ラトルスネーク
Netflix映画『ラトルスネーク』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Rattlesnake
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2019年にNetflixで配信
監督:ザック・ヒルディッチ

ラトルスネーク

あらすじ

ひと気のない広大な荒地を走る一本の道路、そこでドライブをしていた女性とその幼い娘はトラブルで立ち往生をしていると、娘が毒ヘビに咬まれてしまう。しかし、謎の女性に命を救われる。ほっとしたのも束の間、シングルマザーは、その代償として日没までに見知らぬ誰かを殺すよう言い渡される。時間は刻一刻と迫るなか、焦りだけが募っていき…。

『ラトルスネーク』感想(ネタバレなし)

ガラガラヘビがやってくる

ヘビに咬まれた経験はありますか?

むしろ野生のヘビなんて見たことがないという人が大半かもしれません。あいつら、基本は引きこもり体質で目立たずじっとしていますから。でも日向ぼっこのために急に現れて、世間を驚かせるんですよね…。

日本にもヘビはいます。アオダイショウ・シマヘビ・ジムグリ・ヤマカガシ・ヒバカリ・シロマダラ・ニホンマムシ・タカチホヘビと8種ものヘビが生息しています(沖縄はハブが数種います)。このうち毒をもっているのはヤマカガシとニホンマムシの2種です(沖縄はハブ)。なので毒ヘビに咬まれるリスクは日本本土ではほぼないです(毒をもっていないヘビに咬まれたとしても、破傷風など感染症のリスクはありますから、患部を消毒するなど適切な処置と場合によっては病院に行くことをオススメします)。病院もすぐ近くにあるでしょうから、パニックになる必要はありません。不必要までに怖がることではないのです。

しかし、世界には全く周辺に助けとなる施設もない環境(砂漠、荒地、ジャングル…)があり、よりによってそういう場所にヘビは多く生息していたりするもので、願わくばエンカウントしたくはないです。

本作『ラトルスネーク』はそんな状況下で“ヘビと出会っちゃった”映画。しかも、それだけでなく、予想を超える異常事態に見舞われて…。ヘビだけでも手一杯なのに、なんで災難は重なるのか(でもよくるある)。

決してヘビを題材にしたモンスターパニックではないので悪しからず。『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』みたいなヘビヘビ・パニックな感じじゃないですよ。ヘビを基点にしたスーパーナチュラル・スリラーとクライムサスペンスの複合型といった感じ。重すぎず、軽すぎずのスリルが味わえます。

原題の「Rattlesnake」はガラガラヘビのことです(「rattle」はマラカスのような振ると音が鳴る楽器のこと)。ガラガラヘビは日本人の間でも有名(日本に生息していない割には)なので語る必要はないかもしれません。北アメリカと南アメリカに分布する、強い毒をもったヘビです。危険を感じると尾を激しく振るわせて音を出して威嚇するのが、その名の由来。毒ヘビのイメージばかりが先行しがちで、恐ろしいと思われていますが、実際は攻撃的ではないです。それどころか、他の大型のヘビや鳥、哺乳類など天敵が多く、どちらかといえば自然界では“やられやく”。だから必死にシャカシャカと威嚇しているんですけど(そう考えると健気)。

監督は“ザック・ヒルディッチ”で、最近だとスティーヴン・キング原作の『1922』という映画を手がけています。こちらはネズミが重要な要素として登場するホラーであり、なんかまたもや動物ネタになってしまいましたが、偶然なのかな。彼はオーストラリア人で、オーストラリアは毒ヘビ大国ですから、ガラガラヘビはいないけど、ヘビは見慣れたものなんじゃないでしょうか。


主演は『ファンタスティック・ビースト』シリーズにも出演している“カルメン・イジョゴ”。『グローリー 明日への行進』ではマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの妻を演じて、非常に高く評価されました。『ラトルスネーク』ではずっと画面に登場するので、彼女のスタンドアローンなプレイを眺めることができます。

『ラトルスネーク』はNetflixオリジナル作品で、2019年10月25日より配信中。よほどのヘビ嫌いとかでないのであれば、時間があるときに鑑賞してみてください。85分とコンパクトなので、寝る前のちょっとした1日の締めくくりにどうですか。もしかしたら夢にヘビがでてくるかもしれませんよ(嫌です)。

ついでに同監督の『1922』も、観ていない人は合わせて鑑賞するのも良いのではないかなと思います。

オススメ度のチェック
ひとり◯(気軽なスリルを)
友人◯(家でのんびりと)
恋人◯(暇つぶし感覚に)
キッズ△(残酷描写ありです)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ラトルスネーク』感想(ネタバレあり)

娘を救う方法はただひとつ?

