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『ベイビー・ドライバー』感想(ネタバレ)…エドガー・ライト監督の赤ん坊はノリノリ

ベイビー・ドライバー

エドガー・ライト監督の赤ん坊はノリノリ…映画『ベイビー・ドライバー』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:Baby Driver
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2017年8月19日
監督:エドガー・ライト
恋愛描写
ベイビー・ドライバー

べいびーどらいばー
ベイビー・ドライバー

『ベイビー・ドライバー』物語 簡単紹介

犯罪者の逃走を手助けする「逃がし屋」をしているベイビーは、音楽のリスニングによって驚くべき運転能力を発揮することができる。そのため、こだわりのプレイリストが揃ったiPodが仕事の必需品だった。ある日、運命の女性デボラと出会ったベイビーは、新しい人生の可能性に思い焦がれ、逃がし屋から足を洗うことを決める。しかし、、ベイビーの才能を惜しむ犯罪組織のボスに脅され、無謀な強盗に手を貸すことになる。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ベイビー・ドライバー』の感想です。

『ベイビー・ドライバー』感想(ネタバレなし)

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走行中のイヤホンは危ない

突然ですが、皆さんのポータブル音楽プレイヤーにはどんな曲が入っているのでしょうか? 私のポータブル音楽プレイヤーには映画のサントラ曲がたくさん入っていて、移動中に、その日の気分に合わせて聴く曲を変えます。よく考えてみれば、自分の日常にBGMを加える音楽編集を誰でもしているのですから、凄い革命的アイテムですよね。

その常に身に着けられる音楽の使い方とカーアクションを見事に融合させた映画が誕生しました。それが本作『ベイビー・ドライバー』です。

主人公は、一見するだけならあどけない童顔の青年ですが、実は強盗をした犯罪者の逃走を車で手助けする「逃がし屋ドライバー」を仕事にする裏の顔が。これだけだと割と普通の設定だけれども、この青年は音楽をBGMにかけることで天才的なドライビングテクニックを発揮するのです。

本作の監督は、独創的な才能溢れるイギリス人で、コアな映画ファンからも根強い支持を持つ“エドガー・ライト”。“エドガー・ライト”監督作といえば、“サイモン・ペグ”&“ニック・フロスト”の俳優コンビが主演する作品が印象的です。しかし、今回の最新作は、そんな過去作『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』のようなダメ中年男が奮闘するような話ではありません。

本作に一番近い“エドガー・ライト”監督過去作を挙げるなら、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』ではないでしょうか。この映画、どこにでもいそうな普通の青年が愛する女性を守るために襲い来る男たちと次々戦うという、物語の骨格だけでも本作『ベイビー・ドライバー』そっくり。面白いのが戦い方で、もろにTVゲームな演出で戦うんですね。主人公はTVゲームという一種の娯楽の力を借りることでカッコよくバトルできる…これは音楽の力を借りることでカッコよくドライブできるようになる本作とも共通してます。

“エドガー・ライト”監督は本作でカーアクションと、そしてアメリカを舞台にするという挑戦をしています。カーアクションといえばとてもアメリカらしいジャンルです。そして、ドライバーが主人公の映画は昔は、マーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』(1976年)や、ウォルター・ヒル監督の『ザ・ドライバー』(1978年)などハードボイルド系でした。最近だと、クエンティン・タランティーノ監督の『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ドライヴ』(2011年)など個性の尖った作品も出てきています。いずれにせよ、マニアックな映画で人を選ぶものばかり。まあ、『ワイルド・スピード』シリーズという超特大ヒット作もありますが…あれはカーアクションを超越した別の何かかな…。

しかし、“エドガー・ライト”監督はそんなカーアクションをその伝統を壊すことなく、老若男女に見やすいものにリニューアルしてみせたのですから、さすがです。公開している劇場が少ないことが、ただただ残念でしかたがない。

観れば面白いのは確定事項ですので、ぜひ劇場へ行く価値ありです。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ベイビー・ドライバー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):トロかったか?

