男も女も万里の長城で暴れろ!…映画『グレートウォール』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。
製作国:中国・アメリカ(2017年)
日本公開日:2017年4月14日
監督:チャン・イーモウ
ぐれーとうぉーる
『グレートウォール』物語 簡単紹介
『グレートウォール』感想(ネタバレなし)
万里の長城、知られざる伝説?
突然ですが、皆さん学校で「万里の長城」について世界史で習ったと思いますが、覚えていますか。
本作『グレートウォール』は、その万里の長城が全盛期で大活躍していた時代が舞台です。
しかし、世界史で学んだあの万里の長城は忘れてください。なぜなら、この映画は万里の長城を題材にしたファンタジー映画だからです。この流れ、『キング・オブ・エジプト』でも同じことを書いた気がする…。
『キング・オブ・エジプト』というエジプト文明を題材にしたこれまたトンデモ映画が去年公開されましたが、本作『グレートウォール』はそれに続く「史実をぶっとんだフィクションに改変しちゃった」シリーズの第2弾(勝手に命名)。『キング・オブ・エジプト』のノリが好きな人は絶対ハマると思います。
どれだけぶっとんだフィクションに改変したのか。これは宣伝でも言及していてネタバレにならないと思うし、何よりもこれを知っていた方が絶対に観にくる人は増えると思うので、書いちゃいますが…
…本作はモンスターパニック・アクション映画です。
ぶっちゃけた話、完全に『進撃の巨人』です。ただ、人間たちが立ち向かう相手は巨人ではなく、饕餮(とうてつ)と呼ばれる中国神話に出てくる怪物。そんな怪物に対峙する、戦士たちの設定も凄まじい。「なんじゃそりゃ!」と口が開くような奇抜かつ豪快な戦法が次々繰り出されます。某ファンタジーゲームの竜騎士みたいな青い鎧の槍使い女集団や、某歴史アクションゲームのようなメチャクチャなアクションの数々。たぶんTVゲームをよくやる人なら既視感だらけで、テンション上がるのではないでしょうか。
本作は、『HERO』や『LOVERS』などの武侠映画が世界的に高く評価された、中国の巨匠チャン・イーモウ監督が、アメリカとの合作によって1億5000万ドルもの巨額を投じて生まれた大作。当然、期待も大きい。
だったのですが、大昔の中国が舞台であるにも関わらず、白人のマット・デイモンが主役を演じたということもあり、公開前から炎上。公開後もアメリカでは低評価に終わり、アカデミー賞受賞式でマット・デイモンがネタにされてました。
確かになんでこんなところに白人がノコノコ現れるんだって話です。ただ、もうそれ以前の問題ですよね。さすがにこんだけぶっとんだ世界観ならもう人種問題もどうでもよくなる感じも…。ホワイト・ウォッシュというかモンスター・ウォッシュですよね。
制作は『GODZILLA ゴジラ』や『キングコング 髑髏島の巨神』など怪獣映画で大ヒットを飛ばしている「レジェンダリー・ピクチャーズ」。なのでクオリティは保証済み。『キングコング 髑髏島の巨神』に大満足した怪獣映画好きの人、次は本作を“大迫力の巨大スクリーンで”観るのがオススメです。
『グレートウォール』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):伝説です
万里の長城。総延長8850キロを超え、建造に1700年以上が費やされた人類史上かつてない構造物。多くの危機を防いできたこの巨大な壁。これはその伝説のひとつ…。
宋王朝時代。黒色火薬を求めてなんとか過酷な旅のすえ、宋に辿り着いた欧州の傭兵ウィリアムとトバールは、途中で馬賊に襲われ、からくも逃げ延びました。しかし、当初はもっと大勢いた仲間をごっそり失い、その旅路は悲観的にならざるを得ません。黒色火薬は一瞬で大勢を倒せる夢のような兵器とされていましたが、その実在も怪しくなっていました。地図なし、薬なし、食料なし。これではいずれ全滅します。
焚火を囲んだ夜。これからどうするべきか途方に暮れていると、謎の襲撃者に襲われます。ついに2人だけになってしまいました。馬賊にしてはおかしいです。ふいに襲ってきた“存在”の腕を切り落とすと、それは見たこともない化け物でした。
翌日、また馬賊がしつこく迫ってきます。馬を走らせ、逃げる2人。すると目の前に現れたのは巨大な壁。一斉に矢を放たれ、ものものしい軍隊に圧倒されます。後退はできません。壁の連中に頼んで通らせてもらうしかないことはすぐにわかり、おとなしく降参してコンタクトをとることに。
捕まった2人。一方、例の化け物の腕に興味津々な軍隊。長城を守護する禁軍らしいこの軍団。そのリーダー格であるリン隊長はこれを倒した場所を聞いてきます。
「2人で殺したのか?」「1人だ」
にわかに信じられないという顔をする一同。処刑しようと話が進みますが、生かすべきではという意見も。そこに連絡係が駆け込んできます。敵の襲来があったらしいです。
