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『プレデター ザ・プレイ』感想(ネタバレ)…シリーズを別次元に格上げする

プレデター ザ・プレイ

シリーズを別次元に格上げする…映画『プレデター:ザ・プレイ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Prey
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2022年にDisney+で配信
監督:ダン・トラクテンバーグ
ゴア描写

プレデター ザ・プレイ

ぷれでたーざぷれい
プレデター ザ・プレイ

『プレデター ザ・プレイ』あらすじ

1719年の北アメリカ大陸の中西部。コマンチ族が大自然と共に生きるこの世界では、男たちは狩りに出かけ、女たちは朝早くから薬草を採取しに行くのが日課だった。しかし、ナルはそんな役割に飽きており、女であっても狩りにでたいと熱望していた。それでも腕の立つ兄はナルを制止するだけだった。ある日、ナルはどの野生動物とも異なる痕跡を発見する。それはかつてない熾烈なサバイバルの幕開けとなる…。

『プレデター ザ・プレイ』感想(ネタバレなし)

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「プレデター」が格段に進化した

大型哺乳類と対峙したことはありますか?

私はワケあって鹿を捕獲するために対峙したことがあるのですが、銃でバン!と撃って狩りをするのではなく、生け捕りにしないといけなかったので、複数人で鹿を取り囲んで、捕獲罠の場所までじりじりと追い込まないといけない状況でした。奈良公園にいる人馴れした鹿ではなく、思いっきり野生のでっかい鹿です。

そのとき、私と鹿との間には上手く言葉にできない独特の緊張感が漂います。あれは経験した人にしかわからないものです。互いに種の異なる動物同士…コミュニケーションはできない。でも互いに「油断をすればやられる」という危機感は直感で理解している。睨み合い、相手の出方を窺いながら、じりじりと無言の駆け引きをしていく。

昔の狩猟石器時代の人類や先住民の人たちはこういう「狩るか狩られるか」という張り詰めた緊張の中で毎日を過ごしていたんだなと思うと、本当に凄いなと尊敬してしまいます。

そんな弱肉強食の自然の摂理への畏敬の念をあらためて想起させるような映画が今回の紹介作品です。

それが本作『プレデター ザ・プレイ』

本作は邦題でわかるとおり、あの『プレデター』シリーズの最新作です。

『プレデター』は1987年に“ジョン・マクティアナン”監督が手がけた映画であり、言わずと知れた“アーノルド・シュワルツェネッガー”の代表作。屈強な特殊部隊が任務先のジャングルで正体不明の高度な技術を持つ地球外生命体「プレデター」に狙われて大激戦を繰り広げるという、カルト的な人気を獲得したSFアクション映画です。

『プレデター2』(1990年)、『プレデターズ』(2010年)と続編が作られてきましたが、2018年に『ザ・プレデター』が制作され、久々に本格的なプレデターとの死闘が見られたばかり。

そんな中、単独シリーズとしては5作目にあたる(『エイリアンVSプレデター』系は抜きにして)映画が早くも登場し、それが本作『プレデター ザ・プレイ』です。

正直、まだ続編を作るの?と企画を知ったときは思ったのも事実。『ザ・プレデター』を観たときも「まあ、プレデターだし、こんなもんだろう」という感じの受け止め方だったのですが、このノリを繰り返しても品質は劣化の一途をたどるだけじゃないのか…そう冷たく思っていました。

私が間違っていました…。

本作『プレデター ザ・プレイ』は『プレデター』シリーズを別次元に格上げしてきました。批評家評価も高く、ファンの中には「1作目よりも上かもしれない」との言葉も飛び出すほどの大絶賛状態。私も「こう来たか…!」と興奮が止まりません。

ハッキリ言って1作目と並列で評価するのは難しいと思います。というのも1作目は明らかに“アーノルド・シュワルツェネッガー”ありきの映画であり、唯一無二だからです。なのであの本質を発展させるのは無理で、ゆえに『ザ・プレデター』はマッチョ的なノリだけを継承して雰囲気合わせをしてみせたのですが…。

