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アニメ『明日ちゃんのセーラー服』感想(ネタバレ)…女子中高生の青春は誰のために仕立てられる?

明日ちゃんのセーラー服

女子中高生の青春は誰のために仕立てられる?…アニメシリーズ『明日ちゃんのセーラー服』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:AKEBI’s sailor uniform
製作国:日本(2022年)
シーズン1:2022年に各サービスで放送・配信
監督:黒木美幸

明日ちゃんのセーラー服

あけびちゃんのせーらーふく
明日ちゃんのセーラー服

『明日ちゃんのセーラー服』あらすじ

明日小路は、憧れのアイドルである福元幹が着ていたセーラー服の可愛らしさに魅了され、いつか自分も着たいと夢見ていた。母親の母校の蠟梅学園中等部の制服がセーラー服だったことに運命を感じ、自分も蠟梅学園に進学を決め、母親にセーラー服を仕立ててもらう約束をする。しかし、約束のセーラー服を着て入学式に臨むが、そこで蠟梅学園の制服が既にブレザーに変更されていたことを目の当たりにし…。

『明日ちゃんのセーラー服』感想(ネタバレなし)

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ひとりだけセーラー服

日本では中学や高校における制服の自由選択が徐々に浸透しつつあります。従来は男子であればこの制服、女子であればこの制服…と固定化しており、選択の余地はない学校がほとんどでした。しかし、近年は例えば女子生徒がスカートだけでなくスラックスも選べたり、または男子生徒でも個人の判断でスカートを着用しても良かったり、自由度が向上しつつあります。

これは「LGBTQ」への対応だと報道されることもありますが、そもそも制服というものを生徒の意思に関係なく強制してしまうことの問題はかねてから指摘されており、これは生徒の自主性を尊重する人権に直結する普遍的な改善なのだと思います。この流れは今後はさらに加速するのは間違いなく、もう(とくに年配の世代は)制服の概念を古いものから新しいものへとアップデートしないといけないでしょう。そうじゃないと子どもに「いつの時代の話をしているの?」と睨まれてしまいますよ。

ただ、ことさら日本では「制服」というアイテムが学校生活で着用する衣服以上に文化的な存在として親しまれてきた歴史もあり、制服の扱いが変わればきっと文化にも波及するはずで…。それは特定の文化が消えるというネガティブなものではなく、制服を取り巻く文化的事象が多様化するのだと思います。映画やドラマなどの表象にも影響してきますよね。とりあえず固定制服制の学校を描くと若干の時代的古さを感じさせる印象が濃くなるかな。今までは同じ制服でもキャラごとに若干の着こなしの違いで個性をつけたりしていた作品もありましたが、これからはもっと服装で個性をだしやすくなるかも。

そう考えると今回紹介するこのアニメシリーズも10年後くらいにはすっかり古さを醸し出す作品になるのかもしれません。

それが本作『明日ちゃんのセーラー服』です。

本作は原作が“博”による2016年から集英社のウェブコミックサイト「となりのヤングジャンプ」にて隔月連載している漫画で、2022年にアニメ化されました。

タイトルは「“あした”ちゃん」でも「“あす”ちゃん」でもなく「“あけび”ちゃん」と読みます。主人公の名前です。本作は晴れて中学生となったひとりの少女が新しい学校(田舎にある中高一貫の名門女子校)で友達を作ったり、勉強に励んだり、いろいろな思い出を作っていく姿をみずみずしく描く青春学園ストーリーです。

ではなぜタイトルに「セーラー服」とあるのかと言うと、本作の舞台となる女子校は規定の制服が「ブレザー服」なのですが主人公は「セーラー服」に憧れており、この女子校も以前はセーラー服が規定だったために特例で主人公のセーラー服の着用を許可する…という流れ。つまり、他の大勢の女子生徒はブレザーですが、主人公だけセーラーとなります。

ある意味では制服規範を揺さぶる作品設定ですが、あまりそこは社会的なトピックとして掘り下げられません。あくまで典型的な青春ドラマがメインです。

原作漫画は絵のタッチが特徴的で、漫画ならではの簡略化した表現の真逆をいく、とても線の細かい表現で構成され、1枚絵のコマを連続多用したり、大胆な構図も多いです。これはアニメ化する側にとっては大変でしょう。作画の負担がどうしたって増えます。かといって簡略的に描こうとすれば原作のイメージが損なわれる…。それでもアニメ『明日ちゃんのセーラー服』はしっかり原作の雰囲気をそのままに映像化されています。

結果、アニメーションのきめ細かい滑らかさや美しさ、そして耳に心地いい劇伴も相まって、視聴者からは好評を受けています。

手がけたスタジオは「CloverWorks」。監督は『アイドルマスター SideM』の“黒木美幸”。音楽を担当するのは多くのアーティストとも共同で活動した経験のある「KanadeYUK」の“うたたね歌菜”

