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アニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』感想(ネタバレ)…百合はエアリアルで終わるのか

機動戦士ガンダム 水星の魔女

百合はエアリアル(空想)で終わるのか…アニメシリーズ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Mobile Suit Gundam THE WITCH FROM MERCURY
製作国:日本(2022年)
シーズン1:2022年に各サービスで放送・配信
監督:小林寛

機動戦士ガンダム 水星の魔女

きどうせんしがんだむ すいせいのまじょ
機動戦士ガンダム 水星の魔女

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』あらすじ

数多の企業が宇宙へ進出し、巨大な経済圏を構築する時代。モビルスーツ産業最大手「ベネリットグループ」が運営する「アスティカシア高等専門学園」に、辺境の地・水星からひとりの少女が編入してきた。その名前はスレッタ・マーキュリー。全く無名の人間だったが、彼女の乗りこなすエアリアルというモビルスーツが前代未聞の活躍を見せたとき、この学園はざわつき始める。その意味をまだ少女は知らない。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』感想(ネタバレなし)

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ガンダム、次は何に挑戦するのか

私は映画やドラマを貪欲に観まくっていくことにわりと躊躇いのない人間なのですが、2021年に映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』にて初めて「ガンダム」フランチャイズに触れて以来、それで終わりではなく、「ガンダム」シリーズのアニメ作品を結構観漁っていました。

さすがに全作品を鑑賞するのは無理ですが、それなりの数の作品を見たことで、もう「なんか巨大な人型ロボットが宇宙空間とかで戦っている…?」くらいのぼんやりとしたイメージは卒業しました。まあ、いまだに結局ニュータイプが何なのかよくわかってないけど…。

こうなってくると「よし、次に新作アニメシリーズが始まったらリアルタイムで鑑賞しよう」と意気込んでいました。世界観もだいたい押さえたし、関連する歴史やキャラクターも整理ができてきたし、何が来てもこの広大な世界の作品のひとつとして、初心者よりはすんなり入れるだろう…と。

そんな待機姿勢の中、ついに2022年にシリーズ最新作のアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が登場です。

しかし、いざ新作情報が発表されると、なんだかんだで予想外のことだらけで…。まずWebアニメを除けば『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』以来の約5年ぶりの本格的なテレビアニメシリーズとなった『機動戦士ガンダム 水星の魔女』ですが、作品の世界としてはこれまでの「ガンダム」シリーズから独立したものになっていて、過去作を観ないとわからないような要素はひとつもありません。

さらに本作は、大々的にはシリーズ初の女性主人公となり、学園を舞台とするストーリーが展開されるなど、新しいこと尽くしの内容でした。

つまり、私の「これまでのガンダムを頑張って観てきた」経験はそんなに活かされないわけです。ちょっとしょんぼり…。

でも製作者としては「ガンダム」フランチャイズの新規ファン層を開拓しようと模索するのは当然のことで、そう考えればこの『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の試みも納得です。

これまでの「ガンダム」フランチャイズは初期は主に男性ファンを掴み、年数が経過するにつれ、その初期のファンが中高年化する中で、今度は一部の女性ファンを獲得し、さらにキッズ向けのアプローチにも挑戦するなど、本当にいろんなことを試しています。そういう試行錯誤は大事だと思います。

MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)や「スター・ウォーズ」などもそうですが、どんなフランチャイズでもこれは宿命で、同じことをしていると飽きられるので、世界観を広げようとします。すると古株な保守的ファンからは「こんなのこの作品らしくない! つまらなくなった!」と愚痴られるわけですが、そこに委縮することなく、どれだけ挑戦できるか。リスク覚悟の賭けですが、でもこうしないとフランチャイズは延命できないんですよね。

「ガンダム」の場合は、私がこれまでの作品を見てきたかぎりでは、かなり世界観として可能なことが制限されやすく、意外に拡張しづらさを抱えているんだなと感じていました。ジャンルを広げるのは大変そうです。