この『プレデター ザ・プレイ』は1作目の継承という点ではアプローチが全く違っていて、マッチョなノリに身を投じる要素はあえて綺麗さっぱり捨てて、プレデターというキャラクターが持っていた信念をリスペクトして、ジャンルをより現代に通じるアーティスティックな方向性に塗り替えたような…そんな進化を遂げています。詰め込んでいるけど無駄のないストイックさ。シリーズの既存のイメージを刷新させてみせたという点では『マッドマックス 怒りのデスロード』を彷彿とさせる進化かも…。

物語は、1700年代のアメリカを舞台に、先住民の若い女性が突如として出現したプレデターと激闘することになる姿を描いています。映画が始まってすぐにもう空気感が全然違っていて、カナダのカルガリーの雄大な地形で撮影というリアルな自然環境がグッと観客を世界に引き込みます。『レヴェナント 蘇えりし者』を『プレデター』に掛け合わせた感じですかね。

作り物という感じがしないので、本当に自然界の生存競争の延長としてプレデター戦が描かれていく。だからこそ過去作とは比べ物にならないほどの生々しさを感じる。こんな重厚感のある『プレデター』が見られるなんて…。

この画期的な『プレデター ザ・プレイ』を生み出したのは、2016年に『10 クローバーフィールド・レーン』で長編映画監督デビューを飾り、話題作であるドラマ『ザ・ボーイズ』も仕切っている“ダン・トラクテンバーグ”

『プレデター ザ・プレイ』の原題は「Prey」で、もともと『プレデター』シリーズの一作だと明かさずにこっそり公開するつもりだったそうですが(「クローバーフィールド」方式っぽくなのかな)、製作途中にバレてしまって今に至るそうで…。

結局、アメリカでは「Hulu」、日本では「Disney+(ディズニープラス)」での独占配信となりましたが、これこそ劇場で見たかった!と激しく思うほどの最高の映像迫力があります。鑑賞するなら絶対に大画面を用意しましょう。

なお、シリーズ恒例ですがゴア描写はいっぱいあります。ただ、本作は犬とのバディ映画でもあるのですけど、これだけは心配な人もいるので事前に言っておきますが、犬は死にません! 犬はユーモア担当で可愛いです。安心してください(でもそれ以外の野生動物と人間は惨たらしく片っ端から殺されますけどね)。

ちなみに「コマンチ語 吹き替え版」まで同時配信という親切っぷりですので、そちらが良い人は「Disney+」の特典映像から切り替えて再生するといいです。

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『プレデター ザ・プレイ』を観る前のQ&A

Q:『プレデター ザ・プレイ』はいつどこで配信されていますか?
A:Disney+でオリジナル映画として2022年8月5日から配信中です。
日本語吹き替え あり
田村睦心(ナル)/ 林勇(タアベ)/ 関山美沙紀(アルカ)/ 白石兼斗(イッツェ)/ 森田了介(ラファエル)/ 赤坂柾之(ワサペ)/ 石黒史剛(パアカ) ほか
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 4.5:シリーズ好きは必見
友人 4.5:テンションあがるエンタメ
恋人 4.0:ロマンス要素は無し
キッズ 3.5:残酷描写が多め
↓ここからネタバレが含まれます↓

『プレデター ザ・プレイ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):はるか昔、この地に怪物がやってきた

1719年9月、グレートプレーンズのコマンチ族の集落。ナルという若い女性が早朝から起こされます。住居から外にでるナル。女性たちは薬草採取に行くのが習わしです。

でも愛犬のサリイと出かけたナルですが、退屈です。そしてこっそり抜け出して、斧投げの練習に汗を流します。見事な腕前で幹に刺さる斧。

そのとき、鹿の足跡を見つけ、立派な角を持つオジロジカを発見。犬のサリイに回り込んでと指示し、捕まえてみせようと意気込みます。ところが何かの音が空から聞こえ、鹿は走り出してしまいました。全力で追うナル。犬が上手く誘導してくれますが、ナルは鹿を逃がしてしまいました。

