”猫”化しながら…映画『ライオン・キング ムファサ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年12月20日
監督:バリー・ジェンキンス
恋愛描写
らいおんきんぐむふぁさ
『ライオン・キング:ムファサ』物語 簡単紹介
『ライオン・キング:ムファサ』感想(ネタバレなし)
冬にライオン…?
2024年の冬は例年よりも寒い気がする…。地域によっては豪雪でうんざりさせられているところも。それなのに…私は映画館でなぜか雪山を駆けまわるアフリカのライオンを観ている…。どういうことなんだ…。脳がバグりそうだよ…。
ということで『ライオン・キング:ムファサ』の感想です。
ディズニーの名作アニメーション映画である『ライオン・キング』。ざっくり言えば、シェイクスピア風にライオン社会の権力移行を描き、それをダイナミックな音楽と映像でディズニーらしく構築した物語でした。そのアニメ映画が2019年に実写化…いいえ、厳密には実写を模倣したフルCGアニメーション映画。ディズニーは「超実写版」という謎の用語を宣伝で掲げていましたが…。
そのフルCG『ライオン・キング』も大ヒットし、当時としてはアニメーション映画でダントツの興行収入を記録しました。
それだけヒットすれば当然のように続編も検討され、2024年に2作目となるこの『ライオン・キング:ムファサ』のお目見えとなりました。
しかし、びっくりしたのが監督です。前作は実写映画『ジャングル・ブック』でフルCG撮影スタイルを確立させた“ジョン・ファブロー”が率いていたのですが、この『ライオン・キング:ムファサ』で監督に抜擢されたのは、あの“バリー・ジェンキンス”ですよ。
2016年に『ムーンライト』で米アカデミー賞の作品賞を始め、批評家から絶賛を獲得し、その後も『ビール・ストリートの恋人たち』といった映画から、『地下鉄道 自由への旅路』といったドラマまで素晴らしい良作を生み出してきたあの名監督。
“バリー・ジェンキンス”がブロックバスターを手がけるの!?…と驚くのも無理ない話ですが、まさかアフリカが舞台だから黒人の“バリー・ジェンキンス”に声をかけたのかと安直さを心配しそうになりますが…どうやら本人も最初は躊躇っていたようです。しかし、脚本を読んで「やってみようか!」という気になったのだとか。まあ、何事も挑戦か…。でも“バリー・ジェンキンス”も実はなかなかにオタク気質らしく、『スター・ウォーズ』にも熱狂していた若き時代があったことをドキュメンタリー『ライト&マジック』でも語っていましたし、元のアニメ映画『ライオン・キング』も大好きなようですしね…。
今作『ライオン・キング:ムファサ』はさすがに“バリー・ジェンキンス”監督らしさを濃密にだすことは厳しかったでしょうが、この監督の好きそうな成分は感じとれます。
物語は続編であり、前作の続きから描かれるのですが、過去を語るというかたちで、実質的には前日譚となっています。そこで主役となるのがタイトルにあるとおりの、前作の主人公のシンバの父であるムファサ。このムファサが子どもの時代からやがて王に君臨するまでのストーリーです。
オリジナルのアニメのほうでは、『ライオン・キング2 シンバズ・プライド』や『ライオン・ガード』といった作品で物語の続きが描かれているのですが、それらをフルCG化したわけではありません。ただし、それらの作品の一部から影響を受けており、それらに登場した同名のキャラクターもでてきます。なので関連作を観ているファンには嬉しいサービスも…。
私なりにアピールポイントを言うなら、この(ディズニーの言葉をそのまま借りれば)“超実写版”の最たるターゲットは「猫好きな人」だと思います。やはりフルCGでリアルになったことでものすっごく「猫」になったわけです。子どもでも楽しめるように野蛮さを抑え気味にしているので余計に「猫」です。今回の『ライオン・キング:ムファサ』も猫猫してます。
寒い冬は猫(ライオン)を観て、和んでおきましょう。
『ライオン・キング:ムファサ』を観る前のQ&A
A:2019年の実写風のCG映画『ライオン・キング』1作目を鑑賞しておくと良いです。物語は続きから始まります。
鑑賞の案内チェック
基本 | — |
キッズ | 子どもでも安心して楽しめます。 |
『ライオン・キング:ムファサ』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
プライドランドで王としてこの大地を見守るライオンのシンバ。以前の王であった父のムファサはスカーに殺されてしまい、スカーが一時的に王の座を奪うも、シンバが仇を討って取り返したのでした。
