「彼女」はあの人だからこそ輝く…映画『あやしい彼女』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:日本(2016年)
日本公開日:2016年4月1日
監督:水田伸生
あやしい彼女
あやしいかのじょ
『あやしい彼女』物語 簡単紹介
『あやしい彼女』感想(ネタバレなし)
世界共通の気持ち
あなたが「老い」を感じたのは何歳のときだったでしょうか。さすがに10代の頃はそんなことを考えることはなかったと思います。成長盛りの真っ最中ですからね。溢れ出るエネルギーを発散しているばかりです。やっぱり最初の「老い」を感じるタイミングは20代でしょうか。10代と比べて変わったなと思ってしまいます。そして、30代になれば30代の、40代になれば40代の、50、60、70…それぞれの「老い」が訪れます。これは私は体験していないのでわかりませんが、ある程度高齢に達すると「老い切ってしまう」ので閾値に達して「老い」はあまり痛感しないのでしょうか。生活水準と医療技術の発達した今、人間、老いてからの人生が長いですからね。
ここで重要になってくるのは、「老い」を実感するためには“比較対象”が必要ということですね。自己比較でも他者比較でもいいので、とにかく比べないことには始まりません。
そして「老い」に失望を感じるからこそ、もう一度若いときに戻って好きに生きたい…!
その気持ちは全世界共通のようです。
韓国で製作され、2014年に公開された『怪しい彼女』という映画は、まさにその願望をフィクションの世界で叶えてくれるこれ以上ない作品でした。70を超えるお婆さんが20歳の若い姿に一時的に戻って人生を楽しむストーリーは、『ローマの休日』に代表される「ひと時の生まれ変わり系」映画としてシンプルでいてかつ普遍的な魅力があります。
この『怪しい彼女』は、「ひと時の生まれ変わり系」映画のテンプレートを一番綺麗に誰でもわかりやすく仕上げた作品なのでした。もうこれ以上のパワーアップはできるのか?と思うほど、お手本のような完成度です。
ゆえにこのパワーアップのしようが思いつかない韓国映画『怪しい彼女』は、バージョン違いというかたちで、いくつもの国でリメイクされることになりました。すでに中国とベトナムでは2015年に公開されています(それぞれの邦題は、中国版は『20歳よ、もう一度』、ベトナム版は『ベトナムの怪しい彼女』)。また、インドなどでもリメイク企画が進んでいるとか…。
そしてこのたび日本でもついにリメイクが公開。
日本版はタイトルがひらがなになって『あやしい彼女』。こちらは、オリジナルの韓国版『怪しい彼女』と大筋のプロットは同じ。なので、韓国版をすでに観ている人は展開がまるわかりでつまらないかもしれません。まあ、その場合は日本のキャストを楽しんでほしいところ。
お婆ちゃんが若返った姿を演じるのは“多部未華子”。映画ではコメディキャラは珍しいような気がしますが、ギャグあり、毒舌あり、歌ありの20歳のお婆ちゃんを熱演してます。
この「20歳」という年齢がやっぱり大事ですね。最初にも書いたように「老い」を痛感するのは20代から。つまり20歳は老いたことを感じていないギリギリのライン。もっとも「老いていない大人」なのです。だからこそできることがある。自由な可能性がある。そんな起点になる年齢に、もし、自分が遡ることができたら、あなたは何をするでしょうか。
まだ共感できない、今が若い時代真っ最中の人は…いつか嫌でもわかる日が来るはず。そのときに観るといいかもしれないです。
『あやしい彼女』感想(ネタバレあり)
韓国版のほうが魅力的な理由
いきなりこんなことを言うのもあれですが、どうしてもオリジナルの韓国版と比較せざるを得ないのですが、個人的には申し訳ないですけど韓国版のほうが面白いと思ってしまいました。
ストーリーはほとんど同じなのになぜ?という感じですが、理由は2つ。