アニメ『明日ちゃんのセーラー服』はシーズン1が全12話。特段のトラウマを刺激する描写もないので観やすいのではないでしょうか。

日本語声優
村上まなつ(明日小路)/ 雨宮天(木崎江利花)/ 鬼頭明里(兎原透子)/ 花澤香菜(明日ユワ)/ 久野美咲(明日花緒)/ 小原好美(大熊実)/ 伊藤美来(神黙根子)/ 若山詩音(古城智乃)/ 田所あずさ(四条璃生奈)/ 伊瀬茉莉也(龍守逢)/ 関根明良(谷川景)/ 三上枝織(峠口鮎美)/ 白石晴香(戸鹿野舞衣)/ 本渡楓(苗代靖子)/ 石川由依(水上りり)/ 麻倉もも(平岩蛍)/ 神戸光歩(蛇森生静)/ 石上静香(鷲尾瞳) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:青春アニメが好きなら
友人 3.5:ジャンル好き同士で
恋人 3.5:ロマンス要素はかなり薄い
キッズ 3.5:イジメ描写等もない
↓ここからネタバレが含まれます↓

『明日ちゃんのセーラー服』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):あこがれのセーラー服

明日小路(あけびこみち)は福元幹というアイドルに憧れており、そんなアイドルのようにかっこよくなれれば友達がいっぱいできると純真に信じていました。運動神経は抜群であり、その華奢な体は軽やかに宙を舞い…用水路に落ちます。ここは田舎。田んぼばかりです。

知り合いのおじさんに車の荷台に乗っけてもらいます。

「小路は中学を受験したんだってな」「うん、蠟梅学園。私立の学校なんだよ!」「お母さんの母校だろう?」「だから受かってすごく嬉しいんだ」

田舎で育った小路にとってひとクラスに10人以上いる学校は想像がつきません。小学校では孤独で寂しかった…。期待は膨らみます。

帰宅。妹の花緒が一緒です。あまり帰らないと電話。

小路が蠟梅学園を志望した大きな理由はセーラー服を着たかったからでした。好きなアイドルがCMでセーラー服を着ていてその魅力に一発でメロメロになったのです。幸いにも母は服飾の技術があり、セーラー服を作ってくれることになります。採寸し、生地の店で素材も購入しました。不安と期待がさらに高まります。

妹の花緒といつものように風呂に入っていると、花緒は寂しそうです。小学3年生の花緒はよく話し相手になってくれます。ちゃんと友達できるのかと心配を吐露する小路に「それは大丈夫だよ、だってお姉ちゃん、かっこいいもん」と花緒は無邪気に答えます。

母が制服づくりに専念できるように家事を張り切る小路。そして完成しました。ついに着てみて、涙を流しながら自分を支えてくれる母に感謝を述べます

入学式。母と一緒。でも何かおかしい。他の女子高生はみんなブレザー服です。なんと規定の制服が変わっていたようで、うっかり見落としていました。入学式でも視線を感じます。でもセーラー服着用を許可すると学園長は言ってくれましたが、小路は落ち込みます。自分だけなんて変に思われる…。

そんなベッドで落ち込む姉の姿を見た花緒は「かっこわるい!」と一喝。小路は注目されるのはチャンスだと考えを変えます。

いよいよ登校です。眩しい綺麗なセーラー服で家を出ます。胸を張って笑顔で…。髪をまとめてダッシュする小路。

学校に着くと掲示されたクラス名簿を見ます。出席番号1番、3組です。早く来すぎたのかと思っていると教室から物音が…。

中にいたのは自分の足の爪を切って匂いを嗅いでいた木崎江利花という女子生徒。会話していると「面白い」と言われ、友達が欲しい小路は必死に会話を続けます。どうやら木崎もまた初めてが多くて緊張しているようで、自分だけではなかったのだと小路は実感します。

同い年の子とお喋りできたのが楽しい小路。前の入り口付近の席に座り、誰か別の生徒が入ってくる気配がします。「おはよう」と元気に挨拶し、こうして新しい世界での一歩が始まりました。

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セーラー服も孤独な過去も大丈夫

『明日ちゃんのセーラー服』はタイトルのとおりセーラー服が作品の起点になります。学園長も面接で言ってあげなさいよ…とは私もツッコミたい気分ですけど、まあ、わりと寛容な学校で良かった。そんなこんなで私立蠟梅学園中等部で唯一のセーラー服の入学生としてスタートします。

話がそれますけど、それにしてもあの学校の名前、漢字が難しいなぁ…。これからいろんな書類に学校名を書かないといけないから大変だろうに…。ちなみに今回のアニメになった学校のデザインのモデルは北海道函館市にある遺愛女子中学校・高等学校だそうです。わりと撮影に協力的な学校のひとつで、他の映画とかで見かけた人もいるかも。ただ、あくまで校舎デザインのモデルというだけで、あの『明日ちゃんのセーラー服』世界観が北海道というわけではないと思うけど…。ちなみにこの遺愛女子中学校・高等学校の制服はセーラー服です。

