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映画『浅草キッド』感想(ネタバレ)…Netflix;柳楽優弥と大泉洋のコンビ演技が見事

浅草キッド

柳楽優弥と大泉洋のコンビネーションが見事…Netflix映画『浅草キッド』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:浅草キッド
製作国:日本(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:劇団ひとり
セクハラ描写

浅草キッド

あさくさきっど
浅草キッド

『浅草キッド』あらすじ

昭和40年代の浅草。大学を中退して「お笑いの殿堂」と呼ばれるフランス座のエレベーターボーイをしていたタケシは、座長の深見千三郎のコントにほれ込んで弟子入りの機会を窺っていた。ぶっきらぼうだが独自の世界を持つ深見から、芸事の真髄を叩き込まれていく。様々な人に見守られながら不器用に成長していくタケシだったが、テレビの普及とともにフランス座の客足は減り、時代はどんどんと変化してしまい…。

『浅草キッド』感想(ネタバレなし)

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“劇団ひとり”の「浅草キッド」

日本と海外ではそれぞれの名前の知名度が全然違う人物。それが“ビートたけし”、本名“北野武”です。

日本では言うまでもないですが“ビートたけし”はコメディアンとして絶大な知名度を誇り、今でもタレントとしてテレビ番組の顔になっています。

一方で海外では“北野武”(Takeshi Kitano)として最も有名な日本人の映画監督(&俳優)のひとりです。逆に“ビートたけし”というコメディアンだったことなんて知らない人が海外では圧倒的多数だと思います。

かたや日本は日本で、“ビートたけし”が映画監督をしているというキャリアを知らない人も、とくに若い世代を中心にいたりして…。映画ファンだと当然のように知っているのですが、やっぱり興味ない人はあの“ビートたけし”が映画監督をしているということに結びつかないのもしょうがないか…。

一応、ざっくり紹介しておくと、“北野武”として1989年に『その男、凶暴につき』で映画監督デビュー。このデビュー作の時点で国内では高い評価を獲得します。監督として世界に羽ばたいたのが1993年の『ソナチネ』であり、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品されるなど、一気に世界の注目のまとに。1997年の『HANA-BI』ではヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、2003年の『座頭市』ではヴェネツィア国際映画祭で監督賞にあたる銀獅子賞を受賞。世界に名だたる著名監督として堂々と認知されるに至ったのでした。最近は『アウトレイジ』シリーズの完結作『アウトレイジ 最終章』(2017年)を撮り終え、すっかり引退の準備に入っている感じなのかな。

そんな“ビートたけし”の芸能活動の原点を日本や世界の人に知ってもらううえでぴったりの作品が登場しました。それが本作『浅草キッド』です。

本作はそもそもの原作が“ビートたけし”本人が1988年に書いた自伝小説であり、“ビートたけし”が師匠である“深見千三郎”と過ごしてやがて漫才に目覚めていく青春時代を描いた物語です。

この自伝小説「浅草キッド」はすでに何度か映像化されており、1988年に『ビートたけしの浅草キッド・青春奮闘編』としてドラマ放送になり、2002年には篠崎誠監督の『浅草キッドの「浅草キッド」』として映画にもなったり、日本ではじゅうぶんおなじみです。

しかし、今作の2021年の映画『浅草キッド』が決定的に違うのは、Netflixでの独占配信となっていることでしょう。つまり、世界中の人に見てもらえるわけで、あの“北野武”ではなく“ビートたけし”の源流を知ってもらえるまたとない機会になるのは間違いありません。

その重要な一作とも言える本作『浅草キッド』を監督し、ずっと企画してきたのが“劇団ひとり”。彼もまた芸人でありながら、“ビートたけし”のように創作の世界に歩んでいったひとりであり、自身の書いた小説を映画化した『青天の霹靂』(2014年)で映画監督に進出しました。その後は『クレヨンしんちゃん 爆睡!ユメミーワールド大突撃』(2016年)で脚本を手がけたりしていましたが、この『浅草キッド』は本人いわくずっと実現したくて企画を温めていたものだそうです。というか何度も企画を各所に持ち込んでいたそうなのですが、上手くいかずに今回なんとかNetflixという最後の頼みの綱に飛びついた…という経緯のようで…。

思えば『青天の霹靂』も明らかに「浅草キッド」の影響を強く受けている作品で、あちらはマジシャンが主題でしたけど、昭和48年の浅草にタイムスリップするという設定も「浅草キッド」の世界観への憧れが反映されていたのでしょう。

その“劇団ひとり”の念願叶っての『浅草キッド』の自身での映画化。“劇団ひとり”本人もさぞかし嬉しいだろうな…。

それにしてもなんで映画化の企画がこうも進まなかったのでしょうね。絶対に面白い題材だし、幅広い世代の観客の興味を惹くだろうに…。昔の浅草の映像化はおカネがかかるからなのか、といってもそこは工夫でどうにでもなるし…。やっぱり日本の芸能界特有のタブーみたいな各社の距離感の探り合いがあるのだろうか…。ちなみに“ビートたけし”本人はあっさり企画にOKしてくれたそうです。

