怖い話は大好きです…映画『スケアリーストーリーズ 怖い本』の感想&考察です。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:アメリカ(2019年)
日本公開日:2020年2月28日
監督:アンドレ・ウーヴレダル
スケアリーストーリーズ 怖い本
すけありーすとーりーず こわいほん
『スケアリーストーリーズ 怖い本』あらすじ
ハロウィンの夜、町外れにある屋敷に忍び込んだ子どもたちが一冊の本を見つける。その本には数々の恐ろしい話がつづられており、本を持ち帰った次の日から、子どもがひとりまたひとりと悲惨な目に遭って消えていく。さらに、その怖い本には、毎夜ひとりでに新たな物語が追加されていき、事態は悪化していく一方だった…。
『スケアリーストーリーズ 怖い本』感想(ネタバレなし)
怖い本はお好きですか?
私の人生で一番怖かった本はなんだっただろうか…。
本のページの紙で指を切るのは想像するだけでもすごく嫌なのだけど(そういう“怖い”じゃない)。
まあ、私は子どもの頃は怖がりな性格だったので、ホラー系の本なんて一切手を出さなかったし、学校の図書館にもそんなに置いていなかった気がする…。そんな人間がなぜ大人になった今、こんなにもホラー映画を観まくる映画バカになってしまったのか…。ゾッとする怖い話ですね…。
という御託はさておき、今回紹介する『スケアリーストーリーズ 怖い本』はその邦題のとおり「怖い本」がキーアイテムになってくるホラー映画です。なんともざっくりした邦題ですけどね、事実そのとおりなので嘘は言っていない。
怖い本が出てくるホラー映画なんていっぱい観た? でも本作は一味違います。
原作はアルヴィン・シュワルツという人が書いた児童文学シリーズ「Scary Stories to Tell in the Dark(邦題は「誰かが墓地からやってくる」)」であり、1980年代に出版されました。
この本が話題になった大きな理由が挿絵です。ちょっと「scary stories to tell in the dark illustrated」で画像検索してみてほしいのですけど、もうどう考えても児童向けじゃないよね?というレベルの恐怖イラスト。普通に大人が見ても夜、夢に出てきそうなインパクトを植え付けてきます。当然というか何というか、こんな挿絵の児童書にはクレームが殺到。アメリカ中の学校図書館に置くことに対して禁止を求める世論が巻き起こって騒動になったのだとか。絵を描いたのはスティーブン・ガンメルという児童向けの絵をよく描くイラストレーターなのですけど、全く手を緩めないあたり、怖い本ならぬ“怖い絵師”です…。結局、その怖い絵のせいで話題性が上がり、大ヒットのベストセラーになったそうで、人間、やっぱり怖いものが好きなんですね。
私も子どもの頃にこの本に出会っていたらたぶんひとりで夜にトイレとか行けなくなっただろうと思いますが、今の私はすっかり大好物で…。いや~、この絵を部屋に飾ってみたいなぁ…。額縁とかに入れて展示したら絶対にオシャレなのに…(夜は死ぬほど怖そう)。
そんなふうにこの本と絵に惚れた人は他にもいます。あの大物もそうです。アカデミー賞受賞者にして異形の存在を愛する“怖くない人”、そう、“ギレルモ・デル・トロ”です。『パンズ・ラビリンス』『クリムゾン・ピーク』『シェイプ・オブ・ウォーター』とこれまでの監督作でも幾度となくその愛を示してきた“ギレルモ・デル・トロ”が、この怖い本を気に入らないはずがありませんでした。スケッチ画を所有するくらい大好きらしく、映画化に乗り出します。
そして生まれたこの『スケアリーストーリーズ 怖い本』。あのスティーブン・ガンメルの挿絵が完全再現されており、さすがのクオリティ。一応、日本では全年齢レーティングになっていますけど、幼い子どもは鑑賞したらトラウマになるだろうな…。あれです、お仕置き目的で見せるのはいいかもしれない。まあ、お灸をすえるには強烈すぎるか…。
“ギレルモ・デル・トロ”は製作と原案にまわり、監督はしていないのですが、そこで監督に抜擢されたのがノルウェー人の“アンドレ・ウーヴレダル”。彼は北欧の森にはマジでトロールがいた!というフェイク・ドキュメンタリー風の映画『トロール・ハンター』や、死体解剖していたら科学的に説明不可能な恐怖体験で絶望する『ジェーン・ドウの解剖』など、とにかく尖った悪趣味な映画を作る人。私もその作風がとても大好きだったのですが、確かにこの『スケアリーストーリーズ 怖い本』にはぴったりかも…。“アンドレ・ウーヴレダル”監督は2020年は『Mortal』というファンタジーアドベンチャー映画を公開したり、スティーブン・キング原作「The Long Walk」の映画化を手がけることも決定済みで、引っ張りだこですね。
主な出演陣はあまり目立った役をまだしていない子役たちで構成されており、そういう意味ではとても新鮮に楽しめると思います。大人はほぼ出てこないです。ここからキャリアを羽ばたかせる子は現れるのかな?
