ワニ映画は台風に挫けない!…映画『クロール 凶暴領域』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2019年10月11日
監督:アレクサンドル・アジャ
ゴア描写
クロール 凶暴領域
くろーる きょうぼうりょういき
『クロール 凶暴領域』あらすじ
大学競泳選手のヘイリーは、疎遠になっていた父が、巨大ハリケーンに襲われた故郷フロリダで連絡が取れなくなっていることを知る。父を捜しに実家へ向かったヘイリーは、地下室で重傷を負って気絶している父を発見。しかしその瞬間、背後から何者かに襲われ、地下室の奥へと引きずり込まれてしまう。それは獰猛なワニだった。そして地獄が始まる。
『クロール 凶暴領域』感想(ネタバレなし)
日本にワニがいなくて良かった…
平穏な生活を求める人にとっては幸せであり、ワイルドな刺激を欲している人には物足りないかもしれませんが、この日本には「猛獣」と呼ばれる野生動物はそんなに生息していません。ヒグマとツキノワグマくらいです。でも身近でクマ出没の知らせを聞くような環境に住む人は不安でしょう。もしかしたらクマがいない場所に暮らしたいなとか思っているかも…。
でも世の中、意地悪なことにクマがいなければ別の猛獣がいたりするのがオチです。そう、例えば「ワニ」とか…。
日本では幸いなことにワニは分布していませんが、世界ではワニのいるところは意外に多く、アフリカ、インド、東南アジア、オーストラリア北部、北米南部、中米、南米北部と主に赤道付近の一帯に広く生息しています。たぶん日本列島がもう少し南に位置していたらワニ・アイランドになっていたでしょう。
私たち日本人はワニをよく知らないので勝手なイメージを抱きがちですが、ワニは人を襲うのでしょうか?「WORLDWIDE CROCODILIAN ATTACK DATABASE」によれば、世界中で毎年1000人程度がワニによって殺されていると推定されています。え、そんなに!と驚愕するでしょうが、でも水辺で溺れる確率の方が圧倒的に多いので、極端に恐れることではないです。ワニだって人間を積極的に襲いまくるシリアルキラーみたいなことはしません。
ただ、実はこうしたワニのいる地域ではワニが人間の生活環境に出没することが多々あるようです。公園、庭先、プール…そんなところにワニがデン!といたらびっくりですよね。それでなんとなく気にせずに隣人気分で共存できたらいいのですけど、偶発的にアクシデントが起きて、人間が襲われる…“食べられる”こともないではない…。それがワニのいる世界の日常。
そんなワニを題材にした映画は昔から存在します。サメ映画ほど一大フィーバーしてはいませんが、ワニ映画も歴史があります。『悪魔のいけにえ』でおなじみのトビー・フーパー監督がハリウッドに進出して最初に手がけた『悪魔の沼』(1977年)とか、アメリカ映画の『U.M.A レイク・プラシッド』(1999年)とか、オーストラリア映画の『マンイーター』(2007年)とか。『ランペイジ 巨獣大乱闘』もワニ映画でいいのかな…。
その作品供給不足気味だったワニ映画史に、自信をもってオススメできる新たな名作が誕生しました。それが本作『クロール 凶暴領域』です。
本作は監督がフランス人の“アレクサンドル・アジャ”。彼はもともとバイオレンス描写がきつめのホラー系を手がける監督で、ハリウッドにも早くから進出するも、そのあまりの過激なゴア表現から一部の作品では公開中止騒動が起こるくらいの人でした。そんな“アレクサンドル・アジャ”監督を映画マニアの間で一躍有名にしたのは2010年の『ピラニア3D』です。観た人なら忘れられない、バカ・エロ・グロの3拍子が揃ったピラニア・パニック映画であり、カルト的な人気を博しました。
これだけ聞くと“アレクサンドル・アジャ”監督はB級映画寄りの人なのかなと思うのですが、そうではなく、絵的には痛快でゴリゴリのジャンル映画なのですけど、ドラマ面は意外にしっかりしているんですね。だから案外と『ピラニア3D』もギリギリB級にはならない絶妙のバランスで立たせている作品でした。
その“アレクサンドル・アジャ”監督は『ピラニア3D』以降は『ホーンズ 容疑者と告白の角』や『ルイの9番目の人生』といったファンタジー要素のあるミステリーサスペンスを作り、新境地を見せていました(まあ、『ホーンズ 容疑者と告白の角』は3割くらいはヘビ・パニック映画でしたけど)。
しかし、『クロール 凶暴領域』を引っさげてついに“アレクサンドル・アジャ”監督がいかにもハリウッド的なモンスター・パニックのジャンルに帰ってきました。しかも、製作は“サム・ライミ”ですよ。これはもうクオリティは保証済みですね。
