プロメア
映画『プロメア PROMARE』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:PROMARE
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年5月24日
監督:今石洋之

プロメア PROMARE

あらすじ

突然変異で誕生した炎を操る人種「バーニッシュ」の出現をきっかけに、未曾有の大惨事である「世界大炎上」が起こり、世界の半分が焼失した。それから30年後、一部の攻撃的なバーニッシュが「マッドバーニッシュ」を名乗り、再び世界を危機に陥れる。対バーニッシュ用の高機動救命消防隊「バーニングレスキュー」の新人隊員ガロと、マッドバーニッシュのリーダーのリオは激突し…。

『プロメア』感想(ネタバレなし)

日本のアニメ業界に火をともす

毎年各組織が調査している「子どものなりたい職業ランキング」。YouTuberやIT系の躍進、スポーツ選手や研究者の不動の人気など、子どもの目線から見て憧れられる仕事の栄枯盛衰をヒシヒシと感じる中、明らかに劣勢に立たされている職業があります。

それは「消防士」です。

かつては上位に食い込んでいたこの消防士ですが、すっかりその勢いは落ち、場合によってはランク外になってしまうケースも多く、かろうじて小学生男子にやや支持される程度です。

なぜこうも人気が低下したのでしょうか。かくいう私は子どもの頃は「消防士はカッコいいな~」と思って見ていたものでしたが、まあ、確かに消防士を間近で見る機会はそうそうないですしね。警察(あちこちにいる)や救急隊員(病院と密接)と比べたら登場頻度は低いのかもしれない。遠くでサイレンを聞くだけのことがほとんどですから。

でも子どもが消防士に関心を持つことは、すなわち防災意識にも直結するので大事に維持していきたいですけどね。あまり難しいことを考えず「消防士、かっけぇーーー!!」という感想でもいいから、なんとか消防士リスペクトを沸騰させたいものです。

そんな消防士自体が鎮火しそうな今、そこに燃料を注ぎこんで火をつけてくれそうな映画が2019年は燃えていました。それが消防士をテーマに据えたダイナミックなアニメーション映画である、本作『プロメア』です。

ちなみにですけど本作の公開日付近では偶然にも『きみと、波にのれたら』『神と共に 第一章 罪と罰』と、消防士を題材にした映画が集中しているという謎のシンクロ現象が。ちゃんとそれぞれの作品で消防士に対するアプローチが全然違うのが面白いです。

全く知らない人に『プロメア』をどう説明すればいいのか、困ってしまうのですけど、ロボットアニメのカテゴリに入れていいのかな? まあ、ロボットというかパワードスーツに近いのか。とにかく凄いアツい消防士の主人公が凄いアツい戦いを繰り広げて世の中を救うんです。もう、以上です。

アニメに詳しい人ならば、『プロメア』はあのテレビアニメ『天元突破グレンラガン』『キルラキル』でタッグを組んだ、アニメ制作会社「TRIGGER(トリガー)」“今石洋之”と、「劇団☆新感線」の座付作家として活躍する“中島かずき”の名コンビがまたも集結して生まれた映画として着目されるところ。平凡に行けばそんなファン界隈の注目で終わっていたアニメ映画だったかもしれません。

ただ、本作がロングランヒットのすえ、興行収入14億円を突破し、「アニメのアカデミー賞」といわれるアニー賞で2019年の長編インディペンデント作品賞にノミネートされるほどに海外のファン&業界関係者にも評価されたことで事情は変わってきました。おそらく製作者自身も想定していなかったことでしょう。

私はこういう実績は素直に嬉しいことですし、日本のアニメ業界に明るい展望をもたらしてくれたと思います。賞をとれるかどうかは個人的にはどうでもよく(頂けるなら喜ばしいことですけど)、それよりもマネタイズの問題に対する光が見えたことに目がいきます。つい最近も某スタジオが賃金未払いの疑惑のなか音信不通になるという、常識であってはならない事態が起こったことが取りざたされ、正直、日本のアニメ業界は技術や文化以前に労働として成立していない致命的な欠陥を抱えています。これではどんなに良い作品を作れる能力があっても意味がありません。

