もっと自由に描いてもよかったのに…アニメシリーズ『サイバーパンク: エッジランナーズ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:日本(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
監督:今石洋之
性描写 恋愛描写
サイバーパンク エッジランナーズ
さいばーぱんく えっじらんなーず
『サイバーパンク エッジランナーズ』あらすじ
『サイバーパンク エッジランナーズ』感想(ネタバレなし)
アニメで大復活!
たとえ出だしが最悪なくらいに不調であっても後々に大復活することもある。最近、そんなことを身をもって示したゲームがありました。
それが「サイバーパンク2077」です。
まずこのゲームタイトルは日本ではそんなに有名ではありません。よほど洋ゲーが好きなマニアでしか知らないでしょう。でも世界的には話題のゲームで、かなり昔からあります。
もともとは1988年に最初に販売されたテーブルトークRPG「サイバーパンク2.0.2.0.」という作品が原点にあります。これはその名のとおり、サイバーパンクの世界観が売りになっており、1980年代にブームになったサイバーパンクを独自に膨らませたデザインになっています。著名なSF作家の“ウォルター・ジョン・ウィリアムズ”や『ブレードランナー』(1982年)の影響を強く感じるものでした。
具体的な世界観としては、アメリカは無政府状態になり、多国籍企業が権力を有するようになった世界。そこでは、人々はサイバーウェアという機械で自分の肉体を改造するようになっています。その絶大なパワーを持っていてヴィラン的に立ちはだかる企業として「アラサカ」という日本企業が登場し、当時の日本企業が世界経済を席巻していた時代性が反映されていたりもします。
そんな歴史あるテーブルトークRPGでしたが、2012年にオープンワールド型のアクションRPG「サイバーパンク2077」が開発されると発表。ファンは沸き立ちました。制作するのは「ウィッチャー」でおなじみの「CD Projekt」というポーランドのゲーム会社。当然、ゲーマーたちの期待も高まります。
ただ、そこからしばらく何の音沙汰も無くなり、やや忘れ去られていきました。ところが、2018年に新情報がようやく発表され、2019年には“キアヌ・リーブス”を起用したトレーラーが公開され、最注目のゲームタイトルとして期待は再燃。そして2020年12月10日にやっとゲームが発売されました。
しかし、問題が起こります。バグだらけだったのです。しかも致命的なものが多く、すぐさま大炎上。期待は失望に反転し、猛批判を受け、「ガッカリなゲーム」の象徴みたいになってしまいました。一応はその後に不具合修正などが行われ、遊べる程度に品質も改善しましたが、お披露目時の失態は早々挽回できるものではありません。
このまま不名誉を引きずるのかな…と思っていましたが、ここに予想外の救世主が現れます。その存在とは本作『サイバーパンク エッジランナーズ』というアニメでした。
『サイバーパンク エッジランナーズ』は「サイバーパンク2077」の世界を舞台にゲームの前日譚を描いたアニメシリーズで、2022年9月にNetflixで配信されました。
このアニメは世界で話題となり、「サイバーパンク2077」の再ブームが到来。アニメ配信後にゲームプレイヤーは急増し、一気に大人気ゲームとしてトップに君臨しました。これまでの騒動はなんだったんだというくらいの盛り上がりです。
こういうように映像作品のおかげで原作ゲームが注目されて売れるという現象は最近だと『アーケイン』などでも見られましたが、『サイバーパンク エッジランナーズ』は原作ゲームがかなり悲惨な失敗をしていただけに、その右肩上がりが際立ちます。終わりよければ全て良し…ってことでいいのかな…。
そんな『サイバーパンク エッジランナーズ』、制作したのは日本のアニメスタジオ、『キルラキル』や『プロメア』でおなじみの「トリガー(TRIGGER)」です。そして監督は『プロメア』の“今石洋之”。なのでものすっごくトリガーらしいビジュアルと勢い迸るストーリーになっています。
前日譚なのでゲーム本編をプレイしたことがない人でも大丈夫です。専門用語がやたらと飛び交いますが、そのへんはトリガー作品ではいつものことなので、スルーしながら鑑賞するので構いません。
『サイバーパンク エッジランナーズ』は全10話(1話あたり約25分)。もちろんこのアニメを見終わった後はゲームをしてみるのもいいでしょう。
