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『#生きている』感想(ネタバレ)…Netflix;韓国はステイホーム中にゾンビと戦っていた

生きている

韓国はステイホーム中にゾンビと激闘!?…Netflix映画『#生きている』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:#Alive
製作国:韓国(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にNetflixで配信
監督:チョ・イルヒョン

#生きている

いきている
生きている

『#生きている』あらすじ

いつもと変わらない目覚め、いつもと変わらない日常。しかし、今日は違った。地域一帯は騒然となり、気が付けば狂暴化して人間を食うようになった住民に囲まれてしまう。インターネットにつながらず、ライフラインも寸断されて、助けを呼べない状況で、青年はひとり自宅アパートに立てこもり、生き残る方法を必死で考える。このまま誰にも気づかれずに死ぬしかないのか…。

『#生きている』感想(ネタバレなし)

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ゾンビ緊急非常事態宣言

「Stay !」「Home !」 …なんて言われるのは犬だけだと思っていたのに…。まさか人間である私たちがそんなことを命令される側になるとは思わなかった…。これでそう言われたことがないのは猫だけになったんじゃないか…。

コロナ禍の中で皆さんも(やむを得ない労働に従事している人以外は)ステイホームを実践したと思いますが、家にずっといる間、何をしていたでしょうか。不要不急の外出ができない状態でやれることは限りがあります。

おうちで掃除? 模様替え? 読書? 筋トレ? まあ、私はいつもどおり映画鑑賞をしているだけです。映画は家でも観れますし、無限に作品が存在するので品切れになることはありません。あらためて考えるとキリのない趣味だなぁ…。家で映画を観て、映画館で映画を観たい!という感情を高めておくのです。

でも停電したりしたらどうしようもないのですけどね。映画趣味人間は電気がなくなれば終わるのである…。

とにかくステイホームを経験して私たちはいろいろ学んだはずです。人との繋がりの大切さとか、当たり前の日常の尊さとか。

しかし、「withコロナ」だか何だか知りませんが平常の生活が戻りつつある中で、そのせっかくの体験があっという間に風化している気もします。人間、嫌なことはさっさと忘れたいですから。

そんなとき、この映画を観ればまたあの時の緊急事態に直面した心情を思い出せるかもしれません。それが本作『#生きている』です。「#」がついているタイトルです。こういう場合、勝手にハッシュタグ化して便利なんだか不便なんだかわからないですね。

本作は韓国映画であり、ズバリ言ってしまうとジャンルは「ゾンビ」です。韓国映画界は『新感染 ファイナル・エクスプレス』の大ヒット以降、ゾンビ映画というニッチに脚光があたるようになりました。『感染家族』のように韓国らしさ満点の作品もあったり。

そんな流れで作られた本作ですが、韓国での公開はコロナ禍を経験した後の2020年6月になってしまいます。しかも、この『#生きている』はゾンビ・パンデミックの中、家から出られなくなった青年の物語。要するにもろにステイホームなストーリーなのです。もちろん偶然の一致ではあるのですが、ここまでドンピシャな映画がこのタイミングで公開されるなんて宿命なのか…。

けれども韓国の観客はこの既視感だらけなゾンビ映画を快く待ち望んでいたようです。『#生きている』はすぐに観客動員数100万人を超える大ヒット。さらに韓国では『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編もコロナ禍の後に公開して大ヒットしました。

ゾンビ映画にとってはこのコロナ・パンデミックは皮肉にもプラスに働いた…のかな?

すでにゾンビ映画と言えば韓国が本場になってきたのではないだろうか。そんな感じもしないでもない。

その『#生きている』。監督はこれが監督デビュー作になる“チョ・イルヒョン”。結果的に良いキャリアのスタートを切ったので、今後も監督作を拝めそうです。ストイックな映画づくりをしていて、普通に上手いなと思いました。

俳優陣は、『王の運命 歴史を変えた八日間』『バーニング 劇場版』でも印象的だった“ユ・アイン”、そして『7番房の奇跡』などの映画や他にも多くのドラマシリーズに出演する“パク・シネ”。この2人が基本的にはメインキャストになり、少数構成で物語が進みます。この2人のファンは映画中ずっと眺めていられるので幸せですね(ゾンビもいっぱいフレームインするけど)。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』ほどの派手さはなく、スケールも小さい作品です。アパートの一室に籠城することになる孤独な青年の葛藤が丹念に描かれるシチュエーション・スリラー。でもこちらの方がアフター・コロナ(まだアフターではないかもだけど)の私たちには刺さる映画なのではないでしょうか。

『#生きている』は日本では劇場未公開でNetflixオリジナル映画として2020年9月8日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(韓国映画orゾンビ映画好きなら)
友人 ◯(気軽に暇つぶし感覚で)
恋人 ◯(ほどよくエンタメを満喫)
キッズ ◯(ゾンビは怖いけど…)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『#生きている』感想(ネタバレあり)

