パンデミック後も人生の劇は続く…ドラマシリーズ『ステーション・イレブン』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2021年~2022年)
シーズン1:2021年にU-NEXTで配信(日本)
原案:パトリック・サマーヴィル
性描写 恋愛描写
ステーション・イレブン
すてーしょんいれぶん
『ステーション・イレブン』あらすじ
『ステーション・イレブン』感想(ネタバレなし)
パンデミックの最中に撮られたパンデミック作品
2020年から世界に猛然と拡大した新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック。当初は「そんなに慌てることじゃない」と呑気な空気もありましたが、すぐさまロックダウンに急変し、経済活動はほぼ停止しました。医療現場は戦場と化す中(ドキュメンタリー『ニューヨーク 第1波』を参照)、私たちはまるでフィクションで散々見たようなポストアポカリプスとなった直後の世界をリアルで体験してしまったのでした。こんなことが本当に起きるなんて…と。
その初期の最中に映画やドラマの撮影が行われていたところは、当然一時中止を余儀なくされました。制作者にとっても未曽有の事態で、混乱だらけだったと思いますが、このドラマが置かれた状況はその中でもとくにイレギュラーだったでしょう。
そのドラマとは本作『ステーション・イレブン』です。
本作は2020年1月から撮影を開始していたのですが、コロナ禍で撮影はストップ。結局、2021年に撮影が再開されます。
『ステーション・イレブン』の他にはない事情というのは、本作がパンデミックを題材にしていたということです。本作は新型のウイルスのパンデミックが世界に拡大し、社会崩壊してしまった世界を舞台にしています。まさかそんな作品を撮っている最中に本当にリアルで同じことが起きてしまうなんて誰が予想するでしょうか。話としてはかなり出来過ぎなくらいですし、なんだか『トワイライト・ゾーン』みたいな世にも奇妙な“嘘みたいな本当に起こった物語”ですよ。
実際のパンデミックの最中に架空のパンデミックに関するドラマを撮影しないといけないという、一生に一度の貴重な経験をすることになった制作者や出演者はどんな気持ちだったんだろうな…。
でもきっと連帯感というか、この作品への熱意は増したのではないでしょうか。そしてそれは視聴者も同じで、このドラマの物語は架空のSFとは受け止められなくなり、より切実なリアリティとして人生に刺さるものになったと思います。
『ステーション・イレブン』には原作があって、“エミリー・セントジョンマンデル”によって2014年にかかれた小説です。この小説もコロナ禍で再び脚光を集めてヒットしました。
そのドラマシリーズ化となった『ステーション・イレブン』は現実との運命的なシンクロもあってか、批評家からは絶賛され、エミー賞でもノミネート。
企画原案はドラマ『マニアック』を手がけた“パトリック・サマーヴィル”。エピソード監督はドラマ『アトランタ』の“ヒロ・ムライ”、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の“ジェレミー・ポデスワ”、ドラマ『スノーピアサー』の“ヘレン・シェイヴァー”など。
俳優陣の演技の評価も高く、素晴らしいアンサンブルが見られます。主人公のひとりを演じるのは、『ターミネーター ニュー・フェイト』でめちゃくちゃカッコよかった“マッケンジー・デイヴィス”。今作でもパワフルな活躍をします。その子ども時代を『フローラとユリシーズ』の“マチルダ・ローラー”が熱演。
そしてもうひとりの主人公ポジションを演じるのが、『イエスタデイ』の“ヒメーシュ・パテル”。彼の演技も本当に良いので注目です。
他には、ドラマ『リッパー・ストリート』の“デヴィッド・ウィルモット”、ドラマ『HERE AND NOW ~家族のカタチ~』の“ダニエル・ゾヴァット”、ドラマ『インフォーマー/潜入スパイ』の“ナバーン・リズワン”、『Summer of 85』の“フィリッピーヌ・ベルジュ”、ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の“ロリ・ペティ”、『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』の“ダニエル・デッドワイラー”、ドラマ『マスターズ・オブ・セックス』の“ケイトリン・フィッツジェラルド”など。
ただ、ひとつ注意なのがドラマ『ステーション・イレブン』の物語は非直線的だということ。時間順に展開しません。人間模様などもあえて曖昧な要素を残しつつ、スローペースで進み、最後にカチっとハマっていく感じです。なので最初は「なんかよくわからないな…」となると思うのですけど、根気よく最後まで鑑賞すればエモーショナルなフィナーレが待っています。
なお、パンデミック真っ只中の混乱を描写するシーンは全体を通しては少なめで、物語の半分以上はパンデミックから20年後の世界を描いています(医学的な描写はほぼ無し)。感染症で苦しむ描写は見たくないなと思う人もいるでしょうけど、それくらいのボリュームだと思ってください。
物語自体は前半はパニック・スリラー的に思えますが、実際のテーマは「いかに困難なときに人間は団結できるか」「苦しいときこそ芸術には価値がある」という文明賛歌になっていますので、これからのコロナ禍以降を生きる私たちの希望になるドラマではないでしょうか。
ドラマ『ステーション・イレブン』は全10話(1話あたり約45~60分)。ミニシリーズなのでこのワンシーズンだけです。アメリカ本国では「HBO Max」で、日本では「U-NEXT」で独占配信中となっています。
『ステーション・イレブン』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :感動的な物語を味わえる |
友人 | :題材に関心ある者同士で |
恋人 | :ロマンス要素は少なめ |
キッズ | :やや残酷な描写あり |
『ステーション・イレブン』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):世界は終わる?
