シンプル・フェイバー
映画『シンプル・フェイバー』(シンプルフェイバー)の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:A Simple Favor 
製作国:アメリカ(2018年)
日本公開日:2019年3月8日
監督:ポール・フェイグ

あらすじ

ニューヨーク郊外に住むシングルマザーのステファニーは、息子同士が同じクラスという縁でエミリーと親しくなる。ステファニーとエミリーの2人は何もかも対照的だったが、お互いの秘密を打ち解けあうほど親密になっていく。そんなある日、エミリーが突然失踪してしまい…。

ネタバレなし感想

最新サバーバン・ノワール

アメリカが舞台の映画をよく観ている人なら、「アメリカの住宅地」と聞いてパッと頭に浮かべるものがあるはずです。緑あふれる土地に、1階もしくは2階建ての清楚な家が規則正しく並び、道路ととも網目上に住宅地を形成。その家々には同じように広々とした庭が備え付けられており、アメリカらしいデカイ車が余裕でとめられる駐車場所もあって、その庭では子どもが遊び、妻は園芸をし、夫は芝刈りでもしている。

これらのアメリカ特有の空間は「suburban(名詞は suburb)」と呼ばれます。日本語に翻訳すると「郊外」ですが、日本で言われる郊外とはかなり実態は違い、都市地理学的にもアメリカ史的にも興味深い概念です。

なぜなら「suburban」はアメリカ人にとって一種の理想のライフスペースだから。都市中心部のビルが立ち並ぶ中で狭い空間に押し込められて暮らすよりも、そこから少し離れた広い場所で自分の自由に使える空間を確保する。これをスタンダードとする考えは、いつしか白人中産階級のアメリカ人の基本となりました。

理想があればその裏には現実もあるのが宿命。他者から見れば綺麗そうに見えるアメリカの「suburban」でも、それは例外ではありません。一歩上手く進めば“裕福”、一歩下がれば“貧困”、そんなギリギリラインにいる中産階級なので、お隣といえども格差社会では常にライバル。相手より良く見せようと見栄を張るばかり。共同体意識を深めたかと思えば、異なる存在が侵入すれば排除も辞さない。同調と排斥のせめぎ合い。ゆえに「suburban」はアメリカの縮図でもあります。

そんな「suburban」で暮らすアメリカ人の姿をリアルもしくはオーバーなフィクションにして描いた映画は山ほどありますが、本作『シンプル・フェイバー』はその中でもインターネット時代の「サバーバン・ノワール」として新しい存在感を発揮する作品でした。

原作はダーシー・ベルが2017年に発表したミステリー小説「ささやかな頼み」で、新しめの作品ということもあり、現代のアメリカの「suburban」が強くそのまま表れています。ずいぶん素早い映画化だなと思ったら、出版前に映画化権が売られていたみたいですね。

内容は普通の郊外住宅地で暮らす子持ち女性二人を中心としたミステリー&ノワールで、主人公となる女性二人も非常に現代的な人物像です。昔ながらの「suburban」映画に登場する、夫を献身的に支える妻…というものではありません。

そして面白いのが本作の監督が“ポール・フェイグ”だということ。“ポール・フェイグ”監督といえば、ご存知の方は作風を知っていると思いますが、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』『デンジャラス・バディ』『SPY スパイ』『ゴーストバスターズ(女性版)』と結構コテコテのコメディ路線で活躍してきた人です。
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その“ポール・フェイグ”監督が『シンプル・フェイバー』というミステリー&ノワールをどう料理するのかと思ったのですが、ちゃんとお得意のコミカルな調味料を使って、絶妙に味付けしていて意外な才能を披露。この監督、こんな引き出しも持っていたのか…。

加えて、俳優陣も“ポール・フェイグ”監督らしからぬと言ったら失礼ですけど、雰囲気がガラッと変わる顔ぶれ。あの“アナ・ケンドリック”“ブレイク・ライヴリー”の共演です。これは喜ぶファンもいるんじゃないかなと。2人ともカリスマ性のある若手女優ですし、人気も高いですから。本作でも演技やファッションで観客をガッチリ魅了。個人的には『クレイジー・リッチ!』で輝いていた“ヘンリー・ゴールディング”がお相手役で出演しているのも嬉しいポイント。
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“ヘンリー・ゴールディング”は『シンプル・フェイバー』でもアジア系男性のステレオタイプを吹き飛ばすセクシーなキャラクターで登場しています。

ミステリーなので物語のネタバレには要注意。気になるならまっすぐ鑑賞へGOです。

オススメ度のチェック
ひとり◯(俳優・ミステリーファンなら)
友人◯(謎解きを楽しんで)
恋人◯(謎解きを楽しんで)
キッズ△(性的描写あり)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





ネタバレあり感想

駆け引きはすでに始まっている

“アナ・ケンドリック”と“ブレイク・ライヴリー”って、“アナ・ケンドリック”の方が2歳年上なんですね。これまでの出演映画を観ていると、“アナ・ケンドリック”はいつも子どもっぽい役で、反対に“ブレイク・ライヴリー”は大人っぽい役なので、年齢関係は実際と違って逆に見えます。

その二人の演技のケミストリーが大きなチャームポイントとなっている本作。

“アナ・ケンドリック”演じるステファニーと、“ブレイク・ライヴリー”演じるエミリー。二人は小学校に通う幼い息子を抱える母親であり、ステファニーはビデオブロガー、エミリーはアパレルのPRディレクターというかたちで自立しているという共通点があります。

それでも職業的な問題なのか、当人の性格の問題なのか、かなり対比できるくらいの雰囲気の違いはある二人です。そんな二人が子ども同士が友達という理由でめぐり合うという、日本のママ友でもありがちな光景。

