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『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』感想(ネタバレ)…タイ洞窟救出の奇跡

THE RESCUE 奇跡を起こした者たち

潜ることに人生を捧げた人間たちは誰かを救えるのか…ドキュメンタリー映画『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち(ザ・レスキュー タイ洞窟救出の奇跡)』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:The Rescue
製作国:アメリカ(2021年)
日本:2021年12月にDisney+で配信、2022年2月11日に劇場公開
監督:エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ、ジミー・チン

THE RESCUE 奇跡を起こした者たち

ざれすきゅー きせきをおこしたものたち
THE RESCUE 奇跡を起こした者たち

『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』あらすじ

2018年6月、タイを襲った豪雨によって水没した洞窟の奥深くに12人のサッカーチームの少年たちとコーチが閉じ込められてしまう。この事態を受けて、世界中からダイバーや救急救命の専門家が救出活動の支援のために集結する。しかし、度重なる豪雨が、ただでさえ危険な救出作業をさらに困難にしていく。誰もが絶望的な結末を想像したタイ洞窟遭難事故に挑んだダイバーたちの生々しい証言とともにその現場を浮き彫りにする。

『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』感想(ネタバレなし)

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自然に敵わないからこそ

数cm程度の積雪で大混乱する関東圏を見ていると、北海道出身の私としては「もうちょっと頑張ってよ」と言いたくなるのですが、でも自然は恐ろしいものです。人間社会は近代化によって自然への畏敬の念をすっかり忘却し、自分が自然より上になったと勘違いしているところさえ見受けられますが、実際は人間だってちっぽけな動物のひとつであり、大自然には敵いません。ひとたび自然が牙をむけば容赦なく蹂躙されてしまい、自分の微弱さを痛感させられます。

その現実を最も味わうことになるのが自然災害時です。大雨、大雪、台風、地震、津波、噴火…。新型コロナウイルスだって人獣共通感染症の経緯があるので自然災害的と言えます。どれも万全の対策をもってしても甚大な被害がやむを得ないこともある。本当に桁違いの威力を人類に突きつけることがあります。

じゃあ、自然災害に対して降参して諦めよう…というのではなく、だからこそ人間ができる最大限の知恵と連携でもってこの脅威と向き合う必要があるんですけどね。つまり、「ヒト」という生き物が持つポテンシャルを最大限に引き出さないと自然の猛威に挑めません。差別偏見や既得権益などで私腹を肥やしている場合ではないし、陰謀論で現実逃避するなんて話にならないのです。「ヒト」として一致団結しなければ…。

そんなことを実感させられるドキュメンタリーが今回紹介する作品です。それが本作『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』

なお、本作はナショナルジオグラフィック制作のドキュメンタリー映画なのですが、日本では2022年2月11日に劇場公開されました。しかし、ナショナルジオグラフィック作品も取り扱っている「Disney+」では2021年12月31日からすでに配信済みであり、そこでの邦題は『ザ・レスキュー タイ洞窟救出の奇跡』となっています。こうやって同じ作品でも邦題が食い違っていると正直言って混乱するのでやめてほしいのですけど…。

でも劇場での鑑賞は特別感があります。劇場公開版は「4K」化されているので映像品質も高く、なおかつ当然ながら大きいスクリーンで観られるので迫力も段違いです。なにせこの『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』は水中洞窟ダイビングを題材にしているのですから…。

本作『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』は2018年6月にタイで発生した、増水した洞窟に取り残された子どもたちを救出するミッションに挑む姿を追いかけたドキュメンタリーです。世界で大ニュースとして報道されましたし、日本でもメディアで取り上げられたので、事件自体は知っている人もいるでしょう。しかし、現場でどんなことが起きていたのか。その詳細はなかなか知らないはず。なにせ現場はそこにいた人間さえも状況を把握できないほどに大混乱でしたからね。

この『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』は主に救出にあたった洞窟ダイバー(ケイブダイバー)の視点で当時が語られており、実際に現場で撮影された本物の映像、そしてVFXでリアルに再現した映像が組み合わさり、とてつもない緊迫感がダイレクトに伝わってくる内容となっています。私は泳げない人間なので本音を言うとこんな映像を見たくはないし、絶対にその場にいたくもないのですが、それでも目を離せない映像満載でした。

監督したのは、これまた二度と再鑑賞したくないと私も思うほどに恐怖映像を味合わせてくる『フリーソロ』を監督した“エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ”“ジミー・チン”。『フリーソロ』はアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を見事に受賞しましたが、この最新作である『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』も高い評価を受け、各種の賞にノミネートされたりしています。