「リア王」の上演が行われています。しかし、演じていた主演のアーサー・リアンダーはセリフの途中で急に苦しみだします。あれは演技かとややざわつく中、客席にいたジーヴァンはすぐに心臓発作だと見抜き、舞台へと駆け付けます。でもアーサーは倒れ、急遽、幕は降り、騒然となり…。
「なぜ蘇生方法を知らないのに舞台にあがったんだ?」と警察に質問されるジーヴァン。「僕はただの観客です」とその場を後にしますが、横で立っていた役者と思われる子を心配して話しかけます。キルステンという名の8歳の子どもだそうです。「アーサーは死んじゃったの?」と聞かれ、「一番好きなことをしているときに死んだのだから良いんじゃないかな」と答えます。
恋人のローラにテキストを送りつつ、劇場を後にしようとするジーヴァン。ところがキルステンが誰も迎えに来ず困っているようだったので、駅まで送ることにします。
「僕はジーヴァン・チャウダリ」「キルステン・レイモンド」…握手した2人は知り合いになりました。
電車に乗る2人。ジーヴァンのもとに妹シアから電話があり、「例のインフル、知っている? ヨーロッパのやつ」と言われます。医療従事者のシアはERに呼び出されて忙しいらしく、「こんなインフルエンザ見たことない…」と呟きます。「ニュースで言っていることは何も信じないで。街はもうおしまい。ウイルスに晒されているのに皆何も知らずに歩き回っている。他人との接触は避けて。フランクと2人で閉じこもるの」と矢継ぎ早に告げ、理解できないジーヴァンに「これしか生き残る道はない」と言って電話を切りました。
電車内で途方に暮れ、ジーヴァンは茫然と電車を降り、ふらつきます。
結局、キルステンは家の鍵を持っておらず、ジーヴァンの買い物に同行。投げやりな態度のジーヴァンに「どうするか決めてくれ」と言われ、「うちに帰る」と一旦はキルステンは口にするも、ジーヴァンはフランクの家に泊めようと考えを変えます。
大量に連なった買い物カートを押し、ジーヴァンの兄であるピューリッツァー賞を受賞した経歴を持つフランクのマンションの部屋へ。「世界は終わる!」とパニック気味に話すジーヴァンでしたが、窓を見ると目の前で大型旅客機が墜落する光景が…。
80日後。ジーヴァンとキルステンは外にでます。凍え切った世界、除雪する人もいない街を歩き出し…。
20年後。大人になったキルステンが「ステーション・イレブン」の本を取り出し、リハーサルに向かいます。これまで、そしてこれから、一体どんな人生を辿るのか…。
創作が悲劇を乗り越える糧になる
『ステーション・イレブン』は非直線的な話運びゆえにとにかく初見では疑問だらけになるストーリーです。「なんで2年後にはキルステンはジーヴァンと一緒じゃないの? そんなすぐに死んじゃったの?」「フランクとなんで出発しなかったの?」「預言者って何?」「“ステーション・イレブン”の本にどんな意味が?」…と謎が立て続けに積み重なっていきます。まあ、だいたい最終的にはスッキリするのですが…。
その細かい人間模様の真相はさておき、本作を観て、印象に残るというか、物語の根幹にあるテーマが「芸術や文化の存在価値」です。
本作は「リア王」の上演中にリア王役の俳優が本当に死ぬというかなり皮肉な始まりです。「リア王」の物語を知っている人はわかるのですが、一瞬このドラマもそれをなぞるような展開になるのかなと予感させます。「リア王」はブリテンの老王リアとその3人の娘の悲劇譚です。本作のアーサーには娘はいませんが、最初の妻であるミランダ、2番目の妻であるエリザベス、娘同然に傍に置いているキルステンがおり、この3人の女性を繋ぐのが「創作への想い」です。
20年後のキルステンはサラをリーダーとする「トラベリング・シンフォニー」という楽団に所属しており、そこはシェイクスピアを専門に演劇をして各地を練り歩いています。社会崩壊をしてしまった世界で演劇が人々の癒しとなっている…これだけでもアツいものがありますが、同じことをしているのは彼女たちだけではありませんでした。
