そして特別にしたい…アニメシリーズ『空色ユーティリティ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2025年)
シーズン1:2025年に各サービスで放送・配信
監督:斉藤健吾
そらいろゆーてぃりてぃ
『空色ユーティリティ』物語 簡単紹介
『空色ユーティリティ』感想(ネタバレなし)
ゴルフをもっといろいろな人に
スポーツのゴルフ(Golf)の語源は「Gentlemen Only, Ladies Forbidden(紳士のみ、婦人禁制)」の頭字語に由来する…というのは有名な誤った説です(Snoeps)。実際はオランダ語の「kolf」に由来している説などが複数が有力ですが、とにかく頭文字説は間違いなのはハッキリしています。
こんなよくわからない説がまかりとおるのは「ゴルフは男性向けのスポーツだ」という世間の風潮が強いからなのでしょうけど、「紳士のスポーツ」だとか綺麗に言い繕ったところで、だいたいどのスポーツも男性中心に支配下されてきた歴史がありますからね。
『The Founders』(2016年)というドキュメンタリーでは、アメリカでさまざまな困難と偏見を乗り越えて女子プロゴルフ協会を創設した先駆者が映し出されています。おかげさまで、今やアメリカでは2023年時点でジュニアの3分の1以上(37%)が女子になるまでに成長(2000年には15%でした)。ジェンダー平等のラウンドは何ホール目をまわったところでしょうかね。
そんな中、2025年は気持ちよくゴルフをする入門的な日本のアニメシリーズも登場していました。
それが本作『空色ユーティリティ』です。
本作は若い女性たちが主役のガールズアニメで、しかし年代は中学生から高校生、大学生とばらけています。主人公はひとりの女子高校生で、ひょんなことからゴルフと巡り合い、初心者ですがゴルフの世界に足を踏み入れる…というのが始まり。
部活としての活動ではなく、学外で趣味を見つけるタイプの趣味アニメとなります。
ゴルフはプロフェッショナルなスポーツでもありますけども、何か大会で1位を目指すとか、そういう明確な目標設定もなく、スポコン的な熱気はゼロです。本当に見よう見まねでゴルフに触れてワクワクドキドキしていく…そんな初心な姿とともにゴルフの楽しみ方が描かれます。
作品自体の敷居が低いのでゴルフのことをよく知らない人でも親しみやすいですし、たぶん作り手もそれを考えて制作しているのだと思います。
『空色ユーティリティ』はオリジナルアニメで、『アークナイツ』などを手がけた「Yostar Pictures」の制作。なんでも監督の“斉藤健吾”が個人的にゴルフが趣味で、自身で企画したとのこと。2021年にまず短編アニメが作られ、その後にアニメシリーズ化しました。「Yostar Pictures」初のオリジナル作品となったわけですが、結構融通が利くスタジオなんだろうか。
『空色ユーティリティ』を観てゴルフに興味を持ちました!…という人が現れるといいですね。
ぜひ自分の住んでいる場所の近くにどれくらいゴルフ練習場があるのか、ネットで調べてみてください。あるところには実は案外とあるものです。
『空色ユーティリティ』を観る前のQ&A
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでも親しみやすい。 セクシュアライゼーション:わずかにあり |
『空色ユーティリティ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
高校1年生の青羽美波は教室での休み時間にいつものようにスマホをタップしていると、ハマっていたスマホゲームの「ソードブレイカー」が近々サービス終了するという公式のお知らせページを目にします。
つまり自分が育ててきたキャラクターが消えてしまうということ。「完凸させるのにどれだけの時間とお金がかかったと思ってるの!」と友人で同級生の秋名泉美に訴えますが、終わるものはどうしようもないです。課金したのも自己責任。文句を言っても意味ないのはわかっています。
「いい機会だから美波も新しいことを始めてみたら? 3年間何もせずに終わっちゃうよ?」と提案されます。
