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『戦と乱』感想(ネタバレ)…Netflix;この世は万人のもの

戦と乱

この世は万人のもの…Netflix映画『戦と乱』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Uprising
製作国:韓国(2024年)
日本では劇場未公開:2024年にNetflixで配信
監督:キム・サンマン
児童虐待描写
戦と乱

いくさとらん
『戦と乱』のポスター。2人の男が向き合う姿を映したデザイン。

『戦と乱』物語 簡単紹介

傲慢な王による統治で貧富の差が歴然と社会に染み込んでいる朝鮮。チョンヨンは少年時代から奴婢であり、身分の高い家に奴隷として住み込むことになる。国一番の武人の家系の屋敷で出会ったのはこの家の跡取りとなる同年代程度の男子、イ・ジョンニョだった。しかし、ジョンニョは剣術が苦手で、もともと身体能力に秀でたチョンヨンは練習に付き合ってあげることにする。2人はいつしか親友となるが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『戦と乱』の感想です。

『戦と乱』感想(ネタバレなし)

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朝鮮の奴隷制度を舞台に

今の日本では「奴隷」という言葉が随分とカジュアルに使われることが、ネットスラング的に散見されますが、本来は奴隷は歴史的な負の象徴であり、気安く例え話に使えるようなものではありません。

世界各地にさまざまな制度化された「奴隷」の歴史があるのですが、朝鮮半島にも奴隷の制度がありました。

朝鮮に存在した奴隷は「奴婢」(朝鮮では発音は「のび」)と呼ばれ、15世紀から17世紀の間に最盛期を迎えていたとされています。奴婢の人たちは、家事使用人や召使として働き、その家(裕福な身分の家系)を支えていました。奴婢は当時の朝鮮社会の上流階級には欠かせないものであり、生活基盤に当たり前のように存在していました。朝鮮の奴婢は資産として交易の対象となり、日本やポルトガルとの奴隷貿易もあったそうです。

今回紹介する映画は、そんな朝鮮の奴婢とその主を主人公にした因縁の関係を描く韓国時代劇映画です。

それが本作『戦と乱』です。

本作は、豊臣秀吉による朝鮮への侵攻があった1592年から始まる1590年代を主な舞台としています。と言っても『ハンサン 龍の出現』のように「vs日本」を主軸にしているわけではなく、その中で巻き起こるあるひとりの奴婢とそのひとりの主、2人の男同士の因縁をドラマチックに描き出します。

方や日本が朝鮮を侵略するという構図があり、方や身分の高い朝鮮人が同じ朝鮮人を奴隷として酷使するという構図もあり、かなり複雑な上下関係が入り組んで、乱戦状態となっている映画です。ほんと、文字どおりの乱戦になります。だから邦題も『戦と乱』にしたのか…?

植民地主義の非道さはもちろん、朝鮮社会内での階級制度の残酷さも合わせて突きつけることで、この時代の人間の虚しさが浮かび上がってきます。

ただ、ジャンルとしてはかなりわかりやすい剣劇アクションを軸にしたエンターテインメントにもなっているので、楽しみやすい時代劇にもなっているのではないでしょうか。結構バイオレンスな描写にも遠慮がないので、生きるか死ぬかの緊張感と絶望がより一層際立っています。

この『戦と乱』、当初は脚本をあの『お嬢さん』『別れる決心』でおなじみの世界的に有名な韓国人監督である“パク・チャヌク”が手がけていたとのこと(2019年には脚本ができていたらしい)。ただ、ドラマ『シンパサイザー』の製作で忙しかったので、監督は辞退。『ガールスカウト』(2008年)、『ミッドナイトFM』(2010年)、『ザ・テノール 真実の物語』(2014年)の”キム・サンマン”が監督をしています。

たぶん“パク・チャヌク”っぽい要素はもうあまり残っておらず、相当にシンプルなエンタメ寄りになって癖が消えたのだと思いますが、人間関係が一点に絡まりまくっている感じは“パク・チャヌク”な雰囲気がなくはない…。

『戦と乱』で主演するのは、『ベイビー・ブローカー』“カン・ドンウォン”と、『密輸 1970』“パク・ジョンミン”です。この2人がときに仲睦まじく、ときにバチバチと火花を散らし、リレーションシップを魅せつけてくれます。“カン・ドンウォン”が朝鮮王朝時代劇で暴れるのは以前は『群盗』なんかもありましたが、今作『戦と乱』は普通にカッコよかったな…。

さらに貪欲な朝鮮王を熱演するのは、こういう役はぴったり、『奈落のマイホーム』などでおなじみの“チャ・スンウォン”。加えて、『オオカミ狩り』”チョン・ソンイル”が、立ちはだかる強敵となる日本の武将を熱演。他には”キム・シンロク”“チン・ソンギュ”などが脇に揃ってます。