実際、ひたすらワニが襲ってくる映画ながら良質なドラマも兼ね備えており、ゆえにB級映画的な残念な落とし穴に陥ることなく、批評家評価も上々。雰囲気としては最近のサメ映画の中でもとくにスタイリッシュで出来が良かった『ロスト・バケーション』を彷彿とさせます。なお、相変わらずゴア描写がキツイのでそこは覚悟してくださいね。
ちょっと日本では公開日に大型台風が近づいてしまって映画の世界とシンクロしてはいますが、まあ、日本にはワニはいませんから、ワニがいないことのありがたみを感じながら、友人や恋人と鑑賞してみてください。もちろん台風が一番危険なのでそこは最大の警戒をして…。
オススメ度のチェック
ひとり | ◎(じっくりスリルを体感) |
友人 | ◎(ワニ・トークで盛り上がる) |
恋人 | ◎(ハラハラドキドキして) |
キッズ | △(ワニが好きなら) |
『クロール 凶暴領域』感想(ネタバレあり)
ワニがいる地域の日常
『クロール 凶暴領域』の舞台はアメリカのフロリダ州。アメリカ南部のこの地域はワニの棲みつく場所としても有名であり、アメリカアリゲーターやアメリカクロコダイル(アメリカワニ)が実際に生息しています。
フロリダ大学で水泳選手として活躍するヘイリーは、幼少の頃から父デイヴの熱血指導のもと水泳を学んでいたために泳ぎに関しては相当な腕前。しかし、その父とは家庭の事情もあって今は疎遠な状態でした。それが気がかりになっているのか、水泳の記録が上手く伸び悩み、自分の納得いく結果をだせずに今日もプールを後にします。
その頃、フロリダにはカテゴリー5の巨大ハリケーンが接近中。すでに独立して暮らす姉妹のベスは心配して電話をしてきますが、なんでも父と連絡がとれないのだとか。土砂降りの中、避難勧告のためにゴーストタウン化しつつある街を車で運転して抜け、父がいるはずの住居に到着するも、そこにいたのは飼い犬のシュガーのみ。
犬と一緒にかつて家族で過ごした懐かしの家へ向かいます。悪天候はさらに酷くなる一方。家に入ると電気はつかず、父の名前を呼ぶも家にも周囲にもいません。しかし、犬が吠える声が聞こえ、地下の階段を発見。降りてみると、狭い地下室は水漏れでかなり荒れており、這って進みます。するとその奥で血痕を発見したとほぼ同時に倒れている父と遭遇。息はありますが、酷い怪我を負っていました。
とにかく連れ出さなければと、シートを下にして父の体をひきずっていると、何の前触れもなく巨大なワニが出現。襲いかかってきます。水中ではない場所、しかも階段をぶち破ってのワニ出現は観客の意表を突きますね。
なんとか鉄パイプがワニの行く手を邪魔する場所に逃げ込んだはいいものの、完全に足止め状態。意識を取り戻す父に安心するも、地下室から逃げ出せません。ヘイリーはワニから無我夢中で逃げる途中で落としてしまったスマホを拾って救援を頼むべく、ワニの徘徊する地下空間に勇気を出して単身またも侵入します。
ところが予想外が連続。なんとワニは2匹いました。そう、この家、ワニワニ・ハウスだったのです。挟み撃ち状態でパニックになり、スマホもワニに踏みつぶされ破壊。今度もまたも追い詰められ、父とさえもはぐれてしまいます。
ワニは出入り口で出待ち。雨水がどんどん流れ込み浸水してくる地下室は水没するのも時間の問題。作戦を必死に考えていると、ふと隙間から外を見ると向かいのガソリンスタンドに火事場泥棒3人がいるじゃありませんか。あ、こいつら死んだな…とだいたいの観客が悟る中、ヘイリーは懸命にライトで合図を送るも、あえなく泥棒3名はワニの餌食に。最強の防犯じゃないか…。
今度は警察2人がボードで近くに接近。ヘイリーと父はとりあえず手当たり次第に音を立てて知らせようとするのですが、やはりワニは容赦なかった…。というか外にめっちゃたくさんのワニがいることが発覚。入れ食い状態でワニが釣れそうです。
もう頼れる助っ人はいない。それを悟った二人は合流し、このワニたちと戦う覚悟を決めるのでした。
父と娘、極限状況下でのワニとの水泳勝負が始まります。
ワニ・ファン、感激の映像
『クロール 凶暴領域』はワニ映画としてお手本みたいな出来で、もう個人的には惚れ惚れする感じ。“こういうのを待っていた!”と手を叩いて喜びたい気分です。
『ピラニア3D』の“ピラニアっぽい狂暴魚”と違って今回の『クロール 凶暴領域』はちゃんとリアルなワニです。なのでワニの生態に則した描写に基本はなっており、そこが大きな感心ポイント。
例えば、使っていなかった家の地下がワニの住処になっていた!…なんてありうるのかと思いますが、自然界のワニは鳥みたいに巣穴を土や枯草を使って作る習性があります。鳥もたまに人間の家に巣作りするのと同じように、ワニだって最適な環境さえあれば人間の家の地下を使って巣にするのはじゅうぶん考えられます。