道路を走る一台の車。カタリーナ・リッジウェイとその娘クララは仲良く談笑しながら、超距離のドライブをしていました。ちょうどテキサス州に入り、ガソリンスタンドへ立ち寄ります。娘をトイレに行かせる傍ら、「母さん、オクラホマに着いたら電話するね」とメッセージを送ります。どうやら目的地は母のいるオクラホマのようです。

車ですっかり眠りこんでしまったクララを後部座席に、ひたすら車を走らせるカタリーナ。スマホのナビを頼りにしているあたりをみると、こういう車の旅路には慣れていないようです。ナビによれば通る予定だった道路で事故があったらしく、ルート変更を指示されます。やむを得ず、ナビゲートされるまま右の道路へ進みます。

何もない一本道路の荒地をひたすらに突き進むと、電波もない辺鄙な場所に突入。すると、突然、パンとパンク音。車を止めて確認すると後方のタイヤのひとつが、無残にもパンクして使い物にならなくなっていました。どこかもわからない場所で途方に暮れるカタリーナ。

仕方がないのでスペアのタイヤと交換する作業に着手。ここでも工具の使い方が不慣れで、いかにも車慣れしていないのがわかります。その間、近くの荒れた草地で遊ぶクララ。カタリーナはタイヤに悪戦苦闘。ところが急に悲鳴が。後ろを振り返ると、クララが倒れており、そばにはガラガラヘビがいて、咬まれたようです。抱きかかえるも、圏外なため、助けも呼べません。道路を通りかかる車も無し。

絶望的な状況の中、ふとそれほど距離もない近くにトレーラーハウスがあるのを発見。あんなのあっただろうか…とりあえず無我夢中で助けを求めるために中へ。すると女性が出てきて「咬み傷の治療なら私に任せて」とクララを預かってくれます。「一番近い町はトゥリアで、病院がある」と教えてくれて、すぐさまタイヤ交換に戻るカタリーナの背中に「支払いは後でいい」という意味深なセリフを残して。

急いでタイヤ交換を済ませてクララのもとへ戻ると、咬み傷のあった足に傷が見当たりません。あれ? しかも女性も消えています。わけがわからないなか、車で立ち去り、町の病院へ直行。

そこで「ガラガラヘビに咬まれたらもっと重傷ですよ。疲労では?」と診断を受け、しばし経過を見ることに。目を覚まさない娘を病室で案じていると、見知らぬ男がやって来ます。「助かって良かった。あなたは実に運がいい」と言ったかと思うと「お支払いの件で話が」と続けます。医療費ではないらしく、「借りです。魂の借りは魂で返してもらう、リッジウェイさん。期限は日暮れまでだ。魂は誰のものでもいい、人間なら。借りを返さないなら娘の容体は逆戻りする」と意味不明なことを口にする男。しかし、実際に急に体調が悪化し、傷が復活している娘を見てカタリーナはパニック。「必ず死ぬだろう。あと7時間だ」そう言い残して男は消えました。

自分の目の前でしか起こらない謎の人物と現象。911に電話しかけるも説明のしようがありません。

あのタイヤ交換した場所へ戻ってみると、トレーラーハウスは消えていました。すると、大型車両が止まり、男が出てきます。「カトリーナ、娘を救う方法はただひとつ」そう言って血まみれの男が不敵に笑います。しかし、次の瞬間には誰もおらず、大型車両もなく、ヘビだけ…。

ホテルへ戻ると、「殺人 トゥリア テキサス」でネット検索。すぐさまトラック運転手の射殺のニュースがでてきます。その男はあのさっきトレーラーハウスのあった場所に来た男だと確認。報道記事の写真に何か映っているのにも気づきます。他にもハイカーの女性、弁護士の黒人の記事を発見。弁護士はあの病室に来た男だとすぐさまわかり、ニュース映像を見るとやっぱり誰か映っています。これは自分だけに起こっていることではないし、やらねば本当に悲劇が起こる…。

トゥリアの日の入りを調べると「5:37」。ホテルの部屋で覚悟を決めるカタリーナでした。

これは現実なのか、幻影なのか

『ラトルスネーク』の最も気になる点は、このカタリーナの体験したことは現実だったのかということです。

そもそもガラガラヘビに咬まれるとすぐさま命の危機に直結するわけではありません。統計によればアメリカでは毎年7000〜8000人が毒ヘビに咬まれていると推定されていますが、死亡者は多くても5人程度です。アメリカには16種類のガラガラヘビがいて、死亡被害のほとんどがガラガラヘビによるものですが、そのたいていが治療が遅れたか、治療を断られたかのどちらかです。もちろん幼い子どもならば危険性は増すので怖いですが、血清はガラガラヘビのいる地域では普通に用意されているので、正しい処置で救えます。

しかし、カタリーナは精神的に不安定な状態にあるようでした。カタリーナはなぜフェニックスからオクラホマまで車で幼い娘を連れて移動しようとしたのか。車で約15時間の距離。変ではないように思えますが、でもこのような長距離運転自体そんなに経験していないようです。