雰囲気としては『IT イット』シリーズやドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』と同様の子どもたちが恐怖体験をしていく青春ホラー群像劇。そういうジャンルが好きな人は必見だと思います。
オススメ度のチェック
ひとり | ◯(とくに美術造形に興味ある方) |
友人 | ◯(ホラー好き同士で) |
恋人 | ◯(ほどよい恐怖体験を) |
キッズ | ◯(夜、眠れなくなるかもだけど) |
『スケアリーストーリーズ 怖い本』感想(ネタバレあり)
もしも怖い本を拾ったなら…
1968年。ペンシルベニア州のミル・ヴァレーという小さな町。10月31日のハロウィンということもあり、その閑静な町も少し賑やかな雰囲気に包まれていました。
ホラー系の作品が大好きで部屋にいっぱい飾ってあるステラは、オーギーとチャックという友達の男の子と一緒にハロウィンの夜に出かけます。もちろん仮装はバッチリ。ステラは魔女、オギーはピエロ、チャックは蜘蛛(スパイダーマンではなくスパイダーなマン)。時代っぽさのあるコスチュームがすごく良い感じ。
とくに意味もなく住宅地の外をぶらつく3人でしたが、イジメをよくする嫌な奴であるトミーとその仲間たちが乗る車と遭遇。むしゃくしゃしたのでモノを投げつけます。しかし、投げたものがマズかったのか、車に火がつき、ハンドル操作を誤った車は柵につっこんでしまいました。幸いにも怪我人がでるほどではなかったものの、トミーは激怒。3人を追いかけ回し、逃げるハメに。
逃げ込んだのは野外映画館(ドライブインシアター)。たまたま近くにあった映画鑑賞中の車に隠れます。その車はラモンという同じティーンエイジャーのもので、持ち主が困惑する中、息を落ち着かせる3人。なんだか生活臭のある車内を見渡し、「ここで暮らしているの?」と聞くも、答えをはぐらかすラモン。ちょうど『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が上映しており、話が合うステラとラモンは少しだけ良い雰囲気。
トミーのグループに見つかって車を囲まれますが、他の映画を観ている客からの苦情で、やむを得ずその場を立ち去ったことで、ひとまず安心。
ステラ、オギー、チャック、そしてラモンを加えた4人は、地元のサラ・ベロウズの幽霊屋敷に行くことにします。そこはいろいろな恐ろしい怪談が語り継がれるホラースポットです。
屋敷内はすっかりボロボロで、不気味ではありますがとくに何もありません。和やかに話すステラとラモンでしたが、ふとラモンが棚の裏に隠し扉を発見し、蜘蛛の巣だらけのそこを降りると真っ暗な地下室にたどり着きました。鍵のかかった扉を開けてさらに奥へ進むとそこはサラの部屋だと感じるステラ。
一方、オギーを驚かせようとクローゼットに隠れたチャック。すると部屋が明るくなり、ベッドに座る老女と犬を隙間から目にします。思わずクローゼットを閉じて、恐る恐るもう一度覗こうとすると、オギーが外から開けてきてびっくり。何事もない薄暗い部屋でした。
怖くなってチャックとオギーはステラたちのいる地下室で合流。ステラは地下室でサラが書いたと思われる本を見つけます。
しかし、いきなり地下室のドアが閉じ、なんだとパニックになっていると、トミーが閉めたことが判明。連れの女性ルース(チャックの姉)も蹴落として地下に閉じ込め、そのまま放置。出られないと絶望していると、ステラが怖い本のある文章を読むと、なぜか扉がカチっと開き、普通に出られました。なんで?と困惑状態ですが理由は不明です。
ラモンの車はトミーにいたずらされてしまい、窓は割れ、タイヤはパンクし、落書きされ、使えそうになく…。ステラはラモンを自宅に誘います。
自分の部屋で思わず持ち帰ってしまった例の本をめくるステラ。何もないページが続き、パラパラ戻ると赤い字で文章があるのを発見。あれ? さっきまで…。
