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ドラマ『絶叫パンクス レディパーツ! We Are Lady Parts』感想(ネタバレ)…ムスリム女性で、けいおん!

絶叫パンクス レディパーツ!

ムスリム女性で、けいおん!…ドラマシリーズ『絶叫パンクス レディパーツ!』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:We Are Lady Parts
製作国:イギリス(2021年)
シーズン1:2022年にスターチャンネルで配信
原案:ニダ・マンズール
人種差別描写 恋愛描写

絶叫パンクス レディパーツ!

ぜっきょうぱんくす れでぃぱーつ
絶叫パンクス レディパーツ!

『絶叫パンクス レディパーツ!』あらすじ

ロンドンに住む真面目な理系学生のアミーナは、実はギターが好きだったが、子どもの頃のトラウマ、そしてムスリムゆえに音楽はハラム(禁忌)だとする周囲の意見もあって、その音楽愛を心の奥に封印していた。しかし、ひょんなことからムスリム女性だけで構成されているパンクバンド「レディパーツ」でリードギターをやらないかと誘われる。憧れの男性とデートできるかもという下心でその提案に乗ってしまうが…。

『絶叫パンクス レディパーツ!』感想(ネタバレなし)

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ムスリム女性でも、バンドやろうぜ!

私は映画だけでなく海外ドラマにも目を光らせていて、海外メディアを眺めつつ、「ああ、こんなドラマシリーズがスタートしているのか~私もこれは観ておきたいな~」と要注目作品を見つけてはチェックリストに加えていっています。でも中には日本では全然観れる気配のない作品もあって、モヤモヤしたりも…。映画だと扱う配給会社も多く、その気になれば海外ディスクに手を出す手段もあったりするのですが、ドラマシリーズはちょっと厳しかったりもする…。

そんな中、ここ最近、「このドラマ、絶対に観ておきたいな」と目を付けていた作品がいよいよ日本で配信されて「やったー!」と有頂天になっていました。

それが本作『絶叫パンクス レディパーツ!』です。

『絶叫パンクス レディパーツ!』の原題は「We Are Lady Parts」。このドラマは出発点が少し変わっています。もともとはイギリスの「チャンネル4」の番組『Comedy Blaps』の中で「コメディのパイロット版を作って、面白いと好評だった作品だけシリーズ化される」という企画があり、この『絶叫パンクス レディパーツ!』のパイロット版となる第1話が2018年にお披露目されたのでした。そして見事に『絶叫パンクス レディパーツ!』で」シリーズ化が決定。コロナ禍というトラブルもありましたが、2021年にシリーズが本格的に放映。さらに、これが大絶賛。「Rotten Tomatoes」では100%の批評家スコアを当然のように叩き出し、英国アカデミー賞(BAFTA)TV部門ではコメディ分野の作品賞、脚本賞、女優賞を含む6部門にノミネート。文句なしの喝采を浴びました。

新作の中でも初々しさは突出していた『絶叫パンクス レディパーツ!』がここまで傑作と褒められまくっていたら、それは私も気になるもんです。嬉しいことに日本では「スターチャンネル」で配信・放映が始まり、基本はいつでも見られるようになりました。

このドラマ『絶叫パンクス レディパーツ!』、どんな内容なのかと言えば、簡単に説明するなら要は「バンドもの」です。具体的にはパンクですけど。

バンドなんて今さら普通だけど…と思うかもですが、本作は主人公たちが全員「ムスリム女性」であることにオリジナリティがあります。「ムスリム」というのはイスラム教徒のことです(アラビア語では女性は「ムスリマ」と呼ぶらしいですけど、アラビア圏以外ではたいていはムスリムだけで統一表記される)。

世界ではムスリムへの偏見はいまだに根強いです。なんだか閉塞的で正体の見えない怪しい宗教だとか、テロリストなんだとか、そんな差別的なイメージがこびりついています。

ドラマ『絶叫パンクス レディパーツ!』は、イギリスのロンドンが舞台で、そこで暮らしている等身大の若いムスリム女性がパンクバンドを組んで世の中に自分たちの声をぶつけていく。その姿はまさしくステレオタイプをぶち壊すパワーがあり、「ムスリム女性をナメんなよ!」という叫びが爆発。とても気持ちのいい作品です。

とは言っても基本はものすご~くゆるいコメディで、ストーリーも王道です。謎めいた殺人事件が起こるわけでもなく、ヴィランが世界を混沌に陥れるわけでもなく、マルチバースでハチャメチャなことが起きるわけでもない。ムスリム女性たちが集まってわいわいがやがやしているだけ。ムスリム女性版の『けいおん!』みたいなものですよ(『けいおん!』に例えるのは古すぎるかなと思ったけど、ボリューム的にも一番『けいおん!』がしっくりくると思う)。

