物語は恐怖を和らげるだろうか…ドラマシリーズ『ミッドナイト・クラブ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ・カナダ(2022年)
シーズン1:2022年にNetflixで配信
製作総指揮:マイク・フラナガン、リア・フォング ほか
自死・自傷描写 恋愛描写
ミッドナイト・クラブ
みっどないとくらぶ
『ミッドナイト・クラブ』あらすじ
『ミッドナイト・クラブ』感想(ネタバレなし)
怖い話は怖いだけではない
怪談の文化はいまだに続いているようです。怪談…つまり怖い話を語ることですね。
若き怪談師として注目されている“深津さくら”さんはインタビューでこう答えています。
怪談は、コミュニケーションの手段のひとつなんです。誰にでも人と異なる一面はきっとありますよね。でも、普段の生活の中でそれを見せ合う場面ってほとんどないと思うんです。それが“怪談”というツールを通すと、違いを見せ合うハードルが低くなる。誰かの体験したお話を聞いている時は、その人の素の部分…普段は胸の奥にしまっている、大切なものを覗かせてもらっているような気持ちになります。話す人も聞く人も、お互いに受け止める姿勢があるから、無理に着飾る必要がない。怪談を話しているうちに、自然と打ち解けられることが多いんです。
引用:文春オンライン
怪談は癒しにもなるとも語っており、結構意外な怪談の効能みたいなものが見えてきます。
今回紹介するNetflixのドラマシリーズもそんな怪談のいろいろな効果について考えたくなる作品です。
それが本作『ミッドナイト・クラブ』。
本作は、若者たちが真夜中に集まって怖い話を語り合うという物語なのですが、舞台がホスピスとなっているのが特徴です。つまり、この若者たちは重い病気で青春時代を過ごせずに、それに加えてもう命が尽き果てようとしているという、そんな境遇にいます。青春を送れなかった者たちによる最期のジュブナイル・ホラーみたいな感じです。
そして構成がやや特殊で、メインの主軸となるストーリー・ラインがあるだけでなく、この若者たちが各々で怖い話を語りだすので、そのたびにその物語が映像として始まり、ちょっとした「物語内物語」の構造を持ち、オムニバス風に見えなくもない…なんとも不思議な感触があるドラマシリーズでもあります。
ということで少し取っつきにくい部分もあるのですが、『ミッドナイト・クラブ』はただただ怖がらせるための怖い話では終わりません。先ほども書いたような怪談の正の効果というものを実感させるような味わいもあり、しんみりする方向にも…。
この『ミッドナイト・クラブ』を企画したのは、今やホラー映像作品界隈で最も実力を発揮しているひとりである“マイク・フラナガン”。その巧みなセンスはマニアを唸らせ、『サイレンス』(2016年)、『ジェラルドのゲーム』(2017年)、『ドクター・スリープ』(2019年)といった映画を監督し、最近は2021年に『真夜中のミサ』というドラマシリーズを製作。こちらは私も“マイク・フラナガン”監督史上最高の一作として堪能したばかりです。
その“マイク・フラナガン”が今度は若者たちを主役にした作品を手がけると聞いて、今度はどんな内容になるんだと思いましたが、実際に観てみると「なるほど、マイク・フラナガンらしいな」と納得の中身でした。“マイク・フラナガン”監督はやっぱり単純に怖がらせるだけではない、ホラーというジャンルを突き詰めるとそこにはひと欠片の希望だって探りだせる…みたいな、そういうスタイルの作品を生み出すクリエイターなんですね。
ちなみに『真夜中のミサ』は原題が「Midnight Mass」で、この『ミッドナイト・クラブ』とは「ミッドナイト」の部分が被っていますが、2作に関係はありません。『ミッドナイト・クラブ』には原作があって、“クリストファー・パイク”の1994年の小説が基になっていますが、他の著作も複合しながらの独自の物語としてドラマ化されています。
俳優陣は、あまりキャリアとしては大きな目立つ出演暦の無い若い俳優を多く起用しています。そのうちのひとりは“アヤ・フルカワ”という日系カナダ人で、ドラマ『ベビー・シッターズ・クラブ』に主役のひとりの子の姉の役で出演していました。
そして“マイク・フラナガン”作品ではおなじみの大人の俳優たちも脇に揃っていたり…。どんなふうに登場するかは見てのお楽しみ。
ドラマ『ミッドナイト・クラブ』は全10話。1話あたり約50~60分と、ややボリューム多めですが、死を扱う作品でありながらもそんなにヘビーになりすぎないバランスになっているので、案外と見やすいのではないでしょうか。
