一部の大人には伝わらないかもだけど…映画『ズートピア2』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2025年)
日本公開日:2025年12月5日
監督:ジャレッド・ブッシュ、バイロン・ハワード
ずーとぴあつー

『ズートピア2』物語 簡単紹介
『ズートピア2』感想(ネタバレなし)
またズートピアにようこそ
ここ最近はディズニーはアニメーション映画が絶好調で、2024年は『モアナと伝説の海2』を特大ヒットさせました。
そして2025年は本作『ズートピア2』がやってくれました。
やっぱり人気タイトルが強いのか…。まあ、わかってたけど…。今作『ズートピア2』も大成功は発表の時点から明らかでした。
なにせあの『ズートピア』の続編ですよ。2016年に公開されたオリジナルの『ズートピア』は、伝統の擬人化された動物キャラクターを主軸にしつつ、社会の構造的な不平等と無自覚の偏見を、子どもでもわかりやすいシンプルな物語に落とし込んで伝え、高評価を獲得。瞬く間に人気作となり、絶大なファンダムを築きました。
2016年は『モアナと伝説の海』の1作目も公開していて、この多様性を前面に掲げる堂々たる2作が、それ以降のディズニーの看板作品に成長したのは、時代を象徴していたなとあらためて思います。
『ズートピア』はとにかくファンダムの熱量が凄まじいのですよね。私も世界中の二次創作を目にした気がする…。
その2016年から9年。ファンはキリンのように首を長くして待っていたことでしょう。
『ズートピア2』は、あの目移りしてしまう奥深い世界、魅力的なキャラクターたち、シニカルなユーモア、そして多様性を意識するテーマ…全部を前作から削ぎ落さず、順当な2作目として「続き」を描いてくれています。
相変わらず子どもも大人も楽しいエンターテインメント満載な映画です。それでいて社会問題を練り込んでいるので、ちゃんと両立できることを実証し続ける映画でいてくれてもいますね。
『ズートピア2』を監督するのは、前作から引き続き、“ジャレッド・ブッシュ”と“バイロン・ハワード”。
英語版の声優では、今作で新たに“キー・ホイ・クァン”が仲間入りしています。“キー・ホイ・クァン”、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』から猛烈な再注目で引っ張りだこだな…。
何を演じるかは、もうポスターにハッキリ映っているので隠すこともないですが…。すごく“キー・ホイ・クァン”らしくてぴったりです。
後半の感想では『ズートピア2』のテーマの話を、1作目も振り返りつつ、私なりに掘り下げています。
『ズートピア2』を観る前のQ&A
A:1作目の映画を観ることをオススメします。なお、「Disney+(ディズニープラス)」で配信されているミニシリーズの『ズートピア+』は1作目の最中の出来事を描いていますが、とくに観なくても『ズートピア2』の物語の理解はできます。
鑑賞の案内チェック
| 基本 | — |
| キッズ | 子どもでも安心して観られます。 |
『ズートピア2』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(序盤)
ウサギのジュディ・ホップスは子どもの頃から夢だった「警察官になる」という理想を実現し、このさまざまな動物たちが暮らしている「ズートピア」で大きな一歩を踏み出しました。詐欺師だったキツネのニック・ワイルドとひょんなことから手を組むことになり、社会の裏で蠢いた犯罪計画を食い止めました。
その成果が認められ、ニックも警察官になり、ズートピアの警察署で正式にパートナーになりました。
今のズートピアは、前任のドーン・ベルウェザー副市長の不祥事で体制が一新し、ウマのブライアン・ウィンドダンサーが市長となっています。しかし、犯罪や事故など、警察の出番はいつもどおり。
この仕事を誇りに持っているジュディは張り切り、ニックはすました顔でマイペース。今回は夫婦のふりをして密輸の場とされるコンテナ場に潜入。ニックは騙すのが得意なのでこの程度はお手の物。
しかし、ジュディの無線の切り忘れで、相手に気づかれてしまい、車で追いかけないといけないハメになります。なんとか相手を捕まえるも、かなりド派手にヘマが露呈し、怒られてしまいます。
警察の他のバディはみんな同種同士で息が合っています。ウサギとキツネでは相性に不安があるのではないかとボゴ署長に指摘され、パートナーシップ・セラピーを受けることになりました。
それでも挫けるようなジュディではないです。参考書を家に持ち帰り、ひとりでも地道に独学に励みます。
そんなとき、気がかりが頭をよぎます。あの密輸業者の車の荷台に何か動物が乗っていたような気がする…。
現場には皮のようなものが残されていました。こんな哺乳類はいません。そう言えば、このズートピアには昔、爬虫類というのが存在していたらしいです。巷で話題の胡散臭い動画ではその存在がまことしやかに語られていましたが、爬虫類は危険というのが世間の常識。まさかその爬虫類のヘビではないだろうか…。
気になるとじっとしていられないジュディはすぐさまニックの家に向かい、調査に連れ出します。
そして手がかりを追って、ズートピアの創設者エベネザー・リンクスリーの子孫であるオオヤマネコの一族が主催する「100周年祝賀会」に潜入することになります。
そのパーティーにてジュディはリンクスリー家の末っ子パウバートとちょっとした会話ができましたが、ステージに謎の存在が出現して会場は騒然とします。
それは、ひとりのヘビでした…。

ここから『ズートピア2』のネタバレありの感想本文です。
二次創作が止まらない!
