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アニメ『Buddy Daddies』感想(ネタバレ)…親しみやすい男親2人の育児モノ? 矯正された同性愛?

親しみやすい男親2人の育児モノ? 矯正された同性愛?…アニメシリーズ『Buddy Daddies』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Buddy Daddies
製作国:日本(2023年)
シーズン1:2023年に各サービスで放送・配信
監督:浅井義之
児童虐待描写

Buddy Daddies

ばでぃだでぃず
Buddy Daddies

『Buddy Daddies』あらすじ

狙ったターゲットは逃さない。そんな確実に仕事をこなす男2人の殺し屋バディは、何気ないいつもの殺しの仕事を今日も片付けようとしたところ、思わぬかたちで4歳の女の子を引き取るハメになってしまう。新たに始まったのは、育児とは無縁な男2人組と天真爛漫な女児との家族生活。裏の仕事は完璧に遂行できても、1人の娘に悪戦苦闘。果たして仕事と育児の両立は可能なのか。そして幸せな家庭は築けるのか…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『Buddy Daddies』の感想です。

『Buddy Daddies』感想(ネタバレなし)

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バディでダディな育児休業

2023年4月になると日本ではいろいろな社会に影響する法律の変化もあるのですが、育児に関する変化もありました。「育児休業法改正法」の新たな施行によって、従業員1000人超の企業について育児休業取得状況の公表が義務化されたのです。

これはもちろん育児休業をよりたくさんの人にとってほしいからこその試みなわけです。しかし、育児休業の問題はまだあります。男女差です。厚生労働省の調査によれば、2021年における女性の育児休業取得率が85.1%なのに対し、男性の育児休業取得率は13.97%にとどまっており、その差は歴然。

そこで前年である2022年10月には産後パパ育休(出生時育児休業)の新設が始まり、父親が子の出生後8週間以内に取得できる休暇が増え、育児参加の選択肢が広くなりました。

それでもこれも決定打になるわけではないでしょう。それだけこの日本では「育児は女性の仕事」という固定観念が強すぎます。結局「男性も育児に参加する」ということが当たり前の常識として社会に定着させるためには、ありとあらゆる手段にでないといけません。例えば、メディアでも「育児する男性」をたくさん描いていくとか…。

ということで今回紹介するのは、「育児する男性」がダブルで活躍するという、おあつらえ向きのアニメシリーズです。

それが本作『Buddy Daddies』

『Buddy Daddies』は、日本の各季節に大量投入されるアニメ群の中でも珍しい、原作のないオリジナル作品『パリピ孔明』『アキバ冥途戦争』「P.A.WORKS」がアニメーション制作を手がけ、原案は「ニトロプラス」のシナリオライターである“下倉バイオ”となっています。

オリジナルといってもコンセプト自体はわりと王道で、殺し屋の男性が幼い女の子の面倒をみないといけなくなるタイプのあれです。日本でも人気の“リュック・ベッソン”監督の映画『レオン』(1994年)といい、ジャンルとしてはベタな構図。殺し屋でオリジナルアニメと言えば、つい最近も『リコリス・リコイル』があったばかりだけど、『Buddy Daddies』は打って変わって男臭いですね。

そしてこの『Buddy Daddies』の最大の特徴は、殺し屋の男性が幼い女の子の面倒をみるわけだけども、その男性が男性同士のバディだということです。つまり、殺し屋バディものでありつつ、偶発的な育児強制シチュエーションものにもなっています。ジャンルの合わせ技です。

この人間関係の図式を聞くと「え?じゃあ、ゲイ・カップルなの?」と思ってしまうのも無理はない話だと思うのですが、一応はそういうことではなく、あくまで“バディ”という設定です。まあ、そのへんのことに関するあれこれは後半の感想でもっと書くことにします。いろいろ言いたくなるし…。

なお、この育てられる側の子は、殺し屋の仕事に関与してこの道に進むとか、そういう話ではありません。『SPY×FAMILY』みたいに、育てられる側の子が特殊なスキルがあるとか、そういう方向性でもないですし…。

これも『Buddy Daddies』の特色なのですが、結構しっかり子育て要素に力が入っています。ご飯作ったり、看病したり、入園手続きしたり、保育園に送り迎えしたり…描かれる風景は日常茶飯事な子育ての日々そのものですから。アニメーションらしくデフォルメしていますが、リアルからかけ離れすぎないようにもしてくれています。なので「男性も育児に参加する」という印象を深めるには非常に抜群に役割を発揮するのではないでしょうか。

逆に「殺し屋」の仕事描写にはそんなに重きをおいておらず、そこを観たい人にはちょっと物足りないかもしれませんが、男性バディを主人公にあえて「育児」に重点を置いたストーリーテリングで成り立たせる作品が生まれるというのも時代を感じますね。昔は殺し屋とかハードボイルドな裏家業の男が子どもを傍に一時的においても全然育児の生っぽいシーンとかなくて軽い扱いだったりしましたし…。