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#生き残らねば

目覚ましアラームで起きる青年、オ・ジュヌ。朝というにはもうずいぶん時間がたっており、これくらいの寝坊が日常茶飯事なのか。とくに慌てることもありません。「母さん」と呼びかけるも、反応なし。顔を洗い、水を飲み、いたってマイペース。

「姉さんと何か買って食べて」というメッセージとともにおカネが置いてあり、家でひとりの時間を過ごすことにします。

といってもやることは趣味のゲームです。PCゲームでオンラインチャットを使っていつもの仲間とやりとり。ところが、仲間の数人が「あれはなんだ」「テレビを」「CGでしょ」という明らかにゲームと関係のない会話をし、次々と中断していきます。

さすがに変に思ったので自分も居間のテレビをつけてみると、急に画面が緊急画面になり、スマホに緊急警報が流れてきました。同時に外が騒がしいことになり、窓から見てみると目の前にあったのは大混乱。自分のいるアパートの高めの階層からは、大勢が一心不乱に逃げ惑っている姿が一望できます。

何から逃げているのか。その答えはすぐわかりました。人が人を襲っています。中高生っぽい娘が母らしき女性に噛みつき、殺していく光景はまるでゲームみたいです。でもこれは現実。間違いなくリアル…。

消防車も突っ込んできて爆発が起き、これはもう収拾のつかない異常事態でした。

玄関ドアから様子を窺おうとすると、なだれ込むようにひとりの男が入ってきます。隣の住人らしく、「外が変で、うちの兄が突然…」と混乱気味。「トイレを貸して」と言われてしょうがなくそうします。

テレビでは人口密集地域では感染が拡大し、制御できないこと、食人行為も確認されたことが報じられています。どうやら感染するとしばらくした後に症状が出るらしいです。しばらくした後…。

先ほどの部屋に入ってきた男に不安を覚え、包丁を向けるジュヌ。「外に追い出さないでください」と必死に訴える男でしたが、みるみるうちに急に目の周りが赤くなり、体をギクシャクと震わせ襲ってきます。必死の格闘のすえ、ドアの外に追い出すことに成功。ひとまず冷蔵庫でドアを塞ぎます。

スマホにくるのは引き落とし通知のみ。すると母から「今、家に向かっている」とのメッセージ。食料を考慮し、何日生き残れるか考えますが、あまりないのは目に見えていました。

2日目。テレビでは教授の分析で「精神疾患のようなものではないか。脳に関係している」と語られていましたが、役に立つ情報でもありません。することもないので住所を書いた紙を持った自分の写真を撮って「#生き残らねば」とタグをつけてSNSに流すも、反応があるかもわかりません。

ドローンを飛ばしてみるも、電池切れ間際に。ゲームするしかないとPCの画面に向かうもすぐにネット接続不可に。

7日目。最後のカップラーメンをCMの誘惑に釣られて食べてしまいました。

10日目。食料も水もつきそうで死んだほうがましだと考えるばかり。

15日目。ハイテンションで気分が高まり、家族が帰ってくる幻影すら見えました。そして家族のボイス通話がなんとか届き、嬉しさに興奮したものの、その音声は家族が襲われたことを意味しており、一瞬で最悪の絶望に。

20日目。遠くで爆発が起き、停電も起きます。もうダメだ。生き残れない。首吊りを試みることにするジュヌ。

しかし、そこにレーザーの光が自分にあたるのが見えます。ふと見ると向かいのアパートに女性がいます。思わず手をふるジュヌ。自分以外にも近くに生存者がいた。

だったらもう少し生きてみよう。ジュヌの戦いは続く…。

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赤の他人と繋がることは尊い

『#生きている』はゾンビ映画としてはオーソドックスでオリジナリティらしいものもとくにはないし、シチュエーションの要になる舞台もアパートという、これまた何の変哲もない場所です。そういう意味では平凡。ゾンビ・パニックが起きているのにそう表現するのも変な話ですが、ジャンルとしてはノーマルです。

ただ、構成が最小限で組み立てられており、しっかり狙いを定めたストイックさがハッキリ出ているし、結果、シンプルに見やすい映画になっているなとも思いました。ゾンビ映画だからといって闇雲にごちゃごちゃさせない、とても丁寧な作品づくりです。

本作の一番のメッセージは「人と人との繋がりの大切さ」

この主人公ジュヌは冒頭の雰囲気から察するにずいぶんと怠惰な性格で、日常的に家族に頼り切ったライフスタイルを送っている人間のようです。基本は自室で引きこもってゲーム三昧…みたいな。

そんな彼があり得ない異常事態の中で思わぬ自立を強いられます。しかし、それはあまりにも過酷で精神を削るものでした。同時に普段は当たり前にいすぎて気づかなかった家族のありがたみも実感していくことに…。

