ホワイト・ヘルメット
ドキュメンタリー映画『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The White Helmets
製作国:イギリス
製作年:2016年
日本では劇場未公開:2016年にNetflixで配信
監督:オーランド・ボン・アインシーデル

【個人的評価】
 星 8/10 ★★★★★★★★
 

あらすじ

政権側と反体制側の内戦が2011年から続くシリアにて、人命救助に奔走する民間のボランティア団体で、ノーベル平和賞の候補にもなった「民間防衛隊」、通称「ホワイト・ヘルメット」の活動に密着。自らの命を危険にさらしても人々を救う彼らの過酷な実状を浮き彫りにする。

“撮った”というだけでも衝撃

2017年4月6日、アメリカはトランプ大統領の許可により、シリアの空軍基地を標的に巡航ミサイルを発射しました。これはシリアのアサド大統領が主導したという疑いがある反政府派支配地域への化学兵器攻撃の報復措置ということになっています。

そんな渦中のシリアでは、空爆が日常茶飯事です。今回のアメリカもたびたび政権側への攻撃として空爆を実施していますが、政権側も反体制地域へ連日のように爆弾を降らせています。

当然ながら民間人への被害も甚大ではなく、「21世紀最大の人道危機」とも呼ばれ、シリアが難民の最大の発生地となっている主因です。

その空爆で瓦礫に埋もれた人を救助している団体に密着した短編ドキュメンタリーが本作『ホワイト・ヘルメット シリア民間防衛隊』。第89回アカデミー賞で短編ドキュメンタリー映画賞を受賞したことでも注目を集めました。

本作で主題となっている、民間人を救助している団体、通称「ホワイト・ヘルメット」。さぞ称賛されているのかと思いきや、反政府側に偏っているだとか、アルカイダとつながりがあるだとかで、プロパガンダ的だとして一部で非難する声も実はあります(詳しくはネットで検索するといくらでもでてきますが…)。

そうしたネット上の喧喧囂囂を、本作は吹き飛ばせるだけのパワーを持っている…私は本作を観てそんなふうに感じました。

とにかく映像の衝撃度が半端じゃない。よく撮ったなと唖然。というか、カメラマンの人、これひょっとして死んでしまっているのでは?と思うほどです。若干40分の映像ですが、これだけ濃い40分はそうそうないでしょう。

少なくともネットで雑文も書き流している私のような人間には、ホワイト・ヘルメットの人たちの姿は、どんな映画のヒーローよりもヒーローに見えましたが…。

皆さんはどう思うかは、実際にその目で観て確認してみてください。本作はNetflix配信です。






↓ここからネタバレが含まれます↓





フィクションが消し飛ぶリアル

感想を書きたいのは山々なのに、本作の衝撃を言葉にするのはとてつもなく難しい…。自分の語彙力のなさが恨めしい。

よくある食事中の光景かと思いきや、軍用機の飛行音と空爆の轟音とともに部屋を駆け出すホワイト・ヘルメットの人たち。活動するホワイト・ヘルメットの人たちの目の前に着弾する爆弾。粉塵と吹き飛ぶ人間。瓦礫から救出される生後1週間の赤ん坊。

映像自体は断片的で、決して巧みな編集ではないのですが、映像力ひとつで持ってかれてしまう。まさに映像が全てです。

こういうのを見てしまうと、ほんと、映画のフィクションが霞みます。こうした体験は、アメリカ同時多発テロの世界貿易センタービル倒壊などでも感じましたが、フィクションがリアルに負ける瞬間です。これから映画は何を描けばいいのか、映画をどう観ればいいのか…考えてしまいます。

ともあれ、ホワイト・ヘルメットの真っすぐな姿勢には心打たれました。「相手がどんな人であろうと家族と思って救助する」など言葉がいちいち響きます。

ホワイト・ヘルメットのモットーは「1人の命を救うこと、それは全人類を救うこと」というイスラム教聖典コーランの一節だそうです。悪いイメージを持たれがちなイスラム教ですが、もちろん全くもってそんなことはない。

彼らが誰から支援を受けていようが、元は何をしていた人だろうが、そんなのは関係ない。“偽善”では決してとれない行動なのは疑いようがない…それは映像でこれでもかと伝わってきます。

最近の「ヒーロー論に悩むアメコミヒーローたち」もぜひお手本にしてくださいよ…。

ホワイト・ヘルメット

本作を手がけたオーランド・ボン・アインシーデル監督。2015年には『ヴィルンガ』という、コンゴ民主共和国のヴィルンガ国立公園におけるゴリラの保護活動に密着した長編ドキュメンタリーを製作しています。こちらもなかなかの衝撃映像です。

それにしても、商業的成功が重視される昨今の映画業界、本作のようなドキュメンタリーは厳しい立ち位置にありますが、それを先頭で引っ張ってくれているのが、「Netflix」という商業的成功を果たした新鋭企業であるというのも、新しい時代になったなぁ…としみじみ。

今後も頼みます、Netflix。日本にもこういう大企業、現れないかな…。

(C)North Kivu Film Production Ltd. 2016