『Buddy Daddies』は全12話ですが、総集編もあって、それを加えると全13話になります。このジャンルに興味あるならどうぞ。

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『Buddy Daddies』を観る前のQ&A

✔『Buddy Daddies』の見どころ
★男性2人の育児の奮闘。
✔『Buddy Daddies』の欠点
☆クィアな描写としては踏み込んでいない。
日本語声優
豊永利行(来栖一騎)/ 内山昂輝(諏訪零)/ 木野日菜(海坂ミリ)/ 森川智之(九棋久太郎)/ 森なな子(海坂美咲)/ 照井春佳(羽生杏奈)/ 藤真秀(諏訪重毅) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:ジャンル好きなら
友人 3.5:好きな要素あるなら
恋人 3.5:恋愛要素は薄め
キッズ 3.5:人殺し描写あり
セクシュアライゼーション:なし
↓ここからネタバレが含まれます↓

『Buddy Daddies』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):育児も増えました

空港に降り立ったひとりの宝石商。アタッシュケースに高価な宝石を携えてマフィアの迎えの車に乗ります。しかし、その車列に颯爽と現れたバイクの人間。華麗なドライビングテクニックと銃さばきで車を次々と撃破し、残った宝石商の乗る車を追い詰めます。さらに宝石商が乗っていた車の運転手はそのバイク人間と同じ仲間だったようで、車内のマフィアの一員を排除。

2人は倉庫に場所を変えて宝石商を尋問し始めます。「このブツの入手経路を教えて」と金髪は問いかけ、一方のバイクに乗っていた目つきの悪い男が睨みながら銃を向けています。指示を受けていたという手がかりを確保し、2人は用済みの宝石商を消そうとした、そのとき…。

金髪の男のスマホに電話。「一騎パパ、ミリちゃんお熱です。お迎えお願いします」という朗らかな声。すると金髪の男は「すぐ行きま~す」と焦りながら対応。電話を切った後、「お前さ、朝、送ったとき元気だって言ってたよな?」と隣の男を問いただします。しかし、目つきの悪い男は一瞬考えたのち、鼻水がでていたことを思い出したとあっけなく返答。「仕事と子ども、どっちが大事だと思ってんだよ!? またお前のせいで段取りが狂ったじゃないか!」と金髪の男は怒鳴ります。

その場で置いてけぼりな宝石商は困惑。それでも目つきの悪い男はサクっと宝石商を射殺し、2人でお迎えに車を走らせるのでした。

来栖一騎諏訪零は2人は殺し屋家業をしているバディ。そして今は子育ての真最中。去年の12月からこの暮らしです。

発端は数カ月前。クリスマス間近、来栖一騎はターゲットの女性と寝て、IDデータを奪取し、早朝にこっそり家を出ます。マンションに戻ると諏訪零は部屋を散らかしてゲームをしていました。

なぜか部屋に猫が1匹いて、「なんでもかんでも拾ってくるなよ」と来栖一騎は叱り、猫をもといたところの段ボール箱に戻しにいきます。マフラーをかけてあげて「愛してくれる奴のところに行くのが一番いいんだ」と言葉を残して去るだけです。

その後はマンションで部屋の掃除、洗濯、料理と、家事に専念。諏訪零は手伝いません。まだ怒っているのか、不機嫌です。「俺たちはいつどこで野垂れ死んでもおかしくない。無責任に関わる方が可哀想なこともある。最後まで面倒見れないなら中途半端に手を出すな」と過去を思い出しながら語る来栖一騎。

聖なる夜でも仕事が待っています。喫茶店のマスターである九棋久太郎のもとへ行き、データを渡し、報酬は「いつもどおりアイツに」と多くを戻します。しかし、「彼女は受け取る気が無い」と九棋久太郎は呟き、溜まっていくばかりの封筒を示します。「いい加減切り替えたらどうだ?」とその背に声をかけられますが来栖一騎は何も言わずでていきます。

次のターゲットは人身売買組織の大物ブローカーで、ホテル最上階でクリスマスパーティーをしており、サンタの格好で潜入する手筈です。サプライズ演出のケーキを持ち運んで来栖一騎は諏訪零が隠れた台ごとエレベーターに乗ります。

しかし、そのエレベーターに目をキラキラさせた小さい女の子も乗り合わせ、想定外の事態に困惑。「サンタさん、お願い聞いてくれた? 早くパパに会いたいってミリ、お願いしたよ」と女の子は無邪気。その女の子が飛び出したのでプランは台無しになり、戦闘状態に。

会場は大混乱する中、ミリという子は人質にされてしまい、思わず来栖一騎は「俺がお前のパパだ!」と機転を利かせてその子を抱き上げてしまいました。

2人が暗殺したマフィアのボスの娘だとは知らずに…。

この『Buddy Daddies』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/01/05に更新されています。
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明らかな同性カップル・コーディング

ここから『Buddy Daddies』のネタバレありの感想本文です。

『Buddy Daddies』は、男性バディの殺し屋が海坂ミリという4歳の女の子を流れで育てることになる物語であり、前述したとおり、その表面的な図式からはまるで「ゲイ・カップルの子育て」のような雰囲気を漂わせます。

