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『ヴィランズ Villains』感想(ネタバレ)…バカップルの愛は悪に勝つ?

ヴィランズ

バカップルの愛は悪に勝つ?…映画『ヴィランズ』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Villains
製作国:アメリカ(2019年)
日本では劇場未公開:2020年に配信スルー
監督:ダン・バーク、ロバート・オルセン

ヴィランズ

びらんず
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『ヴィランズ』あらすじ

ミッキーとジュールスのカップルは犯罪をしながら愛を深め合う。今日も強盗して逃亡している真っ最中。新たなスタートを切るためにフロリダを目指していたが、思わぬトラブルが起きる。近くの家に侵入して車を盗もうとするが、家主の奇妙な夫婦に見つかってしまう。しかも、それだけでは終わらない予想外の事態に絶体絶命の恐怖を味わうことになる。

『ヴィランズ』感想(ネタバレなし)

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ホラー映画の枠を超えた異色のカップル

悪(ワル)に憧れる時期というのは誰にでもあるのかもしれません。

正義なんてダサい! 正しさの押しつけをするような行為は逆に良くない! ルールなんて従っていられるか! 自由を止めることはできない!…そんな反骨精神を履き違えて非行に走ってしまった若者も数知れず。当人にとってはそれは“カッコいい”と思っているのです。周りの目は見えていない…。

そういう状態にはないけれど、ヴィラン映画や犯罪映画に夢中になってしまっているのは同類なんじゃないかと思うと…。映画ファンは映像を観ながら心の中で暴走族やっているようなものです。なんだそれ、凄まじくショボいじゃないか…。恥ずかしい…。

悪を気取っていた黒歴史や現在進行形の醜態を自省したいなら、こんな映画はどうでしょうか。それが本作『ヴィランズ』です。

タイトルのとおり「villain(悪党)」ですからね。悪者たちがいっぱいでてくるのかと期待したいですが、確かに出てきます。正確には悪ぶることに酔いしれているカップルが主人公です。といってもやっていることはコンビニ強盗レベルのことで、雑極まりない。「ボニーとクライド」の全盛期の1%くらいの悪者度です。でも当人たちはやっぱり“私たち、悪で最高~!”ってな感じで有頂天。観ているこっちに羞恥心が伝染してきそうです。

ところがこの主人公カップルが狂気の極悪熟年夫婦の巣窟に立ち入ってしまって、さあ大変。そう、まさにちょい悪バカップルが本当の悪と向き合うことになって大慌てに陥るスリラーがこの『ヴィランズ』。構図としては『ドント・ブリーズ』なんかと同じですね。

『ヴィランズ』の場合はなにせ主人公カップルがどことなくアホなので、自然とコミカル要素が強いのが特徴です。もちろんバイオレンスな展開も容赦なく起きるのですが、なんでしょうか、この微妙な緊迫感のなさ。緊急事態宣言なのに遊びに行っちゃう人みたいな感じです。

この主人公カップルが織りなす空気感を楽しむのが『ヴィランズ』のオススメのツボですかね。笑うに笑えないけど笑ってしまう、コミカル・スリラー。ちょっと最近の映画だと『グリーンルーム』にも通じるかも。数多の作品を頂いてきたホラー映画ファンにはウケやすいはず。

監督・脚本は“ダン・バーク”“ロバート・オルセン”のコンビで、これまで『Body』(2015年)や『The Stakelander』(2016年)といったホラー作品を監督として手がけてきた人だそうですが、私はお初にお目にかかります。『ドルフ・ラングレン ゾンビ・ハンター』(2016年)などでは脚本だけをしていることもあり、プロデュース業もしているようです。まだ若いので今後もジャンル業界での活躍をしていくのでしょう。

作品の魅力を引っ張る主人公カップルを演じるのは、『IT イット』シリーズでペニーワイズを憑依したかのように怪演した“ビル・スカルスガルド”と、『イット・フォローズ』で得体の知れない“何か”に散々追われまくって大変な目に遭った“マイカ・モンロー”です。なんだこのホラー映画を飛び越えた異色のカップル…。この二人が交際している役を演じているというだけでもシュールさがあります。この男女が本気出したら町ひとつ簡単に恐怖のどん底に叩き落せるのに…。

他にも『ボーダーライン』シリーズや『テッド・バンディ』に出演していた“ジェフリー・ドノヴァン”、『ポゼッション』の“キーラ・セジウィック”も登場し、この二人もなかなかにヤバめなのでお楽しみに。

約88分とコンパクトな映画時間におさまっているので、気軽にスリルを味わいたいときに最適ではないでしょうか。スナック感覚でつまめるホラーです。

『ヴィランズ』は日本では劇場未公開で配信スルーとなりました。家から一歩も出ずに自宅で映画鑑賞会をするときはぜひこの本作を選択肢に入れておいてください。

戸締りは忘れずに。バカップルが侵入してくるかもしれないですからね。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(劇場未公開作もお見逃しなく)
友人 ◯(気楽に観られるスリル)
恋人 ◯(これでもカップル映画です)
キッズ △(犯罪&残酷が盛りだくさん)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ヴィランズ』感想(ネタバレあり)

