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『アメリカン・カーネイジ』感想(ネタバレ)…移民はこの国の糧になっている!?

アメリカン・カーネイジ

それってどういう意味?…映画『アメリカン・カーネイジ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:American Carnage
製作国:アメリカ(2022年)
日本公開日:2024年7月12日
監督:ディエゴ・ハリヴィス
人種差別描写 恋愛描写
アメリカン・カーネイジ

あめりかんかーねいじ
『アメリカン・カーネイジ』のポスター

『アメリカン・カーネイジ』物語 簡単紹介

ファストフード店でアルバイトに励む青年のJPは、コロンビア大学への進学が決まったばかりの妹リリーの背を見ながらも、アメリカの地で健気に頑張っていた。ある日、突然、知事が緊急事態宣言を発令して非正規の移民やその子どもたちを大量に逮捕し、JPたちも容赦なく拘束されてしまう。彼らは辺鄙なところにある老人ホームに住み込みでボランティアをすることになるが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『アメリカン・カーネイジ』の感想です。

『アメリカン・カーネイジ』感想(ネタバレなし)

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大虐殺はどっちのセリフだ?

2025年9月、アメリカのジョージア州の韓国企業の工場が立ち並ぶエリアで、移民当局の強制捜査が行われ、そこで働いていた主に韓国の労働者475人が資格外のビザで不法に働いていた疑いがあるとして拘束されました。中には日本人3名も含まれていましたBBC

全米で米移民税関捜査局(ICE)による移民取り締まりを強化している“ドナルド・トランプ”大統領は「彼らは不法移民だ。移民当局はただ職務を遂行していたに過ぎない」と今回の大量摘発も正当化。しかし、拘束された日本人3人含め、正規のビザを取得していたと言われています。

「不法移民」とレッテルを貼られているのは非正規の移民(大多数が労働者)です。「どうせ“不法”なことをしているから悪い人なんでしょ?」と他人事かもしれませんが、それは全く通用しないことは今回の一件でもよくわかります。結局、「何が不法で、何が不法でないか」は権力者が恣意的に決められるのです。

こんなタガが外れた現実を見てしまうと、今回紹介する映画もそう荒唐無稽じゃなくなっているのかもしれないと、不安になってきますね…。

それが本作『アメリカン・カーネイジ』

本作の強烈なタイトル「American Carnage」は、2017年の“ドナルド・トランプ”大統領の就任演説の一節に由来しています。その演説で、「アメリカの大虐殺(American Carnage)は今、まさにここで止まる。今日から新たなビジョンが私たちの国を支配する。今日から、アメリカ第一主義だけが貫かれる」と宣言しましたThe Guardian。トランピストが気に入らないもの(移民や多様性など)が「American Carnage」ということです。

この映画はまさにそのトランプへの移民側からのアンサーであり、「うちらにとっての“American Carnage”はこれだよ?」という痛烈な皮肉です。

主人公はラテン系の非正規移民の親を持つ10代の子たちで、あるとき、いきなりICEに拘束されてしまうのですが、そこから恐ろしい事態を経験します。

背景にあるのは深刻な排外主義の恐ろしさですが、それを題材にコッテコテのジャンルのホラーに塗り替えており、コミカルな雰囲気も漂わす、軽妙なエンターテインメントだと思ってください。なのでわりと観やすく作ってくれています。

『アメリカン・カーネイジ』を監督&脚本したのは、“ディエゴ・ハリヴィス”(ディエゴ・ハリビス)という人で、2017年に『タイムトラベラー』で長編映画監督デビューしています。兄弟の“フリオ・ハリヴィス”と共同で企画しており、今作もそうなっています。

『アメリカン・カーネイジ』に出演する俳優陣は、『ナイトティース』“ホルヘ・レンデボルグ・Jr”、ドラマ『ウェンズデー』“ジェナ・オルテガ”、ドラマ『ブラッキッシュ』“アレン・マルドナード”、アニメ『ワイルド・スピード/スパイレーサー』“ホルヘ・ディアス”『ハイポ』“ユマリー・モラレス”など。

アメリカ本国では2022年に劇場公開となったのですが(日本では2024年に公開)、当時はトランプ政権が終わった後。その後に2期目のトランプ政権のさらなる惨状が待っているとは知らず…という感じで…。

今の2期目のトランプ政権中に観ると、一層笑えないかもしれませんね…。

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『アメリカン・カーネイジ』を観る前のQ&A

✔『アメリカン・カーネイジ』の見どころ
★社会風刺を辛口にジャンルでアレンジしたセンス。
✔『アメリカン・カーネイジ』の欠点
☆誇張された大袈裟なエンターテインメントなのでそのつもりで。