1つ目に、演出がスベっているという点。全体的にお涙頂戴な演出が過剰に感じました。例えば、ショッピングモールでわが子相手に叱りつけ泣かせる母親を節子が諭す場面。本作では諭された母親が感動して最終的に節子に抱き着きむせび泣くまでするというのは…ちょっと…。韓国版だと、主人公がおせっかいすぎて逆に怒られるという寂しいシーンなんですが。
意味不明な演出も目立ってました。TV出演を成功させバンドメンバー&音楽プロデューサーとバーベキューしたのち、なぜかアスレチック遊具みたいなので遊ぶ面々。そして、林道を歩いていると節子が唐突に、本当に唐突に滑落します。前ふりないの?とびっくりしました。それに意味不明といえば、孫の翼の交通事故でしょう。頭から血を流しながらも会場に現れるシーンを、主観視点のぼやけた映像で示すのは、正直カッコ悪いと思ってしまった…。韓国版ではこんなシーンはありません。
あとは、冒頭部分。輸血している節子が映りますが、なんでこんなオチを冒頭で描くのか…。ちなみに、韓国版の導入は、年齢ごとの女の扱われ方をいろいろなスポーツのボールに例えたもので映画的にもとても面白くわかりやすい上手い見せ方でした。こういう味のあるセンスをみせてほしかったなぁ。
そして、本作と韓国版の雰囲気を分ける決定的な違いは、やっぱり主演の女優でしょう。
韓国版で若い姿の主人公を演じるのは“シム・ウンギョン”という女優。彼女、わかる人にはわかると思いますが、『サニー 永遠の仲間たち』(2011年)で主人公の高校生時代を演じてたあの子です。
韓国版はシム・ウンギョン演じる20歳のお婆ちゃんが完璧なんです。若いのにそこまで美人じゃない感がいい(失礼)、自然と溢れ出るおばちゃん臭がいい(失礼)。うわ、こいつ、ババアだな…と本気で思ってしまう瞬間がいくつもある。もともと韓国映画は俳優を汚く見せるのが本当に上手いなと感心することが多々あって、この韓国版もまさにそれ。俳優としてのパブリックイメージを全然気にしていませんね。それでいてシム・ウンギョンは作中で歌が超うまいのでギャップにびっくりするんですね。彼女の魅力で韓国版は成立しているといっても過言ではないです。
対して、日本版で若い姿の主人公を演じる多部未華子は、普通の可愛い若い子です。お婆ちゃんを演じている感がでているし、歌を歌ってもそこらへんにいそうなアイドルの子にみえて意外でもない。頑張っているんですが、シム・ウンギョンとは持つ素質が真逆です。
無論、多部未華子にしかできない魅力が発揮されているので、これは欠点ではなく、別バージョンとしての個性と表現すべきでしょう。とても演技も上手い女優ですので、もっと演技を信頼した任せ方をしても良かったと思います。少なくともコテコテな演出に頼らずとも、彼女のパワーだけで押していけるシーンはたくさんあったはずではないでしょうか。
各国でリメイクするなら、その国らしい要素を入れてほしいところ。本作も、おれおれ詐欺にひっかかったカツがそのせいで音楽プロデューサーを疑うとか、銭湯での牛乳の飲み方とか、ところどころ日本っぽい遊びはありました。お話しももっと日本オリジナルで冒険するくらいの勢いが欲しかったですね。
ということで日本版の『あやしい彼女』はこうなったわけですが、こうなってくると他の国も見たいもの。それぞれの「怪しい彼女」オールスターで勢揃いしたらどうなるのか。誰が一番ベストな「怪しい彼女」なのか選手権ができますね。まあ、そんなことをしても何も良いことはないですけど…。
ROTTEN TOMATOES
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作品ポスター・画像 (C)2016「あやカノ」製作委員会 (C)2014 CJ E&M CORPORATION 怪しい彼女
以上、『あやしい彼女』の感想でした。
『あやしい彼女』考察・評価レビュー