、『ライオンキング』、『アラジン』、『リトル・マーメイド』と怒涛の実写ラッシュです。こういう実写化商法的なやり方にいろいろ意見はあるでしょうが、まあ、私は面白ければなんでもいいです。
そんななか『ピーター・パン』の実写化も準備されています。「ピーター・パンって実写化されてたような?」と思うでしょうが、確かにスティーヴン・スピルバーグ監督の『フック』(1991年)、ジョー・ライト監督の『PAN 〜ネバーランド、夢のはじまり〜』(2015年)と実写作品はすでにあります。ただ、これはディズニー製作ではありませんでした。
この『ピーター・パン』の実写映画の監督をつとめることが決まっているデビッド・ロウリーが、先にディズニーで手がける作品が本作『ピートと秘密の友達』です。
『ピートと秘密の友達』も実は往年のディズニー作品がもとになっているのですが、厳密にはただのアニメの実写化ではありません。オリジナルである1977年に製作された『ピートとドラゴン』は、実写の世界に手描きで描かれたアニメのキャラクター(ドラゴン)が入り込むという、アニメの世界へ実写の人物が入り込む『メリー・ポピンズ』と真逆のことをしている変わった作品でした。なので、本作はアニメがCGになっただけともいえます。でも、そこはさすがの最新CGだけあって、映像のスケールは飛躍的に段違いです。内容はファミリー映画ですが、映像面は実に作り込まれているので、見ごたえあると思います。ドラゴンもディズニーらしく、とても愛嬌があって楽しいです。
ただ、すでに公開済みの本国アメリカでは本作は伸びなかったみたいです。『ジャングル・ブック』のアメリカの興収が3億6000万ドル(世界規模だと9億6000万ドル超え)の特大ヒットだったのに対し、本作『ピートと秘密の友達』が1億4000万ドルと若干抑えめな大ヒットに収まってしまっています。
これはたぶん、隔離された環境での少年と動物の交流を描いた作品が『アーロと少年』、『ジャングル・ブック』と立て続けに公開されており、観客側も飽きているんじゃないでしょうか。
このことが日本でも関係しているのかなんなのか、日本では本作の宣伝に力が入っていない気がします。同じディズニー配給の『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』が同時期に公開されているのも影響が大きいのでしょうが…。あと、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』ともファンタジーな動物がメインということでネタかぶりしていますね。
運が悪かったとしかいいようがないですが、決してダメな映画ではないので、気になる人はぜひどうぞ。
『ピートと秘密の友達』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):ドラゴンはいる
雄大な森林を貫く道路。そこにある家族が運転する車が1台通ります。後部座席では5歳の少年ピートが「まいごのエリオット」という絵本をたどたどしく読み上げています。
「冒険ってなに?」…そう聞くピートに、「勇気がないとできないことだ」と父は語ります。しかし、その続きを聞くことはできませんでした。
その瞬間、シカが飛び出し、車は横転。少年だけが助かりました。暗くなった夜で猛獣の声に後ずさり。森に駆け出します。オオカミの群れに追い詰められ、立ち尽くす少年。
そこに謎の音。巨大な何かが近づいてくるような…。緑色の体毛がある大きな生き物です。少年はその生き物の手のひらの上に乗り、身を預けます。そして生き物は巨大な翼で空に舞い上がり…。
6年後。木材業で静かに栄える田舎町。かつて見たというドラゴンの話を子どもたちの前で得意げに語る老人・ミーチャム。その娘であるグレースは職場である森へ向かいます。
同時期、ピートはエリオットと名付けたドラゴンと自然でたくましく成長していました。この森すべてが遊び場。縦横無尽に駆け巡ります。エリオットは飛べるだけでなく、体色を変えて擬態する能力を持っています。透明にまでなれるのです。
するとグレースを森で見かけるピート。遠くで観察。グレースは森林を切られることに断固反対なようです。重機のキーを投げてちょっとした仕返しをします。
ピートはその出会いがどうも忘れられません。住み家の洞窟で「あの人はどこから来たのだろう」と疑問を口にします。
