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『スパイ in デンジャー』感想(ネタバレ)…ウィル・スミス、今度はハトになる!

スパイ in デンジャー

ウィル・スミス、今度はハトになる!…映画『スパイ in デンジャー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Spies in Disguise
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年にDisney+で配信
監督:トロイ・クアン、ニック・ブルーノ

スパイ in デンジャー

すぱいいんでんじゃー
スパイ in デンジャー

『スパイ in デンジャー』あらすじ

どんな危険なミッションもクールにこなすスパイのランス・スターリングは、ある任務で押収した最新鋭の武器を横流ししたという汚名を着せられ、所属する情報局から追われることになってしまう。追っ手から逃れるために、平和を愛する少しドジな天才発明家ウォルターが開発した薬を誤って飲んでしまい、気が付くとハトの姿に変身してしまっていた…。

『スパイ in デンジャー』感想(ネタバレなし)

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「Disney+」の見逃せない一作

スパイに向いている動物は何でしょうか。

世界中どこにでもいて、全く警戒されることもなく、日常に溶け込んでも違和感のない生き物。それでいて機動力があって、あちこちに移動できる能力を持っている、そんな生き物。

それは「ハト」です。

冗談抜きでハトはスパイ業界でも活用されているらしく、伝書鳩として現役で仕事しているのだとか。確かに停電したりしても、インターネットがハッキングされたりしても、パンデミックが起きたりしても、へっちゃらの万能な連絡手段です。私たち人間は古代からハトを象徴的な存在として扱ってきましたから、なんだかんだで付き合いが長いですね。まあ、あまりに数が多すぎると害獣になってしまうのですが…。

今回の紹介する映画はハトが大活躍する作品です。いや、ハトが主役の映画ですよ。

それが本作『スパイ in デンジャー』。原題は「Spies in Disguise」で邦題とはよく見ると違います。「disguise」は「変装」という意味ですね。日本人には認知されていない単語だから変えたのでしょうけど、全く似て非なるタイトルになったな…。

2009年の「Pigeon: Impossible」という短編アニメを長編映画化したもので、そちらの元の短編タイトルの方が本作の中身を言い表している気がします。作品のコンセプトはこれひとつ。「ハトになってしまったスパイ」のお話です。ハトはスパイ活動にも貢献してきたけれど、人間がハトになるとなれば、さあ大変…というドタバタ劇。

しかも、この長編映画版の『スパイ in デンジャー』ではさらに明確なトッピングは追加されており、それは主役のキャラ(ハト)の声を演じるのは“ウィル・スミス”だということ。人間時の姿もまんま“ウィル・スミス”であり、ひたすらに“ウィル・スミス”芸を堪能する作品だと言っても過言ではない…。この人はやっぱりこういうコメディには抜群に向いていますね。

他の声優陣だと、“ウィル・スミス”演じる主人公(ハト)の相棒キャラを“トム・ホランド”が担当。「スパイダーマン」と同じまたも理系でギークなキャラクターです(本人はそんなにオタク感ないんですけどね)。さらに、『クロース』の“ラシダ・ジョーンズ”、『キャプテン・マーベル』の“ベン・メンデルソーン”、ドラマ『HEROES』で顔が知られる“マシ・オカ”など。

ちなみに吹替もありますし、子どもとの鑑賞ならそっちの方が良いと思いますが、オリジナル音声が聴ける字幕版もオススメ。なぜなら結構な頻度で日本語が飛び出すからです。しかも、岩手県民の皆さん、喜んでください、故郷にスポットがあたりますよ。

そんな『スパイ in デンジャー』を制作したのは、『アイス・エイジ』シリーズでおなじみの「ブルースカイ・スタジオ」です。20世紀フォックスの傘下にあったのですが、ディズニーが20世紀フォックスを買収したので、ディズニー傘下になりました。ただ、この「ブルースカイ・スタジオ」はもともとディズニー映画『トロン』の製作に参加したスタッフによって設立されたので、周り回って古巣に帰ってきた感じですね。

監督は“トロイ・クアン”“ニック・ブルーノ”のこれが監督デビュー作となるコンビ。

日本では『スパイ in デンジャー』は劇場公開予定だったものの、コロナ禍によって中止となり、2020年7月10日に「Disney+」で独占配信されることになりました。こうやってどんどんオリジナル作品が追加されていくのか…もう利用している人は嬉しいでしょうし、利用していない人は気になってきますよね(ドコモのスマホの新プランを利用している人は「Disney+」が1年間無料になるキャンペーンを活用できるので試してみては?)。

そういう経緯もあってあまり注目されていないかもしれませんが、子どもでも大人でも楽しめる間口の広い作品になっているのでぜひ時間があるときは鑑賞してみてください。ほんと、しょうもないギャグの連発から、手に汗握る王道のスパイガジェットを駆使したアクションまで、選り取り見取りなエンターテイメントになっていますから。