何から語ろうか、ひとまず『ズートピア2』のファンを狙いうちにしたサービス精神からにしましょうか。
このシリーズの最大の見どころは、やはり何と言っても、ジュディとニックのリレーション・シップです。前作で関係の始まりを濃密に描いてくれましたが、今回はなんと前作のラストからわずか1週間しか経過していないところから開幕。つまり、警察官としてバディを組んで1週間(出会ってどれくらい経ったのかはわかりませんが)、なおも初々しい2人がたっぷり観れます。
しかも、序盤から大サービス。ジュディとニックが夫婦になりすまして潜入するんですよ。要するにファンダムにおけるカップリングをあからさまに意識した“いじり”。ちゃっかり夫婦が受けるようなパートナーセラピーまで用意するダメ押しです。
そのうえ、この潜入シーンでは、ジュディとニックには子どもがいる(フィニックが変装している)という設定になっています。これ、英語圏では目ざとく反応されていましたが、とある話題となった二次創作を受けたネタなのではと指摘されています。
その二次創作というのが『I Will Survive』という「DeviantArt」に2017年に投稿されたファンアート・コミック。これはジュディとニックの間に命が宿り、妊娠したジュディが中絶を考え、ニックと「中絶の支持」をめぐって隔たりが生まれ、2人は破局していく…というやたらヘビーでシリアスな物語でした(Kotaku)。
確かにこのシリーズは進歩的なテーマを描くけども「さすがにこれはディズニーはやらないだろ」と誰もが思う内容をあえて真面目に描いたこのファン作品は、ネット上でバズり、当時、ミームになりました。
もしこの感想記事を小学生が読んでいて「中絶ってなに?」と思ったら、信頼できる大人に聞いてみてください。大事なことですからね。
『ズートピア2』もさすがにそれはやりませんでしたが(でも異種間の繁殖は可能なのかは気になるけども)、製作陣からの目配せはあったことで、ファンはじゅうぶん大喜びでしょう。ニックのTシャツが物語っているとおり、良い父になりそうだよ…(The Mary Sue)。
ジュディとニックは今作でも恋愛関係にはなりませんが、たぶんプラトニックなままでずっといくでしょうけども、それは規範的でない表象にしようとかそういう高い志によるものではなく、上記の生々しい種の生殖分離の話に持ち込みたくないからだろうし…。
それは置いておくとして、今回も「ズートピア」が舞台ですが、前作では全然描き切れなかったので、今作でもネタは尽きません。あの沼地のエリアも最高に愉快ですし(イルカもいる!)、無論、今回の重要な存在である爬虫類の面々も魅力満載です。
爬虫類は笑いの宝庫すぎますね。あのバーの椅子が絶妙な木なのもシュールだし、トカゲ(正確にはバシリスク)のヘイスースの声が英語だと“ダニー・トレホ”だとわかったうえでみると余計に笑えるし…。でも実際のキツネは虫も食べるからね…ニック…。
両生類にしなかったのは、もうディズニーには『ふしぎの国 アンフィビア』があったからかな。
このシリーズ、出てくる動物が増えれば増えるほど、リレーション・シップの数も比例して増大し、ファンダムにもっと刺激が投下される…もう完成されたクリエイティブとファンダムの円環構造が出来上がちゃっているな…。
私は『ズートピア2』を観ている間、「うわ、これ、次はどんな二次創作ができるんだろう…」って、そこにも関心がいってましたよ。モフモフじゃなくて、爬虫類系もコアなファン層がいるからね…。
くれぐれも本作を観た子どもが「蛇を飼いたい」とか言い出しても「ダメだよ。気軽に飼えないから」と保護者はきちんと注意してあげてくださいね。
もう逆差別とは言わせない
お次に『ズートピア2』の社会的なテーマの話。