『サイバーパンク エッジランナーズ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :トリガー作品が好きなら |
友人 | :趣味が合う者同士で |
恋人 | :アニメ好き同士で |
キッズ | :直接的な性描写あり |
『サイバーパンク エッジランナーズ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):見返すには強くなるしか…
犯罪と陰謀が渦巻くナイト・シティ。サイバーウェアのインプラントが原因で、サイバーサイコシス化した大男が市警(NCPD)の特殊部隊「マックス・タック」に包囲されていましたが、圧倒的なパワーで部隊を薙ぎ払います。その力は使用者の本人さえも蝕み…。
デイビッドという少年はリパードクがくれたその大男の記憶をブレインダンス(BD)で追体感して大興奮していました。JKというBDディレクターはこうした実際の事件の当事者のメモリーを売りさばいており、デイビッドは密かに愛用していました。
起き上がると疲れ切っていた母グロリアの姿がありました。仕事の疲労が溜まっているようです。
デイビッドは学校へ出かけます。貧困地域を抜けて富裕層のいる都会へ。デイビッドはアラサカアカデミーというシティのトップが通う学校に入学していました。全て母の後押しです。
でもデイビッドは学校にうんざりしていました。AI教師の授業を受ける最中、闇技師にデバイスをいじらせたので校内のシステムを故障させてしまいます。母が学校へ謝りに来て、母と車で帰ることに。
「俺、学校やめて働いた方がいいんじゃない? 俺が学校でどれくらい浮いているか知らないでしょ。貧乏人はいくら働いてもあいつらのようにはなれないんだよ」
そう言うと母は複雑な感情を顔に浮かべて「エリートになって見返してやりなさい」と言います。企業に所属する労働者(コーポ)にならないと格差からは抜け出せません。
その時、急にギャングの争いに巻き込まれて銃撃を受け、車はクラッシュ。目覚めるとデイビッドは車内で、母は投げ出されていました。医療部隊であるトラウマ・チームが駆けつけますが、高額な契約金を払っている契約者だけを運搬して去ってしまいます。
しょうがないの闇医者に駆け込むデイビッド。高額な医療費を請求され、母には面会する許可もでません。
おカネに困ったのでデイビッドは家を漁り、軍用と思われるインプラントを発見。サイバーウェア「サンデヴィスタン」というものらしいです。これは売れないだろうか…。
路地裏ではアラサカ社の重役である父を持つ同級生に「アカデミーを辞めろ」と言われ、「違法なことでお前の母は学費を稼いだのでは?」と挑発を受け、あげくにカンフーのインプラントでボコボコにされます。
そして母は亡くなったと闇医者にあっさり告げられます。その日に火葬し、それを持って帰宅。悲しむ気持ちさえも湧いてこないほどに心を踏みにじられ、デイビッドは決意します。
激情のままにリパードクの住処に向かい、「こいつを俺にインストールしてくれ」と「サンデヴィスタン」を持ち込みます。見返すにはこっちも強くならなければ…。何を犠牲にしようとも…。
トリガーに任せて大正解な世界観
トリガーは『スター・ウォーズ: ビジョンズ』でもそのクリエイティブな才能が遺憾なく発揮されていましたが、どんな世界観でもスタジオの色に染め上げる力があります。
一方でこの『サイバーパンク エッジランナーズ』はそもそもこの世界観自体が最初からもうトリガーにぴったりで、これなら絶対にトリガーに任せるのが最適解だろうなと納得です。
暴力的かつ退廃的なピカレスク・ロマンで、キャラクターもエッジの効いたオーバーなデザインが成り立っており、しかもサイバーウェアをガンガン搭載して強くなれる。ちなみに、このサイバーウェアまわりの設定は、ゲームでは人間性コストという仕様になっていてこれが0点になるとサイバーサイコとなって感情を失って狂うという感じです。
こういったゲームの仕様をアニメーションで表現する世界観に落とし込むのも上手く、作中でいろいろなゲーム用語が飛び出してくるのですが、その解説に時間をかけることなく(たぶん観ている人はそれがゲーム用語だったのかと気づく暇もないかもしれない)、サクサクと物語と合体させており、このへんもトリガーの手慣れた技を感じます。