冒頭で「マーク」という人物から「連絡してくれ」とメッセージがしつこく来ていること、病院での「シングルマザーである」「引っ越す」との頑なな宣言。そして、バーで出会った夫から暴力を受けているアビーという女性を見る目。これらのことを考慮すると、カタリーナも夫からDV的な被害を受けて、逃げてきたのかもしれません

いや、もしかすると違うパターンの可能性もなくはないです。アビーという夫から酷い扱いを受けている女性の家へ侵入し、“借り”のために命を奪う相手としてその夫を殺そうと銃を持っていった時。クローゼットに隠れていると、あのアビーが夫がいなくなった一瞬、ハサミを手にする姿を目撃します。このときのカタリーナは自分が殺人を犯そうとしている以上に、何かに取り乱して涙を見せています。

つまり、カタリーナはもう自分の夫を殺しており(正当防衛だった可能性は高いでしょうけど)、そこから逃げるために着の身着のまま急いで車を飛ばしていたのかもしれません。それだったら足のつかない車で移動する理由も理解できます。

それを示唆するかのように、冒頭のガソリンスタンドにて、クララが友達と思われるリリーと喧嘩したらしいことを語り、自分がチョークを投げたことを正当化する主張をしたとき、カタリーナは「傷つけていい人はいないの」と正します。あれはすでに罪を犯した自分自身への言葉だったのか。それともこれから罪を犯す自分へのフラグにすぎないのか。

また終盤の追い込まれた結果、自分の犠牲を覚悟したとき、娘への動画を撮影しますが、そこでの「あなたを守るためにやるしかなかった」という言葉は、自分のこれからの死だけでなく、それ以前にすでに犯してしまった罪への言及でもあるのかも…。

ラトルスネーク

悲劇への向き合い方

もうひとつ『ラトルスネーク』におけるカタリーナの心情を理解するうえでヒントになる場面がありました。

それは冒頭、寝ているクララを乗せて黙々と車を走らせているシーン。カタリーナはおもむろにトニー・ロビンズの「ネガティブ思考を止める」というポッドキャストを流し始めます。内容はこうです。

人は無意識に出来事を言い訳にして不快でも慣れた環境に戻ろうとする。つまり居場所に束縛されているのだ。次に解決法を見つけること。人生には必ず大きな試練が訪れる。人生の分かれ目はその問題にどう向き合うかだ。人生の悲劇は人を成長させるためにある。悲劇に直面した時、向き合い方によっては…」

このポッドキャストの内容を深読みするなら、本作のカタリーナが経験することは、全てがカタリーナの錯乱による可能性も否定はできません。少なくとも謎の治療をしてくる女性も、病室に現れる黒人も、迫ってくる大型車両の運転手も、頭を車の窓に打ち付けてくる子どもも、写真を撮ってくるハイカーの女性も、全部カタリーナの幻影なのか。

“無意識に出来事を言い訳にして”、自分の辛さから逃げているだけなのでしょうか。

どうしても人は自分の思い込みで何かを解釈してしまいがちです。病院で重篤な父を見舞うロレインという女性を見かけて、もう亡くなったものだと勘違いするカタリーナも同じ。一度不安に陥れば、何かが全て恐怖となって襲ってくるような錯覚、もとい過剰反応。ガラガラヘビもこれを利用して生存する戦略をとっている生き物であり、つまり、シャカシャカと尻尾で音を鳴らすことで、攻撃はしないけど攻撃されると相手に錯覚させて敵を追い払おうとします。

『ラトルスネーク』の物語はすべてがカタリーナの視点で進むため、信頼できない語り部状態です。ゆえに観客としては「これって描かれていることのどこまでが正しいの?」という不安感を抱きながら観ることになり、余計に落ち着かない気分にさせられます。

ついに殺害を遂行したカタリーナの周囲に現れる“存在たち”を見ると、さすがにこれは幻に違いないと思わせるほどの一線を越えた気分もします。

しかし、全てが終わり、容体が回復して目が覚めたクララがお絵描きしていると、そこにはあの謎の女の真っ黒な絵が…。さらに再びドライブをしている途中、自分がさっき殺した男が道路わきに立っているのが見えます。しかも、それはクララも見えているようです。

言葉連想ゲームを続けながら「ママの番だよ」と言われるも、「I, I, I…」と言いよどむことしかできないカタリーナ。娘には語っていないことがカタリーナにはあり、それを言えない自分を突きつけられるようで…。

“人生には必ず大きな試練が訪れる”。そうだとしたらカタリーナの試練はまだ終わっていないのかもしれません。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 43% Audience --%
IMDb
4.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 5/10 ★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Campfire, Netflix