ハトが大っ嫌いだという人以外は満足できる…はず。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(暇つぶしにはちょうどいい)
友人 ◯(気楽に笑って楽しむなら)
恋人 ◯(誰でも満足なエンタメ)
キッズ ◎(子どももゲラゲラ笑える)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『スパイ in デンジャー』感想(ネタバレあり)

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始まりは岩手県…

ウォルター少年は、家でガジェット作りに熱中していました。警官である母にそれを自慢します。母の携帯を分解してキラキラなラメを大量に放出する装置を作り、これでみんなハッピーだと自信たっぷり。そんな無邪気な我が子を母は優しく肯定します。

母は警官の仕事が入り、「いい子でね」と出かけますが、その去り際に、学校で変人と言われることに悩むウォルターに対して「あなたの発明が世界を救う」と言葉をかけて…。

14年後。日本の岩手県。冬の雪積もる山間部に立つ謎のお城みたいなところ(どこですか?)。
外を見張っていたスーツ男に「コンニチワ」と近づく長身の男ひとり。一瞬で銃を持ったスーツ男二人を撃退してみせました。

彼はランス・スターリング。諜報組織「H.T.U.V」に所属するスパイエージェントであり、その実力は折り紙つき。今日は武器商人であるカツ・キムラが取引している最新鋭の自立型攻撃ドローンを奪取するべく、派遣されたのでした。

大勢の敵に囲まれたとサポートの本部が伝えてきて、応援を待つように指示してきますが、ベテランのランスはひとりでやる気満々。アガる曲をかけ、水槽から華麗に登場。並みいる敵を鮮やかに圧倒していきます。カツ・キムラも「シンデモワタサン」と凄みを見せてきますが、一発で撃破しました。

しかし、そこに出現したのは左腕がメカの男、キリアン。ただものじゃない雰囲気で、「覚えてないのか」とメカニックアームで掴みかかって言ってきますが、身に覚えがないランス。そうこうしているうちにカタナ集団が大挙して押し寄せてきて、「テカゲンスルナ」と言い残してキリアンはドローンの入ったブリーフケースを持って逃走。

ランスはガジェットを駆使して無数の敵を翻弄。ところがグレネードだと思ったものが予期せぬ効果を発動。なんだかキラキラのラメとともに可愛い猫の映像が空中に出現し、みんなうっとり。ふと我に返り、爆風で飛びあがってキリアンの乗るヘリにダイレクト侵入。ブリーフケースを鮮やかに奪い去り、ランスの任務は完了です。

本部に帰ってくるランス。みんなの人気者で口々に歓迎されます。そして、ランスはウォルター・ベケットというガジェット開発者のもとへ直行。勝手に武器をいじったことに怒ります。しかし、ウォルターは暴力的じゃない友好的な発明がしたいらしく、二人でなら世界を変えられると言ってきますが、ランスは容赦なくクビ宣告。

上司にブリーフケースを渡してひと仕事終えた気分のランス。ところが、その中身は空でした。しかも、マーシーという内務の諜報部エージェントはアイズとイアーズという仲間を連れてきて割って入り、あのドローンはランスが盗んだと名指ししてきます。彼女が示した東京の監視カメラには確かにランスがドローンを操っているのがバッチリ映っていました。

一転してピンチになったランス。身に覚えのない疑惑に混乱しながら、捕まるわけにはいかないと、本部を逃走することにします。

頼れる者がいないランスはひとつ藁にも縋る思いでウォルターに賭けることにしました。さっき「消える」発明をしたと言っていたので、それで自分も行方をくらませられるかもしれない…。

一方、ウォルターは家で実験を継続中。自分のペットのハトの羽を使って秘密の隠蔽効果のある飲み物を生成することに成功。そこにランスがやってきて、その生成したばかりの液体を普通の水だと思って飲んでしまいました。

そして…ハトになりました

これは確かに世間からは認知されなくなったけど…。マーシーたち追っ手が迫る中、半ばその場のノリで逃げるしかないウォルターとハト(ランス)。加えてキリアンはランスに化けてやりたい放題の悪事を働き、秘密のデータまで強奪されてしまうことに。ハトから人間に戻る解毒剤を作るのには時間がかかる。

一体このハトに何ができるのか…。

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ハト男の恐怖

『スパイ in デンジャー』は物語自体はオーソドックスなスパイアクションであり、起承転結もシンプルで、そこまでのオリジナリティもありません。ただひとつの例外を除いては…。

それが「ハトに変身する」ことであり、このアイディアをもって一点突破でぶつかっていってます。だからこそ『007』や『ミッションインポッシブル』など既存の有名スパイ映画のパロディに終わらず、独自の面白さを提供できているわけで。

そのために本作は徹底して「ハトに変身する」という現象の面白さをアニメーションで表現することに専念しており、そこにアニメーターとしての才能が注ぎ込まれていて楽しいです。ハトに変身して以降は映像がグッとエンタメ度を増します。