前作は、哺乳類を前提に「温和とされる草食動物」と「獰猛とされる肉食動物」をあえて対置し、無意識の偏見を浮き彫りにさせました。警察が主体なので、いわゆるレイシャル・プロファイリングを暗示させる物語でしたね(今の日本だったら「外国人は犯罪者が多いから危険!」という先入観)。
ただ、1作目は子ども向けの教育的なストーリーとしてはじゅうぶんによくできていましたが、やはり単純化しているという欠点はありました。
その単純化が仇になったのか、日本や韓国などでは1作目の『ズートピア』公開時に「これは逆差別を描いているのだ!」なんていう頓珍漢な“批評”も飛び出し、監督が否定しないといけない状況になったりも…(「逆差別」というのは反多様性レトリックでよく使われる言い回しです)。
でもそういうズレた考察が付け入る隙が生まれてしまうのは、あの1作目の「草食動物 vs 肉食動物」という単純化の欠点の顕著で極端な証ではありました(まあ、あと女の主人公が偏見を指摘される光景に、一部のマノスフィアな男性がカタルシスを感じていただけなんだろうけども)。
その点、今作『ズートピア2』はその穴はしっかり防いでおり、前作の「草食動物 vs 肉食動物」云々のプロット上の仕掛けはもう無くなっています。今回の悪役であるリンクスリー一族はオオヤマネコで肉食動物ですしね。
鑑賞前の懸念は『ズートピア2』はもうファンダムにウケればいいと割り切って、進歩的なテーマを題材にするのを綺麗さっぱり捨てている可能性もよぎったこと。今のディズニーのトップ陣営の日和見っぷりをみていると、そういう不安もでてくるのは致しかたないことです。
でも大丈夫でした。『ズートピア2』は継続して社会問題を寓話として描いていました。
今作はスケールが上がって、ずばり「コロニアリズム(植民地主義)」がテーマに大きくピックアップされていました。2025年は『スーパーマン』といい、植民地主義の自己批判をする大衆映画が目立ちますね。
先住の爬虫類たちは入植者によって住処を奪われ、追いやられ、そのうえ歴史まで都合よく改変されてしまいました。ゲイリーは曽祖母アグネスの無念を晴らすべく行動に出ますが、歴史修正主義への抗議でもありますね。
面白いのは、一般的に私たち現実の植民地主義は戦争という軍事力をともないますが、このシリーズはそこまでリアルではない代わりに、天候をコントロールする壁が事実上の「武力行使」になっている点。爬虫類は寒冷化で生命活動できないという生態を上手く取り入れていました。
ただ、今回も完璧とは絶賛はできない部分もあります。そもそも前回もそうですが、社会の不平等を描いておきながら、なんだかんだで悪者を刑務所にぶちこんだらそれで円満に解決した空気でいつも最後は終わるのはどうなんだ、とか。むしろ不平等の解消はそういうやりかたでは片づけられないから現実でも苦労しているのでね。
何はともあれ、最低期待値ラインは余裕で超えてくれた続編だったとは思います。ええ、3作目も作るんでしょう? 知ってますよ。こんな儲かるIP、ディズニーはワニのように食らいついて離さないでしょうよ。
エンドクレジット後にチラっとでていたとおり、次は鳥類なのかな。私の予想は「ズートピアの発展にともなう有害物質のせいで、上空にある鳥たちの楽園が壊滅の危機に瀕している!…という環境問題」あたりが無難か。当たっていたら、なんかグッズとかください、ディズニーさん。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
以上、『ズートピア2』の感想でした。
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Zootopia 2 (2025) [Japanese Review] 『ズートピア2』考察・評価レビュー
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