今回の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は見るからに若年層やこれまで「ガンダム」に触れていなかった層を取り込もうとしており、それが上手くいくのかどうか、それは私にも読めない未来ですけど…。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』を監督するのは『キズナイーバー』『ひそねとまそたん』『スプリガン』の“小林寛”。シリーズ構成は『コードギアス 反逆のルルーシュ』の“大河内一楼”

なお、鑑賞する際の注意点として、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は当初から2クール展開を発表しており、1クール目は全12話で2022年に放送・配信、2クール目は2023年…となっています。ただし、プロローグ的な位置づけとして1話分だけ別に配信されており、「PROLOGUE」というサブタイトルがついています。最初に視聴するときはまずこの「PROLOGUE」から観ることをオススメします(かなり重要なエピソードになっているので)。

以下の後半の感想では『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の百合アニメとしての表象についてダラダラと書いています。

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『機動戦士ガンダム 水星の魔女』を観る前のQ&A

✔『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の見どころ
★設定は学園モノなので初心者でも入りやすい。
✔『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の欠点
☆話数が進むにつれ、設定が複雑化していく。
日本語声優
市ノ瀬加那(スレッタ)/ Lynn(ミオリネ)/ 阿座上洋平(グエル)/ 花江夏樹(エラン)/ 古川慎(シャディク)/ 宮本侑芽;白石晴香(ニカ)/ 富田美憂(チュアチュリー)/ 内田直哉(デリング)/ 能登麻美子(プロスペラ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:初めてのガンダムでも大丈夫
友人 3.5:ガンダム初心者も誘って
恋人 3.5:一緒に見るのも良し
キッズ 3.5:やや残酷な描写あり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):逃げたらひとつ、進めばふたつ

小惑星フロント「フォールクヴァング」にあるヴァナディース機関の研究所にて、テストパイロットのエルノラ・サマヤGUNDフォーマットの健全性を証明しようと焦っていました。GUNDフォーマットはもともと医療技術でしたが、モビルスーツ(MS)に軍事転用されることに反発もあり、生命倫理の問題も浮上していました。ラボのトップのカルド・ナボ博士は落ち着くように諭します。

そこに「ママ~」と子どもが漂ってやってきます。エルノラの幼い娘のエリー(エリクト)です。まだ4歳ながら好奇心旺盛。「ママ、パパが待っているよ。あの子、まだ起きないの」とエルノラの乗っていた機体に声をかけます。「ガンダム・ルブリスはまだ子どもなのさ」とカルドは語ります。

エリーとエルノラは誕生日会の準備をしていた父ナディムのもとへ向かい、束の間の平穏。

一方、GUNDフォーマットを危険視する軍人あがりのデリング・レンブランの差し金で、MS開発評議会はその開発を凍結。オックス社への企業行政法による強制執行を決定します。

それを知らないラボでは、エリーはひとりでルブリスに文句をつけに行っていました。カルドがエリーをガンダムに乗せてくれます。

その頃、評議会配下の特殊部隊「ドミニコス隊」がフォールクヴァングに派遣され、武力で制圧。ナディムはルブリスで迎え撃つも、敵は強力で圧倒されます。

エルノラはエリーのもとへ駆け付け、一緒にルブリスに乗り込みますが、エリーを認証して機体は起動。敵機を凄まじい能力で撃破する光景を、何もわかっていないエリーは「ロウソクみたいで綺麗だね」と口にします。

それでも不利なので、ナディムが犠牲となり逃げる時間を稼いでくれます。ハッピーバースデーの歌を歌ってあげながら、ナディムはエルノラとエリーが退避するのを見送って爆死し…。

年月が経過。水星から来た17歳のスレッタ・マーキュリーは母のプロスペラ・マーキュリーの勧めで、ベネリットグループが運営する教育機関アスティカシア高等専門学園に編入することになりました。