銀行の近くに留まる1台の車。真っ赤なスバル・インプレッサWRXに乗っているひとりの若い男の運転手はおもむろにiPodでザ・ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの「Bellbottoms」という曲を聴き流し始めます。サングラスの運転手の他には、助手席と後部座席にそれぞれ同じくサングラスをかけた3人が座っており、一斉に3人が下り、後ろのトランクを開けて鞄を持って銀行へ。

その間、運転手はノリノリで音楽に合わせて体で自由に表現。ワイパーを動かしたり、車体を叩いたり、好き勝手です。

銀行内では着々と強盗が進んでいました。そして警報装置が鳴り、3人が大金を持って帰ってきます。乗り込んだ瞬間にすぐさま急発進。パトカーが追いかけてきますが、全く動じず、見事なドライビングテクニックで爆走していきます。そしてハイウェイに入り、同じ赤い車2台に挟まれる形で並走。高架下に入った瞬間に順番を入れかえて自分だけ追跡を惑わします。

こうして完全に追っ手をまき、車を交代。そのまま何食わぬ顔で仕事を完了させるのでした。

「ベイビー」というあだ名で通っているマイルズは天才的な運転技術を持っており、逃がし屋としてその腕を活かしていました。いつも音楽を聴いており、この音楽がないと実力を発揮できません。幼少時に遭遇した自動車事故の後遺症で酷い耳鳴りに苦しめられており、音楽を聴いていないと普段は辛いことになります。

コーヒーを4つ購入し、颯爽と向かうのはアジト。そこではドクという元締めがおり、前回の銀行強盗も彼の作戦によって実行されています。

ベイビーは全然喋らないのでグリフという銀行強盗チームの男は揶揄ってきます。それでもベイビーは無表情のマイペースを崩しません。他のチームであるバディダーリンはイチャついています。

ベイビーはドクに借金があり、あと1回の仕事でチャラになるとのこと。直近で仕事があるようで連絡用の携帯を渡されます。

帰宅すると家にはベイビーの育ての父であるジョーが車椅子に座っています。耳が不自由で普段は手話で会話しています。ジョーはベイビーの稼ぎを気にし、あっちの世界に入り浸るなと忠告してくれます。

そんなベイビーには気になっている女性がいました。その名はデボラであり、ダイナーでウェイトレスをしています。ベイビーはいつもの癖でそのデボラの何気なく歌っている歌を録音してしまいますが、本人と直接会って親しげに会話するまではできません。

そうこうしているうちに次の仕事の連絡が…。

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ミュージック・オン!

これまでも音楽が見事にハマったカーアクションはありましたが、『ベイビー・ドライバー』の音楽とカーアクションの融合というのはそんなものとは別次元の領域。もはやミュージカルです。

冒頭6分程度のオープニング・シークエンスから一気に引き込まれます。強盗中の仲間を待つため車内の運転席で待機する主人公・ベイビーが、イヤホンで聴いている曲に合わせてリズムを体と車で刻む。そこから強盗仲間が戻ってくると、そのままリズムに合わせてアクセル全開。ここでいきなりバックするのが意表を突くと同時に、怒涛のドライビング・テクニックを披露。強盗仲間と一緒に観客もあっけにとられます。本当に見事なオープニングの掴みです。

本作『ベイビー・ドライバー』が凄いのは音楽の融合がカーアクションだけでなく、映画全体にわたって続くこと。後半にベイビーが音楽を失って耳鳴りがキーンとなる場面が挟まれますが、基本はイヤホンをしている限り、ずっとこのノリなんですね。オープニング・カーアクションが終わってからのベイビーがコーヒーを買うシーンも、まさにミュージカルビデオ風な演出が心地よいです。この場面は、28テイクもしたらしいですが、それだけの見ごたえがありました。

普通に考えたら変ですよ。こんな音楽とぴったりに状況を合わせて運転までできるって、それこそご都合的なファンタジーです。でも、そこを説得力持たせて魅せられるのが“エドガー・ライト”監督の才能。