なお、ジャンプスケア(大きな音と瞬間的な映像で脅かせる恐怖演出)がよくでてくるのですが、本作はそれをむしろネタにしており、一部のシーンでは他に類を見ないジャンプスケアの大連発が見られます。逆に笑えてくるので、そこも注目していてください。
『ミッドナイト・クラブ』を観る前のQ&A
オススメ度のチェック
ひとり | :ホラー好きなら |
友人 | :自由に語り合って |
恋人 | :ロマンス要素一部あり |
キッズ | :やや暴力描写あり |
『ミッドナイト・クラブ』感想(ネタバレあり)
あらすじ(序盤):姿が見えない者たちへ
1994年、サクラメント。高校生のイロンカは髪を赤く染め、養父のティムといつものやりとりをしつつ、大学のパーティーに友人と混ざりに行ってみます。英文学科のブライアンという男と会話し、一番好きなのはメアリー・シェリーだとイロンカは熱弁。次席で成績優秀なイロンカは早く大学で学問を学びたくてウズウズしていました。
ところが急に咳き込み始め、口を押さえた手には血が…。すぐさまトイレに駆け込むと、その場で気絶してしまい…。
イロンカは甲状腺がんと診断されました。秋から大学に通う予定でしたが、手術をする必要があります。
それから病室のベッドでの生活が始まりました。症状は改善していません。18歳を祝われますが、イロンカの気持ちは沈んでします。頭を剃ったイロンカは友人と電話、大学が楽しそうです。
自分の余命は2年もないという話を聞いてしまい、イロンカはここで過ごすのも嫌だとネットで検索。そして「ブライトクリフ・ホスピス」という若者向け末期患者の施設を見つけました。記事によればジュリア・ジェインという子が完治したそうです。
父にこのホスピスを提案しますが、父は反対。「妻のマギーに約束したんだ、ちゃんと育てる」…そう言いますが、とりあえず体験入居することに。
さっそくそのホスピスに到着。建物の前ではヘッドホンで音楽を聴いていた子がいました。白血病なのだそうです。名前はケヴィン。
その後、看護師のマークが施設内を案内。1901年に建てられ、当初はパラゴンという宗教の施設だったそうですが、1966年に今の持ち主になったという歴史があります。
案内中、イロンカは廊下で不気味に立つ老婆が自分にだけ見え、またも気絶してしまいます。ベッドで目覚めると、このホスピスを管理する医師のスタントンがいました。
「ここでは闘わなくていい、戦場を去る権利を与えられた居場所よ、生きているだけで勝利なんだから」
スタントンはそう言い、今度はスペンスという若者に施設を再度案内させます。今の入居者は、ナツキ、サンドラ、アミッシュ、シェリ、そしてルームメイトになるアーニャ。ここには図書館もあります。古いエレベーターが気になりますが、地下には霊安室があると言われ、入るのを止められます。
イロンカはここを気に入り、父は近くのモーテルに帰りました。
自室のベッドの下に陣のようなものを見つけて怪しんでいると、そこに車椅子のアーニャがやってきます。その陣は以前ここにいたレイチェルの仕業らしいです。
食事でみんな集います。スタントンは夜間の外出禁止のルールをあらためて教えます。
しかし、夜中にアーニャがでていくのを見かけたイロンカは、7人のみんなが図書館に集まっているのを目撃します。これは「ミッドナイト・クラブ」だそうで、怖い話を語り合っているのだとか。
さらにこれには目的があるとも言います。一種の協定のようなもので、もしここにいる誰かが死んだら、あの世から交信を試みて、あの世の存在を立証しよう…ということでした。
イロンカは自分自身も怖い物語を語りだします。それはジュリアという施設の子の話…。
私たちには物語がある
『ミッドナイト・クラブ』はホラーのオードブルみたいな構造で、あんなホラーもこんなホラーもちょこっとずつ味わえる楽しみ方ができます。
その理由は、作中で「ミッドナイト・クラブ」として各入居者の若者たちが各々で考えた「怖い話」を語りだし、それが映像として描かれるからです。しかも、その「怖い話」の中で登場する人物たちはご丁寧に入居者を演じた俳優たちがまたも演じており、本作のメイン俳優たちの演じた役名の数はなんだか凄いことになっています。
ジャンルも微妙に違ってきて、魔女モノ、悪魔モノ、タイムループ系、死を偽装する物語、未来人が現れる物語、さらには未来のサイボーグまで…。各語り部の好みが反映されるので本当に様々です。