『戦と乱』は「Netflix」での独占配信です。けれども、大きいスクリーンで観るほうが絶対に映えるし、臨場感が格段に鑑賞体験を底上げしてくれるタイプの映画ですので、いざ鑑賞するときはなるべく大きい画面でゆっくり落ち着く環境で楽しむのをオススメします。

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『戦と乱』を観る前のQ&A

Q:『戦と乱』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2024年10月11日から配信中です。
✔『戦と乱』の見どころ
★激しく火花を散らす剣劇アクション。
★因縁がぶつかり合う人間関係の衝突。
✔『戦と乱』の欠点
☆エンターテインメントとしてはシンプルで深みは薄い。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:アクション好きでも
友人 3.5:韓国映画好き同士で
恋人 3.5:恋愛要素は無し
キッズ 3.0:残酷描写が多め
↓ここからネタバレが含まれます↓

『戦と乱』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

王も奴婢も同じという思想家の言葉に激昂する朝鮮の王が統治する時代。反逆者の首が掲げられた都の広場は大勢で賑わっていました。

そこに逃げ出したという奴婢のチョンヨンが捕まって縄で引きずられてきます。それでも反抗心は消えていないようで、一瞬の隙にまた逃げ出そうともがきます。そこに大司憲イ・ドッキョンが現れ、事情を聞きます。

その光景を人混みの陰でジョンニョという男がが見ていました。チョンヨンの持っていた剣には「武科首席イ・ジョンニョ」の文字。盗んだものだと責められていますが、これには当人にしかわからない2人だけの秘密があり…。

12年前、まだ少年だったチョンヨンは、自身の母親が兵曹参判の奴婢で、親が奴婢なら子も奴婢であると判断され、奴婢の人生を歩むことになります。

やむを得ず奴婢となったチョンヨンが従属することとなったのが国一番の武人の家系。たくさんの奴婢が広々とした屋敷で日夜せわしなく働いています。

ちょうど到着すると、この家の若様が剣の稽古で失敗したときに代わりに叩かれる役の奴婢の子が泡を吹いて痙攣していました。その子は亡くなり、チョンヨンが次の仕事を担うことになります。

その家の若様は夜にこっそり会いに来ます。ジョンニョという名で、親切でしたが、未熟でした。こんなところにいられないとチョンヨンは逃げ出しますが、家に帰ると父は首を吊ってこの世から消えていました。自分しか残っていません。

しょうがないのであの屋敷に戻り、奴婢の生活を送ります。一向に剣術が上達しないジョンニョを見かねて、チョンヨンは深夜に秘密の特訓に付き合うことにします。その姿はジョンニョの父も目撃していました。

練習の成果がでたのか、ジョンニョは上手くなっていき、チョンヨンが叩かれることも減りました。さらに正式に練習相手になるように命じられました。こうして2人はいつしか身分の違いを越えて親友となっていきました。

月日は流れ、成長し、たくましく大人になった2人。いよいよ武科の試験が始まります。しかし、ジョンニョは何度も不合格となり、父は激怒していました。

そこでチョンヨンは「代わりに試験を受けさせてください」と頭を下げます。こうしてイ・ジョンニョになりすまして試験会場へ。そして見事に首席で合格してきました。

喜び合う2人でしたが水を差す事態が起きます。合格すればチョンヨンは奴婢の身分から解放されるとの約束でしたが、ジョンニョの父が約束を反故。しかもチョンヨンを排除しようとします。裏切られたチョンヨンは逃走するしかありません。

さらに朝鮮を揺るがす大事件が勃発。隣国の日本列島から朝鮮を侵略しようと倭寇が海から攻めてきたのです。

加えて、国内の混乱に便乗して奴婢たちも反乱を起こし始めます。ジョンニョの家も例外ではなく、燃やし尽くされます。

チョンヨンは帰ってくるのですが、ジョンニョの父が刺し殺されている姿をみてショックを受けます。自分の知らないところで勃発したその凄惨な光景にチョンヨンは呆然と立ち尽くすだけ。ジョンニョの妻は幼い子を抱えて佇んでいましたが、チョンヨンを目にすると卑しい存在だと憎しみをぶつけ、炎に身を投げてしまいます。

一方、ジョンニョは王とともに王宮を離れていますたが、燃えさかる混乱はすぐに耳に届き、しかもチョンヨンが自分の家族を殺したとの情報まで飛び込んできます。

復讐の炎が燃えあがることに…。

この『戦と乱』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2024/10/17に更新されています。
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愚かな者には思想は通じない

ここから『戦と乱』のネタバレありの感想本文です。

最低の身分の者が豪快に上に逆らって社会の理不尽な構造をぶった切っていく…『戦と乱』はエンターテインメントとしてのコンセプトはド定番です。

最初に描かれるのは朝鮮王のあまりの醜態。「王も奴婢も同じ」という思想家の言葉は今でいうところの「誰もが同じ人権を持っていて平等です」との意味なわけですが、もう絶対にそんな言葉を認めたくない王は完全に不貞腐れた子どものような振る舞いで駄々をこねます。別にあの言葉は「下々の者たちが王の椅子に座りたいと思っている」という意味ではないのですけど、あの王はそういう意味だとしか受け取れていないってあたりが人としての浅はかさが現れていますね。

