ロケットマン
映画『ロケットマン』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Rocketman
製作国:イギリス・アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年8月23日
監督:デクスター・フレッチャー

ロケットマン

あらすじ

イギリス郊外の町で両親の愛を得られずに育った少年レジナルド・ドワイトは、唯一、音楽の才能には恵まれていた。その音楽への想いだけをエネルギーに、やがてロックに傾倒し、ミュージシャンを目指すことを決意。自分の名を「エルトン・ジョン」という新たなものに変え、感情を歌詞に込めて音楽活動を始める。その楽曲はロケットのように世界へ打ちあがることになり…。

ネタバレなし感想

今度はエルトン・ジョンの番です

世界で社会現象化するほどのインパクトを与え、日本でも旋風を巻き起こした『ボヘミアン・ラプソディ』(以下、『ボラプ』)。日本は本国アメリカに次いで大ヒットを記録し、このたび興行収入が130億円を突破したとのニュースもありました(2019年5月時点)。これは日本の歴代興行収入ランキング「16位」、歴代実写洋画ランキングだと「9位」だそうです。実写洋画が日本でこれだけ当たるのは本当に久しぶりなので(130億円超えは2009年の『アバター』以来)、業界も大盛り上がりでした。


これだけの爆発的な勢いを見せつけられたら“後に続け!”と思うのも当然。今後、他にも有名なミュージシャンの半生を描く映画が続々と企画されているという情報を耳にしますが、これはもうムーブメントというか、一種のジャンルになりましたね。著名ミュージシャンの人生をライブショー化するという映画スタイル。従来のミュージシャン伝記映画といえば、小規模でシリアスなドラマが多めな印象でした(最近だと『ブルーに生まれついて』とか)。もしくはドキュメンタリーは結構作られてきました。


でも、『ボラプ』というパイオニアが、昨今の大スクリーン&応援・爆音上映といったハイクオリティ化の傾向のある大手映画館の流れに対して、見事にそのジャンルを波乗りさせてしまいました。これはビジネス的には発明です。みんなが(それこそその人物を知らない人でも)ライブ感覚で盛り上がれる、敷居の低いエンタメ伝記映画。私自身はこのスタイルを安易にマネて連発すると、ミュージシャンの人生をコンテンツとして消費するだけになるので、あんまり良くないのではとも思っていますが、それを映画製作会社がどう扱うのか興味津々です。

そんな中、さっそくセカンド・チャレンジャーとなる映画が登場です。それが本作『ロケットマン』

こちらは世界的ミュージシャン「エルトン・ジョン」の伝記映画となっています。どうしても洋楽は知っている人と知らない人の差が大きい(とくに世代間)のですが、認知に関わらずエルトン・ジョンの偉大性はいまさら変わりません。最近も『キングスマン ゴールデン・サークル』にゲスト出演して大暴れしていたり、超実写版となったばかりの『ライオン・キング』でも楽曲を担当していたり、映画界とも縁の深い人物です。


そのエルトン・ジョンの激動の半生に迫る『ロケットマン』は、『ボラプ』と比べられるのも致し方ないです。なにせ監督が結果論的に同じですからね。“デクスター・フレッチャー”。“結果論的に”と注釈をつけているのは、『ボラプ』の場合は本来の監督である“ブライアン・シンガー”のドタキャン降板騒動があったため。なので、『ボラプ』のときはどこまでピンチヒッター監督の“デクスター・フレッチャー”の才能が生かされたのか判断つきづらかったです。『ロケットマン』は純粋に“デクスター・フレッチャー”監督作なので、ついに本領発揮かと期待されるのも必然。

おそらく『ロケットマン』と『ボラプ』を比較する記事なんてものは山ほど書かれているでしょうし、音楽にさして詳しくない私には手に余るので、それを知りたいならなんか専門家にお任せします(他力本願)。

ただひとつだけ事前に言っておきたいのは、今回の『ロケットマン』は『ボラプ』と比べてジャンルが根本的に違っていて、ミュージカルになっています。

なのでたぶん『ロケットマン』派と『ボラプ』派に分かれて、場合によっては言い争いになるかもしれないですけど、基本は好みの問題です。優劣どうこうではないです。音楽にだって好き好みがあるのですから、ミュージシャンの音楽性を強く反映した伝記映画にだってそれがあるのは自然なこと。自分の好きなように楽しんでください。

なお、『ロケットマン』はエルトン・ジョンの人生を描くうえでR指定は避けられないという製作陣の強い思いがあり、そのとおりになっています。確かにドラッグ描写と、それと同性愛描写が色濃く(『ボラプ』以上にベッドシーンまでハッキリと描写)、それがレーティング上昇の要因でしょうけど、だからといって子どもが観れないほどではないので安心していいでしょう。日本でのレーティングは「PG-12」なので親がOKと判断するなら子ども同伴でも鑑賞可能です。