小学校での二人の最初の出会いのシーンが印象的で、ステファニーは自分の息子以上に子どもっぽい恰好をしているのですけど、対するエミリーは高級車で雨の中、颯爽とメンズ風ファッションでスタイリッシュに登場。ステファニー、ぽか~ん。そのまま流れでエミリーの家へ行くことになり、そのリッチな住宅に、ステファニー、ぽか~ん。家に入れば居間に堂々と飾られている謎の攻めた官能的自画像に、ステファニー、ぽか~ん。エミリーの夫ショーンとこれまた熱々のキスする姿に、やっぱりぽか~ん。

同じ郊外住宅地に暮らすコミュニティの中の格差をハッキリ見せつけられます。

そんな二人が、本作のタイトルどおり「ちょっとした頼み事(a simple favor)」で急接近。親密な関係になり、互いの秘密をばらすまでの関係に。

しかし、ここですでに駆け引きは起きています。ステファニーは、エミリーの子どものニッキーの世話を任され、加えて例の「Brotherfucker」というかなりプライベートな秘密を打ち明けてしまっています。一方、エミリーの“3P”話は実はたいしたことでもなく、本当に一番の秘密は伏せられたまま

すでにステファニーはエミリーの掌の上です。この時点では。

シンプル・フェイバー

形勢逆転、ファッションも逆転

そして事件が発生。エミリーの突然の行方不明。

ここからショーンとともにエミリー捜索パートに移行しますが、このあたりはまだコミカル。職場先に潜入する際の受付の「Dennis Nylon, please hold.」のくだりといい、“ポール・フェイグ”監督お得意のしょうもないギャグも挟まれ、あんまり深刻さはないです。

しかし、ミシガン州の湖でエミリーらしき女性の遺体が発見され、入れ墨や指輪から本人と断定。葬儀が行われ、やっと暗い雰囲気になるのかなと思ったら、ステファニーとショーンはカラダ的な意味で深い関係に。ここで調子に乗ったステファニーは、“亡き”エミリーの大きなクローゼットからカクテルドレスをチョイスして着ますが着こなせていない感じが丸出し。これはまだステファニーはエミリーの掌の上ですよという暗示にも見えてくる演出。

そうこうしているうちに、エミリーが生きているのではないかという情報がチラホラあがってきます。ニッキーが母親を学校で見たとサラリと言い出し、エミリーの香水の匂いまでさせている…おかしい。

この死んだ女性がなんだか生きているような展開になってくる物語と言えば、古いものだとアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の『悪魔のような女』(1955年)や、最近だとデヴィッド・フィンチャー監督の『ゴーン・ガール』(2014年)があります。『シンプル・フェイバー』もその系譜ですが、ちゃんと“ポール・フェイグ”監督の作家性が飛び出しているのが面白いです。

その最たる例が、エミリーのクローゼットから服や靴等をノリノリで全て片づけて、引っ越してきたステファニーが自分の衣装を持ってクローゼットへ戻ると、捨てたはずのエミリーの持ち物が全て元通りに納まっているというシーン。これ、本作のオチを知っていると、何もここまで嫌がらせしなくてもという感じなんですが、この笑っていいのか怖がるべきなのかわからない境界線のバランスが、すっごく“ポール・フェイグ”監督っぽい。

でもやられっぱなしのステファニーではありません。地道な調査のかいもあって明らかになった真相。ビデオブログでエミリーを挑発する場面。ついにここで二人の立場が逆転。

結局、始まりのあの家に集った、ステファニー、エミリー、ショーン。ここでエミリーは花柄のガーリーな服装なのに対して、ステファニーは以前のエミリーのようにクールなスタイルで決めているのが、二人の立場の入れ替わりを象徴しています。

なので、もちろん駆け引きに勝つのはステファニーなわけで…。

とりあえずあの女たちは放置で

本作を観ていて思い出すのは最近鑑賞したばかりのアカデミー賞作品賞ノミネート作品『女王陛下のお気に入り』。
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こちらは18世紀初頭のイギリス王室が舞台、『シンプル・フェイバー』は現代のアメリカ郊外住宅地が舞台。でもやっていることは同じというシュールさ。

自立した大人の女性による、衝突理由が微妙にすれ違っているマウントのとりあい。本作でもステファニーとエミリーがそれぞれの武器で相手の足場を崩そうとするさまが特徴的。基本、エミリーは湖に沈めたり、スパナで自分の顔を傷つけたり、物理に頼ります。けれどもステファニーは、情報メディアを使いこなし、エミリーの真実を突き止め、ボタンカメラで証拠をおさえ、ちゃっかり自分のブログで稼ぐ。楽しそうですらあります。

また、男が完全に蚊帳の外というのも共通項。最後のショーンなんか、偽演技で銃で撃たれたふりをした後に、本物の銃で本当に撃たれるという、マヌケすぎる退場。イケメンでも、どうにもならんのですよ…。

そしてそんな女バトルを、小学校の他の子の保護者たちや、ステファニーとエミリーの子どもたちは、冷静に見ているのが、またおかしくて。

要するに、戦っている当人たちは真剣かもしれないけど、もしかしたらツラい過去とかあるのかもしれないけれど、客観的に見ればただの醜い殴り合いだからね…という視線。

重そうでそうでもない女バトルをつとめて軽く演出する良い味付けになっているフレンチ・ポップス。エンディングにも流れるFrance Gallの「Laisse tomber les filles」の歌詞のとおり、「女の子たちをほっておけば?」というのが結論でしょうか。

見ているだけでじゅうぶん。流れ弾には注意です。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 86% Audience 75%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

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↑『SPY スパイ』…同じく監督作。こちらはギャグ成分多め。女は戦い、男は空回りしているのは共通ですが。
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