その味はメキシカン・パワーの証!…映画『フレーミングホット!チートス物語』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2023年)
日本では劇場未公開:2023年にDisney+で配信
監督:エヴァ・ロンゴリア
人種差別描写
フレーミングホット!チートス物語
ふれーみんぐほっと ちーとすものがたり
『フレーミングホット!チートス物語』あらすじ
『フレーミングホット!チートス物語』感想(ネタバレなし)
そのチートス、誰が発明した?
「チートス」というスナックがあります。
“チャールズ・エルマー・ドゥーリン”という人物が1932年に「The Frito Company」という会社を創業し、そこで今では「フリトス」の名で親しまれるコーンチップスを開発し、会社は成長していきます。そして1961年に「H.W. Lay」という会社と合併し、社名を「フリトレー(Frito-Lay)」に変えます。さらに1965年には「フリトレー」は「ペプシコーラ」社と合併して傘下となり(現在のペプシコ)、ビジネスを巨大化させます。
「チートス」は「フリトレー」の主力商品であり、1948年に発明されました。これはいわゆる「チーズパフ(Cheese puffs)」もしくは「チーズカール(Cheese curls)」と英語で呼ばれるカテゴリのスナックで、チーズ風味の粉末の混合物でコーティングされたコーンスナックです。日本だと「明治」の「カール」が同じ分類のスナック菓子ですね。
今では「チートス」にもいろいろなバリエーションの商品が展開しており、味もあれこれあります。その中でも人気のひとつが「Flamin’ Hot(フレーミングホット)」とブランド名がつけられている商品。辛めのスパイシーな味となっています。
とまあ、ここまでまるで「フリトレー」の広報担当の人ですか?っていうくらいに丁寧に説明してきましたけど、今回紹介する映画はもっと商品宣伝っぽいです。
それが本作『フレーミングホット!チートス物語』。
この映画は、みんなを夢中にさせる辛めのスパイシーな「チートス Flamin’Hot 激辛チーズ味」がいかにして誕生したのかを描くものです。商品開発の裏側を映すビジネス成功ストーリーであり、最近だと『AIR エア』なんかと同じジャンルですね。
『フレーミングホット!チートス物語』の主人公は「リチャード・モンタニェス」という、実際に「フリトレー」で働いていたメキシコ系アメリカ人で、貧しい家庭で育った彼がひとつの商品を生み出すことで業界を変えていくさまを痛快に描き出しています。
ただ、この映画の原点となったそのリチャード・モンタニェスの語りについては一部が信憑性を疑われることになる事態も後に起きたのですが、それに関してはネタバレにもなるので、後半の感想でまとめています。どれが真実で、どれが脚色なのか…それは鑑賞してから整理すればいいでしょう。
『フレーミングホット!チートス物語』の魅力は、主役がメキシコ系であり、ラティーノの人種的マイノリティの人たちの活躍を主軸にしている点です。普段は見下されて扱われてきたラテン系の人たちですが、実は市場には欠かせない存在であり、そして新たな商品のアイディアをも生み出せる。そうした素直なエンパワーメント溢れる映画に仕上がっています。
『ドーナツキング』もそうでしたが、アメリカの文化的アイコンになっている商品や食品でも、マイノリティの人種によって支えられているものが結構多いことに気づかされます。それこそアメリカらしさであり、アメリカの誇れる部分なんですけどね。
監督は、ドラマ『デスパレートな妻たち』でおなじみの俳優の“エヴァ・ロンゴリア”で、これが長編監督デビュー作となります。“エヴァ・ロンゴリア”もメキシコ系で、業界を切り開いてきましたが、「チカーノ」(メキシコ系アメリカ人のアイデンティティを指す用語)の研究で修士号をとってるそうです。本作にぴったりな監督人選だと思います。