そこでいろいろな部活の運動を試してみますが、上手くいきません。茶道も音楽も裁縫も全くダメです。自分のスキルが解放されるぴったりなものが皆無。秋名泉美は将棋部だともう決めています。このままだと自分だけ置いていかれて「村人A」で終わるのか。それは嫌です。
学校以外で特別を見つけようと探し回ってみます。しかし、これも成果なし。
制服姿のまま悩んで街中を歩いていると、腰を痛めているひとりの老人を見つけ、助けます。荷物を一緒に持ってほしいと頼まれて辿り着いたのは近所のゴルフの練習場の西東京ゴルフセンターでした。
そこでひとりの女性がスイングを決める瞬間を後ろから目撃し、そのとき、青羽美波は魅せられます。綺麗に自信たっぷりに打っていました。
その女性をじっと見つめていると、気づかれて「こっちにおいでよ」と呼びかけられます。その人は茜遥という名の高校3年生とのこと。自分とは学校は違うようです。
「1回打ってみよう」と気楽に言われ、ゴルフクラブの握り方を教えてもらいます。けれどもボールは飛びません。落ち込んでいると茜遥はゴルフは老若男女楽しめると励まされます。そんなこんなで1日が過ぎます。
青羽美波はその出来事からゴルフに気持ちが傾いていました。「ほしみん」というゴルフ系の女性配信者の動画をスマホで眺めながら、見よう見まねでクラブの使い方を家で学ぼうとします。弟の青羽正樹は冷ややかな目線を向けてくるだけ。それでもゴルフについて調べるのをやめられません。
翌日、学校終わりに駆け足で西東京ゴルフセンターに足を運びます。ここでバイトしていて仕事が終わった茜遥にまた教えてもらいます。
今度はボールが遠くまで飛びました。ちゃんと打てただけ。でもこの感覚。
これがスペシャルな特別なのだろうか…。私が主人公になれる瞬間があるのだろうか…。
ゴルフはゆるくてもいい

ここから『空色ユーティリティ』のネタバレありの感想本文です。
アニメ『空色ユーティリティ』は、ゴルフが持つ広いホールでショットを打つという気持ちのいい躍動感と解放感が、アニメーションと相まって爽やかに表現されていました。あらためてゴルフとアニメは相性がいいのではないかと思いましたね。ひたすらに動き回る必要もなく、静と動が切り替わりながら進んでいくという基本があるので、アニメーションでワンシーンに気合をいれて描くことにも適しています。
本作自体は趣味アニメのスタンダードです。
「初心者が先輩に導かれこの世界に入る」と「異なる者同士が共通の趣味で仲良くなる」という2つのプロットの定番を軽やかにこなしています。
今作は、主役となる面々が、青羽美波は高校1年生、茜遥は高校3年生、星美彩花は大学3年生、そして終盤に加わる夜嵐日向は中学生と、年齢はバラバラで住んでいるところも違います。あくまで世間から「若い女性」とひとくくりにされる程度の共通点しかないです。
それでも本作では各女性陣のそれぞれのゴルフに対する考え方や楽しみ方が短いエピソードの中に映し出され、「人によっていろんなゴルフがある」という多彩な奥深さと「自分だけでは見えない景色が見れるのが楽しい」という他者との共有の豊かさを味わえます。
おそらく作り手は、『ゆるキャン△』みたいな“ゆるい”趣味アニメを意識してこの『空色ユーティリティ』も“ゆるい”ゴルフアニメとして作りたかったのではないかなと感じました。
全体的に趣味に対して健全な推奨と言いますか、ゴルフを健全にみせようと頑張ってる感がひしひしと透けているようにも…。
あと、印象的なのは主人公の青羽美波が「スポーツが苦手」と自称するキャラクターになっていることです。これはゴルフをスポーツとして強調しすぎて、あまりにも体育会系なノリになってしまうと、運動が不得意な視聴者に避けられてしまうので、ゴルフはそういう層にも親しみやすいのだとアピールしたいのだろうなと思います。
本作には高齢者の面々もゴルフを自分の可能な範囲で満喫している姿も描かれていますが、確かにゴルフはそこまでマッチョなものでもないですし、健康促進のためにやるランニングみたいなノリでも始められます。
『空色ユーティリティ』のゆるさはスポーツの保守的な固定観念を緩めるという点でもさりげなく機能していて、やはりゴルフに合っているのでしょうね。
創作のゆるさは現実を都合よく無視していないか
趣味を健全にゆるく描くという正攻法をとったアニメ『空色ユーティリティ』ですが、全体的なドラマはやや平凡すぎるところもあり、そこは少し残念でした。
