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『竜とそばかすの姫』感想(ネタバレ)…酷い人生もつまらない世界も変えられる

竜とそばかすの姫

つまらない世界も酷い人生も変えられる。でも映画はどうだろうか…映画『竜とそばかすの姫』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Belle
製作国:日本(2021年)
日本公開日:2021年7月16日
監督:細田守

児童虐待描写

竜とそばかすの姫

竜とそばかすの姫

『竜とそばかすの姫』あらすじ

17歳の女子高生のすずは幼い頃に母を事故で亡くしたことをきっかけに、母と一緒に歌うことが大好きだったにもかかわらず、歌うことができなくなり、心を閉ざすようになっていた。ある日、友人に誘われ全世界で50億人以上が集う仮想世界「U(ユー)」に参加することになったすずは、「ベル」というアバターでそのバーチャルな世界に足を踏み入れる。仮想世界では自然と歌うことができ、しかも世界的に大人気になってしまうが…。

『竜とそばかすの姫』感想(ネタバレなし)

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細田守監督の考えるメタバース

最近は「メタバース」なんて言葉を耳にします。

これは「仮想空間上で他のユーザーたちとアバターを介してコミュニケーションや経済活動をおこなえるサービスの総称」だそうで、早い話が現実(リアル)とは異なるけど現実っぽいことができるバーチャルな世界ですね。2000年代初めに「Second Life」という仮想世界を売りにするサービスが一時的に脚光を浴びたのですが、いつのまにか話題は消え失せました。近年になってまたこの仮想世界が「メタバース」という名で心機一転して注目を集めています。VRデバイスの開発、Vtuberの人気、コロナ禍による非接触ビジネスの価値向上、テレワークの定着、ビデオコミュニケーションの普及、ブロックチェーンなど、いろいろな取り巻く環境の変化がちょうどメタバースの時代到来の前兆になっているようです。Facebookなんて社名を「Meta」に変えてしまいました。

メタバースがいよいよ本格化するのか、それともまたもや気が早いフライングダッシュで終わるのか、それはわかりません。

でも映画界もメタバースを時代に先駆けて率先して描いてきました。『World on a Wire』(1973年)、『トロン』(1982年)、『ブレインストーム』(1983年)、『トータル・リコール』(1990年)など、ジャンルの礎になった名作がいくつもあります。当時は特殊な世界観でそれだけで異様さがありましたけど、今の感覚で観てしまうと感想も違ってきますね。

今回紹介するアニメ映画もメタバースを題材にした作品ですが、2021年に描くものとしてどう受け止められるのでしょうか。それが本作『竜とそばかすの姫』です。

監督は今や日本のアニメ界をトップで走るひとりとなった“細田守”。2006年 の『時をかける少女』でのブレイク以降、『サマーウォーズ』(2009年)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)とオリジナル作品を連発し、ついに2018年の『未来のミライ』ではカンヌ国際映画祭の監督週間に選出されたり、米アカデミー賞では長編アニメーション映画賞にノミネートされ、アニー賞では長編インディペンデント作品賞を受賞しました。世界レベルで業界に実力を認められた日本のアニメーターとなっています。

その“細田守”監督の最新作が本作『竜とそばかすの姫』。それにしてもちゃんと3年おきに新作を送りだしているあたり、仕事が実直ですね。

この『竜とそばかすの姫』は“細田守”監督の集大成的な内容になっています。『時をかける少女』的な青春学園モノの男女ロマンスもあれば、『おおかみこどもの雨と雪』的な親子の絆もあれば、『バケモノの子』的な異形な化け物との触れ合いもある。そして一番に目立つのが『サマーウォーズ』でも主題にした独自のインターネット・コミュニティのバーチャル世界。『竜とそばかすの姫』では架空の仮想世界「U(ユー)」を舞台にした物語が展開します。まさしく“細田守”監督の考えるメタバース。

『竜とそばかすの姫』もカンヌ国際映画祭で上映されましたし、“細田守”監督の世界的フォロワー数はうなぎ上りだと思うのですが、この『竜とそばかすの姫』では過去作にはない要素として「歌」があります。今作は「歌姫」としてバーチャル世界で脚光を浴びることになった女子高生を主人公にしており、作中でも物語のキーポイントとして歌が挿入されます。主人公の声を演じ、歌を歌っているのはシンガーソングライターの“中村佳穂”