つまり、今の日本のアニメ業界、とくにアニメ制作会社は、“下請けの底辺労働者”という立ち位置から脱却することが求められており、そのためには自社コンテンツでのマネタイズは必須。それを成功させているアニメ制作会社も一部ではありましたが、決して簡単な道ではなく…。しかし、この『プロメア』はオリジナル作品という難しい挑戦にも関わらず、見事それを成功させ、「TRIGGER」にとっても大きな自信に繋がったと思います。そしてひとつのモデルケースにもなりましたね。

え、そんなアニメ業界の事情とかどうでもいいけど…という白けた人も、ぜひ食わず嫌いせずに観てみるといいのではないでしょうか。また、劇場での観客の顔ぶれは大人ばかりでしたが、子どもにも観てほしいものです。消防士への憧れを増すと同時に、その子たちは日本のアニメの将来を支える観客もしくはクリエイターになるかもしれないのですから。そうなったら最高のモデルケースですね。

オススメ度のチェック
ひとり◯(アニメ初心者でもOK)
友人◯(新規ファンを作ろう)
恋人◯(アニメ好き同士で)
キッズ◎(子どもでもハマる)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『プロメア』感想(ネタバレあり)

炎上!消火!炎上!消火!

TOKYO、SANFRANCISCO、PARIS…。世界各地で突如として人が謎の炎のようなものを発し、周囲を無差別に巻き込みつつ爆発炎上する事件が勃発。この異常事態を引き起こした人間は「バーニッシュ」と呼称されることになり、炎を操る新人類の大量発生で惑星規模の発火現象である「世界大炎上」が起きてしまいました。この未曽有の天変地異によって、人口の半分が焼失して文明社会に激震が走ることに。

それから30年が過ぎた世界。自治共和国「プロメポリス」では、炎上テロを繰り返す過激派バーニッシュの集団「マッドバーニッシュ」に頭を悩ませていました。バーニッシュの大半は鎮圧&管理下においていたがまだ少数の者がアグレッシブに活動を継続。そこでそのマッドバーニッシュに対抗すべく、対バーニッシュ用装備を扱う高機動救命消防隊「バーニングレスキュー」が編成され、特殊な消火活動を行っていました。

今日もバーニングレスキューに出動要請が出ます。レスキューモービルに乗って現場に向かったのは強烈な個性を持つ面々。

メカニック担当で装備等の研究開発を一手に担うルチア。レスキューギアTYPE-Vを操る巨漢で、強化腕部パーツを装着して崩落する天井を支えることができるバリス。レスキューギアTYPE-Rを操るクールな青年で、凍結ガトリングガンで炎を沈黙させるレミー。そんな彼らの人命救助を指揮する、バーニングレスキューの隊長のイグニス。空飛ぶRM03「スカイミス」の操縦を務め、さまざまなサポートを的確に行う少女のアイナ

そして、最もド派手に上昇しながら威勢をきって登場したのが、まだまだ新米のガロ・ティモス。しかし、新米といっても自信あふれる超好戦キャラ。誰よりも目立っています。

そんなバーニングレスキューの面々の前に現れたのは異様な姿をしたマッドバーニッシュの3人。専用マシンに乗って襲ってくるも、ガロはすぐさま2人を排除。それでも余裕でふんぞり返るリーダーは、ガロが見栄を切っている途中で強襲。「好きで燃やしているわけじゃない、炎は僕らの一部だ」と言うリーダー格のマッドバーニッシュに「燃えていいのは魂だけだ」と滅茶苦茶論法で対応するガロ。

コミュニケーションよりも戦いが最優先な二人は激動のすえ、意外にマッドバーニッシュのリオの敗北となり、無事自体は消火します。

まだ熱気冷めあらぬそこへ特殊部隊フリーズフォースヴァルカン大佐がズカズカとやってきて、捕まえたリオを引き取っていき、ガロを越権行為で逮捕しようとします。ひとまずガロの逮捕はなくなりますが、火花は残ったまま。

