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ドラマ『ジェン・ブイ(Gen V)<シーズン2>』感想(ネタバレ)…大学にまだ正義は残っているか?

ジェン・ブイ

ここが正念場だ…ドラマシリーズ『ジェン・ブイ』(シーズン2)の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

この感想はドラマ『ジェン・ブイ』の「シーズン2」のものです。「シーズン1」の感想は以下の別記事にあります。
原題:Gen V
製作国:アメリカ(2025年)
シーズン2:2025年にAmazonで配信
原案:クレイグ・ローゼンバーグ、エヴァン・ゴールドバーグ、エリック・クリプキ
動物虐待描写(家畜屠殺) LGBTQ差別描写 ゴア描写 性描写 恋愛描写
ジェン・ブイ(シーズン2)

じぇんぶい
『ジェン・ブイ』のポスター

『ジェン・ブイ』(シーズン2)物語 簡単紹介

超人的な能力を持った人間に特化し、若者を夢と希望溢れる未来へと導くゴドルキン大学。ここに入学したマリー・モローは、同年代の仲間と巡り合いながら、この大学の裏で密かに行われていた非人道的な行為の実態を知る。果敢にその陰謀を暴こうとしたが、ヴォート社に支配されている大学の地盤が揺らぐことはなく、マリーたちは捕まり、監禁施設に送られる。そして、次なる血塗られた新学期が幕を開ける。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ジェン・ブイ』(シーズン2)の感想です。

『ジェン・ブイ』(シーズン2)感想(ネタバレなし)

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第2の新学期が始まります

2025年から第2期に突入した“ドナルド・トランプ”政権が真っ先に攻撃した対象のひとつが自国の大学でした。自身の政権にとって気に入らない教育内容や学生の言動に圧力をかけるべく、あらゆる脅しを仕掛けており、大学の言論の自由学問の自由がかつてないほどに揺らいでいますThe Guardian

そんな時代の中でこの大学を舞台にしたドラマシリーズのシーズン2が配信されたわけですが、全くフィクションだと笑える状況ではないですね。

それが本作『ジェン・ブイ』

2019年から「Amazonプライムビデオ」で独占配信が始まった、アメコミ・ヒーローを武器にアメリカの社会政治を痛烈に風刺的に抉り出したドラマ『ザ・ボーイズ』。大好評を受け、そのスピンオフとして世界観が拡張されたのがこの『ジェン・ブイ』です。

『ジェン・ブイ』は2023年から同じく「Amazonプライムビデオ」で独占配信され始めましたが、2025年にシーズン2が開幕となりました。

時間軸としては、『ザ・ボーイズ』シーズン1~3 ⇒ 『ジェン・ブイ』シーズン1 ⇒ 『ザ・ボーイズ』シーズン4 ⇒ 『ジェン・ブイ』シーズン2 …の流れとなっており、その順番で観れば問題ありません。この2作のドラマは結構密接に関わっており、互いの登場人物がクロスオーバーしていきますし、ネタバレもガンガン飛び出すので、観る順番は大事だと思います。

舞台は相変わらずの、スーパーパワーを持つ能力者(ヒーロー)を権力と金儲けに利用する巨大企業「ヴォート社(Vought)」の傘下にある、ヒーローの若者に特化した「ゴドルキン大学」です。

ちなみに余談ですけど、現実において“ドナルド・トランプ”大統領の「影の大統領」と称される、政府予算に甚大な影響力を持つ行政管理予算局の局長の名前が“ラス・ヴォート”(Russ Vought)なんですよねProPublica。偶然の一致なのだけども…。

『ジェン・ブイ』のシーズン2も、主要登場人物は継続するのですが、ひとつ残念な出来事があって、主演のひとりであった“チャンス・パードモ”が2024年3月29日にオートバイの事故で亡くなってしまいました。シーズン2の撮影間際だったのですが、“チャンス・パードモ”が演じていたアンドレ・アンダーソンについてはリキャストすることなく、シナリオを変更し、対応しています。このシーズン2全体が“チャンス・パードモ”の死を悼み、彼に捧げる作品になっています。

なので『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』と同じような作品の空気にもなっていますが、作品をとおして別れと向き合えるのは良いことなのかもしれません。想いを深めることができますから。

『ジェン・ブイ』のシーズン2も全8話です。

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『ジェン・ブイ』(シーズン2)を観る前のQ&A

登場キャラクターの整理

  • マリー・モロー(Marie Moreau)
    …主人公のひとり。学生。血を操る能力を持つ。
  • エマ・マイヤー(Emma Meyer)
    …学生。体のサイズを変えられる能力を持つ。
  • ケイト・ダンラップ(Cate Dunlap)
    …学生。記憶操作で心を操れる能力を持つ。
  • ジョーダン・リー(Jordan Li)
    …学生。身体を含めて性別を男女入れ替える能力を持つ。
  • サム・リオーダン(Samuel “Sam” Riordan)
    …学生。非常に強力な能力を持つも、精神的に不安定。
  • サイファー(Cipher)
    …ゴドルキン大学の新しい学長。
  • ポラリティ(Polarity)
    …アンドレ・アンダーソンの父。能力者。
  • アナベス・モロー(Annabeth Moreau)
    …マリーの妹。
✔『ジェン・ブイ』(シーズン2)の見どころ
★魅力的な登場人物たち。
★シーズン1以上に強烈に現代とシンクロする社会政治風刺。
✔『ジェン・ブイ』(シーズン2)の欠点
☆社会政治風刺は元ネタの時事を知らないとよくわからない。