気になる主人公の若かりしビートたけしを演じるのは、2004年の『誰も知らない』で強烈にデビューし、『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)や『太陽の子』(2021年)など現在も多才に活躍している“柳楽優弥”。そして、そのキーパーソンとなる師匠を演じるのが、“劇団ひとり”監督とは『青天の霹靂』でもタッグを組んでなんやかんやで馬が合っている“大泉洋”。この2人の組み合わせがとにかく最高で、この『浅草キッド』の成功の大部分を担っていると言っても過言ではないくらいに素晴らしいです。

共演は、『さよならくちびる』『あのこは貴族』の“門脇麦”、『唐人街探偵 東京MISSION』の“鈴木保奈美”、『罪の声』の“尾上寛之”、お笑いタレントの“土屋伸之”など。

“劇団ひとり”監督版『浅草キッド』で“北野武”ではなく“ビートたけし”の名前がさらに知れ渡るといいなと思います。

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『浅草キッド』を観る前のQ&A

Q:『浅草キッド』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年12月9日から配信中です。類似のタイトルの作品もありますので、“劇団ひとり”監督作という点を判断の材料にしてください。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:俳優の名演を観たいのなら
友人 3.5:お笑い好き同士で
恋人 3.5:ロマンス要素は薄め
キッズ 3.5:芸人が好きなら
↓ここからネタバレが含まれます↓

『浅草キッド』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):芸人だよ、バカ野郎!

楽屋で写真に撮られるビートたけし。すぐに番組の撮影があり、ゲスト出演することになっています。撮影の端でいよいよ登場しようと準備するとき、彼は何気なく足でタップを踏みます。まるで身に沁みついたクセのように…。

年月は遡り、1974年。タケシキヨシは建物の外裏で漫才の掛け合いの最終確認をしていました。裏口から男が出てきて「おい!出番!20分な!」と雑に声をかけます。そこで気合いを入れるかのようにタップを踏むタケシ。

ステージに立ちます。といっても小さなクラブです。「はい、どうも~。松鶴家タケシキヨシです」と練習したとおりのトークを披露していく2人。しかし、ホステスの女性も客の男性も誰も全然耳を傾ける素振りさえありません

するとタケシは「聞けよ、この野郎…。こっちは漫才やってんだよ! 黙って聞いてろ。バカ野郎!」と怒鳴り、静まり返る店内。客の男のひとりに喧嘩を売っていくと、「なんなんだ、お前」と言われ、タケシは毅然と言い返します。

「芸人だよ、バカ野郎!」

タケシとキヨシの2人は東京の浅草から飛び出して各地を漫才で渡り歩いていました。けれども人気は全くの無し。客は全然おらず、無人のときさえあります。もう何の意味があってここに立っているのかもわからない状態です。

あげくに用意された宿はラブホテル。タケシは「なにやってるんだろな」とボヤき、キヨシは「いっそ、フランス座に戻ってみる? 師匠に頭下げて」と答えますが、タケシは「タケの野郎が来ても小屋に一歩も入れんじゃねえって言ってるらしいよ」と言い、昔を思い出します。

2年前。浅草。師匠と呼ばれる深見千三郎は自身の仕事場である浅草フランス座に意気揚々と入っていきます。そして普段のストリップの合間のステージでキヨシと一緒にコントをして軽快に笑いを取っていきました。それを後ろで憧れの眼差しで見守るタケシ。今のタケシは掃除をしたり、エレベーター案内をしたり、いわば雑用です。

タケシは楽屋で寝泊まりしており、今日も寝ながら深見のコントのセリフを繰り返していると歌が聞こえてきます。見に行ってみるとステージに女性がひとり。その歌声に聞き惚れてしまうタケシ。それは千春というここでパフォーマンスをしている女性でした。

別の日。フランス座の入り口で深見がタケシに「何ができる?」と話しかけてきます。「いや、とくに」と答えると「バカ野郎!ナメてんのか? お前。手ぶらで芸人になれるほど甘かねえんだよ。歌にしろ踊りにしろ、そういう芸事があって初めて人前に立てるんじゃねえのかよ」と怒られ、「あ、でもジャズは好きです。ジャズ喫茶でバイトしてたんで」「やれんのか」「いや、聴くだけ」「聴いてどうすんだ、バカ野郎!お前、客になりてえのか」…と威勢のいい小言が続き、他を当たるように言われるも「他じゃダメなんです。俺、師匠のコントが好きなんです」とタケシはそこだけ熱弁。すると不意に褒められた深見は口汚く言い返すも、そんなやりとりを見ていた塚原が笑います。