ただ、この『絶叫パンクス レディパーツ!』の主人公の女性たちはティーンじゃなくて20代ですけどね。そこもいいなと思います。バンドって日本だとどうしても10代の青春という印象が強く、それを社会人になってもやっている人は「大人になれていない」とバカにされたりするじゃないですか。この『絶叫パンクス レディパーツ!』はそういう蔑視は全然ない。社会人でも女でもムスリムでも「バンドやろうぜ!」の前提で突っ走ります。

コミカルでパロディも満載。もちろん音楽ネタもあるし、ムスリムをいじる笑いもたっぷりで、恋愛やクィアな要素もあり。ファッショナブルな見どころも。気楽に観れる最高のエンターテインメントです。

ムスリムの女性を題材にした映画は『ハラ』などがありましたけど、『絶叫パンクス レディパーツ!』は一気に3段飛ばしくらいで階段を駆け上がった感じがしますね。

欠点があるとすれば短いということですよ。『絶叫パンクス レディパーツ!』はシーズン1で全6話。1話あたり約25分しかないので、2時間程度の映画一本を鑑賞するくらいの感覚。正直、もっとあの愛すべき主人公たちの七転八倒を眺めていたい。本作を観ればそう思うほどに熱中するはずです。

日本語吹き替え あり
寿美菜子(アミーナ)/ 高垣彩陽(サイラ)/ 戸松遥(アイーシャ)/ ニケライ ファラナーゼ(ビズマ)/ 豊崎愛生(モンタズ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.0:気分爽快でシャウトしよう
友人 4.0:音楽バンドもの好き同士で
恋人 4.0:異性&同性ロマンスあり
キッズ 4.0:軽音楽好きな子に
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『絶叫パンクス レディパーツ!』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『絶叫パンクス レディパーツ!』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):レディパーツに入ろう!

ロンドンで両親と暮らすアミーナは26歳のムスリム。大学院で微生物学を学んでいます。今、彼女は自宅で両親に挟まれてぎこちなく笑顔を浮かべています。目の前にはお見合い相手の男性とその両親。アミーナは現在婚活の真っ最中なのです。

母はベタベタと娘を触って褒め、「ギターを弾いてみたら」と気軽に持ちかけてみます。しかし、アミーナはそれを全力で拒絶。しまいには父は歌い出す、母もノリノリで、最悪の居心地でした。

一方、別の場所。「レディパーツ」というバンドが活動していました。サイラはリードボーカル&ギターで、ハラル肉店で豪快に肉を切る肝っ玉の持ち主。アイーシャはドラムで、普段はUberのドライバーであり、ウザい客には轟音で攻撃します。モンタズはマネージャーで、ランジェリーショップでセクシーな下着を気恥ずかしそうな客にもガンガン売りつけます。ビズマはベースで、スプラッタな漫画創作に夢中であり、血について恍惚と語るそのオタクな口ぶりは一般客を容易くドン引きさせます。

この4人が集まれば最高のパンクバンド…と言いたいところですが、どうも音が薄い気がする…。そこでリードギターが必要ということになり、募集のためにチラシを作ってオーディションすることに。

そんなことも知らず、アミーナは部屋で悶々としていました。実はアミーナは子どもの頃からギターが好きです。隠しているがギターへの想いはしっかりクローゼットの扉の裏にこびりついており、ドン・マクリーンの写真が輝いています。でもギターはやめることにしたのでした。

アミーナの友達であるノールなどはどんどん結婚していくばかりでストレスと焦りが蓄積。アミーナはむしゃくしゃしてギターを弾き語る妄想で発散しようとしますが、ダメだと自分を自制。

そんなボーっとした気分で外を歩いているとアッサンが通りがかります。アミーナにとって理想的な男性です。彼はチラシを配り歩いており、そこにいるのかと思って向かってみます。

しかし、そこにいたのはギタリストを待つレディパーツの面々。サイラは気づきます。アミーナは小学生のタレントショーでギターを弾いていたあの子ではないか。とにかく弾いてみてとギターを渡され、アミーナは逃げるように立ち去るのでした。

4人は諦めずにアミーナを探します。アミーナはとある会場に降り、子どもたちにギターを指導していました。みんな土壇場で緊張していて「ソロなんてできない」と言うので、ステージ横の見えない場所で弾いてあげます。素晴らしい音色。聴衆がうっとりする中、レディパーツの一同に正体がバレてしまい、ステージに注目を浴びます。

するとアミーナは盛大に嘔吐。人前では緊張して吐いてしまう体質でした。そう、これが私…。

しかし、サイラは目を輝かせます。「彼女が私たちのギタリストだ」

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この5人が揃っただけで100点

『絶叫パンクス レディパーツ!』はやはりキャラクターの魅力が最高です。これは本作にとっても大事なこと。なにせムスリム女性と言えば非当事者の人は大概はワンパターンしか想像できないことも多い中で、主人公たち5人の全く個性も容姿も異なるレプリゼンテーションを一挙に達成し、「こんなに多様なんだ!」と示しているわけですから。