悔しがっていると、犬が地面に仕掛けられた罠で怪我していました。誰がこんなものを…。その場で尻尾を手当てしてあげます。

また何かの音が空から聞こえ、空を見渡せる場所に行くと、雲が抉られたように不自然なかたちを作っていました

ナルは兄のタアベに「空に印を見た」と伝えます。「私も試練の狩りを迎えるときが来た」とナルは熱弁し、自分も男たちに混ざって狩人になりたいと望むのですが、「獲物もお前を狩るんだぞ」とタアベはそんなナルを制止します。

結局、家で母と料理を作るという女の仕事をするいつもの日々。

母に言われて薬草を取りに行っていると、イッツェたちが騒がしいです。プヒがライオンに襲われたのだとか。男たちのグループは森へ行き、ナルもついていきます。タアベは今回は許可してくれました。

ライオンの糞を発見し、プヒを見つけます。酷い怪我ですがかろうじて息があります。薬草で応急処置。体は急激に冷えますが効果はあります。それにしても何かがライオンを追い払ったのだろうか…。

プヒを担架で運ぶ最中、ナルは皮を剥がれた蛇と何かがいた痕跡を見つけます。クマじゃないのかと仲間は言いますが、心配になったのでナルはライオン狩りをしている兄に警告しに向かいます。

兄はナルにライオンを狩るチャンスを与えますが、ナルは達成できず、ライオンを仕留めた兄が集落で実力を認められます。複雑な気持ちのナル。

翌朝、女たちはまた薬草採りに出かける中、ライオンでもクマでもない“何か”がいると信じて、それを狩りにナルは単身で出発します。

その正体をまだ知らずに…。

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プレデター哲学が貫かれる

『プレデター ザ・プレイ』は本物の野外での撮影のせいもあって序盤はゆったりとした映像が流れます。人によってはこのスローペースな前半を退屈に感じるかもしれません。

ただ、この序盤こそが本作の肝で、さりげなくいろいろな要素が詰め込まれています。

まず何よりも真っ先に提示されるのは、この大自然のルール。それはつまり、常に生きるには何かを狩ることになり、狩る側になるか、狩られる側になるかは、そのときの刹那によって決まる…ということ。

コマンチ族もそのルールの中で生きているという意味では他の野生動物と対等な存在です。そして無用な殺生はしません。生きるために狩る…それだけ。

そこにプレデターという異星の存在が紛れ込むわけですが、だからといって何かこの世界が脅かされることはありません。なぜならプレデターもまた「生きるために狩る」だけであり、不必要な殺しはしないからです。なのでプレデターはエイリアンだけどステレオタイプな野蛮な侵略者ではない。かといってご都合主義な友好的存在ということでもない。対等です。

一方で、そのルールに反する侵略者として登場するのが白人の入植者たち(厳密には毛皮などを求めて航海してくる取引人たちですけど)。彼らが登場する前に、皮を剥がれたバッファローの無数の死体が映り、一瞬「プレデターがやったのか?」と思わせておきつつ、それが白人たちの仕業だと判明し、プレデターと強烈に対比されます。

「狩るか狩られるか」という掟は「何でもあり」ではない。そんなものは外道である。

『プレデター ザ・プレイ』には「プレデター哲学」が根底でしっかり貫かれており、それが人種差別や消費主義といった現代社会の自己中心的な者たちへの警鐘にもなっているんですね。