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 2.0
残酷な描写が一部にあります。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『アメリカン・カーネイジ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

ファストフード店でイヤホンでノリノリで音楽を聴きながらパティを焼いて働いていたJPは、ニーナから急用のためにレジを代わってほしいとお願いされます。ラテン系同士のよしみでしょうがなく代わってあげます。

ドライブスルーでは白人の客が無理な注文を要求してきますが、「できない」と答えると、「英語がわかるか? この不法入国者め」と露骨に差別的な口調でけなしてきます。JPは動じずにマイクで後続車両に「ここにレイシストがいます」と軽快にアナウンス。相手を追っ払います。

その後にやってきた車に乗っていたのは妹のリリーで、ニューヨークのコロンビア大学に進学が決まったとそこで知ります。JPには複雑な気持ちではありました。かなりここからは遠いです。

仕事終わりに同僚友人のスコットとくだらない話をしながら、好意を抱くアンドレアをどう誘えばいいかと、もらった大麻を吸いつつ、ぼやきながら帰ります。

家でリリーに「自分はお前の卒業前に稼いで家を買ってやる」と息巻くJP。蝶のタトゥーを耳元に入れたリリーのお祝いのパーティーに参加し、自分と違って母から喜ばれる人生を歩みだした妹を眺めていると…。

そのとき、移民を管理するICEが強制突入して問答無用で全員を拘束してきます。大混乱です。抵抗も弁明もできません。

実はハーパー・フィン知事が緊急事態を宣言していました。不法移民を一斉逮捕するというのです。実際は支持層へのアピールのための施策ではないかとメディアでは分析されていました。専門家も市民もこの一方的な行政命令を批判。不法移民の数は200万人で、米国内で生まれた子どもも不法入国の幇助として逮捕する、滅茶苦茶なやりかたでした。

第45区という粗末な檻で集団で寝させられるJP。どうなるかは何もわかりません。翌日、リリーが黄色い収容服でバスに乗せられている姿を目撃します。

JPは弁護士と話す機会を得ますが、法的な訴えは時間がかかるそうで、このままだと重罪です。そこでひとつだけ手があると提案されます。それはボランティアが高齢者を世話する奉仕事業で、これに参加すれば無罪放免になるらしいです。

それしかないと判断し、参加を決めるJP。

他にも同様の理由で参加を決めた同年代がいました。政治活動家のカミラ・モンテス、神経質なクリス・モラレス、太った熟女が好きなビッグマック、アルゼンチンにルーツがあって肌は白めなミカ・フエンテス

フクロウの館という古そうな屋敷にバスで大勢と到着。足に装置をつけられ、監視状態ですが、ここでは仕事が住み込みで可能です。

このプロジェクトの創設者で監督官のエディ・デイビスに紹介され、施設内をみてまわります。設備が整った普通の老人ホームのようで、高齢の入居者が自由に過ごしていました。

ところが、JPは「ここで殺される」と嘆きだすひとりの高齢女性に会い…。

この『アメリカン・カーネイジ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/09/21に更新されています。
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社会風刺ジャンルのジャンクフード

ここから『アメリカン・カーネイジ』のネタバレありの感想本文です。

現実と地続きであることを痛烈に示すオープニングで始まる『アメリカン・カーネイジ』。しかし、いざ主人公が映り、物語が本格的に開店すると、やけに軽々しいノリとなります。

この映画はクソッタレな現実にあえて中指を立てる作品です。ラップがリリックで社会に反抗するなら、映画は映像&ストーリーテリングで反旗を翻す。そういう反骨精神が炸裂しています。

結構、真っ当にジャンル映画として作り込んでもおり、人種差別というヘビーな社会問題をホラーのジャンルに置き換える手捌きは、『ゲット・アウト』“ジョーダン・ピール”流の継承といった感じ。“ディエゴ・ハリヴィス”監督は「ラテン系でやるならこれだな」というツボをきっちり押さえていました。

ICEに非人道的に拘束されてから、主人公のJPたちが「奉仕」に参加してからが本番。

ここからはいわゆる「お屋敷系の怪奇ホラー」のジャンルのテンプレをなぞっていくことになります。なんだかどこか秘密を抱えてそうな屋敷の中で、得体の知れない恐怖に襲われていく…。表からは見えない、裏の世界がこの屋敷にはある気がする…。

しかも、若者たちが主軸なので、ホラーとしては定石。「ああ、よくみるあれだな」と安心できる構図です。

でもその屋敷が老人ホームで、若者たちが高齢者の世話をしないといけない…ってところがちょっと新鮮ですね。

すごく若者の心理を突く舞台設定だと思うのです。やっぱり若者が最も「自分とは遠い存在」と思ってしまうのは高齢者ですし、正直、そんな高齢者をどこか怖いと思ってしまう心理的不安感があります。