話を戻して、セーラー服。今作では母親のオーダーメイドで、そりゃあ思い入れもあるでしょう…という感じ。制服ってイチから手作りするといくらかかるのかな…。

そんなセーラー服がどうこうよりも、本作は小学校ではひとりだった子を大人数空間にぶちこんだらどうなるかというなかなかに実験的な一歩を踏み出させている作品でしたね。ちょっと極端すぎるくらいの環境変化であり、たかだかひとりの女子中学生にはあまりにも負担の大きいことで…。

でもそんな心配はなかった…。私はてっきり単独飼育のハムスターをハツカネズミの群れの中に放り出すようなことになると思ったけど、そんな非人道的な話じゃなかった…。なぜなら妹と会話するしかできないくらいだった明日小路ですが、でも対人コミュニケーション能力は異様に高いというトンデモ人間だったからです。服以上にその天真爛漫な性格や抜群と運動神経が目立ちまくっており(料理が苦手くらいしか欠点らしいものがない)、セーラー服とか何もハンデでもないくらいのキャラクター。チートです。

本作はそんな小路が各同世代の生徒と“ささやかな”交流を積み重ね、今まで体験する機会もなかった友情を育み、集団の良さを知っていく…そういうフワっと温かい世界でした。

まあ、そうなるか…殺伐とした話になったら、それはそれでドン引きだもんね…。

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どこまで無自覚な美化を意識できるか

『明日ちゃんのセーラー服』は全体的に爽やかで観やすい物語でしたが、個人的に苦言があるなら、やはりこの作品全体に通貫する“美しさ”というものが”無頓着な美化”とどう違うのかということ。

例えば、先ほども書いた、小学校で孤独だった小路が中学校で集団の良さを知っていくという展開。第11話の小学校にみんなが集まる展開が象徴的ですが、本作はそんな集団に囲まれた世界を純粋無垢に良きものとして描いています。

ただ、ここはもう少し複雑性を描いてもよかったんじゃないかとも思ったり…。集団というのは良いことばかりじゃないのは大半の人が痛感していることのはずで、価値観の違いで軋轢があったり、同調圧力が生まれたり、何かデメリットがある。その欠点をどれほど飲み込み、この集団に順応していくかで競争が生まれたり、スキルが発揮されたりするものですが、本作はそういう要素は表立って現れません。小路も集団を経験することでその現実を直視しつつ、前に進もうとする、そんなリアルなストーリーもできたはずなのに。

何よりも小路の目的はこの蠟梅学園に入学する時点で達成されてしまっているので、ほぼ成長らしい成長もなく、そういう意味では起伏のないドラマなのはやや退屈です。

本作の主人公である小路はちょっと都合よく幼稚化されて描かれすぎなのかなとも思います。無頓着な美化というのはこのあたりも無視できません。

その関連性でここもスルーできないのはやはり「女子校ゆえの青春の美化」なのではないかという点。普段は青春に毒を吐いているような人さえも「尊い!」とお気楽に口にしてしまう、それくらいに一部の人はやたらと「女子校」という空間を自分本位で(それも無頓着に)アレンジしてしまいがちですが、この作品もその沼にハマっていないのか。

とくにアニメは表現媒体の性質上、そのリスクが増大しやすいですよね。美麗で繊細なアニメーションが登場する女子生徒たちの仕草を丁寧に活写していくのはわかるのですが、それも同時に何かしらのフェチシズムをどうしたって喚起するでしょうし…。そこまで「male gaze」なシーンしかないほどに偏向はしていないし、ある一定の線は超えてないとは思いますけど、でも本作は女子生徒たちががやや“鑑賞物”化している側面も否めない。

こういう題材ゆえに生じがちなネガティブな欠点を払拭したいなら、もう少し絵だけではない、コミュニティとしての内面的なリアリティを上げていくしか解消方法はないのかな。アニメ『かげきしょうじょ!!』のように、綺麗だけではない集団のリアルも描いていくと良かったのかも…。

とはいえ、このアニメのシーズン1はキャラクター紹介的なプロローグなので、これからかもしれませんけど。現時点ではどうしても「青春の美化」の副作用が私には観察できてしまう作品なのかなと思いました。

『明日ちゃんのセーラー服』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
5.0

作品ポスター・画像 (C)「明日ちゃんのセーラー服」製作委員会

以上、『明日ちゃんのセーラー服』の感想でした。

AKEBI’s sailor uniform (2022) [Japanese Review] 『明日ちゃんのセーラー服』考察・評価レビュー