すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ
映画『すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

英題:Sumikko Gurashi
製作国:日本(2019年)
日本公開日:2019年11月8日
監督:まんきゅう

すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ

あらすじ

ある日の午後、お気に入りの喫茶店「喫茶すみっコ」を訪れたすみっコたちが注文した料理を待っていると、地下室から謎の物音が聞こえてくる。音の正体を確かめに行ったすみっコたちは、そこで1冊の飛び出す絵本を発見する。すると突然、すみっコたちは絵本の中に吸い込まれてしまう。そこは有名なあの物語の世界だった。

『すみっコぐらし』感想(ネタバレなし)

すみっコぐらし旋風は映画にも!

学校の席替えは政治における「解散総選挙」に匹敵する子どもたちにとっての一大イベント。学校で過ごす時間の大半をその「席」に固定されてしまうので、どんな席になるかで学校人生の感触が変わってしまうといっても過言ではない(たぶん)。そして、私は「端っこの席」が好きでした。とくの後ろの片隅。この最も人に囲まれない場所が落ち着くのだ、と。そういう人は一定数いるでしょう。

そんな私が「すみっコぐらし」を好きになるのは必然というものです。

はい、そのとおり、私は「すみっコぐらし」が好きで、どれくらい前から好きだったのかは定かではないのですが、そのキャラクターたちの存在を知ったその日からお気に入りでした。どの程度の“好き”なのかといえば、まあ、グッズを買い集める程度には…です。今では私の家を見渡せば「すみっコぐらし」のなにかしらのグッズを見つけることは容易いです。私が唯一購入したLINEスタンプも「すみっコぐらし」ですからね。

あ、「すみっコぐらし」を知っている前提で書いてしまいましたが、まずこのキャラクターを紹介しないとダメでしたね。この「すみっコぐらし」は「サンエックス」という日本の会社が生み出したキャラクターです。

「サンエックス」は昔から愛されるキャラを創造してきた歴史があります。これは今の若者は知らないでしょうし、知っている人は「懐かしい~!」と過去の記憶が湧くキャラだと思いますが、1987年に「ピニームー」という茶色いクマのキャラがいました。次に爆発的にヒットしたのは1998年の「たれぱんだ」でしょう。2001年には「アフロ犬」が登場し、続いてのスマッシュヒットが2003年の「リラックマ」です。いや~、もう16年以上前の話なのか…。その後、2005年の「まめゴマ」などキャラクターはどんどん新規創造されていましたが、しばらく「リラックマ」の覇権が続行。そしてその盤石だと思われた「リラックマ」の天下をひっくり返したのがこの2012年に登場した「すみっコぐらし」です。その勢いは凄まじくあれよあれよというまに「サンエックス」の看板キャラとして、さまざまな商品化がされ、今では他社とのコラボも連発する、名実ともに大人気キャラに。「サンエックス」の枠関係なしに、新興の日本産キャラの中では現状は最も勢力を広げた存在かもしれません。

なんでこんなに人気なのかと考えてみると、見た目が可愛いのはもちろんのこと、「ネガティブなことをささやかにポジティブに捉える」という自虐的日本人精神の琴線に触れたからなんじゃないかなと私は思います。「すみっコぐらし」のキャラはいっぱいいるのですが、全員が何かしらの「すみっコ」的属性を持っています

例えば、人見知りで本来の住処である北極から逃げてきたらしい「しろくま」、とんかつを切った際の一番端の脂身が多くて嫌われがちな部分である「とんかつ」、気が弱く極度に恥ずかしがり屋な「ねこ」、恐竜だけどトカゲのふりをしている「とかげ」、ペンギンじゃないかもしれない「ぺんぎん?」など。みんなが自信を持ってアイデンティティを誇れる状態にはいない。そんなすみっコなキャラたちになんとなく共感できる人が多いのかな。つまり完全にキャラ設定の勝利ですね。ほんと、良いキャラを考えましたよ(デザインは“横溝友里”という方が考案したみたいですね)。

そんな「すみっコぐらし」が2019年にアニメ映画化されました。短編やテレビシリーズのアニメにもなっていないのに、いきなりの映画化にびっくりしましたが、それだけ勢いがあるということなのか。まあ、「サンエックス」は最近も『リラックマとカオルさん』というアニメシリーズを展開したりしていますし、映像媒体に手を広げるビジネス戦略があるのかもですけど。

そして公開された本作『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』

ところがこれが予想外の話題になり、結果、14億円以上の興収を記録。「すみっコぐらし」自体にそれだけの人気があったのか。ただ、SNSを見ているとそれまで「すみっコぐらし」にそれほど親しんでいなかった人が極端な絶賛をしている例が散見され、映画で初めてハマった人が多いのかなという印象も。ただ、中には褒めてはいるものの明らかに世界観にそぐわない紹介をしている人もいて、すごく世界観を会社もファンも大事にしているコンテンツなだけに、やや残念な気持ちにもなりましたが…(ネタにして面白がるならまだしも、過剰な大言壮語は釣り広告と変わらないのでやりすぎは厳禁ではないかな)。