今のシンバとナラの間にはキアラという名の子どもがおり、ナラは2匹目の子を産むためにゆっくりできるオアシスで休んでいました。シンバも傍にいてあげることにします。
そこでシンバの知り合いであるミーアキャットのティモンとイボイノシシのプンバァがキアラの面倒をみることに。お調子者の2匹はスカーを倒した話を勝手に盛って語りだしますが、猿のラフィキがやってきて、キアラにシンバがキアラと同じ年齢だった頃の話をします。
そして、さらにキアラにとっては祖父であるムファサの若い頃の話を語るのでした。
子どもだったムファサは父と母の間で愛情を受けて健やかに育っていました。ある日、恵みの雨が降ります。乾いた大地を潤し、多くの野生動物は水辺に集まります。
ところが水量が一気に増大し、ムファサは水流に流されてしまいます。父はムファサを陸へ投げ飛ばしてくれるも、激流に父は消え、母も流されてしまい…。ムファサの小さい体も水中を漂い、なんとか流木にしがみついて事なきを得ます。しかし、両親はどこにもいません。
ムファサは川をずっと流されて、弱りきったまま見知らぬ土地に辿り着きました。そこへ偶然に通りかかって助けてくれたのが、同じ子ライオンのタカ。もう少しでワニに襲われそうになって必死に岸の小さな崖にしがみついたところを、タカが手を差しだしてくれたのです。
他に行き場もなく、エシェとオバジの息子であるタカのもとで過ごすことになります。オバジはこの一帯を王として治めており、部外者を歓迎することに懐疑的でした。
しかし、ムファサは同年代のタカとすっかり仲良くなり、義兄弟として絆を深めていきました。
こうしてムファサとタカは青年へとたくましく育ちました。
いつもの日のこと。エシェがムファサに狩りを教えていると、2頭の白いライオンがこの地を襲撃し、ムファサとエシェを襲います。なんとか追い払いますが、状況は緊迫することになりました。タカは襲撃を目撃しても恐怖で何もできず、父親は失望を露わにします。反対に養母を守ったムファサを評価します。
その襲った白いライオンはアウトサイダーと呼ばれる群れを作っており、そのリーダーのキロスは同類にも情け容赦ないライオンでした。虎視眈々とオバジの土地に狙いを定め、牙をむけてくることに…。
ムファサとタカは生き残れるのか…。
兄弟愛は大自然の生存戦術
ここから『ライオン・キング:ムファサ』のネタバレありの感想本文です。
『ライオン・キング:ムファサ』はムファサとタカ(後のスカー)の兄弟の絆と決裂をテーマにしています。「今は敵対している二者が実は昔は親友だった」という俗に「Evil Former Friend」と呼ばれてるお約束(トロープ)の設定です。ムファサとタカは血縁関係はないですが、友情を超えて兄弟愛を形成しているので、実質は兄弟です。なんかつい最近もライオンがでてきて兄弟の絆が試される映画を観た気がするな…(あっちはライオンに襲われてた人間だけど)。
前作の感想でも映画のライオンの行動と実際のライオンの生態を比較して案外と現実に則しているところがあるという説明しましたが、今回の2作目はより実際のライオンに近くなっていたのではないかなと思います。とくにまさに兄弟愛の部分ですね。
ライオンは「プライド」と呼ばれる群れを作る社会性のある動物ですが、雄のライオンは生まれてある程度成長すると(3歳ぐらいで)その群れを離れて放浪することになります。そして雄ライオンにとっての最大の天敵は(人間を除けば)雄ライオンです。雄ライオンは同じ雄ライオンに排他的で、殺すこともあります。そこで雄ライオンの最大の味方となるのがまたしても雄ライオンで、信頼し合える雄ライオンと同盟のような関係を結びます(この雄ライオンだけの群れを「coalitions」と呼びます)。同盟を結ぶ相手は血縁のある兄弟はもちろんのこと、血縁のない同年代であることもあり、その頭数も6頭ぐらいまで拡大することもあります。こうした雄同士の群れを作ることは生存に有利です。
以上を踏まえると、本作『ライオン・キング:ムファサ』の物語はライオンの生態に忠実です。他の雄ライオンに群れを襲われ、放浪することになったムファサとタカが同盟的に協力するわけですから。
作中ではムファサとタカは道中で出会った雌ライオンのサラビをめぐって三角関係的な横恋慕に発展し、それが兄弟の亀裂の引き金になります。
これも実際のライオンでは普通に起きうる光景であり、同盟関係であっても雄同士の雌をめぐる小競り合いは発生します。