自治共和国プロメポリスの司政官クレイに表彰されたガロは勲章をもらい、ご満悦。なんでもガロにとってクレイは子どものときの命の恩人らしく、人命救助に情熱を燃やす自分の原点なようです。

一方、世間ではバーニッシュへの嫌悪が蔓延っており、いまだに隠れ潜むバーニッシュ狩りが特殊部隊フリーズフォースによって行われ、市民はバーニッシュへの罵詈雑言を露わにします。

そんな世の中に少し引っかかるものを感じながらガロは、拘束されたものの仲間と逃げ出してきたリオと遭遇。そこでリオから捕まったバーニッシュは人体実験の材料にされると聞いて動揺します。

すぐさまクレイに勲章を返しに行ったガロは「人体実験をしているのは本当なんですか」と単刀直入に質問。すると驚くべき世界の危機を教えられます。なんとマグマが暴走しているらしく、このままだと半年後に地表を覆って地球は死の星になるとのこと。全滅を回避するべく、「パルナッソス計画」という大規模移住プロジェクトが準備されており、1万人が乗せられる宇宙船の限界だとか。その宇宙船の要となるワープエンジンの開発にバーニッシュが利用されており、研究を指揮していたのはアイナの姉のエリスでした。

ショックを受けるガロでしたが、さらに追い打ちが。急に優しい恩師として思っていたクレイは豹変。「ダンナと呼ぶな」「ずっと目障りだったんだよ、お前は」とガロへの不快感を全開にし、ガロを幽閉するのでした。

消す者、燃やす者、燃やされる者…。今、世界は新たな大炎上を前に最大の局面を迎えることに。その中心にいるのは別の平行宇宙に存在する「プロメア」という炎生命体だということを知る生存者はおらず…

プロメア

正しい極振りの成功例

『プロメア』について、バカみたいな映画の紹介をするなら、ひたすらに「炎上!消火!炎上!消火!」を繰り返すハイテンション・ムービー。事実、そんなノリです。

世界観やキャラクターの数など正直、かなり込み入っており、専門用語のオンパレードなのですが、それをあの序盤10分程度のノンストップ映像で観客に見せ切る。この荒業はなかなかマネできません。説明の言葉を剛速球でぶん投げてくるようなものですからね。キャッチボールする気ゼロです。

しかもそれは序盤だけでなく、111分の本編中ほぼずっとそうだというから驚き。でもここがこの『プロメア』の魅力の真骨頂なのでした。

一言でいうなら「極振り」ですね。バランスとかあえて無視するのが逆に快感。

例えば通常のテレビアニメとかであれば1話ごとにじっくり物語を動かし、日常パートも挟みつつ、まんべんなく進行するもの。ところがこれは映画。そんなちんたらしたことはやっていられない。そこで日常パートは極力カット(かろうじてピザ屋や凍った湖のシーンに香る程度)。

じゃあ、何を描くかと言ったらひたすらに戦闘、対決、バトルです。

ここで「TRIGGER」らしい絵のダイナミックな動きが迸るわけですが、誇張ありきのコミック風にも見える絵作り。世界中で高い評価を受けた『スパイダーマン スパイダーバース』と比較することも多々できますが、あちらはアメコミのオリジナルに最高級のリスペクトを捧げつつ、多様な表現演出を融合させた、横に広い拡張性だったのに対し、この『プロメア』はひたすらにあの絵で一点突破しており、アプローチは縦に伸びていて方向性が全然違います。いや、もしかしたらもっと予算があれば、別の表現も試したかったのかもしれないですけど。


しかし、だからといって単調な絵の連続ではないのは、やはり「TRIGGER」の製作陣のアニメーションにおけるテクニックの多様さの一本勝ちなのではないでしょうか。日本みたいに製作予算が決して潤沢ではないからこそ生まれる作品の完成形とも言えますね。