すぐに攻撃態勢に移り始め、慌ただしくなります。軍師のワンは、怪物は饕餮(とうてつ)と呼ばれるものだと説明します。60年に1度出現するのだとか。
凄まじい数の兵士が壁の上で陣営を組み、大型の武器が配置されます。リン隊長の全員女性の青い鎧の兵士は槍を持ち、構えます。こんな軍隊は初めて見るものでした。シンと静かに緊張で張り詰めた空気が満ちる中、その敵を待つことに。
徐々に叫び声が聞こえてきます。奥の崖の山間から迫ってくるのはおびただしい数の化け物。
攻撃は迷いなく開始。カタパルトで火球を飛ばし、弓矢で追撃。しかし、敵の数は尋常ではないです。青い兵士はバンジージャンプのように敵の群れに飛び降り、槍で突き刺していきますが、それでも化け物に食われていく兵士は大勢。その凄惨な光景に言葉を失う2人。
するとさらに大型の獣が出現。女王らしいです。攻撃するも他の個体が防御。女王は頭の器官を震わし、命令を出して、化け物は壁を登ってこようとします。
歩兵部隊が投入されますが、壁の上に到達した化け物と交戦し、事態はさらに緊迫。縛られた2人は慌てます。ほぼ全滅する中、2人は縄をほどき、戦闘に参加。敵の口に槍をぶっ刺し、2人の連携で仕留めます。敵の群れは退散していきました。なんとか全滅を防いだものの、こちらの犠牲も少なくないです。それでも2人はその実力を認められたのでした。
禁軍と行動を共にしていた白人バラードは、自分も25年前に黒色火薬を求めて旅をしていたそうで、それはここにあるらしいです。
そこでひとまず連中に協力しようということになり…。
アホの骨頂。でも、みんなのロマン?
タイトルに恥じない“グレートすぎる”万里の長城でした。
ポジティブな言い方をすれば、小学生レベルの「ロマン」を結集させたかのような夢ある映画。元も子もない表現に言い換えるなら「アホの骨頂」です。
最初の大規模戦闘で、マッド・デイモン演じるウィリアムが“ぽかーん”状態になってましたが、わかる、わかりますよ。全く持ってその反応は正しい。私たち現代人さえも知らない万里の長城の姿がそこにはあったのですから。
弓矢や剣だけではない、実にバカげた戦術ばかり。リン将軍が指揮する美女集団が繰り出すバンジージャンプ槍攻撃、超巨大火炎カタパルト、モリでの怪物一本釣り、カラクリ城壁から飛び出す刃…思いついたとしてもなかなか映像化しようとは思わないですが、恥ずかしげもなく実現しやがって…。悔しいけど、楽しい。
『ワールド・ウォー Z』のゾンビよろしくおびただしい群れで襲い来る怪物の描写も、さすが「レジェンダリー・ピクチャーズ」。集団vs集団を描いた映画としては、同じくレジェンダリー・ピクチャーズ制作の『ウォークラフト』に匹敵するかそれ以上の映像迫力でした。
アクションも単なる派手なだけで終わらず、例えばウィリアムが壁から下に降りて鳴り矢を撃った敵の位置を音で推察しながら展開するバトルなど、静と動の使い方が上手かったんじゃないでしょうか。飽きさせないつくりで工夫されていたと思います。
本作の良さはアクション至上主義に徹している点であり、余計なドラマは極力省かれてます。てっきりウィリアムとリン将軍は恋愛関係になると思ったら、そうは発展しませんでしたね。同じ戦いに人生を捧げている者どうしの戦友として心を共有するだけ…でもこれで良かったです。
じゃあ、絶賛かというとそうでもなく。逆に個人的に惜しいなぁという点もあって、とくに終盤の舞台が万里の長城じゃないのが残念。あんなに自信たっぷりに戦ってきたのに、万里の長城があっけなく抜け穴で突破されたのは…グレートの名に傷がつくじゃないか。まあ、これは史実に準拠しているのでしょうけど。その代わり、荒削りな気球での空中移動シーンが見れたから、良しとするか…。
あと、女王のようなボスを倒して全員停止で万事解決!という展開は昨今のアメリカ映画に多すぎる…。もっとこう、なかったんですかね。万里の長城を全て爆破して敵を一網打尽に押しつぶすとかいいなぁ…。
でも、総論としては楽しかったので本作は個人的には好きな一作となりました。
私、実のところ「万里の長城」なんて観光して何か楽しいのかと思ってましたが、本作を観て訪れたくなりました。
こういう調子で「史実をぶっとんだフィクションに改変しちゃった」シリーズを続けてほしいなぁ…。「武田の騎馬隊」は実は怪獣を倒すために編成された組織だった…とか。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 36% Audience 42%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★
作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures
以上、『グレートウォール』の感想でした。
The Great Wall (2017) [Japanese Review] 『グレートウォール』考察・評価レビュー