作中のあの地下室は「地下室」と呼んでいますけど、厳密には「crawl space」といってその名のとおり這って(crawl)いかないと入れない地下空間のことで、物置としての実用性は控えめ。たぶんですけど、フロリダはもともと浸水しやすい立地なため、ある程度の浸水に備えてああいう地下空間を保有している家が多いのかもしれないですね。
“巣”に入り込んだ外敵がいればワニが全力で排除しようとします。しだいに水没していくというシチュエーションは『ロスト・バケーション』でも見られるモンスター・パニックの定番ですが、ワニは水陸どちらでもいける。その恐怖が十二分に伝わる映画でした。
『クロール 凶暴領域』はワニ映画の中でもなかなかない映像も見せてくれます。印象的なのはヘイリーが一直線の排水管を通って近くの水場に出るシーン。水面に浮かぶ巨大ワニを下から見上げるショットという、かなりレアな映像で、ワニ・ファンにはたまらないですね。
ワニの攻撃もあの手この手。サスペンスとしての見せ方も上手く、ジワジワと痛めつけるように傷つき、後半になると“アレクサンドル・アジャ”監督のゴアがここぞとばかりに炸裂。ヘイリーの父の片腕が食いちぎられ、危機感MAX。そしてワニ・ファンお待ちかねの「デスロール」…獲物を噛んでぐるぐるワニが体を回転して回す、ワニといえばコレという名物技。それを最後に持ってくる、このサービス精神。わかってる、わかってるな~、この製作陣。
もちろんだからこそ人間側がどう勝つかという点も見物。このへんもジャンル映画的な面白さに溢れており、ドライバーでグサグサ、レンガでボコボコ、そこからの銃を持った腕を丸ごと噛まれながらの口内発砲ですよ。いや、これはきっとキアヌ・リーヴスもやりたかったんじゃないか。あと、やっぱり発煙筒って大事だなって思いました。はい。
そんなエンタメ性も抜群ながらラストのワニを倒すのはハリケーンの濁流。獰猛な野生動物でも大いなる自然には敵わないという崇高な結末。この帰着もすごく良いですね。
家族関係を改善するワニの意味
『クロール 凶暴領域』のドラマ面も素晴らしかったです。
登場人物はヘイリーとその父という、超最小構成。でもそれがしっかりワニというキーワードを軸に上手く化学反応を起こすというスマートなストーリーテリング。
まず冒頭の水泳場面からして掴みがバッチリ。本作の題名の「クロール(Crawl)」は泳ぎの「クロール」と引っかけた言葉遊びになっているわけですが、それだけでなく、物語面でもシンクロしていきます。
作中の大半でフィールドとなる例の地下室。天井が低いので這って移動するしかなく、まだ何も起きていない序盤はヘイリーも慣れない“ハイハイ”に悪戦苦闘しています。でもこの移動体勢こそワニと全く同じ。そしてワニに襲われれば、ワニが有利なのは当然です。
しかし、地下がどんどん水没して、家の周囲全体さえも水に覆われます。普通は人間にとって最悪のコンディションであり、ワニの天国です。でもワニは知らない。この娘父にとって水場こそ唯一の能力を開花できる環境だということを。つまり、水が溢れれば溢れるほどヘイリーにとってワニと互角に戦える場が整う。そしてついに水泳バトルが展開する。この従来のモンスター・パニックでは不利になっていくはずのフィールド変化を、真逆に扱った本作は斬新でした。
また、娘と父という関係性もワニと重なります。というのも、ワニは爬虫類の中でもかなり社会性が強く、家族関係を大事にする生き物なんですね。ヘイリーは父母が離婚し、姉妹のベスも赤ん坊がいて、既存の家族がバラバラになっています。そんなとき、昔から家族の在り方を守り続けるワニと向き合う(そんな生易しい感じではないですけど)ことで、家族の信頼を取り戻すというのは、すごく生物へのリスペクトもあるストーリー性だと思います。ワニを単なる怖い動物として描いていないわけですから。
『クロール 凶暴領域』の最大のツッコミは、主役二人の生命力が強すぎるところですかね。あの父も出血多量で最後も気を失わないのが不思議ですし、ヘイリーにいたってはデスロールを受けても生存していますからね。でも、ヘイリーを演じた“カヤ・スコデラリオ”によって、非常に魅力的なヒロインが生まれました。バスルームに閉じ込めたワニに「Come on ! サノバビッチ!」って言い放てるんですからね。
私もワニと泳ぎ合戦では勝てないけど罵声を浴びせるくらいはできるようにしておこう…。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 82% Audience 75%
IMDb
6.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
以上、『クロール 凶暴領域』の感想でした。
Crawl (2019) [Japanese Review] 『クロール 凶暴領域』考察・評価レビュー