この音楽と映画の融合も、単にカッコいいからというオシャレなノリだけの演出ではなく、ちゃんとベイビーの心情とシンクロするドラマも担っているのが良いところ。その点、本作に歌詞の字幕がないのは本当に残念。まあ、権利上難しいのはわかるけれども…。

本作のファンになった人は、これはぜひサントラを買って歌詞ひとつひとつとドラマの適合具合をチェックせざずにはいられないですね。

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新時代ドライバーvs旧時代ドライバー

じゃあ、『ベイビー・ドライバー』は音楽とカーアクションありきの映画かというと、ちゃんとそれ以外なところもしっかりしているのが“エドガー・ライト”監督。

ストーリーやキャラクター自体は基本的にはステレオタイプというか、ベタです。

これは監督が意図的に昔ながらのドライバー映画やアメリカ映画の伝統に合わせた結果なんだと思います。ベイビーが寡黙なキャラなのもそうで、おじゃべりなキャラが多い“エドガー・ライト”監督作にはなかなかない新鮮さでした。

それでいて新しい要素もあって、まずはベイビーのキャラクターと対決する敵。最終的にダーリンというセクシー美女を連れまわすバディと一騎打ちすることになるわけですが、このバディは作中でも示されていたようにベイビーに理解ある男でした。音楽の趣味も一致して同じ世界の人間に見えます。つまり、バディは昔ながらのドライバー映画のハードボイルド系主人公そのものです。でも、ベイビーは自分の欲のために暴力に流される道を拒絶するわけです。これはまさに「新時代ドライバーvs旧時代ドライバー」。世代交代を匂わせる対決は、ドライバー映画を観てきた人ほど感慨深いのではないでしょうか。

もうひとつ世代交代を印象づけるのが、“ケヴィン・スペイシー”演じるドク。闇の世界の大物であり、ベイビーに汚れ仕事をさせる諸悪の根源…に見えましたが、よく考えるとベイビーは幼い時から盗みを働いていたようなので、そんなベイビーを強引なやり方ではありますが、闇の世界から光の世界に押し出してあげたキャラなのでした。最期は「俺の屍を越えてゆけ」と言わんばかりの活躍(もろに車に轢かれていたのは笑っちゃうところだけど)。ベイビーは本来の父親に良い印象はなく、そんなベイビーにとってドクは育ての父親として自分を褒めてくれて(「トロかったか」の言葉を愛情として編集するシーンが切ない)、自己犠牲を見せる役ですね。このへんは、いかにも悪そうな“ケヴィン・スペイシー”を使い方の上手さとミスリードが、“エドガー・ライト”監督らしいトリッキーです。

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虹のような道を走る

強盗する郵便局をドクの甥と下見するシーンにて、窓口の女性との会話で、アメリカのシンガーソングライター“ドリー・パートン”の「虹が見たいんだったら雨は我慢しなくてはいけない」という言葉が引用されます。その後、ベイビーの最後の汚れ仕事でまさしく雨が降ってきて、ラストには虹が出るんですね。

『ベイビー・ドライバー』のストーリーは最終的なオチがすごく甘い話に思えますが、じっくり見てみると、ベイビーが仮釈放されたかどうかははっきりさせていません。仮釈放のように思える場面も、ベイビーもデボラも年が経過していないように感じるし、映像のタッチも違います。もうこれは完全に観客の想像に委ねるつくりで、これもまた“エドガー・ライト”監督らしいところだと思います。

“エドガー・ライト”監督が生み出した新しい赤ん坊である新時代ドライバー(映画)がどんな未来を生きるのか…それは虹のように多色な選択肢が待っているのでしょう。

『ベイビー・ドライバー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 93% Audience 86%
IMDb
7.6 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 8/10 ★★★★★★★

作品ポスター・画像 ©Sony Pictures Entertainment, Inc ベイビードライバー

以上、『ベイビー・ドライバー』の感想でした。

Baby Driver (2017) [Japanese Review] 『ベイビー・ドライバー』考察・評価レビュー