学校は初めてでドキドキしながら宇宙を航行していると、宇宙を漂うスーツを発見して通報します。そして スレッタは自身の愛機であるエアリアルで助けに行きます。

しかし、助けられたその人は同年代くらいの少女でしたが、「邪魔しないでよ。もう少しで脱出できそうだったのに。責任とってよね!」と罵声を浴びせてきます。彼女はデリングの一人娘ミオリネ・レンブラン。実は束縛的な父のデリングから逃れ、地球へ向かう予定でした。それも失敗です。

そんな幸先からヘマをしてしまったスレッタですが、このアスティカシア高等専門学園は独特のルールがありました。それはモビルスーツによる決闘で大切なものを賭けて願いを叶えることができるということ。しかも、ミオリネを花嫁にすることがトロフィーになってもいる…。

スレッタは戸惑いながらも、母の言葉を思い出して無垢に信じ、前に進みますが…。

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スレミオship?

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は第1話放送の時点から「百合アニメ」であると、一部界隈で話題になっていました。別に百合アニメ自体珍しくも何ともないのですが、女性主人公でいきなり百合でくるのは驚いたということもあるでしょうし、何よりも第1話の描写が明確だったのが関心を集めたのでしょう。

第1話では登校早々にスレッタはミオリネの“花婿”の座をめぐってグエル・ジェタークと決闘することになり、なんなく勝ってしまいます。婚約者に認定され、「私、女ですけど」と狼狽えるスレッタに、ミオリネは「こっちじゃ全然アリよ」と軽快に言い放つというオチです。

これによってこの『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は、同性愛が普通に社会に認知されている世界を描いているのだと注目されたわけです。

学園モノで、決闘もあって、カップルの片方の肌が有色ということもあって、『少女革命ウテナ』みたいだという声も聞かれました。

ではこの『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は百合要素(スレミオship)を軸にして展開していくのかと言えば、そういう風向きでもありません。

そもそもこのスレッタという主人公、妙に変で、アニメにありがちな「天然のスーパー包容力」のあるキャラかと思えば、極端に自己肯定力が低く、世間知らずだったり、まるで空っぽです。

これほど主体性がないと、恋愛以前に友情も意思的に成り立っているのかさえも曖昧。百合もだから成り立っている風に見えるのかもしれません。一種のハーレム系主人公的な都合よさでもあり、作中でもグエルやエランとの関係も成り立つような気配を見せつつ、フェードアウトする。これを青春学園モノの定番の人間模様だろうともみなせないこともないですが…。

とにかくスレッタはミオリネとの百合っぽさも含めて各キャラと関係性が生じますが、そこにスレッタの明確な意思が見えません。

この1話目からずっと続くスレッタの記号的なわざとらしさは、別に脚本上の穴とかではなく、意図的に狙ったものであることが1クールの最終話に該当する第12話で判明します。

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百合の利用の背景を考える

第11話からベネリットグループの開発拠点「プラント・クエタ」を舞台に、デリング暗殺を指示されたテロリスト・グループ「フォルドの夜明け」の強襲を受ける急展開が始まります。

ここからは非常に「ガンダム」らしい展開で、第0話の「PROLOGUE」の凄惨さが繰り返されます(今度はグエルが父を失うあたりも対比される)。学園でなんとなく「ビジネス」を学んでいたつもりの子どもたちがそれは「戦争」なのだということをその身で実感する。戦争に否応なしに巻き込まれていく子どもたちというテーマは初期の『機動戦士ガンダム』から一貫する作品のアイデンティティです。それまでせいぜい「vs大人(親)」という対立構図しか意識していなかった子どもたちが、大人の中でも複雑な駆け引きがあり、その大人さえも翻弄する力のぶつかり合いがあることを思い知る。世界観が一気に拡張します。