まず、ランスがハトに変身するという最初のシーン。ここは『ハエ男の恐怖』にも通じるような、人間は他の生物に変身することのおぞましさをあえて誇張した感じになっており、愉快かつキモイ。鳥肌がぶつぶつできたり、手が小さくなったり、しまいにあの極めて“ウィル・スミス”なランスの顔が、目玉がぐいっと互いにあらぬ方向を向いて変形し、これを実写でやったらさぞかし吐き気のする恐怖シーンになっただろうな、と。アニメだから許せる荒業。ウォルターもDNAがまさに変化している!と煽ってくるし…。

このドラッギーなハト変身シーンの後、いよいよハトになってからは一気にミニマムなコミカルさが際立ちます。車のフロントガラスを登れないだとか、トイレにパニックを起こすとか…。このへんはもうさすが“ウィル・スミス”というギャグスタイルです。

ハトは私たちも身近で知っている動物なので、「わかるわかる」と頷けるハトっぽい行動で余計に楽しいのですよね。落ちている食べ物につられてがっついてしまうところとか、絶妙に狂った絵を見せてくれるのがたまらなく最高。人間に戻ったときも頭をハトっぽく動かしたり、クセが抜けていないあたりもシュール。

今作では“ウィル・スミス”恒例とも言える親子要素はないのですが(ウォルターとの関係はそうだとも言えるけど)、まさかの卵を生むという展開がありましたね。“ウィル・スミス”も卵を生む時代になったか…(どんな時代だ)。

またランスだけでなく、メキシコで仲間になってついてくるハトの一団も個性豊か。というか、あれはものすご~く「ブルースカイ・スタジオ」っぽいなと思います。このスタジオは動物を主役にした作品が多く、中でもその対象動物から逸脱したようなもはや珍妙生物と言えるキャラを出すことがよくあります。本作のあのハトたちも完全にハトの姿をしたハトではない何かでした。

まあ、私はああいうしょうもないギャグが好きなので、本作で一番に満喫してしまいましたけどね。ちゃんとハトという生き物の何を考えているのかわからない不気味さを表現していて、あれはあれでハトらしさはありましたが。ただ、あまり街中では出会いたくない…。

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デロデロは平和的ですか?

『スパイ in デンジャー』はハトに全力投入している一作ですが、それ以外のツボも押さえているので、全体としてのクオリティもじゅうぶん満足のいくものでした。

ハト以外のギャグだと、なぜかは知らないですけどアジア系ネタが多かったですね。冒頭から続く日本ネタはもちろん、終盤でも炸裂する韓国テレビドラマのパロディとか。ちなみにあのシーン、ちゃんと韓国の声優に吹き替えさせているようです。ただ、これ、吹き替え版になるとギャグが伝わりづらいですよね。韓国語版はどうなっているんだろう…。

あとはガジェットのアクション。面白メカが登場すればだいたい賑やかになるものですが、今回はウォルターの開発した“フレンドリー”な平和兵器という主軸があるので、まとまりがあります。当然、それはハトが平和の象徴でもあるということと重なっているのですが。

しかし、実際の絵面的に「これは平和なのか…?」というものも多数あり、そこもチグハグでおかしいです。あの人間の体をデロデロにする武器は普通にトラウマ級のショッキングですし、ピンクのゲロ攻撃とか、汚いものが目立つし…。
あと、これは意図しているのかどうかは知らないですが、猫をメロメロにするアイコンとして登場させていますけど、ハトにとって猫は天敵なんですよね。そこもギャグにしてくれると良かったのだけど…。

個人的な不満点としてはもう少し敵側の設定を盛り込んでほしかったなと思いました。無数のドローンで攻撃する絵は見飽きましたし、いっそのことハトに対抗してカラスを駆使した妨害工作とか、いろいろな変化球は考えられただろうに…。中盤でパンくずを利用してハトの群れを駆使したので、最後もハトの大群でドローンを圧倒するのかと期待したのだけどなぁ…。

ランスがハトになって空を飛べるようになるというカタルシスのある終盤展開も、もっと中盤で空を飛ぶためのトレーニングをロジックをもってやっていれば、その過程の積み重ねでより感動が増したのではないかなとかも。

やはりラストに近づくにつれ、予定調和な展開の収束を見せるので、ここはひとつ、世界中の人がハトになってしまうとか、そんなクレイジーな絵でも見せつけてくれても私は一向に良かったのですけどね。

なんにせよハトありきのアイディアでここまで面白くしてくれたらじゅうぶん満足です。『スパイ in デンジャー』はディズニー傘下になったことで続編展開は厳しそうですが(そもそも20世紀フォックスの時点でもシリーズ化は厳しかったと思いますが)、もうちょっとあのハトたちのドタバタ劇を見ていたい気もします。

今度、外でハトを見かけた時は“ウィル・スミス”かもしれないと思いながら眺めることにしよう…。

『スパイ in デンジャー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 75% Audience 92%
IMDb
6.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2020 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.  スパイ・ イン・デンジャー

以上、『スパイ in デンジャー』の感想でした。

Spies in Disguise (2019) [Japanese Review] 『スパイ in デンジャー』考察・評価レビュー