私が面白いなと思うのは、普通、消防士と言えば乗り物をフューチャーすることが多く、確かに本作でもレスキューモービルが出てくるは出てくることに。ただ、その扱いは小さく、それよりもまさかの「火消し(江戸時代の消防組織)」、その町火消の各組が用いた旗印の一種である「まとい(纏)」にスポットがあたるんですね。「マトイギア」という強化服になるあたり、衣装をテーマにした「TRIGGER」の過去アニメシリーズ『キルラキル』からのエッセンスの継承を感じます。

その「まとい」一筋になる物語上の動機も主人公ガロがそれを好きだから…の一点で押し通しているのがまた潔い…。

なので最終バトルも勝敗のロジックは1ミリもわからないですし、ただの“技名叫び合い合戦”になっているのですが、なんか筋は通っているのような気分になる。

やっぱりこういうジャンル作品は、“主軸となるこだわり”が大事なんだなとあらためて痛感しました。

なんか『パシフィック・リム』にはあって『パシフィック・リム アップライジング』にはなかったものを見た気がする…。

スタジオとファンの信頼

『プロメア』の「極振り」はキャラクターの面でも顕著で、もともとそういうキャラ作りが売りのところがありましたが、今作はさらに思いきっています。

本作のキャラクターで描かれている一番の強調ポイントは、まあ、ハッキリ言って「ブロマンス」なわけです。

ガロとリオの正反対のキャラが激突し合うあの構成とか、もう露骨…。しかも、今作ではガロとクレイというブロマンスに見せかけた破局展開からの真の相手との邂逅ですからね。そりゃあ、燃えてしまうもんですよ。俺の燃える火消し魂の方が熱いんですよ(支離滅裂)。終盤の合体とか、あれはもうセっk…(規制)。「本日の目玉商品」クラスの大ファンサービスとなる最後の人工呼吸なんかは、キスでは済まないですよ、n…(緊急規制)。プロメテックだったなぁ…。

逆にアイナは一瞬のガロへのロマンスを見せつつ、ただのブロマンスの肥やしにされた感は否めないですが、まあ、姉エリスと合わせて本作での描写は多い部類でしたからいいのかな。個人的にはせっかくなのだから、もうちょっと姉妹愛(シスターフッド)も踏み込んで描けばよかったのですけど。

それ以外のキャラクターたちは…薄い。いや、キャラは濃いのですけど、描写としての深掘りはなし。バーニングレスキューの他の面々もチームと言いつつも形のみですし、マッドバーニッシュのリオの部下(ゲーラとメイス)も身を犠牲にするだけの献身に至る歴史がわからないので妙にシーンとしてアッサリしてしまいますし、クレイ側にいたっては完全な出番不足がチラホラ。

ただ、これらの問題。一般的には欠点になりそうですけど、この『プロメア』においては無問題なんですね。なぜならファンが補完してくれるから。このキャラはきっとこうで、こんなキャラとの関係性があって…そういう膨らませる余地があります。

本作は公開当初はあまり出だしの良いスタートではなかったですけど、しばらくのちに観客の燃料投下があったのはファンが生まれたからです。

そう、本作はファンとのキャッチボールが前提であり、それだけスタジオとファンの信頼があってなせる技。逆にそういう信頼感を何も構築できていないスタジオがぽっといきなりオリジナルアニメを作ってもただただ劣勢で終わってしまうでしょう。このスタジオとファンの信頼の絆こそ、今の諸々で脆弱な日本のアニメ業界をひと柱で支える唯一のエネルギーなんですよね。

「TRIGGER」は愛され方をわかっているスタジオなんだなと実感するエピソードだったのではないでしょうか。

日本のアニメ映画業界は完全燃焼するにはまだ早い。これからもスタジオとファンの化学反応でバーニングしてくれるでしょう。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 93%
IMDb
7.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)TRIGGER・中島かずき/XFLAG