ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密
映画『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Professor Marston and the Wonder Women 
製作国:アメリカ 
製作年:2017年
日本では劇場未公開:2018年にDVDスルー
監督:アンジェラ・ロビンソン 

【個人的評価】
 星 9/10 ★★★★★★★★★

あらすじ

1920年代。心理学の教授ウィリアムは学生のオリーブに惹かれ、彼女を助手にする。一緒に研究する妻エリザベスはオリーブに最初は嫌悪感を示すが、共に過ごすうちにまたオリーブに惹かれていく。嘘発見器の発明を目指し研究に没頭する3人だったが、やがて共同生活を送る中で、ウィリアムは2人の進歩的な女性に感化され、「ワンダーウーマン」というキャラクターを考案する。

ネタバレなし感想

伝記映画でも、ぶっ飛ばす!

今回、紹介する作品。なんだろう、タイトルとパッケージデザインだけだと「パロディAV」と誤解されるのじゃないだろうか(さすがにないか…)。

でも中身はパロディAVなんて“ぶっ飛ばす”くらい、それ以上に凄い関係“性”を描く作品なのです。「事実は小説より奇なり」という言葉がありますが、まさか性関係がAVよりも史実の方が凄まじいということがあるのか。あるんです。「(性の)事実はAVよりも奇なり」ですね。

それが本作『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』

タイトルからもわかるように、2017年に映画界に旋風を巻き起こしたアメコミ映画『ワンダーウーマン』の原作であるコミックの製作裏話が題材になっています。
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そして、今作はその「ワンダーウーマン」というコミックを生み出した原作者ウィリアム・モールトン・マーストンの半生を描いた作品であり、コミックが生まれた経緯が語られます。

映画『ワンダーウーマン』はとても面白かったですが、この「ワンダーウーマン」の原作者の伝記映画はさらに面白いです。いや、映画『ワンダーウーマン』自体、あんまり自分にはハマらなかったんだよな…という人も、この伝記映画はビビッとくるかもしれませんよ。

とにかく本作は内容がセンセーショナルすぎます。え!? そういう裏事情があったの!?と驚愕すること間違いなし。ハッキリ言って本作を観てしまうと、「ワンダーウーマン」のイメージが覆されます。映画の『ワンダーウーマン』の感想もかなり引きづられて変わってしまうこともありえますよ(良いか悪いかは別にして)。正直、私もこの作品を観てしまったことで「ワンダーウーマン」を普通に観られなくなってしまった気がする…。

あらすじを読んで想像できるレベルを大きく超えてきます。あらすじを読んだ人なら思うでしょう。ああ、大学教授と女子学生の不倫的な関係のやつね…と。いやいや、そんな甘っちょろいものではありません。もう…ワンダーですよ…(意味不明)。

おい、「ワンダーウーマン」のイメージが壊れたぞ!というクレームはこちらでは一切受け付けておりません。マーストン教授の方にお願いします。それを踏まえたうえで鑑賞してください。






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

3人が幸せになる関係

本作は簡単に言ってしまえば「ポリアモリー」を描いた作品です。複数の人を愛して“合意のもと”関係性を持ち、ときには同居もする…そういう状態のことですね。

心理学を専門とするウィリアム教授は、自分の講義を聴講していた美しい女子学生オリーブに興味を持ち、彼女を助手にします。しかし、それは建前みたいなもので、実際はオリーブを観察対象にしていきます。彼女の所属する社交クラブの儀式ベイビー・パーティを同じく心理学の研究者である妻とこっそり観察していると、おしゃべりした友人に対して「罰を与えなさい」と言われたオリーブが友人を四つん這いにさせてお尻を板で叩き始めます。すると、どうでしょう。ウィリアム教授は恍惚とした表情を浮かべ、隣の妻の足に手を伸ばし、すっかりムラムラじゃないですか。あ、そういう趣味をお持ちの人なのね…となるシーンです。

ウィリアム教授を演じる“ルーク・エヴァンズ”。実写版『美女と野獣』で悪役を演じたのに続いて、今作ではそれ以上にヤバいやつ感満載。たぶんこの“ルーク・エヴァンズ”なら野獣にやられる美女で興奮できるんだろうな…。

というか、心理学の教授はだいたいヤバいやつ、多くないですか。気のせいですかね、フロイト先生。

しかし、これでは終わらない。ウィリアムは明らかにオリーブにメロメロ。それに難色を示していた妻のエリザベス。ところがまさかのオリーブはエリザベスにキス。そして、エリザベスまでもオリーブにゾッコン。はい、三角関係がめでたく成就。誰も不幸になっていない!(あれ、ブラントってやつがいたような…まあ、いっか)

それぞれ子どもを作って、大人3人、子4人の家族の完成です。

禁断のポリアモリー・コミック

こういう関係が存在するのは理解できますよ。イスラム圏だと一夫多妻制はありますが、今回は同性愛が入ってくるのでそれとは別。この当時は白眼視されていたでしょうが、今やLGBTが認められている時代。私もこの3人を変態だなんてこれっぽっちも思いません。

でも、ここからあの「ワンダーウーマン」が生み出されるのが凄い、というかどうなってるんだですよ。

大学教授の職を解雇されたウィリアムが論文も書籍も全然ヒットせず、ほとほと困っていたところ思いついたのがコミックという媒体。ポルノ店で出会ったアマゾン族の衣装、そしてそれと完璧に調和して見せたオリーブの肉体。ウィリアムの脳内は活性化。生まれたのが「スプリーマ・ザ・ワンダーウーマン」の企画でした。