ともあれファンが増えるなら良かったです。映画を持ち上げに持ち上げて称賛した人もちゃんとグッズも買ってほしいな…。むしろグッズがメインのコンテンツですからね。

『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』は既存ファンを裏切らないし、新規ファンを獲得する…まさにキャラ映画としては間違いなく大成功であり、また「すみっコぐらし」が覇権を強固にしちゃったなという感じでしょうか。

私はあまり「泣ける!」「予想外の結末!」を連呼する宣伝が好きじゃないので、そういう紹介はしません。この『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』は、ただただ“すみっコ”からやってきた“すみっコ”のための映画なんです。“すみっコ”属性が自分にもある…と思ったらぜひ観てください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(知っている人も知らない人も)
友人◯(知らない人を誘って)
恋人◯(映画で気分を癒そう)
キッズ◎(子どもも普通に楽しめる)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『すみっコぐらし』感想(ネタバレあり)

ここがおちつくんです

これはこの世界のどこかにある“すみっコ”で暮らしている“すみっコ”たちの物語。

「しろくま」はとても寒がりで人見知り。温かい場所を求めて「ふろしき」と一緒に北から逃げてきました。「ねこ」は恥ずかしがり屋さん。気が弱いから“すみっコ”を譲ってしまう。そんな「ねこ」をいつも励ましてあげるのが「ざっそう」。いつかお花屋さんで素敵なブーケにしてもらうのが夢。「とんかつ」はとんかつの端っこの部分。おにく1%、しぼう99%。脂っぽいから残されました。だから同じ残り物の「えびふらいのしっぽ」ととても仲良し。夢はいつか誰かに食べてもらうこと。残り物といえば「たぴおか」たちも。読書と音楽好きの「ぺんぎん?」は自分がペンギンかどうか自信がなくて自分探し中。昔は頭にお皿があったような気もしたり。「ほこり」はいつも能天気。「とかげ」は本当は恐竜の生き残り。でもそれが知られると捕まっちゃうからトカゲのふりをしています。「にせつむり」は実はナメクジ。カタツムリに憧れて殻をかぶっています。偽物の仲間同士仲良しです。

やっぱりここがおちつくんです。今日も仲良く“すみっコぐらし”。

「ごはんたべにいく?」

「さんせーい」

ガチャーン、ウィーン…(アームで運ばれる「ぺんぎん?」)

喫茶すみっコ。マスターのコーヒー、このよでいちばんうまい。

「まめマスター」とアルバイトの「おばけ」が働いています。「ほこり」たちを追いかける掃除好きの「おばけ」。なにやら不気味な地下の扉を発見。階段を降りていくと(飛んでるけど)、そこは本がいっぱいの部屋。そこで光る本を見つけます。「せかいのおはなし」?

そこへ“すみっコ”たちが来店。

「ごちゅうもんは?」

「ホットケーキ」「カレーライス」「サンドイッチ」「ナポリタン」「オムライス」「きゅうりましましで」

ところが下の方から何か物音が。

「いってみる?」「みてくるよ!」と小さい“すみっコ”たち。

ガチャーン、ウィーン…(アームで運ばれる「ぺんぎん?」)

みんなで地下室へやってくると、不思議な本を発見。「えびふらいのしっぽ」がそれを開いてみると…。

昔々あるところにおじいさんとおばあさんが…いない?

本に吸い込まれていく“すみっコ”たち。

昔々あるところにおじいさんとおばあさんがいました(「とんかつ」と「しろくま」)。

おじいさんは山へ芝刈りにいきました(しっぽ探し)。おばあさんは川へ洗濯にいきました(強制)。

どんぶらこ。川から大きな桃が流れてきました。おばあさんは桃をおうちに持って帰りました(巨大桃と溺死ギリギリの格闘)。

桃を切ってみると中から元気な桃太郎が生まれました。桃太郎は悪い鬼を退治しに鬼ヶ島に出かけました(有無を言わせない)。

いぬ、さる、きじをお供にして…。ひよこ? ひよこ…。

「きみはだれ?」「どこからきたの?」「おうちは?」「なかまは?」

「ひとりぼっちなんだね…」「まいご?」

“すみっコ”たちの物語は続きます。そして「ひよこ?」の物語は…。

すみっコぐらし

「すみっコぐらし」誕生譚でもある

『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』は「すみっコぐらし」の世界観を壊さずに映像化しており、とても正統派なつくり。これならずっと好きでいてくれたファンも納得な出来です。

「すみっコぐらし」の揺るぎない作品性はすでに説明したとおり“すみっコ”であるという部分。その一見するとネガティブになりうる要素をささやかにポジティブにする。そんな優しさが本作にも詰まっています。

まず既存のキャラクターたちは絵本の世界に迷い込むことで「主人公」になります。“すみっコ”たちにとってはあり得ないことです。なにせ絵本の主人公には“すみっコ”属性が基本はないですから。そんな“すみっコ”たちにとっては超ハードルの高い無理難題を背負わされつつも頑張る“すみっコ”たちを、微笑ましく見守りながらエールを送る。そういう楽しみ方を提供してくれます。