導入は良かったです。青羽美波がゴルフを始める瞬間。スマホゲームがサービス終了で…という動機も今っぽいですが、現代社会において趣味を持続させるのは結構難しいです。なぜなら多くの趣味になりうるものが資本主義上のサービスに接続しているためで、それこそスマホゲームもそうですが、そのサービスが打ち切られると半強制的に趣味に投じていた人たちは放り捨てられてしまいます。
ゴルフはスポーツであり、レジャーであり、もっと趣味としての地盤が固いです。一方で少し入りにくさもあるのも事実なので、本作はそのハードルを下げてくれます。
この入り口のドラマは丁寧な語り口だったのですが、以降はドラマらしいものに乏しく、雰囲気のゆるさに流されて、プロットを引っ張る力に欠けていたところはあったと思います。
例えば、この手のジャンルだと「壁にぶちあたるが仲間に救われて乗り越える」という要素が定番なのですが、本作はそこまで深刻な壁が生じません。青羽美波はパーをとろうと頑張っていましたが、パーくらいであればいつかやっていればとれるでしょうし、実際にあっけなくとれます。
一番ドラマとしてじっくりやれば面白そうな、茜遥が3年前の全米女子アマであと一歩のところで惜しくも決まらずに、「ゴルフを嫌いになりたくなかった」という理由でゴルフから遠ざかり、そこに星美彩花が新しいゴルフの楽しさの開拓を意図せずにもたらしてくれる…という物語。
作中では回想で部分的に描かれるも本腰を入れてじっくりは描いてくれません。たぶんゆるさを重視してシリアスを極力回避したかったのでしょうけども、もったいないところではありました。ゴルフを好きな人がゴルフを嫌いになる瞬間にこそ、私なんかは興味あるのに…。
これはガールズアニメのジャンルのよく陥りがちなバンカーですけど、若い女性を描くならとりあえず和気あいあいとしていれば絵になると安易に終結しやすいです。
でもそこはもうちょっとハッキリと意見を対立させ合ったっていいし、感情をぐぐっと掘り起こして描いても良かったと思います。
星美彩花のゴルフ系YouTuber&インフルエンサーとしての生き方を描くにせよ、これも最近のアニメはブームに乗っかって配信者職業を登場させやすいですけど、その描き方は子ども向けお仕事紹介並みに薄くなりもしやすいです。配信業を女性がやるとどういう問題に直面するのか?というような視点もなく、描かれるのは「どう配信コンテンツを楽しんで作るか」というフワっとした「How To」に収まっています。
青羽美波や茜遥ならば未成年ですし、もっと家庭との絡み具合で物語を深めることもできたはず。ゴルフを10代に楽しんでもらいたいなら、親をどう説得するのかは大切ですから。青羽美波も茜遥もお利口すぎるところがありました。
ゴルフウェアのファッションを楽しむのだって、女性向けのファッションはこういうふうに改善してほしいとか、そういう提案も盛り込めます。
『空色ユーティリティ』だけに限らず日本のアニメ界隈に多いことではありますが、「若い女性」を描くときに多彩な価値観を包摂しているように表面上は見えつつも実のところ比較的狭い少女像を依然として称賛する「ありのままの自分でいればいい!」の論調に終始し、若い女性に立ちはだかる障害に目を向けていなかったりします。
ゴルフを若い人たちに推奨するならば、そういう視点こそ大事なのであり(そしてアニメーションであろうとも物語をもっと面白くできる題材になる)、趣味から離脱してしまう人を繋ぎとめる堅実なアプローチになると思います。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)※たぶん百合作品に分類できないこともない
関連作品紹介
日本のアニメシリーズの感想記事です。
・『響け!ユーフォニアム』

・『夜のクラゲは泳げない』
・『もういっぽん!』
作品ポスター・画像 (C)空色ユーティリティ そらいろユーティリティ
以上、『空色ユーティリティ』の感想でした。
Sorairo Utility (2025) [Japanese Review] 『空色ユーティリティ』考察・評価レビュー
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