全体的に『美女と野獣』のオマージュが散りばめられており、歌もあるということで、どことなくディズニーっぽさを“細田守”監督なりにリライトした感じでしょうか。

他に声を担当するのは、“成田凌”、“染谷将太”、“玉城ティナ”、“幾田りら”、“役所広司”、“佐藤健”など。これらの人たちは別に歌は歌わないんですけど。

後半の感想では、本作『竜とそばかすの姫』が2021年のメタバースとして何を描いたのか、もしくは何を描けていなかったのか。その点についてもう少し掘り下げています。

オススメ度のチェック

ひとり3.5:監督に興味があるなら
友人3.5:アニメ好き同士で
恋人3.5:異性愛ロマンスあり
キッズ3.5:絵は賑やかです
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『竜とそばかすの姫』予告動画

『竜とそばかすの姫』予告2【2021年7月16日(金)公開】
↓ここからネタバレが含まれます↓

『竜とそばかすの姫』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):ようこそ「U」の世界へ

ようこそ「U」の世界へ。ここは究極の仮想世界、史上最大のインターネット空間。50億のアカウントに利用されており、ボディシェアリング技術によってユーザーは「As」というアバターを生成。あなたの生体情報を基にした分身であり、自動生成されます。

現実はやり直せない、しかし「U」ならやり直せる…。

現在、「U」では「Belle(ベル)」という名の歌姫が大注目を浴びていました。世界中のユーザーの関心事はひとつ。彼女の正体は一体誰なのか…。

高知県の田舎町に住む女子高生の内藤鈴(すず)はベッドから起き上がります。との会話は少なく、そのまま学校へ。学校はいつもどおりのうるささ。学校で一番の人気女子は吹奏楽部所属でアルトサックス担当の渡辺瑠果(ルカ)。天真爛漫な雰囲気が男女問わず憧れのまとに。一方で一番人気の男子は久武忍(しのぶ)。バスケ部所属でそのルックスから女子の黄色い歓声が絶えません。

すずはそんな人気者グループとはまるで違う世界にいました。友達は毒舌な別役弘香(ヒロ)くらいです。実はすずはしのぶとは幼馴染で、6歳の頃に「守ってあげる」と言われたこともありました。

すずは音楽が好きでした。でも過去形です。すずに音楽を教えてくれたのは合唱団に所属するであり、幼い頃から歌うのが大好きになったのですが、ある日、母は中洲に取り残された子を助けるために飛び込んでそのまま帰らぬ人に。それ以来、すずは人前では歌えない状態になりました。

しかし、ヒロに勧められた「U」に何気なくアクセスし、「Belle」というアカウントでログインすると、なんとそこでなら思う存分に歌えることがわかります。解放感に身を任せて歌い上げるも大多数には見向きもされず、クリオネみたいな「As」にフォローされたくらい。その直後のフォロワーは「2」でした。

ところが、数時間後、とんでもない数のフォロワーに爆増しているのを目にして驚愕。すずの歌が世界中で話題になり、編曲されまくって拡散が止まりません。現役の人気歌姫「ペギースー」は謎の新人歌姫を馬鹿にしますが、その勢いは新たなムーブメントになっていました。

当然、学校でも「Belle」の存在は噂に。焦ったすずは正体を知っているヒロに大慌てで駆け込むも、ヒロは「正体がバレるわけがない」と有頂天です。

すずの人気は絶好調で「U」でライブまで開催されることになり、すずは「Belle」の姿でステージに立ちます。ところがそこに謎の「竜」と呼ばれる「As」が乱入。その「竜」は背中に痣があり、「俺を見るな」と凄みながら猛烈な勢いで他の「As」をなぎ倒すほどに手が付けられません。ライブは中止になります。

そんな破壊行為をする「竜」に対して、「ジャスティス」という自警団とそのリーダーの「ジャスティン」が暴走を止めるべく立ちはだかりますが、この場では逃がしてしまいます。

世間の話題は次に移りました。あの「竜」の正体は一体誰なのか…。

ヒロは独自に調査を開始します。「竜」と対戦した相手のSNSを通して聞き込みすると、「竜」に勝てた数少ない勝者もいることがわかり、突然投げやりになったとか、別のことに気をとられたみたいだったとか、どうやら行動は曖昧です。

「竜」の正体についてネットの噂も盛り上がりだし、誰が怪しいなどと情報が錯綜。

人間関係が面倒な学校はさておき、すずはある情報から「竜」がいるとされる城を探し出すことに成功しますが…。

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このサービスの良さがわからない

『竜とそばかすの姫』はメタバースとしてどうだったのか、個人的な感想としては『サマーウォーズ』の頃と比べてもそんなに変わらない描写だったように思います。“細田守”監督は基本的にアバターの個性豊かな見た目と、漠然とした電脳空間の雑多なカオスさ…この2つで自分のメタバース・イメージを映像化する傾向がありますね。しいてあげるなら、今作では「歌姫」という要素が鍵になっていて、そのあたりは今のVtuber的なバーチャル・キャラクターと創作のトレンドを感じさせるものですが…。

