ティーンスピリット
映画『ティーンスピリット』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Teen Spirit
製作国:イギリス・アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年1月10日
監督:マックス・ミンゲラ

ティーンスピリット

あらすじ

イギリスのワイト島で、母子家庭で育った内気な少女ヴァイオレットは、地味で退屈な世界から自分を解き放ってくれる音楽を心のよりどころに生きていた。ある時、有名な人気オーディション番組「ティーンスピリット」の予選が地元で行われることを知ったヴァイオレットは、歌手になる夢をつかむため、オーディションに挑む決意をするが…。

『ティーンスピリット』感想(ネタバレなし)

陰キャ少女も歌を歌う

2019年のカンヌ国際映画祭で最年少審査員を務め、今や“大御所”感さえ漂わせる若手女優“エル・ファニング”。そのカンヌのある日のパーティでは、最中に“エル・ファニング”が貧血で倒れ、姉の“ダコタ・ファニング”に連れられて会場から出るという一幕もあったようですが、後にインスタグラムで「Oops, ドレスがきつくて、あと生理中だったから…でも大丈夫!(意訳)」と気楽に写真をあげてコメントするなど、自由な若者らしい一面も見せていました。やっぱりこういう物事の重大な中心の舞台で役割を担う顔ぶれの中に“若い人が普通にいる”のって大事ですね。

そんな“エル・ファニング”の楽しさ(fun)にファン(fan)になってしまった“える・ふぁんふぁんふぁん”な人にとっては見逃せない映画がまたも公開されました。

それが“エル・ファニング”主演の本作『ティーンスピリット』です。

“エル・ファニング”と言えば、『マレフィセント』シリーズで王道のプリンセスを演じたりしつつ、最近は『ネオン・デーモン』での狂気、『パーティで女の子に話しかけるには』での奇抜、『ガルヴェストン』での苦悩など、インパクト強めの役も挑戦していますし、『メアリーの総て』では実在の人物も演じました。

今回の『ティーンスピリット』はそういうわかりやすいパンチはなく、どちらかといえばミニマムな役柄を演じています。具体的には普通の田舎の少女という感じ。しかも、内気…いや、あえてスラングで言えば世間的には“陰キャ”だと言われてしまうような、そんなティーンを演じています。“エル・ファニング”本人はファンならご存知のように“陽の中の陽”みたいな完全な陽性キャラなのですけど、なぜか映画で演じる役はやたらと影を背負ったキャラが多いです。なぜなんだろう…。

そして『ティーンスピリット』はそんな陰キャ少女が歌手デビューするために勇気を振り絞ってオーディション番組に出る!…という、簡単に言えばそういう物語です。

似たような作品だとインド映画の『シークレット・スーパースター』がありましたけど、あちらは男性的な社会からの脱却というフェミニズムな直球のストーリーでしたが、この『ティーンスピリット』はもっとパーソナルな声を上げられないひとりのティーンの解放の物語といったところ。まさにタイトルどおりですね。


ということで“エル・ファニング”は歌を歌いまくります。なんでも本人が歌を歌う作品にどうしても出たくて自ら出演を熱望したのだとか。そういえば姉の“ダコタ・ファニング”も『ランナウェイズ』で歌っていましたね。

ここまでの話を聞くと本作に対して、テンションの上がる青春キラキラなガールズ・ストーリーを期待するかもしれませんが、全然違います。むしろ真逆。なにせ主人公は陰キャ少女。ひたすらに暗いです。物語も地味であり、ミュージカル的な右肩上がりのメリハリのあるドラマ性もなく、「思っていたのと違う!」と怒る人もいるかも。だから事前に書いているわけですが、でもそこが本作の魅力であり、静かに歌が人生の扉をゆっくりとこじ開けるさまを楽しんでください。

監督は“マックス・ミンゲラ”というイギリスの俳優で、最近だとドラマ『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』で有名でした。この『ティーンスピリット』で監督デビューだそうです。

また日本の宣伝では、『ラ・ラ・ランド』に携わった製作の“フレッド・バーガー”と、音楽の“マリウス・デ・ヴリーズ”が関わっていることもあって、『ラ・ラ・ランド』スタッフ再結集!と大々的に謳っているのですけど、さっきから書いているように全然トーンの違う映画なので勘違いしないように。

音楽はエレクトロニックなミュージックが多めで、このへんはiPod世代な若者感があります。

あと“エル・ファニング”以外の俳優陣だと、『プッシャー』でおなじみの“ズラッコ・ブリッチ”が出演しており、予想外の組み合わせを見せています。また、『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』にも出ていた“レベッカ・ホール”も登場。ただやっぱりほぼ“エル・ファニング”がメインですね。

“エル・ファニング”のファンであればマストで鑑賞するとして、あまり派手派手ではない落ち着いたティーンの成長ドラマが好みの人も必見だと思います。

オススメ度のチェック
ひとり◯(俳優ファンは超必見)
友人◯(イギリス映画好き同士で)
恋人◯(恋愛要素はほぼないけど)
キッズ◯(かなり地味ですが)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『ティーンスピリット』感想(ネタバレあり)