エルトン・ジョンのファンも初心者も、とりあえず劇場で一同に会して、仲良くテンション上げていきましょう。

オススメ度のチェック
ひとり◎(話題作は見逃せない)
友人◎(音楽好きだとなお良し)
恋人◎(気分をアゲるには最適)
キッズ◯(そこまで大人向けでもない)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

浮き沈むの人生を音楽で

欧米映画で人生を描くとなれば高確率と言っていいほど「グループセラピー」が登場しますが(逆に日本は依存症治療への社会の関心が希薄すぎますけど)、『ロケットマン』でも御多分に漏れず、グループセラピーのシーンから始まります。というか、映画全体の物語がグループセラピーを通した、一種の心理的な回想で成り立っています。なので、冒頭で悪魔ファッションという超奇抜な風貌でセラピーの席に平然と座るエルトン・ジョンですが、その自分の本心を隠すかのような“外側”のイメージを象徴する衣装が、物語が進むにつれて徐々に取り払われていく…という割と見たまんまな演出もわかりやすいです。

最初、セラピーが始まると、エルトン・ジョンの少年時代がシームレスに展開。大人エルトンと子どもエルトン(当時の名前は「レジナルド・ケネス・ドワイト」)がハーモニーを奏でながらの、いきなり爽快な「The Bitch Is Back」を熱唱。セラピーにて、アルコール依存症、セクシャリティ、ドラッグ、アンガーマネジメントとこれから彼に降りかかる災難が無数にやってくることが示唆されますが、そんなの気にしない、純粋な未来を信じる始まりです。

でもすでに少年時代から取り巻く環境には不穏さが。両親との仲は良いとは言えず、とくに父とは面識の機会も少ない人生(父はイギリス空軍で働いていた)。家族がバラバラに歌う「I Want Love」が切ないです。

そんな中で、唯一のよりどころだったのが音楽でした。レジナルドは神童レベルの音楽センスがあり、そのまま11歳の頃に王立音楽院へ行き、音楽にひたすら専念。

ティーンになると、エルヴィス・プレスリーにドハマりしながら、バンドを結成し、パブで熱唱。ここの「Saturday Night's Alright」を歌いながらの、流れるように年齢的に成長し、ミュージカル風に街を疾走した後にまたパブに戻るという、一連のシークエンスがとても気持ちがいいです。

ブルーソロジーでの活動が勢いに乗るなか、レジナルドは自分の名前をエルトン・ジョンに変えることを決め、ここから新しい自分をリスタートさせます。ソングライターであった「バーニー・トーピン」というパートナーにも恵まれ、「Border Song」「Your Song」と気分が盛り上がっていくなか、この二人の間で生まれた最愛の子どものような曲「Crocodile Rock」で、まさしく浮き上がるような人生の絶頂を感じるエルトン。しかし、ひとつの失恋を味わうことになり…。失意の「Tiny Dancer」からの新しい恋を告げる「Take Me to the Pilot」と、ここでも流れがスムーズ。

そんなこんなで恋愛的にも仕事的にもニュー・パートナーとなった「ジョン・リード」とともに(『ボラプ』でも出てきましたね)、再びアーティスト活動を続行するも、そこには同性愛を家族や世間に認めてもらえないという巨大な壁が立ちはだかり…。

エルトン・ジョンという波乱に満ちた人間の人生が、彼の生み出したミュージックによって演出されていく、当人の人生は曲がりくねっていたとしても、映画表現はこれ以上ないストレートなものでした。

恥ずかしげもない演出の気持ちよさ

『ロケットマン』はこれを鑑賞するだけで、“エルトン・ジョンをわかったような気になれる”…そんな映画です。これは嫌みでもなんでもなく、『ボラプ』の感想でも書きましたが、こういう映画を観て、題材となったミュージシャンを知り、好きになったという新規ファンも絶対に増えると思います。それを「にわか」だなんだとバカにせず、ウェルカムの精神で受け止める。それが『ロケットマン』という映画の大きな役割でもありますし、価値だと思います。この意義があるからこそ、私もこのライブショースタイルな映画を否定はできないわけで。

『ロケットマン』の場合は、『ボラプ』のようなある種の一点突破的な作りではなく、全編を通した人生ライブになっており、演出もかなりリアルよりもフィクションとして開き直っています。これはあり得ないというような展開も堂々と盛り込んでおり、『ボラプ』のときのような史実との違いで批判がでることもあまり出にくい作りですね。わざわざ冒頭のグループセラピーの導入によって、リアリティ重視ではないことを明示しているほどの予防線の貼り方ですし。