これだけを単に各話で雑然と眺めていると、一体何を見せられているのだろうと思ってしまいますが、この「怖い話」はフィクションでありながら、語り部の実人生の体験や苦悩が素材になっているという部分が重要です。
例えば、個人的に一番グっとくるのは、第8話でのナツキが語る物語。車で家を飛び出し、道中で人を拾うも、なんだか車内は煙たいし、ガソリンスタンドをループしているのような気がしてくる…。これは実際の作中の登場人物は車内で一酸化炭素中毒で自死しようとしていた真相が判明し、同時にはこれは鬱病のナツキの苦しい過去を投影しています。
本作はそんな「怖い話」は場合によっては自分の辛さ・苦しさを緩和できるという役割を見せてくれます。怖がらせるための物語じゃなく、和らげるための物語なんですね。入居者たちは日中はグループセラピーをしていますが、この真夜中のクラブもまたケアの意義がある。
そのケアとしての怪談の効果を最大にひっくり返して見せてくれるのが第7話のアーニャの物語。あそこは見せ方が実に“マイク・フラナガン”らしいですね。冒頭からいきなり舞台は1年後になって社会復帰したアーニャ以外みんな死んだと思わせておいて、実はアーニャは昏睡状態でみんなの語りを聞きながら夢を見ている。創作物語が最期の瞬間までケアとして寄り添ってくれる。
同情でプロムキングにされてしまったケヴィンが最終話で自分の物語を完結させられたように、現実が充実したものにならなくても私たちには物語があるじゃないかという視点。
悲惨な人生でも物語の題材になる。これは現実の恐怖がトラウマポルノとして消費されてしまう昨今の問題とは全く正反対の、いわば当事者主体型の物語の良さを提示しているとも言えるかもしれません。
『ミッドナイト・クラブ』を単なる怖がらせジャンルとしてしか期待していなかった人は、こういう内容にはガッカリかもしれませんが、私はこれぞ“マイク・フラナガン”監督の真骨頂だと思いますし、ここにこそ満足感を感じました。
物語は信じても、カルトは信じるな
そんな感じで物語の強さというものを誇る一方で、『ミッドナイト・クラブ』は別の側面、つまり物語を悪用する輩の存在も描いています。
それがあのパラゴンというカルト集団です。元々はレジーナ・バラード(アケソ)が娘のアテナを巻き込んで始めた魔女的な血の儀式だったようですが、あのパラゴンの施設がホスピスとなった後、その記録を手にした入居者のひとりのジュリアはその記録から自分に都合がいい救世主物語を創り出し、のめり込んでいきます。
そのジュリアは今はシャスタという名で施設近くでコミューンを築いており、以前は癌が治ったもののまた再発したので儀式を再度行おうと狙っていました。
そしてジュリアの自然治癒の物語に感化されてしまったイロンカがまさに狙われることに…。
もちろんこの自然治癒は儀式によるものではないのでしょう。ジュリアも、あのサンドラも、おそらく言われているとおり誤診が理由のはず(当時ならこういう誤診も珍しくないでしょうし)。
しかし、私たちはそんな出来事を聞いてしまうとそれを「奇跡の物語」として解釈してしまうもので…。恐怖を物語で緩和できることもあるけど、同時に物語が私たちの視野を歪め、危険な領域へと依存させてしまうこともある。その怖さがまざまざと突きつけられるドラマでもありました。
まあ、要するに、物語は信用してもカルトは信用するなという話ですね。病気以上に恐ろしいのはカルトです。
これでめでたしめでたし…と思ったらまだ解けていない謎がありました。イロンカとケヴィンが見たあの老人は何なのか。ラストではそれはこの施設の創設者であることが示唆され、しかもスタントンまでもパラゴン関係者の疑惑さえも…。逃げ出したシャスタもどうなったかわからないし…。
やっぱりこのホスピス自体がヤバい場所なんじゃないか…そんな衝撃のラストで終わってしまったこの『ミッドナイト・クラブ』。これは続きを作る気、あるのかな…。
“マイク・フラナガン”、クラブの時間だよ~! 早く話を語ってくださ~い!
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 88% Audience 57%
IMDb
6.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)Netflix ミッドナイトクラブ
以上、『ミッドナイト・クラブ』の感想でした。
The Midnight Club (2022) [Japanese Review] 『ミッドナイト・クラブ』考察・評価レビュー