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『14の夜』感想(ネタバレ)…お前がカッコ悪いのは、たぶんおっぱいのせいだ

14の夜

お前がカッコ悪いのは、たぶんおっぱいのせいだ…映画『14の夜』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:14の夜
製作国:日本(2016年)
日本公開日:2016年12月24日
監督:足立紳
14の夜

じゅうよんのよる
14の夜

『14の夜』物語 簡単紹介

1987年の田舎町。日々、性への妄想を膨らませるタカシら4人の中学生たちは、町に1軒だけあるレンタルビデオ屋でAV女優・よくしまる今日子のサイン会が開催される話題で頭がいっぱいだった。自分たちにとって究極の性の女神であるそんな存在がこの身近に現れるなど、夢にもみていなかった。しかも夜12時に行けばおっぱいを吸わせてくれるとの噂もあり、まだ見ぬ女性の胸への憧れに駆り立てられる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『14の夜』の感想です。

『14の夜』感想(ネタバレなし)

現実の青春なんてこんなもの

人間の三大欲求…それは食欲、睡眠欲、そして性欲です。一応、そんな話がまことしやかに語られます。

そのうちの性欲のパワーは凄まじく、映画もインターネットも性欲のおかげで発展したと言っても過言ではない…そんな話がまことしやかに囁かれています(私がその話を信じているわけではないですよ)。

そんな性欲が覚醒し、人によっては頭の髪の毛の先から足指の先まで全てが性欲に憑りつかれる時期…「思春期」。その思春期真っ最中の男子中学生を描いた映画が本作『14の夜』です。公式の宣伝文句をそのまま借りるなら「性春讃歌」。まさにそのとおりの作品になっています。

監督するのは、不器用でどん底生活の中でくすぶっていた女性がボクシングを通して変化していく姿を描いた女性版『ロッキー』邦画バージョンともいえる『百円の恋』で第39回日本アカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞した脚本家“足立紳”。本作が監督デビュー作となります。

しかし、最もフレッシュなのは監督ではありません。ひときわ初々しいのは、主人公となる男子中学生たちです。彼らを演じた“犬飼直紀”、“青木柚”、“中島来星”、“河口瑛将”の主演4人はオーディションで選ばれた新人。昨今の大手の青春邦画は、10代の役でも年齢が20代を超える俳優が演じていたりして、しかも若手でも実力のある人だったりします。それはそれで演技は上手いし良いのですが、青春特有の生っぽさはどうしても欠けてしまいがち。その点、本作の4人は、演技の青臭さがそのまま役とシンクロするのでベストマッチしています

ダサくて、カッコ悪い、そんな“エモさ”がいっぱい。でも、現実の青春なんてこんなもの。キラキラ眩しく輝くこともないけれど、これもまた生臭い青春映画なのかもしれません。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『14の夜』感想(ネタバレあり)

一番青臭いのは誰だ

すでに称賛したとおり、新人“犬飼直紀”・“青木柚”・“中島来星”・“河口瑛将”が演じる主人公の男子中学生4人、大山タカシ・多田ミツル・岡田サトシ・竹内剛はとても素晴らしい存在感でした。それぞれが事情を抱えていて、決して強い友情があるわけでもなく、とりあえず同じ部活、そして「おっぱい」というキーワードでまとまっているこの感じ。この頃の少年少女は皆こんなものでしたよ。

ほんとにただただ未熟な4人ですが、本作は、この4人だけでなく、ほぼ全ての登場人物に未熟さが見られます。それは大人キャラも例外ではありません。

細かいキャラだと、脇役で最初に登場するレンタルビデオ屋の店員として「ち○ぽの皮がむけてない」男(演じるのは『SR サイタマノラッパー』でおなじみの“駒木根隆介”)とか、良かったですね。

しかし、本作の最強未熟キャラはタカシの父・忠雄でしょう。飲酒運転接触事故で自宅謹慎となった高校教師という、自分の唯一の威厳であっただろうキャリアを失った彼は、まさに空っぽ。その彼を演じた“光石研”は本作のベストアクターだと思います。公式サイトのキャストページの“光石研”の画像ですら、情けなさが漂うものが使われている、この扱い。『シン・ゴジラ』で東京都知事を演じていた人と同じとは思えない…。

“光石研”無双が炸裂する、娘が連れてきた婚約者との夕食の一幕はとにかく痛々しい。「俺はこれから反抗期だぞ!」や、「お前がカッコ悪いのは父さんのせいじゃないぞ、お前自身のせいだ」という迷言製造機と化していました。

観てる分には最高に楽しいですね(こんな父親ほんとに嫌ですが)。

「おっぱいを揉めるか」で人生を語る

『14の夜』を観て思い出すのは吉田大八監督の『桐島、部活やめるってよ』です。

あの作品は映画部のボンクラ少年たちと運動部系のイケてる少年たちが描かれていたわけですが、本作はその間の語られていなかった影の奴らがいた!という作品といえます。おそらく『桐島、部活やめるってよ』を観て、あの映画部の少年たちでさえ輝いているほうだとボヤいていた人は、本作はドンピシャだったのではないでしょうか。劇中でタカシがまさに「俺たち、なんの売りもないんだよ」と発言しているとおり、モテるクラスターでもなければ、モテないけど何かに情熱を注いでいるクラスターでもない。その自分たちの中途半端さに「あいつらには勝ってたと思ってた、なんか抜かされた気がする」と気づいてしまったタカシ。しかも、その視点が「おっぱいを揉めるか」なのが虚しい(あんな幼なじみがいるだけじゅうぶん恵まれている気もしますが…)。

そのタカシが、思春期の中の自分や周囲をしだいに俯瞰していく…というのが本作のストーリーだったように思います。

怖がっていた不良グループのリーダー・金田も「おっぱい吸ったのか!どんな味だったんだよ!」と言っちゃうような“おっぱい野郎”だったし、暴走族というさらなる強者に怯える弱者でした。大人だって自分の父以外にも男も女もダメな奴ばかり。でも、現実なんてそんなもの。あなたが毎日のオカズにしているような「1000年に一度の童顔巨乳」であろうとウンコをもらしてパンツを洗ってもらった過去があるのです(キャラと俳優を混同している文章)。

よくしまる今日子の偽サインビデオは、タカシを予想以上に大人に成長させました。そんな夜を描いた爽やかな性春讃歌ムービーでした。

きっと、おっぱい揉めるよ。まあ、それでも父親と同じ奴にしかなれないかもしれないけれど。そうなりたくなければ“おっぱいの呪縛”から抜け出さないとね。

『14の夜』
ROTTEN TOMATOES
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IMDb
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作品ポスター・画像 (C)2016「14の夜」製作委員会 14のよる

以上、『14の夜』の感想でした。

『14の夜』考察・評価レビュー