もともと製作しているのが『キック・アス』や『キングスマン』でおなじみの“マシュー・ヴォーン”の「Marv Films」であり、“マシュー・ヴォーン”も“エルトン・ジョン”本人と並んで製作に参加しているだけあって、いつもの悪ノリ全開の痛快さが際立っていました。

あとは監督の“デクスター・フレッチャー”の実力。やっぱりこの人、普通に伝記モノを手がけるセンスが上手いですね。過去の監督作である『イーグル・ジャンプ』でも思いましたけど、コテコテのベタなストーリーを、これまたベタな音楽を恥ずかしげもなく使って、素直に見せることがすごく得意な監督です。


『ロケットマン』でもその単純さがプラスになっていて、エルトン・ジョンの人生史に詳しくなくとも、簡単に彼とシンクロできてしまいます。例えば、非常に浮き沈みの激しい人生をたどってきたエルトン・ジョンですが、その姿を文字どおり「浮き沈み」で表現する一連のシーン。「Crocodile Rock」で浮き上がり、プールの自殺未遂で沈み、続くドジャー・スタジアムのステージでの「Rocket Man」の熱唱で打ちあがる。こんな言ってしまえばアホすぎるほどシンプルな演出をやってのけるのは“デクスター・フレッチャー”監督ならではでしょう。

あれだけ派手な突拍子もないことをやりまくっておきながら、最後はちゃんとセラピーに戻って、人生との向き合いにひとまずのゴールを迎えさせるという、締め方の真面目さがまたギャップで良いですね。

ラストはまさかの「I'm Still Standing」のMV完全再現ですよ。もうファンになりましたよね?という映画からのラブコールみたいなもので、追悼のニュアンスもあった『ボラプ』と比べて、『ロケットマン』は清々しいほどの気持ちのいい人生賛歌でした。

ロケットマン

タロン最高パフォーマンス

『ロケットマン』の立役者は言うまでもなく、エルトン・ジョンを熱演した“タロン・エジャトン”(“タロン・エガートン”と日本では書かれることが多いですけど、“エジャトン”が発音としては正しいらしい)です。『ボラプ』のときはフレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレックがアカデミー主演男優賞に輝くほどに躍進しましたけど、今回の“タロン・エジャトン”も負けておらず、しかも『ロケットマン』の場合は歌も俳優自身が歌っているだけあって、余計に評価したくなります。

“タロン・エジャトン”はもともと歌唱コンテストにて優勝した過去があるくらい歌が上手く、エルトン・ジョンからもお世辞抜きで絶賛されているので、なんかこう本当にエルトン・ジョン2世なんじゃないか、エルトン・ジョンが妊娠して“タロン・エジャトン”を産んだんじゃないかという気さえしてきます。

すでにアニメーション映画『SING シング』の声優として、作中で「I'm Still Standing」を熱唱しているので、今回の『ロケットマン』は二番煎じにならないかとも思ったのですが、全然杞憂でした。それよりももっと聴いていたいくらいです。


『キングスマン』での華々しいスターデビューからのロケットスタートでキャリアを上り詰めましたし、日本でも黄色い歓声が沸くほどの人気っぷりですから、そのスター性もエルトン・ジョンと重なりますし。

『ロケットマン』ではVFXに頼らず実際にさまざまなシチュエーションでパフォーマンスしているシーンが多々あります。「Crocodile Rock」の“らーららららー”のふわふわタイムもワイヤーで吊っていますし、プールでの印象的な沈むシーンも本当に巨大なプールセットで沈んでいます。ミュージカルだからこそただ歌うだけでは終わらず、あれこれ大変だったと思いますが、サクッとやってのけるこの若き俳優。

間違いなく『ロケットマン』は“タロン・エジャトン”のベストアクトであり、しばらくは揺らぐことのないベストマッチであるでしょう。

あまりにも“タロン・エジャトン”が良すぎて他のキャストが霞んでいるのですけど、バーニー・トーピンを演じた“ジェイミー・ベル”、ジョン・リードを演じた“リチャード・マッデン”といるなかで、エルトンの母を演じた“ブライス・ダラス・ハワード”が年齢とのミスマッチもあるであろうに頑張っていたのが印象的。

本作を観て、エルトン・ジョンを好きになった人は、正々堂々とファンを名乗って、普及活動に勤しんでください。もちろんこの映画を宣伝もしてね。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 89% Audience 88%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

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作品ポスター・画像 (C)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.