鑑賞の案内チェック

基本 激しいゴア描写が多いです。また、性暴力や自傷行為を示唆するシーンがあります。トランスジェンダーや精神疾患に対する差別の描写もあります。
キッズ 1.0
性描写や暴力描写の多さから低年齢の子どもには不向きです。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ジェン・ブイ』(シーズン2)感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤)

1967年、若きトーマス・ゴドルキン博士は研究室で自身を被験者として超人能力の薬を試した同僚を前にして、その同僚たちが異様な能力の暴走で壮絶に死んでいくのを目の当たりにします。そして、トーマスもまた滅茶苦茶になって炎上する研究室で倒れ…。

現在、ゴドルキン大学の宣伝動画がこう伝えています。

「分断の危機に立っているアメリカ国家。政治家のビクトリア・ニューマンは陰謀の犠牲になり、その黒幕のR・シンガーと逃亡中のスターライトはなおも世界秩序の敵。カルフーン大統領はヒーローの安全を確保するためにホームランダーに一任。こんな時代だからこそゴドルキン大学はヒーローの誇りを取り戻すべく、新たなサイファー学長のもと立ち上がっている!」

一方、エルマイラという施設。表向きはリハビリセンターですが、実質は能力者向けの隔離監禁施設です。ここにジョーダン・リーは拘束されていました。

ゴドルキン大学の学生でしたが、学部長インディラ・シェティが「森」という秘密の施設で能力者を殲滅させるウイルスを開発するべく人体実験していたことを、マリー・モローエマ・マイヤーアンドレ・アンダーソンといった仲間と突き止めたのです。しかし、それはうやむやにされ、自分たちが悪者としてこうやって捕まったのでした。

ずっと耐えてきたジョーダンは、なぜかこの日、強引に外のバンに押し込まれます。そこにはエマも乗っていました。でもどこへ連れていかれるのか、2人とも知りません。

車は停止し、後ろのドアが開くと、「おかえり」と出迎えて現れたのはケイト・ダンラップでした。自分たちの仲間のふりをして記憶操作の能力で裏切っていた学生です。

愛想よく振る舞うケイトは「アンドレは?」と聞いてくるも、記憶を読み取ったケイトはアンドレの施設内での壮絶な死を知り、明らかに動揺した素振りをみせます。

ここはゴドルキン大学でした。釈放らしいです。学生課のステイシーは気楽そうに会見の原稿を提示。言われるがままに身を整え、ジョーダンとエマはステージに上がらせられます。そこには不仲のジョーダンの両親もいて、前学長のシェティの企みを防いだという筋書きが用意されていました。どうやらジョーダンとエマは「ヒーロー」扱いのようです。ケイトいわく大人しくしていれば安全が保証されるとのこと。

現在、学内の学生ランキングの1位はケイト・ダンラップ、2位はサム・リオーダンです。

こうして大学生活に戻ったジョーダンとエマでしたが、ジョーダンはサイファーをエルマイラで目撃していました。以前はヴォート社のメキシコ支社にいたらしいですが、素性は謎だらけ。

その頃、ケイトはサイファーにアンドレの死を知っていたのかと問い詰めますが、サイファーは余裕な態度でケイトを脅し、「マリー・モローを見つけろ」と指示してきます。

実はマリーは単身で施設を脱獄していました。身を隠しながら幼い頃に生き別れとなった妹のアナベスを探していましたが…。

この『ジェン・ブイ』(シーズン2)のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/11/01に更新されています。

ここから『ジェン・ブイ』(シーズン2)のネタバレありの感想本文です。

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シーズン2:若者ヒーローチームに先手!

『ジェン・ブイ』のシーズン2は、あまり新キャラクターを登場させず、各登場人物の内面や関係性のドラマを掘り下げ、再構築して積み上げていく…とても堅実な中盤展開を描いていました。

最も重要なのは、マリー・モローの能力者としての力であり、今回はその秘密が明かされることに。それは「オデッサ計画」というトーマス・ゴドルキンが進めていた秘密プロジェクトで、完全無欠のヒーローを作ることが目的でした。成功例は、ホームランダーとマリーのみらしく、それはつまり、マリーはホームランダーに匹敵する、いや勝てるほどの能力者の潜在性があるということです。

確かに今回はマリーの能力がさらに磨き上げられ、血を攻撃に使うだけでなく、体内の血を操作したり、はたまた能力回復死者蘇生までやってみせていましたからね。

「選ばれし者」系のお話はこりごりと他作品を引き合いに自嘲していましたが、この『ジェン・ブイ』は若者たちがいかに自分の欠点や弱さを受け入れ、仲間の支えに気づき、自分の立ち位置を見つけるか…に焦点がずっとあたっていました。