でもこうやって人権を勘違いするマジョリティはいますからね。「人権を訴える人って利権が欲しいだけなんでしょ?」みたいな知ったかぶりする人ね…。最近は「思想」という言葉を相手を小馬鹿にするときのレッテルとして使用する人も多いですけど、本来、「思想」というのは人間性を構築するうえで大切なものでもありますし、それを軽視する者こそ愚かになる…。本作はそんな実態をよく捉えていました。

無学の極みな王ですけど、奴婢の反乱で王宮が焼失した際は、民の生活基盤でもなく防衛でもなく王宮の再建を最優先しようと行動するシーンにて、わけのわからない理論でそれを正当化して周囲を納得させます。この無意味に知識をひけらかして、他人を論破することにしか利用しないあたりもね…。

“チャ・スンウォン”演じる朝鮮王が本当に100点満点の愚かさを醸し出していて、実は本作で一番キャラクターとして観ていてスカっとする人間ではある…。コイツは殺されたりしませんが、まあ、殺す価値もないほどに愚かですから…。

一方、もうひとりの権力者の象徴として登場するのが、日本から朝鮮侵略の先鋒として攻め入って指揮をとる甲冑の武人。吉川玄信(ゲンシン)という名ですが、架空の人物になっています。架空ということでわりと自由にキャラクター創造しており、立ち回りもいろいろと縦横無尽です。

彼は朝鮮王のような自己過大評価な愚かさはないですけど、弱肉強食的な「弱いなら支配されて当然」というこれもまたわかりやすい植民地主義的な考えを根深く保持しており、朝鮮半島の民たちを切り刻むことに躊躇ありません。こちらもこちらで人権など頭にありません。

玄信は剣術にのみ関心を抱き、権力者に従うので、途中からは一時的に朝鮮王宮側に利用されたりもしますが、最後はやはり朝鮮人そのものを見下していることがハッキリします。

別にこの朝鮮王と玄信が2人だけで勝手にラウンドマッチとかしてくれるなら、もう勝手にやってくれよという感じなんですが、残念なことに犠牲になるのはいつも下々の民たち。映画はエンターテインメントの内部に厳しい現実を映します。

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男同士の絆…では片付けられない

決定的な格差が刻まれる『戦と乱』の中で、なんとかギリギリの融和をみせるのがチョンヨンとジョンニョの2人。奴隷制度の主従関係ですが、年齢も近しく、性格も良心的なので、2人は子ども時代を共有して友情を築きます。

本作では、この2人の繋がりが、剣劇のアクションから、小さなアイテムや仕草に至るまで、じっくり積み上げられていました。

“カン・ドンウォン”演じるチョンヨンは、「青衣剣神」と敵からも恐れられるほどに剣の使い手でありながら、そんなにその技で自分を買いかぶらない謙虚さもあります。“パク・ジョンミン”演じるジョンニョも、幼い頃からチョンヨンを見下さず、同じ友達として一緒の飯を食べようとしてくれる優しさがあります

でも2人が分かつのはなぜか。物語の展開上は、それは奴婢の反乱時の「犯人」の解釈のすれ違いであり、または周囲の勝手な偏見の暴走です。

ただ、それ以上に2人はどんなに表面的に友情を分かち合っても違うものがあるというのも事実。友情で社会構造を変えられるほどに生易しくはないんですね。結局、2人が初期にやったのも替え玉受験という不正であり、不正でしか絆を表現できない虚しさがあります。

3つ巴の乱戦となる終盤、玄信が「似通っておる、しかし怒りが違う」と2人を分析しますが、それは的を得ており、剣術はマネても、そこに込められる感情は違います。どんなにジョンニョがチョンヨンと親しくなったとしても、「身分は犬で、名は畜生」と自虐しながら強くなっていったチョンヨンの苦しさを理解したことにはならないのですから。2人は対等ではなく、やはり常に不均衡で不平等な関係性だった…。

本作はその部分については非常にシビアであり、安易に「男同士の友情です。美しいですね」で消費させようとはしません。むしろ「そんな簡単に受け取らないでください」と視聴者の目を覚まさせます。

『戦と乱』はプロットの土台にあるテーマ性は急所を突いているのですが、少しエンターテインメントとしてマイルドにしすぎた面も否めず、個性を落としてしまったかもしれません。

『戦と乱』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
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関連作品紹介

韓国映画の感想記事です。

・『梟 フクロウ』

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『戦と乱』の感想でした。

Uprising (2024) [Japanese Review] 『戦と乱』考察・評価レビュー
#韓国映画 #朝鮮史 #時代劇 #植民地主義