しかもタイトルに「ハロルド」とあり、指で触ると赤く手につきます。まるで最近書かれたように…。読んでいくと、トミーが登場し、悲惨な目に遭うことが書かれており…。
翌日、トミーは消えました。トミーの家の畑では「ハロルド」と呼ばれる不気味なカカシにトミーの服が着せてあり…。
それが恐怖の物語の始まりだとはまだ知らない一同。物語は続きます…。赤い文字でスラスラと…。
怪物の中の人にも注目しよう
『スケアリーストーリーズ 怖い本』は子どもたちが恐怖の異形や現象と対峙して成長していくという、定番のジャンルであり、同類作品とその流れは変わりませんが、本作ならではの特徴は何と言っても襲ってくるものの造形です。
『IT イット』シリーズやドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』は割とエンタメ色が強く、お化け屋敷とかTVゲーム風のノリで楽しめる感じですが、この『スケアリーストーリーズ 怖い本』はあのスティーブン・ガンメルの挿絵ですからね。ガチで苦情を入れたくなるくらいの恐怖そのままに、映画らしく映像化してもその個性は健在。
しかも“アンドレ・ウーヴレダル”監督の作家性が加わったせいか、悪趣味度が増量し、音や映像でびっくりさせる怖さというよりは、生理的な嫌悪感を催させる気持ち悪さが全面に出ています。
まずあの「ハロルド」というカカシ。こんなカカシ、鳥以前に人間も近寄らないよという忌避効果絶大なビジュアルなのですけど、トミーのカカシ化の過程を実にエグく描くのがいい(恍惚な表情)。まあ、ハロルドに対しても「Eat shit!」と悪態をついてバットで殴ることしかできないトミーですから、観客としては同情するつもりもないので、このへんは全然平気ですけどね。
続くターゲットはオギー。あのもうシチューを二度と口にできそうにない体験も嫌ですが、一瞬登場する背の高いゾンビ風な怪物(クレジットでは「Big Toe Corpse」)。あのデザインもいい。一緒にシチューを食べたい。
で、たぶん最も嫌悪感MAXなシーンが、ルースが体験するあれでしょうかね。顔にできた吹き出物が気になるルースが鏡で自分の顔を見つめていると、どんどんその吹き出物が目立つようになり、なぜか1本の毛みたいなものがポツンと生えている。それを引っ張ると…。あれは蜘蛛嫌いでなくとも嫌ですよね。
そして病院でチャックが直面する、あの、なんて言ったらいいんだ…えっと、色白で、黒髪が印象的で、おっとりした、つぶらな瞳の、女性?(映画を観ていない人だと全然違うものを想像してしまう説明)…一応、クレジットでは「Pale Lady」になっていますが、彼女こそこの『スケアリーストーリーズ 怖い本』のヒロイン。ゆっくり近づいて優しくハグしてくれるんですから、良い子ですよ。まったくチャックもモテモテだなぁ。
最後はターナー署長を瞬殺して、車を無邪気に猛追してくる、バラバラ・モンスター(クレジットでは「Jangly Man」)。一見するとありがちなモンスターですが、関節グキグキに曲がる姿といい、鉄格子を強引に抜ける荒業といい、びっくり人間コンテストに出れそうだし、車に大股でしがみつくのも可愛い。
総合的に私は本作の怪物をみんな愛せる…ということになりました。以上、報告です(なんのだ)。
真面目な話、本作の怪物造形は本当に素晴らしく、ちゃんとCGではなく実物を作っているのもいいところ。“中の人”として役者が演じているので、そこに実在している感じがよく出ています。
