野性の呼び声
映画『野性の呼び声』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Call of the Wild
製作国:アメリカ(2020年)
日本公開日:2020年2月28日
監督:クリス・サンダース

野性の呼び声

あらすじ

裕福な人間の家で飼われていた犬のバックは、ある事情から大自然が広がるアラスカにやってきてしまう。そこはこれまでの環境とは全く異なる弱肉強食の世界。しかし、地上最後の秘境アラスカで地図にない土地を目指し、ひとり旅する男ソーントンとの出会いが大きな運命へと導く。かけがえのない相棒となっていくが、バックの耳には遠吠えが聞こえていた。

『野性の呼び声』感想(ネタバレなし)

この小説を知っていますか

多種多様な品種がいて私たちに人間のパートナーになっているたち。そんな犬の祖先はオオカミだというのはじゅうぶん認知されていると思います。オオカミが犬になっていくきっかけとなる大昔の人間との最初の付き合いを描いた『アルファ 帰還りし者たち』という映画もありました。


逆に犬がオオカミに戻るということはできないのですが、犬の中にはやはりオオカミであった頃のDNAなのか、野生の本能が顔を出す瞬間があります。

え、うちの犬、ストーブの前でぶざまに寝っ転がっているだけで野生味なんてこれっぽっちもないよ。まあ、そういう飼育犬もわんさかいるでしょうけど、やっぱりペットであっても犬は元オオカミなんです。過去の歴史は消えません。

そんな話題に関連するものとして、人間社会に慣れきった犬が野生へと目覚めていく…という姿を描いた超有名な小説があります。それが「ジャック・ロンドン」という作家によって1903年に執筆された「野性の呼び声」という中編小説です。アメリカの文学を代表する一作であり、とても知名度の高い作品で、日本語訳も定期的に出版されているので、図書館を探せば何かしらあるでしょう。

動物好きの私にとってお気に入りの小説のひとつで、この感想ブログの名前も「野性の呼び声」にちなんだ名称にしようかと考えて結局やめたことも実はありました(昔の話)。

「野性の呼び声」という小説の文学的価値などに関しては、私のような素人ではなく研究者たちの素晴らしい論考や分析を見てもらってほしいのですが、今回は映画の話です。

この「野性の呼び声」はさすがアメリカ文学代表作なだけあって、これまで何度も映像化されています。1908年、1923年、1935年、1972年、1997年、2009年…日本では1981年に『荒野の呼び声 吠えろバック』というタイトルでアニメ化もされました。ちなみに同じくジャック・ロンドンの著作で「野性の呼び声」の次に発表された「白牙」という作品(こちらはオオカミが犬になっていくお話)も映像化されており、最近『ホワイト・ファング アラスカの白い牙』としてNetflixでアニメ映画も配信されましたね。


で、「野性の呼び声」に話を戻しますが、2020年、またしても名作が映画化されることに。それが本作『野性の呼び声』です。

製作しているのは「20世紀フォックス」あらため「20世紀スタジオ」です。ディズニー吸収にともない、名前を変えて最初の一作が本作となります。ちなみに、1935年の「野性の呼び声」映画化の際の配給が「Twentieth Century Pictures」だったので(まだフォックスと合併していない)、奇跡的な偶然です(いや、狙ったのかな…)。せっかくなら「20 Century Pictures」とロゴ表示してほしかったけど、さすがに無理か…。

製作会社はもういいのです。大事なのは監督。本作の監督はあのアニメーション映画『ヒックとドラゴン』でおなじみの“クリス・サンダース”なのです。人間とドラゴンの友情をダイナミックな映像&ストーリーで綴ったあの作品で感動した人も少なくないと思います。そんな“クリス・サンダース”監督が実写に挑戦。そしてこの『野性の呼び声』はものすっごく『ヒックとドラゴン』っぽくなっています。しかも、音楽も『ヒックとドラゴン』と同じ“ジョン・パウエル”ですからね。もう限りなく犬版『ヒックとドラゴン』ですよ。いや、あの『ヒックとドラゴン』自体が「野性の呼び声」を意識した作品だったとも言えるのですが…。


主演は“ハリソン・フォード”で、日本の予告や宣伝では初老の男が犬と大冒険する話のようにガンガンとアピールしていますが、ハッキリ言ってそういう映画ではないです。というか、“ハリソン・フォード”の演じる役は物語の後半からメインで登場するのであって、登場人物のひとりに過ぎません。

あくまで本作は犬が主人公。『僕のワンダフル・ライフ』と同じ。まあ、『野性の呼び声』の方の犬はモノローグで喋らないですけど。

子どもも楽しんで満喫できます。一方で日本ではディズニー配給なせいもあって、子ども向け作品だと誤解されている感じもありますが、原作小説のとおり人生と向き合う深みのある物語です。本作は原作小説のエッセンスもしっかり含まれており、個人的には歴代映像化の中では最も原作に忠実でバランスの良い着地なのではないかなと思います。