こういう言い方すると失礼ですけど、今でいう同人誌的な2次創作レベルのアイディアですよね、これ。しかも、限りなくR18に近いような。たぶん、これを日本のそういう業界で食べている作家たちが見たら「あれっ、私とウィリアムは同じだ!」って思うのじゃないでしょうか。

ただ、ウィリアムはキャリアを失っても学者肌。本人的には明確な学術的ロジックがあるわけです。ここが明らかに漫画家とは一線を画すところですよ。具体的には彼の提唱する「DISC理論」…つまり、Dominance(支配)、Inducement(誘因)、Submission(服従)、Compliance(承諾)の4つの要素がこの作品にはピタリとハマっているのだという確信があるんですね。要するに、ウィリアムにしてみればこれはコミックというか学術論文みたいなものなのでしょう。

コミックを規制する児童学習協会のトップの女性がウィリアムに「キワドイ水着の女性がなぜ強いの?」と追及するシーンがあって、正直私も、正論だよ…と思ったけども、ウィリアムには根拠を超越した明確な自信がある。

「ワンダーウーマン」は科学と本能と娯楽と愛が限りなく同居した、まさに禁断のポリアモリー・コミックだったのか…。凄い…。

ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密

「現実」と「虚構」で移り変わる3人

それで気になるのは、本作はどこまで真実なのかってことだと思うのです。

ここまでアツく語っておきながらこんなことを言うのもあれですが、結構、脚色していると思います。もちろん、登場人物の関係性や「ワンダーウーマン」を創作したことは事実です。それでも、とくに「ワンダーウーマン」を作るにいたる経緯や心理的揺れ動きなんかは相当膨らませているのではないですかね。下手をしたら、デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』くらい脚色しているかもしれません。まあ、当人が亡くなっているので、真実はわからないのですけど。

でも、だからといって価値がないわけではないと思います。そもそも伝記映画なんて大なり小なり脚色はされるものですし。問題は伝記映画という“フィクション”として面白いかどうかです。

本作の監督である“アンジェラ・ロビンソン”は過去にLGBTに関する作品をいくつか制作してきたそうで(私は今作でこの監督の作品は初めて)、このテーマを扱うにあたって非常に手慣れている感じがします。

個人的に刺さったのは演出。伝記映画にしてはとてもエモーショナルな盛り上げが上手く、メリハリが効いていると同時に、心情の変化を説明的ではない映画的手法で巧みに表現しています。

本作は3人の主要キャラの関係性がステップアップする4つの場面があったと思います。

1つ目は、マーストン夫妻がオリーブの社交クラブの儀式を覗いている場面。ここでは夫妻が「現実」という名の外から一種の「虚構」的世界を覗き見ているというのが重要です。

2つ目は、嘘発見器を試すことで想いが明らかとなったオリーブがエリザベスと、そしてウィリアムと絡み合う場面。オリーブとエリザベスがキスした後、それを目撃したウィリアムにエリザベスが目線をおくり手をスッと差し伸ばすシーン。観ている私としては、キタか…(ガタっ)となる核心をつく、いわば一線をついに超える展開。ここで大事なのはそれが行われる場所。序盤の方でオリーブが女神ダイアナの演劇を見ていたステージなんですね。つまり、「現実」と「虚構」の間です

3つ目は、衣装を身にまとったオリーブ(しかもわざわざ後光を背にしている)を目にした夫妻と、エリザベスが彼女にロープを縛っていく場面。いわば完全体オリーブ。ここまでくると、「現実」を捨てて「虚構」に全てを捧げた瞬間です

4つ目は、ラストの病院の白い部屋。死期を悟ったウィリアムが、エリザベスとオリーブをもう一度結ぶ場面。「もう一度受け入れて。私にはあなたが必要よ」「生涯私のことを愛して」このシーンは、「虚構」から「現実」に一気に引き戻った感じがします。ウィリアムが飛ばす透明飛行機は、空想を空に帰しているようです。

この共犯関係を成熟させるような視点の変化と、あとは嘘発見器などの小道具の使い方など、全てが噛み合っていく感じが個人的にはたまりません。

性の解放という意味では『RAW 少女のめざめ』と同じカタルシスがありました。
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未知なるものに理屈を与える

他にも語り口はたくさんあって、とくにジェンダーの側面。非常に今のフェミニズム時代に対して示唆を与えるものですよね。

序盤の夫妻による女性分析がとくに面白いです。美人は有利だと言うウィリアムに対して、美人であることは身体的なハンデとまで言い放つエリザベスとか。

ひとつ言えるのはあの3人は100年先を行っているわけです。「夫は妻を支えるものだ」なんて言ってしまうブラントが太刀打ちできる相手ではありません。3人の関係はそれこそDISC理論。それが正しいかどうかは別として、既存の枠組みでは認識できないものです。

未知なるものに理屈を与えるのが科学者なら、3人のやったことは実に研究者らしいことではないでしょうか。“未知”を怖がって避けると差別や偏見が生まれるのであり、3人のした理屈を与えることはまさに“未知”の克服でもあります。

そして、その理屈という名の大義名分によって救われる存在はきっと他にあったでしょう。「あなたは読者や子どもたちを実験台にしている」という批判は、一方的な視点です。実際、ワンダーウーマンはヒーローになれたのですから。

もちろんこのヒーローに一番救われたのは「ワンダーウーマンはただのコミックにすぎません。でも私にとって最愛の女性です」と高らかに言うウィリアムなのでしょうけど。

これまた挑戦的なポスト・フェミニズムな一作でした。

↑本作を観た後に『ワンダーウーマン』をぜひ鑑賞してください。ルーク・エヴァンズの顔がちらつきます。

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