最もトリガー節が炸裂するのはやはり終盤で、ネットランナーとしてアラサカに養成されていたルーシーの過去が明らかになる中、そのルーシーを救うべく、デイビッドは危険なサイバースケルトンを装着。滅茶苦茶に強くなりながら、アラサカ社のライバルであるミリテク軍隊を壊滅させていき、ついにはアダム・スマッシャーというアラサカに従事する最強の存在と対峙します。
このハチャメチャなアクションのキレの良さはトリガーの真骨頂。前日譚になっている以上、今作の新キャラはみんな退場しないといけないので、各キャラたちを容赦なく殺せるのも後先考えなくていいので今回は功を奏しています。
本音を言えば、ここからさらにインフレしたバトルアクションを観てみたかったですけどね。トリガーはインフレにインフレを重ねていく、「一体どこまでいくんだ!」というやりすぎな限界突破が楽しいので、この『サイバーパンク エッジランナーズ』もそこを期待はしたくなるのですが、やはり前日譚なので…(やりすぎるとゲーム本編の世界が片付いてしまう…)。
トリガーとしては勢いは8割くらいでセーブされて終わったのではないかな。
マスキュリニティ賛美すぎるので…
『サイバーパンク エッジランナーズ』の欠点としては、やっぱり10話しかないので、急ぎ足になりすぎているところはあります。
作中ではメインとドリオが死亡して第7話に突入するとタイムジャンプがあるわけですが、キャラクターの関係性を濃密に描いていくにはちょっと時間が足りなさすぎる気もしました。トリガーはもともと1本の映画でも関係性を濃厚に描くのが上手く、短い時間に詰め込むのが得意だと『プロメア』でも証明しているので、今回の『サイバーパンク エッジランナーズ』は全10話というのが中途半端なボリュームで活かせなかったのではないかなとも感じます。これが全13話だったらもっと違ったかもしれません。
これに関してデイビッドとルーシーの恋愛展開もなんだか唐突すぎる気もしますし、これだと単にヤったヤってないの話をしたかっただけで終わってしまう感じも…。
ただ、これに関してはそもそも「サイバーパンク2077」というゲーム内に恋愛システムが存在し、おそらくそのいかにもゲームっぽいシンプルな恋愛進展をそのまんま本作にも導入したのかもしれない…(ちなみにゲーム内では同性愛もある)。それにしてももう少し丁寧に関係を深めていってもいいのに…。
個人的に一番気になるのはマスキュリニティ賛美の色合いが濃いことでしょうか。持たざる主人公の少年が、腕力という物理的パワーを手にして、慕ってくれる女との性的関係も手に入れ、どんどんと成りあがっていくというのは典型的なハイパーマスキュリンのストーリーですし、それをそのまま無条件に「カッコいい」ものとして描き切って終わるだけでいいものか、と。本作自体、異性愛規範も充満していましたしね。
今作のルーシーはほぼほぼデイビッドに依存しまくったヒロイン像になっており、最後の月に行くにしても、デイビッドありきです。そこはルーシーの主体性を獲得していく物語がないと、それこそルーシーなんてただの男たちのストーリーを飾るインプラントになってしまうので、もっとアイディアを練るべきじゃないかな。例えば、レベッカをデイビッドを慕うもうひとりのライバル・ヒロインのポジションにするのではなく、レベッカはルーシーを慕う感じに配置しておけば、そこからルーシーの主体を男抜きで取り戻す話に持っていけるのにな…。
あと、せっかくR指定なのですから、もうちょっとやりたい放題してもいいのでは?とも思いました。日本のアニメ・クリエイターは国内でR指定作品を作る機会が乏しいせいか、なんかどこに表現を着地させるべきか迷っている気がします。単に残酷なゴア描写を出すとか、アダルトな描写を入れるというだけでなく、もっとストーリー的にも映像的にも斬新な見せ方で練り込んでもいいはずで…。
エンディングで撃ち殺されたデイビッドですが、その後の世界の行く末はぜひゲーム「サイバーパンク2077」で体験してください(そのまんますぎる宣伝)。ゲームでは“キアヌ・リーブス”があなたを導いてくれますよ。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 100% Audience 96%
IMDb
8.5 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix
以上、『サイバーパンク エッジランナーズ』の感想でした。
Cyberpunk: Edgerunners (2022) [Japanese Review] 『サイバーパンク エッジランナーズ』考察・評価レビュー