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“狩る側”になれない主人公

『プレデター ザ・プレイ』のもうひとつの主要なテーマとして、ジェンダー面での掘り下げがとても丁寧です。

「狩るか狩られるか」という掟に支配されるこの大自然ですが、作中のコマンチ族では女性はそもそも“狩る側”に入れてすらもらえず、ナルは不満を溜め込んでいます。

そのナルと対比するような存在が、ナルが狩れなかった「ライオン」。なお、作中では「ライオン」と翻訳されていますが、これはアフリカにいるみんな知っている「ライオン」ではなく、英語で「マウンテン・ライオン」もしくはただの「ライオン」と呼ばれることもあり、アメリカでは「クーガー」という一般名で知られ、学名などでは「ピューマ」とも呼ばれるネコ科の動物です。

北南アメリカでは普通に生息している肉食哺乳類であるクーガーですが、クーガーは雌でも狩りをします。ナルにしてみれば羨ましい存在であり、そんなクーガーに負けるというのは自分の未熟さを痛感する屈辱的な体験であると同時に、自分の中の「女性性」との向き合いを突きつけられる暗示もありますね。

『プレデター ザ・プレイ』はそんなナルが一歩一歩、“狩る側”として成長していく物語であり、最終的に筋力と知力をフル回転させてプレデターを狩ることで、コミュニティに認められる。とてもパワフルなフェミニズム・ムービーです。

“ダン・トラクテンバーグ”監督は『10 クローバーフィールド・レーン』では女性主人公を“狩られる側”に配置しており、それは女性が社会の中で常に何かに脅かされているという理不尽を可視化したものだったと思います。

今作含め“ダン・トラクテンバーグ”監督のこれまでのフィルモグラフィーを見ていると、この監督はジェンダーのテーマを既存のジャンルに組み込むのが非常に上手いクリエイターなんだなと感じますね。

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ジャンルとしての見ごたえも最高

ダイナミックな映像と自然への深い敬意とジェンダーへの意識が上手く組み込まれた『プレデター ザ・プレイ』ですが、だからといって社会派やアート派に偏るわけでもなく、しっかりジャンルの面白さもキープしているのも特徴です。

本作は構成がゲームっぽくなっており、『ザ・プリンセス』の感想でも書きましたが、昨今の映画クリエイターはゲームからインスピレーションを得ていることが目立ってきていますね。

主人公は最初はそんなに強くなくて、何度か強敵と戦って経験値を経ていき、武器や技をどんどんと身に着けて、やがてはラスボスを倒せるまでに成長する。『プレデター ザ・プレイ』のナルも、斧投げをテクニカルに磨いていき、犬との連携技、薬草や地形を利用した攻撃、さらには敵の武器さえも応用する。ほんと、魅せてくれます。

面白いのはプレデターも同じということ。プレデターもオオカミやクマなど猛獣を戦っていき、やはりコイツも強くなっていきます。白人たちとの戦闘は「こいつら、弱いな…」とガッカリ感が透けて漂う中でのテクノロジー全開の集団戦になっており(盾がとくにカッコよかった)、映像映えしていて最高でしたね。

そんな互いにレベルアップして強さを底上げしたナルとプレデターの一騎打ち。美しいバトルでした。

主人公を演じた“アンバー・ミッドサンダー”も見事でしたし、個人的にはあの「優しいお兄ちゃん」を演じた“ダコタ・ビーヴァーズ”(俳優初挑戦!)の佇まいも良かったです。

ちなみに、ラストで何気なく登場した「ラファエル・アドリーニ」の名が記されたフリントロック・ピストル。これは『プレデター2』に登場したアイテムで、小説「プレデター: 1718」で詳細が描かれた品なので、シリーズ・ファンの目配せかな。

ともあれ“ダン・トラクテンバーグ”監督はまだこのシリーズの発展について何か考えがあるそうなので、とても楽しみですね。

『プレデター ザ・プレイ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 92% Audience 85%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0

作品ポスター・画像 (C)20th Century Studios

以上、『プレデター ザ・プレイ』の感想でした。

Prey (2022) [Japanese Review] 『プレデター ザ・プレイ』考察・評価レビュー