どんより少女の歌は届くか

『ティーンスピリット』の舞台はイギリスの「ワイト島」です。たいていの日本人ならどこ?という疑問が沸きますが、イギリスの地図をイメージしてください。その一番南の真ん中に実は小さな島がポツンと接するようにあって、それがワイト島です。ヴィクトリア女王が好んだ避暑地で「オズボーン・ハウス」が存在し、リゾート地としても今も有名であり、主要な産業は観光。

ただまあそうは言っても基本は田舎。観光以外の島を成り立たせる産業はやっぱり酪農になります。

本作の主人公「ヴァイオレット・ヴァレンスキー」は父が出ていったために母親のマーラと二人暮らし。家は畜産で生計をたてており、牛や羊、鶏の世話をしては町で卵を売る…そんな日々。17歳であり、学校にも当然通っていますが、どうも同級生の輪にすんなり加わるタイプではありません。学校の友人も少なく、いつもひとりで過ごしていました。

そんなヴァイオレットにとっての心の拠り所は「歌」です。どんよりとした空の下でも、通学のバスの中でも、曲を聴くことで自分を保つことができます。また、夜には近くのパブでポツンと歌ったりもしていました。静かに淡々と…。

今日もパブで歌い終えるヴァイオレット。拍手してくれたのはひとりのおっさんだけ。そもそもパブ内は閑古鳥が鳴くというか、これが日常なんだろうというくらい人が全然いないのですが。

外に出ると、見知らぬおっさんが近づいてきて話しかけてきます。明らかに不審者と思われてもしょうがない佇まいですし、鬱陶しいように立ち去るヴァイオレット。しかし、学校の生徒を避けたい本能の方が勝ってしまったため、その男の車に乗って家まで送ってもらうことに。名前は「ヴラド」だそうで、クロアチア出身で元オペラ歌手なのだとか。自分の歌を意外なかたちで評価してくれる人物の登場に内心は嬉しさもあったヴァイオレット。

また通学のバス。ヴァイオレットが窓から目にしたのは、「ティーンスピリット」の看板広告。昨年の優勝者がプロデビューを果たしたことでも話題で、人気もある公開オーディション番組。その予選がなんとワイト島で開催されるらしく、これはチャンスなのではないかと気持ちが揺れ動きます。

自分がもし歌手になれたら…そんな妄想にひとり自室でテンションがあがるヴァイオレット。無論、他の子たちも同じ考えです。

いざ参加してみると夢を胸に集まった同年代の子たちがいっぱいいました。お腹に番号の紙をつけて、集団で踊り、発声し、審査が始まります。最初はこうやってふるい落とされるようで、途中で肩に手を置かれ、どんどん脱落者が出てきます。しかし、懸命に頑張っていたヴァイオレットはなんだかんだで残ることができました。

これで安心はできません。次の審査です。ステージの前にひとりで立たされ、暗がりの奥に審査員の3人が表情もわからずこちらを見ている中、歌唱しなくてはいけません。無我夢中で歌いきるヴァイオレット。

音楽の世界を知るヴラドの助けもありがたいものです。母にヴラドを紹介し、なんとか彼と一緒にトレーニングに励むことに。だんだんと自信がついてきたような、そうではないような…。

ついに最後の審査。思い切って歌い、結果発表。残ったのは3組。まず一組が脱落。残るは自分と「ANGEL X」という子だけ。そして結果は…。

ヴァイオレットはまたもやバスの窓から「ティーンスピリット」の看板広告を見ます。今度はそれが外されている光景を。彼女の気持ちは再び沈んでいました。いつもの日常です。代り映えしないルーチンワーク。起きて、家の手伝いをして、学校に行って、帰ってきて、また家の手伝いをして、寝る。

ところが思わぬ転機が舞い込んでくることに…。

ティーンスピリット

楽曲から伝わる本音

『ティーンスピリット』は言わずもがな楽曲の存在は大事です。選曲した“マックス・ミンゲラ”監督もまた34歳ですから若いということもあって、歌われるポップ・ソングも20代後半から30代、それ以上の年齢には親しみやすい身近なポピュラー曲ばかり。

最初に耳に入るのはGrimes「Genesis」。歌詞のとおり、まさに退屈な島暮らしでヴァイオレットの心が何も感じられない状態になっていることを直球で表現しています。この静かさからの開始がすごく本作のストーリーに一致している感じ。ああいうヴァイオレットのキャラじゃないと、この曲をスタート・ソングには絶対に選びません。