ちなみに「Big Toe Corpse」を演じているのは、よくホラー作品でお世話になっている“ハビエル・ボテット”ですね(マルファン症候群の俳優の人)。また、ハロルドと「Pale Lady」を演じている人は同じ人物で、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のおなじみモンスター「デモゴルゴン」の中の人である“マーク・スティガー”です。さらに「Jangly Man」を演じた“トロイ・ジェームズ”は、本当にああいう体がグネグネ曲がる動きができるパフォーマンサーでもあります(以下の動画を参照)。
こういう普段は目立たない“中の人”をぜひとも知ってほしいですね。全部がCGだと思ったら大間違いですよ。
物語は癒すし、傷つけもするから…
『スケアリーストーリーズ 怖い本』は物語としてはかなりシンプルで、不幸なサラをなだめるだけでなんとか説得できるので、どこかの映画のようにエクソシストが全力で呪いを解き放つ必要もないし、精神攻撃で相手をズタズタにする必要もない、倒し方のビジュアルはあっさりです。
しかし、直接的には語られませんが時代性を反映した物語になっており、そこを考慮しながら映画を読み解いていくと面白さが増します。
『IT イット』シリーズやドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』は1980年代が舞台でしたが、この『スケアリーストーリーズ 怖い本』はそれよりさらに前の1960年代後半。作中にもテレビで映し出されていたように、1月にはベトナム戦争において南ベトナムの共産ゲリラが蜂起し、テト攻勢開始。戦火は終息するどころか終わりが一向に見えず、疲弊したアメリカは10月に北爆を停止します。
で、知っている人もいると思いますが、作中でも登場した『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年10月1日に公開)のゾンビたちはこのベトナム戦争の悲惨な実態とそこからの恐怖心が反映されたものだと指摘されています。テレビメディアが戦場に介入し、戦地のあまりにも惨たらしい生の姿を克明にカメラにおさめ、お茶の間に流しました。惨殺行為、死体の山…。そうしたショッキングな人間の闇の可視化は人の心に大きな影響を与えたと言われています。
『スケアリーストーリーズ 怖い本』に出てくる生理的な嫌悪感を煽る怪物たちもまさに『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のゾンビと同様に、ベトナム戦争の背景を背負っているようにも感じさせます。
また、サラの悲劇が命の終焉とともに幕を閉じた1898年は、当然ながら今よりもはるかに根深く女性差別や人種差別が蔓延っており、そうした苦悩があの惨劇の遠因になっていることは想像するに難しくありません。
そんな「不幸の物語」をステラという未来を担う子どもが「癒しの物語」に変えてみせると決意する。そのエンディングは私たち観客に投げかけるものでもありますよね。
結論。とりあえず怪しい本は拾ってこないようにすること。そして、なるべく後世には素晴らしい物語を伝えていきたいものです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 78% Audience 72%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 7/10 ★★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)2019 CBS FILMS INC. ALL RIGHTS RESERVED. スケアリー・ストーリーズ・トゥ・テル・イン・ザ・ダーク
以上、『スケアリーストーリーズ 怖い本』の感想でした。
Scary Stories to Tell in the Dark (2019) [Japanese Review] 『スケアリーストーリーズ 怖い本』考察・評価レビュー