とにかく犬好きにはたまらない一作ですので、犬ファンと一緒に映画を楽しみ、家に帰ったらいつも以上に犬を愛でてください。

オススメ度のチェック
ひとり◯(原作小説との比較も面白い)
友人◯(犬&動物好きと一緒に)
恋人◯(気軽に楽しめる映像体験)
キッズ◎(動物好きの子は大興奮)

予告動画






↓ここからネタバレが含まれます↓





『野性の呼び声』感想(ネタバレあり)

ここはどこ、私はだれ…

19世紀末、カリフォルニア州のサンタクララ。温暖な気候で、平和な街並みが広がるこの場所は最高に居心地がいいのです。自転車を追いかけたり、廊下を走ったり、ベッドで飛び跳ねたり、階段を駆け下りたり、今日もひとしきり運動しました。あとは食事かなとキッチンに行くと、なぜか外に追い出されてしまいましたが。

私は誰かって? 私は「バック」。ミラー判事の家で暮らしています。このミラー判事は2本足で立っており、他の人も2本足で歩いたりしていますが、私はもっぱら4本足が好みです

庭にいたウサギを追いかけ、穴に突っ込んでみたけど捕まえられず、やっと用意された食事のテーブルで飯にありつき、みんなに交じったら、変な顔されるし…。愛嬌あると思われているのかな。

平凡な日常を繰り返す、とある夜。庭で寝ていたら、突然、謎の男たちに誘われ、まんまと箱に閉じ込められ、どこかへ連れていかれてしまいます。どういうこと? 説明なしです。列車に揺られる中、棍棒を持った赤いセーターの男が捕まっている箱を壊したのですが、その棍棒で容赦なく殴ってきます。痛い。少し唸ってみたのですが、やっぱり怖いので何もできませんでした。

けれども、力だけなら負けない自信があります。隙をみて力業で鎖を解き、階段を上って暗い狭い部屋から脱走すると、そこは船の上。目の前には雄大な大自然が広がり、これまでいた環境とまるで違う世界でした。どこだここ…?

紐で引っ張られながらウロウロと周りを見ていると、白いものが地面にいっぱいあって、なんか歩きにくい。それが空から降ってきていることを発見し、とりあえず食べると案外と美味しいのでした。

そして、あれよあれよという間にまた見知らぬ人のもとに。他にも自分と同じ4本足仲間がたくさんいて、なにやら「そり犬」とか言うらしいです。意味がわかりません。

そうこうしているうちに何かを装着させられ、4本足仲間のみんながいきなりダッシュ。私はびっくりしてまごついていると、後ろからそりが押してくるので、もう走るしかない状況です。よそ見をしてそりごとコースアウトしてしまいました。

彼らと旅するうちにだんだんと理解してきました。どうやら町から町へとモノを運んでいるみたいで、そりを使ってこの雪深い場所を進んでいるようです。そしてそのそりを引くのが私含む4本足仲間の仕事のようです。なんですか、意外に簡単ですね。ただ、先頭でそりを引っ張るリーダー格の「スピッツ」は他の者に厳しく、厄介です。しょうがないので他の者に私の水や食べ物を与えてあげましたが、内心は不満です。

夜。私はウサギを発見、追いかけます。今度は調子が良いのか、捕まえることに成功。もちろん殺す理由もないので逃がします。でもスピッツがそのウサギを横取りして捕まえ殺してしまいました。自然と睨み合うことになる私とスピッツ。揉み合いの喧嘩に発展し、他の者たちも固唾をのんで見守ります。最初はノックアウトされましたが、再び立ち上がり、私はスピッツを圧倒しました。負けたスピッツは夜の森の闇の中へと消えていきました。

翌日から私はそりを先頭で引く係として率先して働きます。

そして私はわかってきました。私は「犬」という生き物なのだということを。

それにしても時々自分にだけ見えているあの私によく似た「存在」は何なのだろうか…。

野性の呼び声

実は人間が演じているバック

今回の2020年版『野性の呼び声』。その一番の特徴は主人公犬バックがフルCGで描かれていることです。しかも、かなりキャラクターとしてデフォルメされた犬になっており(とくに表情や仕草)、それこそ『ヒックとドラゴン』で主人公の相棒になるトゥースというドラゴンとそっくりです。

ここが本作の評価を大きく分ける最大のポイントであり、ちょっと誇張しすぎじゃない?という意見も頷けます。とくに序盤の家でのハチャメチャな暴れっぷりは、セントバーナードという犬種の一致もあって(厳密には『野性の呼び声』のバックはセントバーナードと牧羊犬の雑種だけど)『ベートーベン』という映画を思わせますね。

それ以降のシーンでも、慣れない大自然での悪戦苦闘っぷりや、氷に落ちてしまった人を救出するくだりのオチといい、良く言えば親しみやすい、悪く言えばチープなユーモアセンスが目立ちます。