対するヴァイオレットがオーディション番組で歌手になれるかも!と心を弾ませて、実際に髪を振り乱しノリノリになっている(自分の部屋の中だけ)シーンで流れるのは、No Doubt「Just A Girl」。『キャプテン・マーベル』でも印象的に使われていましたね。先ほどの「Genesis」とは正反対の曲であり、いかにヴァイオレットの現実と理想の自分が全然違うかをよく示しています。可愛い女の子になりたいわけでもない、ただ自分の好きなように外に出て好きなことがしたい、そんな叫びが部屋の中だけで展開される。孤独な反抗期。

しかし、地元のバーではTegan and Sara「I Was A Fool」をか細く歌うことしかできない。ひとりカラオケとかワイト島にもあれば良かったのにね…。

審査の場で初めてスポットライトを浴びながら歌うのはRobyn「Dancing On My Own」。ここで初めてエモーショナルな歌声を見せていきますが、それでもまだ探り探りな感じです。内容も失恋ソング的に見えますが、決して気持ちが敗北モードで沈んでいるわけでもなく、負けてなるもんか!というパワーをヒシヒシと伝える曲。この作中のヴァイオレットの立ち位置にぴったりです。ここから私の逆転劇が始まるぞ、と。

続いての審査では雰囲気をガラッと変え、歌うのがEllie Goulding「Lights」。衣装も変わっていき、ステージ演出も変わることで(これは番組が本ステージになったからですが)、ヴァイオレットの着実な進化がここまで来たことを見せつけています。今まで卵だった存在がついに孵化したように。

しかし、結果は厳しいものに。けれどもさらなるチャンスをゲット。新しい希望を胸にロンドンへ。そのステージの冒頭で参加者全員で歌うのは、Owl City & Carly Rae Jepsen「Good Time」。ここまでヴァイオレットの音楽趣味を見ていると薄っすらわかりますが、これはたぶんヴァイオレットの趣味じゃない。だからなのかすごくヴァイオレットのテンションも低め。いかにもパリピな曲ですもんね。

じゃあ、ヴァイオレットは自分のパフォーマンスで何を歌うのか。そこで満を持して歌われたのがSigrid「Don't Kill My Vibe」
You shut me down, you like the control
あなたは私を黙らせる、コントロールするのが好きなのでしょうね
You speak to me like I'm a child
子どもに話しかけるように馬鹿にしたような話し方で
Try to hold it down, I know the answer
私はただ我慢している、だって明らかだもの
I can't shake it off and you feel threatened by me
拭い去れない、もう私はあなたに屈しない
自分をバカにしてきた世間に向けるヴァイオレットの渾身のソング・スピーチのようなものです。黙りたかったわけではなく、静かにさせたお前らに従っていただけであり、それも今日で終わりだという高らかな宣言。

この曲を歌えた時点でたぶんヴァイオレットは自分の中で鎖がとれたのではないかなと思います。たとえオーディション番組に勝利できなくても。

リアルな業界の裏側

『ティーンスピリット』は業界裏側モノとしてもかなりリアルにやろうとしています。

イギリスにも「Britain's Got Talent」みたいなタレント発掘番組がありますし、たぶんそういうのをモチーフにしているのでしょう。そんな番組にどれくらいの若者が夢を持っているのか、正直、私は感覚として知りません。日本もアイドルがガンガン育成されていますし、そんな感じと同じなのかな。

ただ本作におけるその番組描写は極めて、こうなんというか、抑えられているというか、静かです。ああ、確かに番組の製作の裏側なんてこんなものだろうな…という納得があります。あくまで仕事の一環ですし、淡々と進められるだけ。

でもそこに夢をかけている少女がいる。何も世間を知らない若者たちが芸能界の入り口に立って、浮かれたり、混乱しているさまをすごく変な味付けをせずにリアルに描いているのは新鮮です。

確かにちょっとサクセスストーリーとしては出来過ぎですが、よく考えればまだ初心者になっただけというスタートラインです。これからどうなるかはわかりません。それはこの映画では語られない話です。

“エル・ファニング”もあえてボソボソとしか喋らず、歌も抑えるという、逆に難しいんじゃないかというキャラに合わせて見事にフィットしていました。個人的には家に番組取材班が来た時、ニワトリを持って写真撮影しているのがツボ。

『フラッシュダンス』(1983年)にも通じる音楽デビュー物語ですが(同作から曲も引用されていました)、徹底して“陰”のキャラがろくにコミュニケーションもできない中で自分のペースで階段を半歩ぐらいの速度で進んでいくことを描く。それだけでもじゅうぶん個性的だったと思います。

本来はキャラ設定どおりポーランド系の俳優を起用するつもりでもあったそうで、そのバージョンも観てみたいですね。今回はどうしても“エル・ファニング”のPVという印象は拭えませんから。きっとまた違った作品になるだろうな。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 72% Audience 60%
IMDb
6.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

関連作品紹介

“エル・ファニング”の出演作の感想の一覧です。

・『パーティで女の子に話しかけるには』


・『メアリーの総て』


・『ガルヴェストン』


作品ポスター・画像 (C)2018 VIOLET DREAMS LIMITED.