翌日、近くの木々が伐採されているのを目撃するピート。グレースはジャックになぜこんな奥まで切るのかと問い詰めます。
そのとき、ジャックの娘である少女・ナタリーが車から降りてきて、何気なく森に目をやると、こっちを見ていたピートと目があいます。追いかけてくるナタリー、木を登っていく2人。足を滑らせ落ちそうになるも、なんとか一命はとりとめたものの、少し怪我する少女。「なんて名前?」「ピート」
そこへみんな駆けつけ、グレースはその少年に「どこから来たの?ご両親は?」と尋ねます。しかし、ピートはパニックになり、逃げ出した結果、頭を打ってしまいました。
眠りから覚めたエリオットは、ギャヴィンたち森林管理官の前でうっかり木を倒してしまい、見つかりそうになります。
一方、ピートは病院のベッドで目覚め、さっぱりわからないものだらけで混乱。窓から逃げ出し、町中の道路を裸足で駆けることに。それでもグレースに捕まったピートは吠えるだけ。グレースの家に連れていかれ、こうポツリと呟きます。
「おうちに帰りたい」
ピートの家はどこにあるのか…。そしてドラゴンの運命は…。
体毛はある。でも、オリジナリティはない
『ピートと秘密の友達』はドラゴンというもはや手垢がつきまくっている生物が主題ではありますが、そのドラゴンの描写がかなり特殊です。
というのも、一般的に映画のドラゴンは、いかにもCGらしいヌメッとした爬虫類っぽい姿で描かれることが多いですが、本作のエリオットと名づけられたドラゴンは体毛があるのです。しかも、顔が平面的で表情豊か。これはあくまで生物学的なリアルよりもアニメ的なキャラの再現を重視している本作の方向性がよく表れているのではないでしょうか。森の木漏れ日と川の反射光のなか、ピートとエリオットがじゃれ合うシーンなんて本当にそこにいる!っていう感じです。あらためて映像技術の進歩を見せつけられました。
本作のドラゴンは動物ではなくて登場人物と対等のキャラクターです。しぐさひとつひとつに感情があり、愛嬌があります。このへんはキャラクターづくりの才能、さすがディズニーでした。
このようにビジュアルは良いのですが、ストーリーのドラマが弱いのが気になります。子ども向けといっても、もうちょっと深みを出しても良かったのではないでしょうか。
冒頭の凄惨さを最大限抑えてデフォルメされた交通事故シーンや、頑なに麻酔銃しか使わないハンターたちといい、残酷になりうる描写は一切なし。これはまあディズニーだし仕方がないと思いますが、もうちょっと動物らしい生々しさの描写がほしかったです。例えば、食事とか。絶対にエリオットは肉食だと思いますけど。あとは、排泄とか。こういうのこそ実写で描くと、それこそギャグにできると思います。おそらくピクサーのアニメや今のディズニーのアニメならやったんじゃないだろうか。もっとハジケてほしいです。
登場人物の善悪観も貧弱なのも残念。全体的に優しい世界すぎてサスペンスが効いてきません。
そして、私が一番に気になったのはピートの設定。あれくらいの年齢でドラゴンと暮らし始めたのなら、あんなターザン・スタイルの見た目にならないのでは? オオカミっぽい遠吠えをしたか思えば、言葉も話せるし…。謎です。「ターザン」や「ジャングル・ブック」っぽい要素を入れたかったのでしょうけど、あんな人間社会に近い環境では無理があります。もうちょっとロケーションを考えてほしかった…。アメリカの子どもたちが身近に感じる物語にしたかったのかな。
オリジナリティに欠けるのが全体的に本作を単調にしている最大の要因でしょう。それはキャラも同じで、ブライス・ダラス・ハワード演じるフォレスト・レンジャーのグレースも『ジュラシック・ワールド』のあのキャラをどうしたって連想するし…。ただ、全然関係ないですけど、ロバート・レッドフォードは若い! 本当に80歳なのか…。
『ピートと秘密の友達』、惜しい作品です。
他にも少年とドラゴンの交流を描く映画が観たくなったという人、それなら個人的には『ヒックとドラゴン』をおすすめします。名作です。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 72%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved. ピーツ・ドラゴン
以上、『ピートと秘密の友達』の感想でした。
Pete’s Dragon (2016) [Japanese Review] 『ピートと秘密の友達』考察・評価レビュー