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お邪魔してすみません、帰ります

ハトとユニコーンがガソリンスタンドで強盗しています。いや、正確にはハトとユニコーンの被り物を頭にすっぷり被った二人組が…です。どうやら男女らしく、それぞれの名前はミッキージュールスで恋人同士。手近なものを奪い取り、レジのカネも強奪。それにしてもずいぶん雑な犯行で、明らかにこういうことには慣れていない様子。それでも最後は捨て台詞を吐いて意気揚々と逃走していきました。

その場から車で立ち去った二人。車内では大盛り上がりです。大金を手に入れて絶叫しながら喜びを全身で表現する二人は、全く罪の意識がないらしく、楽しんだもの勝ち状態。ジュールスは気分も高揚して、運転中なのにカレシであるミッキーのアソコに顔を近づけます。

しかし、車の様子がオカシくなります。別に運転手であるミッキーが早々とイっちゃったからではないです。ガス欠です。

途端に困り果てる二人。こんな森の道路で停車なんて…。もうファックです。

割とパニックになりやすいのか慌てるミッキーをジュールスがなだめます。寝転がったミッキーの顔にジュールスの顔を合わせて、彼女の垂れ下がった髪で周りが見えなくなる…二人の独特なリラックス方法。「I love you」と確認し、とりあえず気分は冷静に。

すると天は迷えるカップルを見放していなかったのか、ふと道路の向こうを見ると郵便受けがあるのを発見。ということは家がある。役に立つものもある。二人はすぐさま近くの家を見つけます。どうやら落ち着いたオシャレな家で、車庫には自動車があることも確認。でも外からは開けられない。

誰もいないっぽいとテキトーな判断で、玄関ドアを開けようと奮闘。困ったらバールです。

室内に侵入すると、遠慮なしに物色。引き出しの中にビデオカメラを見つけるも放り投げるミッキー。そこにはとんでもない映像が映っているのですが気づきません。

ジュールスは思いっきりくつろぎ、二人はコカインをしてテンションアップ。他人との家(不法侵入中)ですが、キスで高ぶったことですぐにヤろうとするジュールスと、待て待てとやめさせるミッキー。どこでも基本はこんな感じなのかな。

家に地下室があることを見つけ、車のためにガソリン缶がないかと探索していると、しゃべるブラックバス(ビッグ・マウス・ビリー・バス)でびっくり。

なんだ、驚かせて…あれ、なんか少女がいる…。足に鎖、柱に繋がれている、綺麗な格好ではない。普通じゃない…。いや、どう考えても監禁されている…。

一瞬で浮かれ気分が吹き飛び、状況を理解しようと頭をフル回転させる二人。とにかくジュールスは放っておけないので女の子を助けたいと主張します。そこで一旦上の階に戻り、キッチンで道具を探すことに。

しかし、家主が普通に登場。ジョージグロリアという中年夫婦は、イーサンという名らしい赤ん坊を抱えていて、こっちを見ています。いきなりの一触即発にすかさず銃を向けるミッキー。とりあえず落ち着こうということで一同は座りますが、ミッキーは銃をおろさず、警戒モード。

あの監禁されていたように見えた少女はスウィーティーピーとかいうらしく、ジョージの話にすっかりペースを奪われる二人。それでもあの状態を黙って放置はできません。その少女の拘束をジョージに解かせます。「おいで、自由だ」と優しく促すミッキー。ところが隙をつかれてミッキーはジョージに倒されてしまい…。

目覚めるとベッドに拘束されているミッキー。ジュールスは少女と地下で拘束されています。

なぜかミッキーの前で音楽に合わせて官能的にランジェリー姿になるまで服を脱ぎだすグロリア。なんだこれ…とわけがわからないミッキーは謎の誘惑を受けつつも、股間に触れられて反応がないことに怒りだすグロリアに叩かれて首を絞められます。理不尽すぎる…。

ここは逆転のチャンスでは?と思いつき、あえてミッキーはグロリアを上手く誘って良いムードにして、タッチしたいと要求しつつ鍵を外させ、隙を見て投げ飛ばし逃走。けれども玄関前で銃を向けたジョージに追い詰められ、あっけなく発砲され、足を負傷。

ジュールスと仲良く地下室に拘束されてしまいました。

気楽に悪ぶっていたカップルが、狂った悪が滲み出る夫婦に勝てる手段はあるのか…。

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アホだけどピュアです

『ヴィランズ』の魅力はやはり主人公カップル。

冒頭から滲み出るアホっぽさがたまりません。強盗シーンではミッキーとジュールスはそれぞれハトとユニコーンの被り物を身に着けているわけですが、ハトは平和、ユニコーンは貞潔の象徴ですからね。これほどあの二人に似つかわしくないものはないでしょう。