しかし、作中では2人に「同性への関心を抱く性的指向」があることを明示するシーンも、ほのめかすシーンすらもなく、むしろ異性愛的な演出の方が目立つくらいになっています。とくに来栖一騎は「女好き」という設定になっており、冒頭でも(あくまで仕事ですが)女性とベッドを共にするセクシャルなシーンがあったり、客接待商売する女性たちと仲がいいことを映し出すシーンが幾度となく挟み込まれたり、女付き合いがいいことを自称してみせたり、かなり露骨です。

来栖一騎と諏訪零が同居しているのも、諏訪零のマンションに来栖一騎が居候しているだけだと第1話でハッキリ示されます。

とは言え、海坂ミリを日常社会で育て始めるパートになっていくと、この3人の“家族”は明らかに世間からは「同性カップルの親子」として認識されているはずです

親戚や友人関係で子育てをすることもあるでしょうが、肝心の海坂ミリが「一騎パパ」「零パパ」と明確に呼んでしまっているので、2人の父親がいるということはオープンになっています。

結果的に本作は「同性カップルの親子」が世間に溶け込んでいく姿を丁寧に描いている作品としてポジションを獲得しています。パパであることをしだいに隠さなくなり、慣れない子育てのあれこれに悪戦苦闘したり、ママ友と馴染んだり、育児分担で揉めたり…。

「困ったときに助けるのがパパ」だと海坂ミリが言い切るセリフからもわかるとおり、この本作における父親の定義には、血縁や戸籍などは一切関係が無いことになっています。

なので『Buddy Daddies』は確かに「同性カップルの親子」ストーリーとして一定のエンパワーメントがあるという効果は否定できません。

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角を立てないようにしている行儀の良さ

ただし、ここまで「同性カップルの親子」というコードを作品内でメインで用いていながらも、『Buddy Daddies』は「同性愛」という本題の領域には絶対に触れません

作中の言葉を借りるなら「いろいろ事情がありまして…」であり、別に普通に「あ、ゲイ・カップルなんですよ」と言った方がまだ殺し屋業関連の事実上の誘拐がバレずに済むので良いだろうに、そこには意地でも言及しないんですね。

また、差別描写のようなかたちでも同性愛には絶対に言及しませんし、かといって直接的な肯定もないという状態が続きます。何よりも2人の間に生じうる恋愛や性的関係をしっかり排除したうえで、世間体的には幅広くウケがいい「育児」の要素だけが展開されます。育児するなら感動的だし、社会に貢献しているので、それ以上は不問ですと言わんばかりに。

この本作の暗黙の態度がすごく「日本作品」って感じがします。日本社会にあるホモフォビアのひとつのかたちというか、「多様性は借用するけど、角を立ててはいけない」というお利口な姿勢というか…。

もちろん他者に性的に惹かれない人もいるし、恋愛や性的関係が介在しない同性カップルの子育てもありうるのですが、本作の場合は意図的に避けているとしか思えません。しかも、露骨に異性愛描写を入れることで、「安心してください」とマジョリティにはアピールがバッチリで、言ってしまえば嫌悪感を与えないようにしていますよね。

つまり、本作はあからさまに異性愛規範マジョリティ向けに気を付けながら作られています。作り手がどこまで自覚しているのかは不明だけど…。

加えて、本作はそこに「育児賛美」みたいな規範的な匂いがちょっと強くて、「子への愛」は絶対的な社会の価値だと言って憚りません。そこでダメな例として配置されるのが、諏訪零の父親と、あと海坂ミリの母である海坂美咲です。とくにこの海坂美咲は悪い母親像としてあまりにベタであり、好きな男に甘く、おまけに癌という悲劇同情的な設定まで付け加えたり、コテコテな女性のステレオタイプ全開で…。

それに対して、来栖一騎と諏訪零が海坂ミリに「実の父を殺して流れで引き取っただけ」という真実を隠したまま接しているという、完全にグルーミングな行動については、わりと最後まで問われずに終わってしまい、本作はそこに関してはかなり自己批判が弱いですよね。ドラマ『THE LAST OF US』とは真逆の倫理観とも言える…。

『Buddy Daddies』みたいな「多様性は借用するけど、角を立てませんよ」というお行儀のいい作品が今後も日本のアニメ界隈で量産されるのは、あまり見たくない風景ではあります。そんな作品よりもまだレトルトハンバーグの方が美味しいです。

『Buddy Daddies』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
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関連作品紹介

日本のアニメシリーズの感想記事です。

・『とんでもスキルで異世界放浪メシ』

・『ブルーロック』

・『吸血鬼すぐ死ぬ』

作品ポスター・画像 (C)KRM’s HOME / Buddy Daddies製作委員会 バディ・ダディズ

以上、『Buddy Daddies』の感想でした。

Buddy Daddies (2023) [Japanese Review] 『Buddy Daddies』考察・評価レビュー