レディパーツのリーダーでリードボーカルであるサイラは、かなり攻撃的でイカつい目つきをしている、いかにもパンクを体現する女性という感じ。ハラル肉店で働いているという設定もぴったりで、食品を扱うと言っても全く女性らしさがないこの肉解体の作業で、このサイラの個性が一発提示されています。演じている“サラ・カミーラ・インピー”もカッコいいです。

ドラマーであるヒジャブをつけたアイーシャは、アイメイクの効果もあってひときわ音楽性にも鋭さがありそうですし、弟のアッサンを顎で使っているあたりもその性格が垣間見えますが、作中ではザリーナと交際し出してデレ始めるというギャップで愛嬌も見せてくれます。演じている“ジュリエット・モタメド”はほぼこれが本格的なドラマデビューですが、いきなり当たり役すぎますね。

ベース担当のビズマは、なんと夫と娘がいる家庭持ち。こういう役柄をしっかり入れているのが本作の良いところです。禅を語りたがるスプラッター系の漫画創作趣味ありという、要素てんこ盛りすぎるのですが、そこも個性としてはこちらを楽しませてくれます。“フェイス・オモーレ”の演技もグッドです。

バンドマネージャーのモンタズは、ニカブを身に着けて全身は真っ黒で作中で全然素顔もわからないのですが、そんなの知るかと言わんばかりにクセが全開。ランジェリーを売る事業センスはバンドの広報にも活かされ、SNSを駆使する姿は一流のプロ並み。演じているのは“ルーシー・ショートハウス”。ネットで検索すればこんな顔の俳優だったのかとわかります。

そしてメイン主人公のアミーナ。このいかにも主人公らしい存在感、どっから見つけてきた!?と言いたいくらいにジャストフィット。微生物学の博士課程で、ギターの重度のファンということで、オタク属性が濃厚で、モテたがり、しかし極度のあがり症。もうなんかアニメのキャラかと言いたいほどの設定過剰ですが、それをなんなく違和感なくこなす“アンジャナ・ワサン”。これ以上のハマり役があるのか。

この5人が揃ったらそりゃあ楽しいに決まってますよ。俳優たちはバンド経験とかなかったらしく、ゼロから本作のために学んだそうですが、スキル云々よりもこの俳優たちが揃ったことによる化学反応でもうこのドラマシリーズは100点を余裕であげたくなりますね。

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吐いても気にしない!

『絶叫パンクス レディパーツ!』の原案は、パキスタン系ムスリム家庭出身のイギリス人である“ニダ・マンズール”という人。監督・脚本だけでなく、作中の楽曲も兄弟と一緒に書き上げたそうです。家柄的に音楽が身近にあったそうで、子どもの頃からギターを持っていたらしく、このドラマも“ニダ・マンズール”のプライベートな人生での経験が詰まっているのでしょう。

『絶叫パンクス レディパーツ!』の物語はド定番です。バンドに新しいメンバーが加入して、でも喧嘩して解散の危機になり、それでもまた一致団結して…そんなありきたりな流れ。

しかし、その中にはムスリム女性が体験するこの世界に対する不満とか怒りとか絶望とか、そういうものが全部凝縮しており、まさしくそれをシャウトして発散していく。それで実際に社会が変わるのかは知りませんが、とにかく叫ばせてくれ!という思いだけが爆発する。その方法も何も珍しくはないのですが、それを最も蔑まれてきたムスリム女性がやるから意味がある。そんなドラマです。

「私のヘッドスカーフの下にヴォルデモートがいる(Voldemort Under My Headscarf)」、「私の女きょうだいを名誉殺人できるのは私だけ(Ain’t No One Gonna Honour Kill My Sister But Me)」、「フィッシュ&チップス(Fish & Chips)」など、楽曲も強烈に攻撃的。

作中ではレディパーツは保守層白人いっぱいのパブであえてパフォーマンスをしたりして、あげくにはネットで大炎上して猛批判を受けます。ムスリムへの差別的な人はもちろん、同じムスリムのコミュニティからも恥知らずと見下される。

それでもレディパーツはやめません。自分たちをジャッジする世間の目なんて気にするな!というテーマは、マイノリティに対して普遍的に響くメッセージですが、それをムスリム女性たちが主体的に語れる時代が来たことは嬉しいかぎりです。

アミーナの両親が支援的だったり、ありきたりな家族の亀裂で終わらない『絶叫パンクス レディパーツ!』。学業も、恋愛も、音楽も、家族も、全部欲張っていこうという姿勢を応援する、シスターフッドな新時代バンドドラマが観れて幸せです。

『絶叫パンクス レディパーツ!』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 100% Audience 80%
IMDb
8.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)WTTV Limited 2021. ALL RIGHTS RESERVED. レディ・パーツ

以上、『絶叫パンクス レディパーツ!』の感想でした。

We Are Lady Parts (2021) [Japanese Review] 『絶叫パンクス レディパーツ!』考察・評価レビュー