もともとは『[ブラック・セプテンバー]ミュンヘン・テロ事件の真実』や『運命を分けたザイル』などのドキュメンタリー、そして『モーリタニアン 黒塗りの記録』などの劇映画で高く評価されている“ケヴィン・マクドナルド”が手がける予定だったようですが、彼は製作総指揮のひとりに回っています。

単に当時の詳細を知るだけの作品ではありません。無敵の大自然に対して小さな人間ができることは何なのか。その希望を提示してくれる作品でもあります。『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』は諦めそうになったとき、挫けそうになったとき、そういう瞬間に鑑賞したい映画です。

オススメ度のチェック

ひとり4.0:気分が落ち込んだときに
友人3.5:興味ある者同士で
恋人3.5:ロマンス要素はほぼ無し
キッズ3.5:ダイビングに関心あるなら
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『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』感想(ネタバレあり)

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事件の全容と裏事情

タイ王国北部のチェンライ県のタムルアン森林公園。2018年6月23日、サッカーチーム「ムーパ」に所属する少年12人がサッカーの練習後、コーチ同行のもとタムルアン洞窟探検に入っていきました。そこは子どもたちにとって格好の遊び場。地元では洞窟は神聖な場所で、恨みを持って亡くなった女性の体内であるという言い伝えもあるほどでしたが、子どもは自由気ままです。

この洞窟は雨季には水かさが増して危険なので7月には閉鎖するのが通常でした。なので6月はまだ開いていました。

しかし、この年は突然の集中豪雨で洞窟が大規模浸水。出入り口が大量の水で塞がれて、少年たちは洞窟から出られなくなりました。帰ってこないので不審に思った家族が周囲を探すと洞窟の前に子どもの自転車が放置されており、洞窟に取り残されたのではと疑いが強まり、警察に相談。軍も導入されての捜索作業が始まりました。

行方不明なのは、11歳から16歳までの少年12人と、25歳のアシスタントコーチ。連絡手段は無し。洞窟のどこにいるのかも不明。タムルアン洞窟の全長は10km。歩くだけなら大した距離ではないですが、水没した洞窟となるとその距離は困難な環境であるのは言うまでもありません。普通に探索するのでもリスクがあるのに、今回はタイムリミットが迫る中で救出をしないといけない…。つまり、この水没した洞窟をダイビングして探さないといけないということ。

最初に動員されたのは、タイ王国陸軍中将バンチャー・ドゥリヤプントが説明するように、海軍特殊部隊(SEAL)です。タイは立憲君主制国家ですが、2014年以降は国軍が軍事クーデターを起こして軍事独裁政権が続いています。なので軍隊が実質的な最高権力集団なんですね。今回の事件も少年の救出を成功させるか否かで国民の軍隊支持率も上がり下がりするでしょうから、実のところとても政治的な駆け引きが裏では起きているのでした。

ちなみに今回のドキュメンタリーで説明されていませんが、取り残された少年たちの何人かは無国籍で部族出身だったそうです。タイのこういう辺境地ではこんな国籍を持たない子も普通にいるそうで、ゆえに国家が威信をかけてそういう子を救うことで国威高揚になるという下心も裏にはあるのだろうということが推察できます。

『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』はあまり少年たちのバックグラウンドを描いていないのは、単に少年たち側の人生を題材にする映画化権を制作者が持っていなかったからだそうです(Netflixに映画化権があるらしい)。

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不可能な救出をやらないといけない

現地に集結した海軍特殊部隊と陸軍、マスコミ、野次馬、そして保護者たち。しかし、思うように解決の糸口さえ見つかりません。なぜなら海軍には洞窟ダイビングの経験が全くなかったから。

洞窟ダイビングがいかに特殊なスキルが必要なのか。それはドキュメンタリー『洞窟探検ダイビング』でも説明されているとおり。ベテランでさえも水中洞窟で命を落とすことはある。そしてその洞窟に取り残された遺体を回収できるのもケイブダイバーだけなので、そんな遺体回収経験があるダイバーも少なくありません。危険を身をもってわかっているエキスパートです。

話は戻ってタイでは(ここが偶然ながらスゴイのですけど)現地に洞窟探検家のヴァーン・アンスワースがおり、彼は外国から来たイカれた洞窟ダイバーだと知られている人物でした。そしてそのヴァーンが熟練の洞窟ダイバーを呼んでくれと名前のメモをタイ政府に渡したことで救出ミッションが開幕します。ほんと、映画の脚本なのかというくらいによくできた導入部ですよ。たぶん私には知らない世界ですけど、世界の洞窟があるところに洞窟ダイバーはいて独自のネットワークがあるものなんでしょうね。