なお、バック以外のそり犬は、『白雪姫』の七人の小人を参考にキャラ付けがされているみたいです。

この点に関しては好みの問題なのですが、私としては「野性の呼び声」という現代の子どもが読むにはハードすぎる古典に親近感を持ってもらうにはこれくらいのアレンジは許容範囲かなと受け取りました。

それにやはり今の時代の倫理的にも、かつての映像化のように本物の犬を使ってあのような大自然の過酷な環境で撮影するのは厳しすぎますからね。アニマル・ウェルフェアに反する以前に、普通に命を落としかねないですから。『レヴェナント 蘇えりし者』の撮影時だってディカプリオが死にかけていましたし、ディカプリオがヤバいなら犬だって死にますよ、そりゃあ(なんだその理論)。

ちなみにバックを含む犬たちはCGですけど、だからといって楽して作っているわけではありません。バックのキャラクターを創造するにあたって、ちゃんとモーションキャプチャーの人が演技をしています。今作でバックを担当したそのモーションキャプチャー・アクターが“テリー・ノタリー”という方でこの分野では有名ですのでぜひ知ってほしいです。最近だと『キングコング 髑髏島の巨神』のコング、『アベンジャーズ』シリーズのグルート、さらには『ザ・スクエア 思いやりの聖域』で会場をドン引きさせるパフォーマンスをしたあの人を演じた方です。

ありふれた犬だって、色々な人が手間暇かけて生み出しているのです。

動物モノはこの監督に任せよう

犬の描き方のわざとらしいアニメーション化の問題はさておき、2020年版『野性の呼び声』は個人的には歴代映像化作品の中では最も原作に忠実でバランスの良い着地だったと思いました。

何よりもしっかり犬に焦点を定めているのがいいですね。これまでの過去作だと、例えば1935年の「Twentieth Century Pictures」作品版は、バックは出てくるは出てくるのですけど、人間側の物語軸が目立っており、男女のロマンスなんかが挟まれます。人間の美男美女恋愛なんて完全に犬は蚊帳の外になってしまうところです。これはつまり、作り手も「犬ではちょっと作品が持たないな…」と思っているからなんじゃないか、と。

でもそもそもこの「野性の呼び声」という原作小説は、当時の「動物なんてたいして人間的な意思や感情を持っているわけないだろう」という人間的偏見にあえて挑戦する一作でもあったわけで、やっぱり映画でもそこは犬を信頼すべきだったと思うのです。

そんな数々の過去の映像化の欠落が気になる経緯がある中で、本作です。今回はあえてデフォルメ化ということまでしてでも、犬を主人公にするぞ!という作り手の熱意がビシバシ伝わってきて、私はそこでもう「ああ、この映画は原作に応えているな」と納得できました。原作リスペクトです。

また、原作にあったハードな厳しさの面も、逃げたりせずに描いていました。どうしても犬が暴力を振るわれるシーンを描かないといけないのですが、描写もありますし、人間社会と自然の怖さも両論併記できていましたし。

あとやっぱり“クリス・サンダース”監督の持ち味だなと思うのが躍動感ですね。バックが初めて先頭でそりを引き、雪崩を回避するシーン。さらにはソーントンとの川下りシーンなど、随所で映像と音楽の合わせ技による興奮がズカーン!と観客にぶつかってくる。これぞ、“クリス・サンダース”監督演出ですよ。

基本はセット撮影で、背景はブルーバックなのですが、あの川下りシーンでちょっとした小さな滝を下りる場面がありますけど、あれはメイキングを見るとわかりますが、本当に実際にやってみせているんですね(スタントパーソンですけど)。迫力だすべきところはリアルでやるあたりの適材適所もいい感じ。

加えて、“クリス・サンダース”監督のカタルシスのための伏線積み重ねも効いています。バックが力だけが取り柄だということを、序盤のあのアホ犬っぷりや、船内での拘束解除で自然に見せているわけですから。バックが自分とオオカミの共通項を足跡で自覚するくだりといい、説明的でない見せ方も上手いし…。アニメーター贔屓するわけじゃないですけど、やっぱりアニメ畑の人が実写映画を撮るとスマートな語り口でありつつ、ダイナミックさもあって、本当に上手いな、と。とくに「野性の呼び声」には“クリス・サンダース”監督がハマりすぎでしたね。相性が抜群。

本作を観て気にいった人はぜひ原作小説も読んでみてください。

あ、でも、犬を自然に放したりしないでくださいね。本作では美談になっていますけど、実際にやると自然破壊ですし、外来種になってしまいますから。野犬は深刻な問題の原因になります。

犬はやっぱり人間社会で愛でる生き物であり、時々野生気分を味わえるようにストレス発散させてあげてください。

ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 63% Audience 90%
IMDb
6.9 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2020 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED. 野生の呼び声 ザ・コール・オブ・ザ・ワイルド