その絶望が臨界点に達した瞬間に出会った赤の他人。しょせんは他人。普段だったらジュヌはどうでもいいと無視する他人です。でも今はすっごく嬉しい。このキム・ユビンという女性に出会ったときのどうしようもないほどにウキウキが顔に出てしまうあのジュヌの表情がいいですよね。“ユ・アイン”のこのへんの演技バランスが本当に上手く、こいつバカっぽいけど憎めないなと思っちゃいます。

その出会い以降、無線機を使ってのやりとりも微笑ましいです。ジャージャー麵を二人で別室だけど同じタイミングで作って、意外にユビンがやろうとしていることを当ててみせるジュヌだったり。この他人と何かを共有するというのは、それがジャージャー麵を作るという何気ないことでも、やっぱり人間にとっての生きがいなのでしょうし、これぞ人間らしく生きる権利そのものなんでしょうね。

映画の感想をブログやSNSに書くのだって同じ。自己満足ですし、それで何か世の中に影響を与えたいとまでは思っていないけど、共有できることで心が救われる。満たされる。社会に生きている実感を与えてくれる。そういうことは何にだってあるはず。

日本でも『アイアムアヒーロー』とかゾンビ映画はありましたけど、この『#生きている』に近いのはゾンビ映画ではないけど極限環境下での家族レベルの生き残りを描く『サバイバルファミリー』かなとも思います。

ただ、あちらはなんだかんだで結構保守的な家族観に着地していました。対してこの『#生きている』はそこから射程を少し広げて不特定多数の繋がりを信頼することに特化しているのがいいですね。

どうしても不特定多数のコネクションに疑いの目を向ける人は多いじゃないですか。そんなの紛いものの繋がりだよなんて説教をしながら…。でもそんなことはない。本作のラストで示されるように、家族愛とか経済的繋がりとか、そんなものがなくても繋がれるっていうのは実は素晴らしいことである、と。これによって生まれる救いというのは、見返りも何もない純真なものじゃないですか。それに実際の災害時にこうしたSNSでの救援要請が役に立つことも起きているし。

今のハッシュタグ・ジェネレーションをとりまく繋がりのポジティブさを前面に出した一作でした。

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コロナ前の最後のゾンビ映画

『#生きている』はそうした作品テーマの脇を固める部分も手堅くよくできていました。

例えば、シチュエーション・スリラーにつきもののサスペンス。今作では舞台はアパート。そこで繰り広げられるスリルも要所要所で上手く活かされています。高低差を活用したアクションだとか、少し離れた建物同士をどう繋げていくかだとか。消防士ゾンビがそうやって襲来してくるのか…とか、高低差は敵側も利用してくるのでハラハラしますね。

身近な舞台だからこそ、観客も体験を共有しやすいですよね。自分だったらどうするか、思わず考えちゃいますし、自室の品々を見つめ直したくなります。あらためて今、自分の部屋を見回すとゾンビを倒す武器になるものが全然ないな…。やっぱり金属バットくらいは常備しておかないとダメなのか…。それとドローンね。ドローン保有者はゾンビ大混乱時に有利ですよ。ぜひとも自主的に配達係をかって出てほしいところ。

ちゃんとジュヌとユビンの部屋の様子が異なるのも面白いです。かたや冷蔵庫で雑に守り、かたやアグレッシブなトラップで待ち構えているわけですから。性格が出ていますよね。

原則的にはゾンビなのでホラーなのですけど、コミカルなシーンも割と多いので、恐怖におびえながら鑑賞することはそんなになかったと思います。

そもそも映画全体がゲームっぽいノリになっています。アイテムを探しに行くとか(「ヌテラ(Nutella)」が超レアアイテムと化しているのが面白い)、仲間を見つけてパーティを組む感じとか。

あとジュヌがなんだかんだでユビンに対して「女を守るのが男の役割」的な振る舞いをしないのもいいですね。ユビンの方がサバイバル能力が高いというのもありますが、このへんのジェンダーをわかっている感じは最近の韓国映画の良い変化です。逆に女性を過度に守ろうとする間違った男らしさが暴走する恐怖が終盤に襲ってくる展開も用意されていますし…。

韓国映画界では、ゾンビ映画ではないですけどパニック状態な街から男女が脱出する『EXIT』もありましたし、こういうジャンルが流行っているのかな?

それでも本作を観ているとやっぱり考えてしまうのは、コロナ後に作られるゾンビ映画は変化が起きるだろうなということ。例を挙げるなら、本作ではどう感染が広がっていくのか全然トピックにもならないです。でもコロナを経験した私たちにはそこが一番気になるところ。絶対にマスクをつけたり、異常にうがい手洗いに気を遣ったり、消毒を徹底したりしますよね。たぶん今後のゾンビ映画はそういう感染症学的な観点もどんどん組み込まれてリアリティを増すのではないかなと思います。

『#生きている』はコロナによって変異を起こす前の最後のゾンビ映画の時代作かもしれません。

『#生きている』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Lotte Entertainment

以上、『#生きている』の感想でした。

#Alive (2020) [Japanese Review] 『#生きている』考察・評価レビュー