そして招集されたのが若いケイブダイバーにとって神のような存在だと言う、リック・スタントンジョン・ボランセン

5日目にさっそく潜ってみると、密かに取り残されて誰も気づいていなかった4人のポンプ作業員を発見(これも酷い話だけど)。30~40秒の間潜っただけですが大人でもパニックになり、これによって子どもは助けられないと2人は悟ります。

そこで人間の限界を痛感するわけです。遺体の回収を待つだけという雰囲気になったというのもリアルな空気で…。

しかし、9日目&10日目、なんとか奥まで潜ると13人の生存した姿を発見。ここで「信じろ」と自分に言い聞かせている姿が印象的です。

ここからの逆転劇というか、人間が自然に挑戦してやろうという意気込みが凄まじいですね。

でもどうやって救うのか。プロでも救出方法は見当がつかない現実。洞窟に穴を開けるのも無理。排水しても160万リットルで1センチしか下がらない。

そこで苦肉の策としてケイブダイバーが思いついてダイバー兼医師であるリチャード・ハリスに提案したのが「子どもに麻酔を打って運ぶ」という方法。あまりにも無謀で滑稽な案なので冗談に見えるくらいですが、でもこれしかない。

結局、鎮静剤作戦を決行することになるのですが、救助に失敗すれば収監されるかもしれず、出国計画まであったというのが生々しくて…。そして子どもに麻酔を打つときの「安楽死させているみたいで罪悪感があった」という心境の吐露がまた悲痛で…。

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孤独が好きな男たちがマッチョ軍団に勝つ

『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』は見せ方によっては、アジアの途上国の危機を白人が救うという典型的なホワイトセイバーになりかねない側面もあるのですが、“エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ”と“ジミー・チン”の手際の良さなのか、そこの落とし穴は回避しつつ、タイ政府側とも絶妙に距離をとっていたと思います。

本作が面白いなと思うのは、主役であるケイブダイバーたちの立ち位置です。

彼らは自分で口にするように、あまり目立つ側にいなかった人間でした。チームプレイヤーではなく、人付き合いが苦手で、シャイで、無口で、子どもの頃からひとめを気にしていて、社交的じゃなくて、学校ではいじめられ…。そんな立場で人生を送ってきた人間ばかり。

だからこそ静かで平和な世界である洞窟に惹かれる。癒しであり、誰にも指図されず自分だけの空間を独占し、最も純粋な冒険を味わえる。そこに喜びを得ている。彼らのようなケイブダイバーにとって水中洞窟は一種のメンタルヘルス・ケアの施設と同じなんですね。

一方、現場で張り切るタイの軍隊はわかりやすい男社会。マッチョイズムで成り立つ集団です。筋力と序列による統率でパワーを示すことで任務にあたります。今回もそれでなんとかなると思っています。でもそうはならない…。

タイの政府さえも転覆させたマッチョ集団が、この孤独主義でナヨナヨしたダイバーの男に負けてしまう…この構図が痛快さを持っているのではないでしょうか。そう考えると政治批判的でもありますね。軍隊主義的な“男らしさ”だけが物事を解決できるわけじゃないという教訓です。

そしてチームで動くのが子ども時代には苦手だったケイブダイバーたちが今回の救出任務でチームを組み、子どもを救うという貴重な経験によって自分に誇りを持てるようにもなる。ボランティアの参加なのですが、それでもかけがえのない体験を獲得して持ち帰っている。そんな挑戦者の人生ドラマにも焦点が丁寧に当たっているのもさすが『フリーソロ』を手がけた“エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ”と“ジミー・チン”だけはあるなとも思いました。

他にも、さりげない映像の組み合わせなどの編集も絶妙です。再現映像も違和感なく馴染んでいるし、こういう極限環境の映像を再構築できてしまうこの監督の強みは今後もあちこちで求められるのではないかなと思いますが、きっとこの2人は大作よりも自分たちに近い立場のチャレンジャーを撮り続けるでしょうね。

今回の事件は実写の劇映画にもなっています(『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』)。関心がある人はそちらもどうぞ。

『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 99%
IMDb
8.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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作品ポスター・画像 (C)2021 NGC NETWORK US, LLC. All Rights Reserved.

以上、『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』の感想でした。

The Rescue (2021) [Japanese Review] 『THE RESCUE 奇跡を起こした者たち』考察・評価レビュー