俳優陣は、『アンビュランス』やドラマ『ナルコス:メキシコ編』の“ジェシー・ガルシア”、ドラマ『Vida』の“アニー・ゴンザレス”、ドラマ『LUCIFER/ルシファー』の“デニス・ヘイスバート”、ドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』の“トニー・シャルーブ”など。
『フレーミングホット!チートス物語』は「サーチライト・ピクチャーズ」制作ですが、劇場公開はされず、日本では「Disney+(ディズニープラス)」で配信されました。
お気楽に見れる映画ですので、「チートス」もしくはお気に入りのスナック片手に、のんびり家で鑑賞するのがベストです。
『フレーミングホット!チートス物語』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :気軽に観れる |
友人 | :友達とスナック食べながら |
恋人 | :スナックを分けて |
キッズ | :お菓子の食べすぎに注意 |
『フレーミングホット!チートス物語』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):メキシカン・パワー
リチャード(リッチー)・モンタニェスは、今は高級レストランで優雅にディナーを楽しむ男です。でも昔は全然違いました。
1966年、カリフォルニア州のグアスティのブドウ園。リチャードは底辺も底辺の貧しい家庭に生まれ、やんちゃな子どもでした。8人も兄弟がいましたが、メキシコ系はこんなものです。みんな一生懸命に働いており、祖父からは財産は名前くらいだと聞かされてきました。
父のバチョは飲んだくれで、乱暴に掴みかかってくるような人間でした。
リチャードは学校は嫌いです。メキシコ系は浮いていてイジメのまとだからです。でも ジュディという同じメキシコ系の子に出会い、意気投合。ボローニャ・サンドを食べたがるジュディのために、作ってほしいと母にねだりますが豆のブリトーしか作ってくれません。
しかし、このブリトーは白人の子にも好評で、これを売り出してリチャードは25セントをたくさん貯めました。
チョコを買ってあげようと店に行ったのですが、カネを盗んだと思われて警察に捕まりました。メキシコ人の扱いなんて当時なこれが関の山です。
年月は経過。大人になったリチャードはジュディと一緒に無鉄砲なことをする日々でした。売人仲間とつるみ、窃盗もしました。この時代は「チカーノ運動」としてメキシコ系アメリカ人の権利運動が活発化していましたが、そんなことには目もくれず、ファミリービジネスに勤しんでいました。
けれどもジュディは妊娠したことを機に、もっとまともになるべきだと言ってきます。「このままだと父親みたいになる」と突きつけられ、心を改めるリチャード。
1982年。まだ貧乏のままでした。子育ても大変で、冷蔵庫も壊れて、生活は逼迫。ジュディの書いてくれた履歴書を持ってあちこちに向かってみるリチャードでしたが、学歴どころか高校も出ていないのでお払い箱です。ジュディはトルティーヤを売り歩いていますがそれも限界。
父のところに行くべきだとジュディに諭され、嫌々向かうと父は今はなぜかクリスチャンになっており、「男が大黒柱なんだぞ」と言ってきます。
やはり父とは相性が悪く、売人に戻るしかないとボスのトニー・ロメロに会いに行きます。ところが彼はフリトレーでの仕事があるそうで、自分も紹介してくれと頼み込みます。
リチャードは文字を書くのが苦手なので、応募用紙も記入できません。家に持って帰りますが、高卒の資格がいるようです。しかし、やる気があるなら良しとジュディがテキトーに書いてくれます。
「最高の従業員になります」と必死にアピールし、なんとか清掃員の仕事をもらえました。
さっそくスナック製造工場を案内されます。全てが規則正しく流れ作業で進んでいる生産ライン。大型機械がズラっと並んでおり、その光景に圧倒されます。
ナチョという清掃の仕事仲間も紹介され、張り切りまくるリチャード。でも本音はずっとこのままではなく、より上を目指したいと思っていました。
そこであれこれと頑張ってみますが…。
どこまでが実話?