アーサーの友人であるクラークと、アーサーの妻であるエリザベス、エリザベスの息子であるタイラーはパンデミック初日に空港で隔離され、ここを拠点に生活することにします。そして俳優人生を見失っていたクラークは「文明博物館」を作ることで、文化との関わりに執念を燃やします。
一方、タイラーはそんな大人に嫌気が差し、死を偽装して家出。大人になり、預言者として子どもたちを従えるカルトと化していたわけですが、そこでも「ステーション・イレブン」という本が導きとなっていました。
創作などの文化が人々に良い作用を働くこともあれば、悪い作用をもたらすこともある。その両面を描きつつ、対立する中で、最後は「ハムレット」の演劇でバラバラになった集団がまた団結する。ここで「ハムレット」をチョイスしているのがまた良くて、「ハムレット」もまたシェイクスピアの著名な悲劇ですが、作中のような復讐を現実では踏みとどまる。それはパンデミックという死の悲劇を経験した私たちがどうやってまた生の充実感を取り戻すかという話とも重なるんじゃないでしょうか。
あなたは観客ではなく登場人物になれる
『ステーション・イレブン』の主人公としては、キルステンは壮絶な人生を背負いながらもサバイバルして未来の子どもを導く存在として見事なリーダーシップを発揮している魅力的なキャラクターです。
個人的には“ヒメーシュ・パテル”演じるジーヴァンがすごく良かったと思います。彼は第一印象的ではとても頼りないというか、優柔不断というか、弱々しく臆病というか、とにかく主人公っぽくない奴です。その内側には「自分は主人公なんかじゃない。しょせんは観客だ」という卑屈な姿勢が見え隠れし、それは第1話の冒頭のアーサーに駆け寄った場面でも示唆されています。
でも根は優しく、まだ子どものキルステンを放置できず、面倒を見ます。けれども成功者である(けど問題を抱えている)フランクと対立してしまい、あげくにフランクは侵入者に殺される…。その失敗体験は彼をさらに劣等感に突き落とし、キルステンとのギクシャクした喧嘩に繋がり…。
徹底して自己評価の低いジーヴァンなのですが、妊婦が集まる場で出産を助けるようになり、社会に貢献できることを見い出していきます。
最終話は視聴者の待ちに待ったキルステンとジーヴァンの再会という感動のシーンがついに描かれますが、互いの成長あってこその感慨深さがありますね。この2人の関係性は原作からかなり改変されて深みが増しているそうで、良い脚色でした。
『ステーション・イレブン』全体としては要所要所で雑なところもあり、何よりタイラーの結末はさすがに安易に赦されすぎな気もします(子どもを地雷持たせて自爆テロしているんですからね)。アレクサンドラ(アレックス)とキルステンのエピソードももうちょっと深堀してほしかったかな。クラークについてはもっと恋人となるマイルズの影響力を増やして立ち直らせる展開もありだったのではと思うし…。
あと全然話は変わるけど、出産シーンであそこを映すのはノーモザイクでいいんだなと思ったり…。
家族をハリケーンで亡くしたミランダの自費出版の創作であるグラフィック・ノベル「ステーション・イレブン」が未来へと繋がっていく。そんなささやかな創作物でも意味はある。コロナ禍以降の社会はもっとクリエイティブを大切にする世の中になってほしいものです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 98% Audience 74%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
関連作品紹介
パンデミックに関するドキュメンタリーの感想記事です。
・『アンソニー・ファウチ パンデミックとの闘い』
作品ポスター・画像 (C)HBO ステーションイレブン
以上、『ステーション・イレブン』の感想でした。
Station Eleven (2021) [Japanese Review] 『ステーション・イレブン』考察・評価レビュー