一方でこの絵本の世界で出会った「ひよこ?」。この子は終盤で「みにくいアヒルの子」のあのキャラではないかと思わせる流れになっていきます。「みにくいアヒルの子」はご存知の方は知ってのとおり、“すみっコ”属性がある主人公の物語です。そういえば私が小さい頃に好きだった絵本、「みにくいアヒルの子」だったなぁ…。そんな幼い頃から私は“すみっコ”属性の保有者だったのか…。

でも実は「みにくいアヒルの子」ですらもなくて、本当は絵本の隅っこに描かれた“何者でもない”絵なのでした。だから物語もありません。

この二段オチはものすごく「すみっコぐらし」っぽいですね。まあ、あれです、ドラマ『ウエストワールド』と同じですよ(え?)。

そしてそれはまさに「すみっコぐらし」というキャラクターが誕生したいきさつと同じです。この「すみっコぐらし」も原作者の何気ないイタズラ書き的な絵から始まりました。だから「ひよこ?」はそのまま「すみっコぐらし」に重なります。そんな「ひよこ?」のために物語を作ってあげる“すみっコ”たち。

つまり本作はほんわかした感動ストーリーでありつつ、裏ではシンプルなメタ構造を持つ「すみっコぐらし」誕生譚を描いている作品です。こうやって「すみっコぐらし」は誕生したのですよ…という。

短い物語にここまで詰め込んであれば、それはもうパーフェクトじゃないかなと思います。「すみっコぐらし」の制作秘話を知っていると本作のオチもすでに序盤から見え見えなのですが、それでも心に残る温かさがある。

どんな「絵」も愛されれば「キャラクター」になるのです。

アニメーションでもっと見たい

ファンとしてこれだけの作品愛が凝縮されていれば満点なのですが、『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』にあえて注文をつけたい部分もなくはない。

とくにナレーションの多用。本作は「すみっコぐらし」らしさを維持するためにキャラクターに声を付けるのをやめるという企画時点の前提があり、それは大正解です(声がついたらファンも不満たらたらだったろうな…)。でもその代わり、ナレーションを挿入しています。“井ノ原快彦”“本上まなみ”のナレーションはとても優しさがあって良い声なのですが、でも本当に必要だったのかなとも思ったり。

せめて冒頭のキャラ紹介と絵本の物語ナレーションだけにとどめることはできなかったものか。

ただこれ、『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』だけではない邦画全体によくある問題なのですけどね。ナレーションによる過剰の説明。

もちろん本作は子どもにも見られるように考えてのことだからしょうがないとも言えますけど、でも海外の作品なんかは知育作品や子ども向け作品ですらもナレーションなしであることが多いです。その代わり、徹底してアニメーションで魅せるということにこだわりまくっています。結果、子ども向けとは言え、アニメーションの芸術としても申し分ないクオリティだったりするわけで…。

『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』もそれだけの潜在的可能性があったと思うのです。ちょこっと文字が浮かび上がるのはオリジナルコンテンツにある要素なので良いとして、あとはひたすらにキャラの動きのアニメーションだけで物語る。それもできただろうし、それを見たかったな、と。“井ノ原快彦”がナレーションでツッコミを入れるシーンがいくつもでてきますけど、あれだとせっかく頑張って動いている“すみっコ”たちにずっとフォーカスできない。これはもったいないかな。

邦画はもっとアニメーションの力を信じてもいいのじゃないかなと思います。それができるようになれば海外でも芸術的な観点で評価されるようになるのに…。

『羅小黒戦記』とか絵の力でグイグイ魅せる作品を見ちゃうと余計に思うところ。


それでもそれは『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』の欠点ではなく、可能性がまだあるという話です。とはいってもバンバン映画化してシリーズにするような商業主義一辺倒でいいのか、それも考えものですし…。個人的にはアニメはもっと見たいのでショートアニメを定期的に配信してほしいかな。

“すみっコ”って何かと扱いが面倒ですけど、それが“すみっコ”なのです。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer --% Audience --%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

関連作品紹介

私のお気に入りの「海外の子ども向けアニメ」シリーズの作品です。よかったら観てみてください。

・『ヒルダの冒険』
…アニー賞で子供向けテレビアニメーション作品賞を受賞。とても滑らかに元気よく動く絵が気持ちいいです。私も大のお気に入り。Netflixで配信。

・『アドベンチャー・タイム』
…数々の賞を取ったアニメーション。教養向けの題材を扱いつつも、そのスタイルはとにかくハチャメチャ。Netflixほかで配信。

・『こひつじのティミー』
…アードマン・アニメーションズ製作のストップモーションアニメ。まさに映像だけで見せる技が炸裂しています。Netflixほかで配信。

作品ポスター・画像 (C)2019 日本すみっコぐらし協会映画部 劇場版すみっコぐらし