このキャラクター・アークの大筋は、スターライトのアニー・ジャニュアリーが『ザ・ボーイズ』でやっていたことに近いのですが、アニーがわりと孤軍奮闘気味だったの対し、『ジェン・ブイ』は同年代の連帯が色濃く、前向きなのがいいですね。

エマはついに有害なメンタルヘルスへの依存から脱却して身体サイズを変更できるようになりました。ケイトも加虐的な人間関係から手を引き、やっと対等な同世代との友情を築けました。サムは親との対話で自身の精神疾患と向き合うスタート地点に立てました。

そして何よりもマリーは未来予知能力者だったアナベスと再会し、独りよがりを卒業し、背負いすぎないヒーローの在り方を模索していけそうですし…。

今作でグっと出番が増えたハーパーとアリーの学内レジスタンスの活動者も良かったですね。でも「アリーの能力のモザイクの基準は何なんですか!」とレーティング担当者に聞きたい…。

最後にスターライトのレジスタンスと本格合流する展開は待ちわびたシーンです。

MCUが長年かけて全然成しえていない「これぞ、若者ヒーローチーム!」という醍醐味を、この『ジェン・ブイ』は2シーズンでサクっとやってみせてくれています。

たぶんマーベルもDCも若者ヒーローが既存の大人のヒーローの後を追う添え物から出発しているせいで、若者ヒーローチームの完成に時間がかかりすぎると思うのです。『ジェン・ブイ』はスピンオフとは言え、出発点は新規であり、そうやって始めて大正解だったでしょう。

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シーズン2:「ヒーロー」という言葉を取り戻せ

『ジェン・ブイ』のシーズン2の社会政治風刺のネタもいろいろ盛りだくさんで、わかっている人はニヤっとできる場面がいっぱいでした。

個人的にはやっぱりジョーダン絡みの世間の反応ですね。ジョーダンは今作で自分でノンバイナリーのバイジェンダーだと公表しているのですが、最初は復学時にその能力も含めて讃えられているのに、権力に反発する姿勢を示すと一転して危険人物扱いに。

そこで、完全に現代社会のトランスジェンダーの人々が受けているスティグマと同じ反応をぶつけられるんですね。危険なジェンダー思想の体現者とみなされ、「トランスジェンダーが女性に被害を与えている」とメディアはこぞって報じ…(作中ではマッチョな全裸シスジェンダー男性学生でいっぱいの男子更衣室にエマが入ってしまい、満足そうにしている場面を挿入することでそんな戯言を吹き飛ばしてもいましたが)。

マリーと決闘するハメになった「ジェンダー・ベンダー対ブラッド・ベンダー」の試合ではヒールのポジションとなり、ジョーダンが負けたにもかかわらず、「トランスジェンダー・アスリートは危険では?」と言われるという既視感がありすぎる光景もありました。現実も「なに無茶苦茶なことを言ってるんだ?!」って怒鳴りたくなる様相だもんね…。

ヴォート社の反LGBTQ広報ヒーローのファイアクラッカー、裏で勢いづいてるな…ほんと…。

他にも、トラッド・ヒーローの蝶の翅の女性がいたり(元ネタはトラッド・ワイフ)、逃げ込んだ図書館では焚書が行われていた形跡があったり、現実のアメリカ社会と重なりすぎる場面が無数に…。

何よりもこの世界では「ヒーロー」という言葉を剥奪されているんですよね。この世界における「ヒーロー」はヴォート社が定義しており、「弱き者を助ける人権と正義に根差した存在」ではなく「権力に追従した力の行使者」にすぎません。それなのにヴォート社は、彼らのいう「ヒーロー」こそマイノリティなのであり、ヘイトクライムの被害に遭っていると、印象をすり替えるレトリックを駆使しています。「メイク・アメリカ・スーパー・アゲイン」だとかほざきながら、こうして優越主義が正当化されてしまっています。

今作の敵であるサイファー(実体は他人を操れるトーマス・ゴドルキン)は、自身こそ誰よりも賢いと自惚れながら(本当に賢いシスターセージに呆れられ見捨てられましたが)、ホームランダーさえも上回りたいと選民思想と優越主義に陶酔していました。これはヒーローへの憧れではなく、権力への執着です。ヒーローは権力ではないはずです。むしろ正反対でなければ…。

マリーたちはその「ヒーロー」という言葉を取り戻さないといけません。それが戦いの最終目標なのでしょう。

そして現実の学生の皆さん、これ以外にも本作は大事なメッセージを伝えていましたよ。

怪しいセミナーには絶対に行くな…! これ、本当に大切。

ということで物語は『ザ・ボーイズ』のシーズン5に続きます。

『ジェン・ブイ』(シーズン2)
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
◎(充実/独創的)

以上、『ジェン・ブイ』(シーズン2)の感想でした。

作品ポスター・画像 (C)Amazon ジェンブイ

Gen V (2025) [Japanese Review] 『ジェン・ブイ』考察・評価レビュー
#ザボーイズ #アメコミ #スーパーヒーロー #大学生 #ジャズシンクレア #バイプラス #ノンバイナリー