最も「ガンダム」的な醍醐味が本格化する展開で1クールを締めるというのもニクい演出ですが、最終シーンではスレッタとミオリネの関係にも激震が走ります。

スレッタは母のプロスペラに促されてエアリアルに乗って「フォルドの夜明け」のソフィとノレアを圧倒。相変わらず敵なし。そして重傷を負った父を運ぶミオリネのピンチに駆け付け、その敵をエアリアルの手のひらでぺしゃんこに押しつぶし、何事もなかった顔でミオリネのもとに。水星の魔女というか、鮮血の魔女に変貌しているスレッタを前にミオリネは「なんで笑ってるの、人殺し…」と絶句するというオチ。

第11話ではスレミオshipperを喜ばせるような最高のご馳走を与えてからの、第12話で一気に突き落とす所業です。

ものすごく露悪的な展開ですが、伏線はずっと張り巡らしてあって、それこそ前述したとおりのスレッタの空っぽな人間性や、エランの強化人士という同一人物風の人間を複数用意できる技術、そして何よりも「PROLOGUE」に登場したエリーとスレッタが同じ人物に見えてでもどこか噛み合わない違和感だったり(マーキュリーという苗字もわざとらしすぎる)…。このスレッタも通常の人間とは違う存在であることを暗示させます。

なんかあれですね、『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイ的な感じですね。

もちろんまだ2クールの折り返し地点、今後どうなるかわかりません。ニカ・ナナウラシャディク・ゼネリと内通していることが地球寮の仲間にバレたようですし、スレッタとミオリネの関係の亀裂も加わって、子どもたち勢も戦争の中で新しい人間模様に飲み込まれるでしょう。なんだかんだで最後は「どんなスレッタでも私は愛せる!」とミオリネが突っ切る展開かもしれないし…。

ただ、私が興味あるのは百合的なハッピーエンドがあるかどうかではなく、本作の百合の扱い方。

とくにこれは「男同士」の同性愛関係ではやらなかっただろうなと思うのです。

私は「ガンダム」はものすごくホモセクシュアルな男同士を描いていることが多い作品だなと思っていて、主人公(男性)とその敵対者(男性)がぶつかり合う展開はほぼ恋愛シーンとそう変わりない関係性の深みがあると感じていました。もちろんそれをBL的な脳内カノンで楽しんでいた人もいるでしょう。

でも「ガンダム」は男同士の同性愛には直接的には踏み込みません。やはりホモフォビアがあります。しかし、本作でやってみせたように、女性同士の百合なら踏み込める。それは女性キャラ同士がイチャイチャしている程度なら“不快感なく消費できる”というマジョリティ受けを想定して考慮しているからであり、決してエンパワーメント的な目論見では全くないと思うんですよね。

そして女性キャラに血にまみれた凄惨な展開があれば、ギャップでインパクトがあるだろうという作り手の考えも透けて見えるわけで…(『魔法少女まどか☆マギカ』のようなある時点からの日本アニメの流行りでもある)。

そうやって考えてみると、この『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は新しいことをするように見せかけてはいるけど、実際のところ新しいことは全然してないんですよ。日本アニメですでに流行ったものを寄せ集めて、それを「ガンダム」の世界で見せているだけで。

百合であることも何も新しくなく、百合の消費的な都合の良さ(それは同時に日本のアニメ作品の多くで観察できる“女の子”表象の手軽な扱い方にも重なる)を優先しているありきな気がしてくる…。実際、作中では同性愛は普通みたいなセリフはあっても、世界の構成として全然普通には描かれておらず、異性愛規範ばかりですし…。

私はこの本作の企画をプロデューサーとかがどうやって上層部にアピールしたのかが気になりますね。作中の株式会社ガンダム設立みたいに、「新しいことやります!」という見せかけの勢いだけで押し通せたのかな…。

流行りに乗っかるだけでは二番煎じなので、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が「ガンダム」フランチャイズを新しい世界に導くには、作り手がもっと大きなものを賭けて決闘するくらいの覚悟がないといけないのではないかなと思いますが、2クール目ではどうなるのでしょうか…。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『SPY×FAMILY』

・『ぼっち・ざ・ろっく!』

作品ポスター・画像 (C)創通・サンライズ・MBS

以上、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の感想でした。

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