ここから『フレーミングホット!チートス物語』のネタバレありの感想本文です。
『フレーミングホット!チートス物語』のような物語は、どこまでが実話なのかと気になるのも当然です。
前述したとおり、本作はリチャード・モンタニェス本人の語る人生談を基にしています。しかし、一部が信憑性を疑われることになる事態も起きました。
具体的には「ロサンゼルス・タイムズ」の記事によってそのリチャードの証言が疑わしいとされたのですが、後に「NPR」によってフリトレー関係者の取材をもとにどこまで真実なのかの検証が行われました。すると結構ややこしい状況が浮かび上がってきます。
そもそもリチャードがあのスパイシーなチートスを提案したのは、映画内では不景気で解雇が続いた1992年以降となっていましたが、実際、それより前にもうすでにフリトレーで開発したスパイシーなチートスが「Flamin’ Hot」という商標で中西部で市場に出回っていたそうです。
ただ、同時期にランチョクカモンガの工場で作られた商品も出回っていたらしく、なんでも各部門ごとに独自の経営陣の生産ラインがあって、それぞれで互いを把握していなかったこともあったとフリトレー側は語っています。
なのでリチャードの語る話も嘘と言い切れるものでもなく、こちらもこちらでおおよそは事実かもしれません。
一応、フリトレー側は現在商品化されている「Flamin’ Hot」にはリチャードの考案したスパイシーレシピは使われていないと述べていますが、リチャードはキャリアアップしてからこの「Flamin’ Hot」の販売戦略に関わっていたのは紛れもない事実で、結局のところこのへんはあやふやです。
リチャード側はもっと文書化して記録を残せばよかった…と悔やんでいますが…。
また、明確に事実と異なる脚色もあり、例えば、リチャードは映画内ではずっと清掃員だったことになっていますが、実際には1977年からマシンのオペレーターだったそうです。技術者のクラレンス・C・ベイカーは実際にいた同僚をモデルにしているとのこと。
最終的にリチャードの才能を認めるCEOのロジャー・エンリコの人柄もだいぶ物語に都合よくマイルド化していると思いますが、このあたりはストーリーの盛り上げを意識した人間模様に調整しているんでしょうね。
私たちがいるからこその会社(社会)
そうした事実関係があるにせよ、『フレーミングホット!チートス物語』の製作陣もそのへんをしっかり踏まえてプロットを考えている感じでしたね。
ちゃんとフリトレー側でもスパイシーな味を考案開発している描写がありましたし、何よりも映画的なアレンジとして、この映画自体がリチャード・モンタニェスの「やや主観的な語り」に依存しているということを自虐的に盛り込んでいました。
『アントマン』シリーズの同じラテン系のあのキャラのように、リチャードもいきなり調子のいい軽快トークで「こんな話があったかもしれない」と現実を勝手にアテレコしだします。
『フレーミングホット!チートス物語』はもっとメキシコ系の人たちのアイデンティティとそのメキシカン・パワーに寄り添った作りになっているのが特徴です。普段、映画では何かと麻薬戦争絡みでしか登場させてもらえないメキシコ系コミュニティ。でもメキシコ系コミュニティの在り方はそこだけでないし、アメリカ社会において実はもっと大事な存在なんじゃないかということ。
前半でリチャードの子どもは「ウェットバック(wetback)」と白人に罵倒され、これはメキシコ側からの不法入国者のことです。けれどもそんな白人だってメキシコ系の人たちが働いて支えられている企業や商品に依存している。冒頭のレストランでも、とにかくあちこちにそんな労働者がいる。
スナックの味を文字どおりのファミリービジネスのノリで家で開発し、売人たちにゲリラ・マーケティングを手伝ってもらう。「イニシアチブ」だとかそんな諸々のビジネス用語は知らないけど、ビジネスの最重要なポイントはそこじゃない。こういう元から持っているコミュニティやネットワーク。これが本当の自分の財産だったのでした。
廃棄される焦げたスナックを肌がブラウンなメキシコ系の人たちに重ね合わせ、それでも「俺たちあっての会社だ」とみんなを鼓舞するリチャードは、ひとつのアメリカの素の姿を確かに象徴していたと思います。
総論として『フレーミングホット!チートス物語』はとてもアメリカらしいビジネスものの映画で、繰り返しになってしまいますけど、こういうマイノリティ側が奮起するビジネス・ストーリーが日常的にあるのがアメリカ社会の強みですよね。よく考えると2023年に特大ヒットした『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』もイタリア系の底辺層が奮起するビジネス・ストーリーでしたし。
ビジネスは「やりがい」とか「根性」とか「社会人のマナー」とかで支えられるものではなく、「売り上げ」などが結果の全てでもない。日本だってこれは大切な視点のはずです。労働者や消費者を駒としてみずに、そこには各々のストーリーがあるのだと認識を変える。
小さな美味しいスナックひとつでも、そんなスパイシーな示唆を与えてくれます。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 67% Audience 90%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2023 20th Century Studios. All rights reserved.
以上、『フレーミングホット!チートス物語』の感想でした。
Flamin’ Hot (2023) [Japanese Review] 『フレーミングホット!チートス物語』考察・評価レビュー