そして半ば強制的にその高齢者の世話をしろと命じられる。刑罰としては嫌悪感を相当に刺激させます。

しかし、ここで本作の皮肉な風刺がぶち込まれます。実はあの高齢者たちは、拘束した若者たちが化学的な成分の注射の結果で高齢化してしまった存在だったのだ、と。かけ離れた存在だと思っていましたが、自分に近しい未来でした。

これは「若者もいずれ高齢者になる」という因果応報をド直球に示していますが、風刺対象はそれだけに収まりません。

終盤で明らかになるように、このエディ・デイビスが監督する老人施設は、入居者を「肉」にしてファストフード店(JPの働いている店)に出荷していました。つまり、実態は家畜飼育と加工を兼ね備えた施設でした。

カニバリズムでファストフード業界の非倫理性をえぐりだすヴィーガニズムな批評性も持った映画だったんですね。

実際、家畜の多くは肉質を良くするために飼料などで化学的な調整をされますし、肉さえよければ、他の健康状態はどうでもいいというくらいに悪化していることも普通にあるので、この映画で描かれることは「ヒト」に置き換えてはいますが、一般的に家畜が受けている日常とそう変わりません。

こうやって整理すると、ジャンルで社会風刺を盛り込みまくったジャンクフードみたいな作品でしたね。

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移民に感謝して、いただきます?

もちろん若者の高齢者恐怖とファストフード業界の不正を風刺するにとどまりません。『アメリカン・カーネイジ』は冒頭の移民敵視の排外主義へとまたテーマは集約されていきます。

要は、アメリカン・ドリームの正体ですね。アメリカという国が掲げる「みんなの夢が叶うチャンスのある自由な世界」というマーケティング用の看板にすぎず、その根底には「誰かを搾取し、食らいついていかないと、成功できない世界」というあられもない惨状があるのだ、と。

これこそアメリカ第一主義。アメリカ第一主義とは貪欲な暴食だったのです。

ファストフードでアメリカ第一主義をエンタメ全開に皮肉るというアプローチは、“マシュー・ヴォーン”監督の『キングスマン:ゴールデン・サークル』でもやっていたのですが、『アメリカン・カーネイジ』はその一点突破で豪快に振り切り、ラテン系の主体性で描き切った勢い勝ちだったと思います。

終盤のハチャメチャな反乱も合わせると、“エドガー・ライト”風味も感じました。

繰り返しになりますけど、“ディエゴ・ハリヴィス”監督はラテン系の目線に軸足を置いているのが良いです。

例えば、ひとくちにラテン系と言ってもいろいろな人がいます。それこそ肌の色もそうです。ビッグマックのように黒人の側面を持っている人もいるし、ルーツの国もバラバラです。あくまで「ラテン系」というのは大雑把な区分です。しかし、社会はそのラベルをとおしてこちらを見つめてくるし、こちらもそのラベルを掲げないと存在感を発揮できないこともある。

「私たちは家畜じゃない、ひとりの人間です」と声をあげて闘わないといけないこともある…その今の心境が映画にこもっていました。

で、ですよ。前半の感想でも言及しましたけど、2期目のトランプ政権は移民の排除をさらに過激化させました。もう1期目のときのように「壁」に頼る戦法はかなぐり捨て、手当たり次第に捕まえる作戦にでています。当然、ターゲットはラテン系だけではありません。非白人、そして敵視する思想の持ち主なら誰でもです。

なのでこの『アメリカン・カーネイジ』の風刺も、製作陣的には誇張して描いているつもりだったでしょうが、本国公開からたった3年程度で、すでに現実がフィクションを食らいつくす酷さがあるので…

いや…これは全然無邪気に楽しめる話ではないです。ほんと、困りますね。私は映画をフィクションとして思う存分に楽しめるのは、現実が過剰なフィクションのようにならないという一線を守ってくれる前提があるからだと常々思っています。

最近のアメリカは映画を気楽に作れる世界ですらなくなってきている…。心配になるばかりです。

自国民を好きなだけ貪り喰って、余ったものを放棄し、最後に残るのは何なのでしょうかね…。

『アメリカン・カーネイジ』
シネマンドレイクの個人的評価
6.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

作品ポスター・画像 (C)The Hallivis Brothers アメリカンカーネイジ

以上、『アメリカン・カーネイジ』の感想でした。

American Carnage (2022) [Japanese Review] 『アメリカン・カーネイジ』考察・評価レビュー
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