ただ、本作のメタバースはイマイチ実態がわかりにくいものだったとも感じます。一般的に物語の序盤でその世界がどういうものなのか、観客に少しずつ提示していくのが基本の流れ。そういうステップを適度に用意することで観客に対して「確かのこの世界は楽しそうだ!」「人気が出るのもわかる!」と納得させます。しかし、この『竜とそばかすの姫』では設定説明がなさすぎてわからないことが多すぎる…。

すずが「Belle」として初めてログインしていきなり歌い出すのも単純に見えてかなり観客には理解が追いつきづらいものです。歌声を生配信する、合成音声でメロディだけ奏でる、完全に楽曲データをアップロードする…少なくとも今の私たちが知っている常識はその範囲。でもたぶん作中のあれは、キャラクター自身が生体情報で作られた独自の声を利用して脳内意識的に歌っているのだと思いますが、この時点で相当にハイテクすぎて頭がパンクする…。なのでとりあえず「綺麗な歌ですね」くらいの感想で済まそうとしたくなる…。

そうこうしているうちに今度は「竜」が暴れているのですが、あれはこのサービスが想定している行動なのか、それとも完全に利用規約に違反する行為なのか。それもわからないので観客としては圧倒的情報不足なままに観ているしかできない…。

さらにはジャスティスとかいう謎の集団が現れるから余計に混乱が増していきます。なんで自警団にスポンサーがつくのだろう?(広告価値ある?) アンベイルという個人情報暴露措置はもはや違法行為では?(いまどきIPアドレスの扱いだって相当に厳しいのに)…疑問が尽きない。

最終的には歌で感動させれば丸く収まる的なノリで「でもこの世界っていいよね」みたいな空気で締めるのですけど、私はこのサービスの良さが全然わからないままだった…。

そもそも今の観客は日々多くのITサービスやアプリに山のように触れており、必然的に熟練のレビュアーになっていますからね。映画に登場するサービス描写も、厳しい眼で星付けするでしょう。

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インターネットへの問題意識(00年代の話)

『竜とそばかすの姫』はインターネットに関する警鐘も描く作品です。ただその白眼視的な描写も最新の時代性を踏まえたものというよりは、もはや古臭い匂いさえ感じる「00年代の問題意識」で止まっている気もします。

今の時代も深刻なネットでの誹謗中傷とかはまだわかります(でもすずの母が批判される理由は釈然としないのですけど。むしろあの救出された子の親が批判されるんじゃないだろうか)。でも「誹謗中傷が悪い」のは百も承知で、今はもっと問題性への議論は進んでいると思うのです。

例えば、ドキュメンタリー『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』で説明されていたようにテック業界の巨大企業がユーザーを商品として売っている問題だとか、それこそ運営企業の権力的悪質さは『レディ・プレイヤー1』や『ウエストワールド』でも描かれていました。

また、ドキュメンタリー『フィールズ・グッド・マン』で映し出されたように、表現や創作がアンダーグラウンドなネット界隈で憎悪を煽る道具に利用される問題を描いてもいいはず。

未成年の女性がネットで顔を出すという行為であるならば、女性がインターネット空間で活動するとどんな問題に直面するかという、ドキュメンタリー『Geek Girls』で切り込まれていたようなジェンダー的な観点でアプローチしてもいいです。

『竜とそばかすの姫』という素材ならそういう最新の問題も扱える…。しかし、“細田守”監督はそこに興味はなかったようで…。結局、“細田守”監督もなんだかんだで“宮崎駿”監督世代と変わらない意識感覚で停滞しており、家族規範・恋愛規範の範疇でしか試行錯誤できない。その限界点を見せつけられる作品だったのかな…。

終盤の児童虐待とか、インターネットとリアルの繋がりの力で解決!とゴリ押しするには無理ありますしね。そんな生易しいものじゃないし…(『メイドの手帖』などを観て…)。

結論としては、竜頭蛇尾、初めは勢いは良かったし、絵も相変わらず綺麗だけど、記号的な描写にとどまり、問題意識のアップデートもなされていないという、今の日本の中高年男性クリエイターにありがちな型落ち状態でした。

“細田守”監督がさらに飛躍するなら、今のワンマンスタイルではない、集合知で脚本をブラッシュアップする体制などのバージョンアップは必須かなと思います。

『竜とそばかすの姫』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience –%
IMDb
7.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
4.0
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作品ポスター・画像 (C)2021 スタジオ地図

以上、『竜とそばかすの姫』の感想でした。