前作は主人公の雄ライオンが群れを離れるもまた同じ群れに戻ってくるという全体の流れがあり、それはあまり現実のライオンっぽくなかったのですが、今回の全体の流れはライオンの生態そのもので、フィクションに上手くリアルを反映していたと思います。
しかも、今回はあまり他の動物が絡まずにライオンを中心に物語が進んでいくので(若いザズーやラフィキが合流するけど)、ライオンの生態に特化しやすかったのでしょう。
この兄弟間の複雑な心情をともなう対立のドラマは“バリー・ジェンキンス”監督も好きそうですよね。今作ではわざわざ幼少期と青年期それぞれで1作目のあの「スカーによるムファサの死のシーン」を彷彿とさせる演出(落ちそうになって捕まっている前足に片方が前足をガッと重ねる行動)を幾度と盛り込み、この2頭の悲しい運命を暗示するのですが、正直、どこかで平和に2頭が群れを一緒に作る世界線に進んでほしい気持ちにもなる…。
ムファサのオリジナル英語の声を演じた『レベル・リッジ』の“アーロン・ピエール”と、『シュヴァリエ』の“ケルヴィン・ハリソン・Jr”の組み合わせも良かったです。
声に悶え、にゃんプロに癒される
逆に『ライオン・キング:ムファサ』で現実のライオンの生態と比べて全然リアルじゃないところもいくらでもあります。相変わらず百獣の王として全ての野生動物から畏怖されているのは実際はあり得ないですし(仲間同士で殺し合って変な奴らだなと思われてそう…)、本作で一番に浮き立っているのはやはりアウトサイダーというホワイトライオンの群れですね。
ホワイトライオンだけで群れを作るというのはライオンの生態というよりは完全に人間社会の投影であり、異端同士の集団化です。そのせいかあのアウトサイダーは人間的な行動原則が目立ちます。群れ内の軟弱者を仲間同士で排除し、仲間の犠牲にも躊躇ないですし…。
しかし、それどころではなかった…。何がって、リーダーのキロスの声が“マッツ・ミケルセン”で魅惑的すぎた…。しかも、今回は歌ってくれる。“マッツ・ミケルセン”のファンにはヨダレが止まらないですよ。
まあ、リアルじゃないとかは別に欠点ではないのです。むしろ『ライオン・キング:ムファサ』の弱点だなと思うのは前作と同じ根幹部分です。フォトリアルにするという表現とライオンの絶妙な相性の悪さですね。
やっぱりライオンというのはその生態からしてどうしたって血生臭い野蛮さからは避けられない生き物ですが、本作は子ども向けなのでそんな表現はできません。そこで映画ではフィールドと見た目はものすごくリアルにしつつ、動物自体の行動は抑えて描くという相反する方向性を同時に選択しています。
結果、このシリーズのライオンは妙に「猫」になってるんですね。ライオンじゃなくて、猫。
終盤の殺すか殺されるかの緊迫の争いだって、映像的には猫の喧嘩ですよ。「あら~、“にゃんプロ”しちゃってるの。よしよし」みたいなお気楽な感じで眺めていられます。戦っているうちにシリーズおなじみのお立ち台であるプライドロックが完成するのはちょっと笑ってしまった…。
今回で楽曲を担当した“リン=マニュエル・ミランダ”でも、オリジナルの音楽の壮大さには敵わなかったかな…。
「サークル・オブ・ライフ」に順じてこのシリーズはまだ継続するなら、次は本格的にシンバとナラの子であるキアラとカイオンを主役にするのでしょうか。ちなみに今回でキアラの声を演じたのは“ビヨンセ”の娘である“ブルー・アイヴィー・カーター”で、“ビヨンセ”はナラの声を演じているので母娘共演となりました(映像的には双方の会話はほぼ無しだけど)。キアラは終始無茶苦茶愛くるしさを振りまいていました。
私は前にも書いたけど『ライオン・キング2 シンバズ・プライド』の物語のほうがより現代的に翻案しやすいと思うので、どうせ完全なライオンのリアルどおりにいかないのなら、いっそのことライオンの生態と全然違う大胆な物語展開もしていいと思っています。続きがあるかは知りませんけども…。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
作品ポスター・画像 (C)2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved. ライオンキングムファサ
以上、『ライオン・キング:ムファサ』の感想でした。
Mufasa: The Lion King (2024) [Japanese Review] 『ライオン・キング:ムファサ』考察・評価レビュー
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