その強盗シーンでも、レジがなかなか開けられなかったりと(そしてレジを開けられて大喜び)、こいつらバカなんじゃないかという印象を開始数分でしっかり観客に植え付けてきます。

序盤はひたすらにバカ騒ぎをしており、こんな二人が酷い目に遭っても観客としては“ざまあみろ”感にしかならない気がしてきます。

しかし、この二人、案外とピュアです。というか、健気に支え合っている感じがなんだかホッコリしてきます。

例えば、二人とも片方がパニックに陥った時は必ず見捨てずに優しくなだめてあげます。ガス欠時はジュールスがミッキーを落ち着かせ、地下で拘束された際にジュールスがミッキーの鍵だけ開錠するのに失敗した時(「oops…」)はミッキーがジュールスを落ち着かせます。随所に支え合いが見られるのです。きっとこの二人はいろいろな過去があって周囲から見放されたけど、この二人だけは二人三脚で頑張ってきたんだろうな…と想像させられ、なんだかアホだとバカにする気分も失せ、いつのまにか応援したくなります。

あとセクシャルな関係性も特徴的で、絶対に男であるミッキーの方からジュールスに強引に求めることはしないんですね。いつもジュールスからアタックしてきて「おいおいここでかよ」と言いながらもまんざらでもないミッキー…というのがいつもの光景(ジュールスはキス魔である)。このへんもこのカップルが男女のジェンダー支配構造に頼らずフェアに関係を構築していることが窺えます。

そのミッキーからは性を求めないというのが、後にグロリアに拘束されたミッキーが彼女を誘惑して出し抜くシーンの伏線になっているのも上手い演出です。

もちろんこのピュアさは、監禁された少女を助けようという決断にも繋がってきます。別にあの状況を把握した瞬間にすぐにあの家から脱出していればなんとかなったし、最後も少女を無視していれば二人とも助かったかもしれないのに…。でも見捨てることはできない。その動機の裏にはおそらくこの二人が抱えてきた恵まれない人生と、自分たちと同じ存在感への慈愛があるのかな。

やっぱりハトとユニコーンで正しかったんじゃないか…。

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あなたと一緒に行きたい

そんな悪ぶっているけど本当に愛に溢れるミッキーとジュールスに対して、『ヴィランズ』の真の悪であるジョージとグロリアという中年夫婦。こちらは主人公カップルとは対極的な存在です。

落ち着いた熟年の付き合いを感じさせるジョージとグロリアですが、その狂気はかなりの怖さ。

ただ、それ以上にこの夫婦はそんなに愛し合っていたのだろうかと思わせる一面も見え隠れします。明らかにグロリアは保守的な家庭観における“妻”像・“母”像に圧迫されており、望んだのに手に入らない子どもへの願望があの磁器人形への集約されてしまっていますし、そんなグロリアに対してジョージもちゃんと心の底からなだめて向き合うことはしなかったのではないでしょうか。

そう考えるとあのラストで少女に撃ち抜かれたジョージの遺体に寄り添うグロリアは、愛情を素直に捧げていますし、同時に支配的な夫からの解放にもなっているのでしょうね。

ミッキーとジュールスみたいな関係性を育んでいれば、あのジョージとグロリアにも違った運命が待っていただろうに…。

そんなシリアスな考察もできる本作ですが、中身の映像面はなんともマヌケな絵が連発。ジュールスの舌ピアス(tongue ring)を使って拘束を解くアイディアも、絵面として痛々しくもありつつ、どことないポッキーゲーム的なふざけた愛とバカさの両立みたいな空気も出ています。また、その後にジュールスだけがランドリーシュートを上にのぼるシーンでは、あからさまにアホっぽく見えるように映していますし…。

逃走が失敗し、ダクトテープぐるぐる拘束状態で食事の席に招かれる二人の敗北感も愉快で、その後にリベンジと言わんばかりに昏睡状態からコカインで覚醒する二人の、なんでしょうか、あの開き直りのようなスタイル。それで何をするのか、やっぱりハイになってるくらいだから凄い事するのかと思ったら、二人してカーテンの裏に隠れるだけですからね(しかも案外と有効)。

こんなしょうもない二人でも危機を乗り越えられるのですから、なんか元気がでてくる気がする。私もこんなバカップルとなら一緒に行きたいと言ってしまうかもしれない…。あ、まあ、強盗はしたくないですけどね。あれです、貝殻集めならいくらでも手伝いますよ。

『ヴィランズ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 84% Audience 78%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)2019 Villains Pictures, LLC. All Rights Reserved.

以上、『ヴィランズ』の感想でした。

Villains (2019) [Japanese Review] 『ヴィランズ』考察・評価レビュー