深見はエレベーター内でタケシに鞄を持たせ、その場でタップを踏みます。「これが芸事だ。本気でやりてえんだったら教えてやる」

それ以来、日夜時間さえ見つければタップの練習をするタケシ。少しずつ上手くなっていきます。

ある日、キヨシが出られなくなったのでタケシに機会が回ってきました。しかもアドリブだというのです。

ホステスの役だというのでメイクをしていると、「芸で笑い取れ。女になりきれ。化粧はいらない。笑われるんじゃねえぞ、笑わせるんだよ」と深見に説教されます。

こうしてタケシの芸のキャリアが始まり…。

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柳楽優弥をはじめとする役者の名演

“劇団ひとり”監督版『浅草キッド』、やはり主演2人の名演が本当に素晴らしかったです。とくにビートたけしを熱演した“柳楽優弥”ですね。

これは誰もが思うことだと思うのですが、少なくとも日本ではビートたけしはあまりにも有名で、その喋り方や仕草も含めてモノマネの定番の対象にさえもなっているわけです。つまり、みんなビートたけし本人と、そのマネは見飽きるほどによく見ている。

そうなってくると本作でも普通にやろうとするとビートたけしの上手なモノマネになりかねません。もしそうなると途端に映画全体がコント劇になってしまいかねず、それは避けないといけないです。

そのリスクを“柳楽優弥”は見事に回避しており、ちゃんとモノマネではなくビートたけしの若い頃の姿に見えるという納得感を持たせている。これを練習したとはいえ、役作りでやってしまえるのですから、俳優の凄さをまざまざと見せつけられる…。

もちろん深見を演じた“大泉洋”も相変わらずの抜群の良さで、こういうポジションのキャラクターは下手すると単なるパワハラな嫌な上の人間に見えかねないのですが、“大泉洋”の素の人懐っこさもあって不快感を全く出さずに表現しきっており、ここも完璧。飄々とした芸に人生を捧げる佇まいがまあ憎いほどよく似合う。

個人的にはキヨシを演じた“土屋伸之”も良かったです。このキャラもやっぱり物語の立ち位置としてはタケシと深見の縁を引き裂いた存在になってしまうので観客の嫌悪感を刺激しかねないのですけど、キヨシが絶妙に善人さを醸し出しているので苛立ちはそこまで与えない。このキャスティングもナイスでした。

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監督の才能が頭ひとつ飛びぬけて…

演出面も鮮やかな個所がいくつもあり、“劇団ひとり”監督の才能を随所に感じさせます。

とくにタップを使った時間軸の変化を暗示する演出はあちこちで効果的に使われており、タップとともに物語の時間が加速していくのがまた快感で…。『スウィング・キッズ』でも見られた演出ですが、『浅草キッド』は使い方が上手かった…。ラブホテルの回るベッドさえも時間軸の巻き戻しを示す演出に使ったり、さりげない演出が本当に本作はいいですね。

そして何よりもギャグの演出。これは“劇団ひとり”監督の当然の得意技であり、シリアスになりすぎたり、エモくなりすぎたりしがちな日本映画のよくある欠点を回避しつつ、それでいて単に“笑われる”ではダメだという漫才に対する自己批判も持っている。作中でもギャグを強要されて笑いをさせられる深見の「指が無い」ギャグで場を凍り付かせるシーンなど、“笑わす”と“笑われる”の違いをハッキリ提示する構図もあるし(コメディ映画でキャリア絶好調の某監督とかにはこの笑いの自己批判がないのですよね…)。この本質をちゃんとわかっているあたり、“劇団ひとり”監督、信頼感が頼もしい…。

作品に対する不満もあるにはあります。例えば、千春のエピソードはほとんど重要性がなく、男性2人の分厚い鯨肉のごとく骨太な師弟ドラマに対して、千春の物語はメダカ並みにちっぽけですし…。“門脇麦”は『あのこは貴族』で女性規範を脱する物語を見せてくれたばかりだからなおさら…。千春にも別の師との関係を用意してあげれば良かったのに…。

あとやはりあの現代のビートたけしの顔の再現はやや不気味さがある…。さりげなく一瞬顔が映るとかではダメだったのだろうか…。あのラストの長回しのシーンはとてもいいのですけどね。“北野武”映画風の演出っぽいし…。

昔の街並みの再現もこれも予算の問題なのか、それとも意図なのか、ともあれやや美化されがちで、これは邦画にありがちなノスタルジーの落とし穴なんでしょうね。どうも日本人はノスタルジーが好きすぎる…。

それでも『浅草キッド』は“劇団ひとり”監督の実力が最良で発揮された見事な一作だったと思います。『青天の霹靂』が駄作だったわけではないのですが、前作からのクオリティアップの上げ幅がとても高い気がする…。これはもう芸人出身監督の中でも“劇団ひとり”監督は頭ひとつ飛びぬけたんじゃないでしょうか。芸人とか強調する必要もない、ひとりの立派な日本映画監督として有力な顔触れの仲間入りです

次はもっと難しい題材に挑戦してほしいですね。今の日本の芸人はテレビでさえも居場所でなくなり始め、YouTuberやったり、オンラインサロンで信者を作ったり、ネトウヨ化して論者になったり、デマやヘイト本を書いたりしているから、そういうありさまを映像化するとか…。ハードル、高いな…。

『浅草キッド』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer –% Audience –%
IMDb
?.? / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix

以上、『浅草キッド』の感想でした。

『浅草キッド』考察・評価レビュー