ネタバレに怯える日々は終わった!…映画『スパイダーマン ノーウェイホーム』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2021年)
日本公開日:2022年1月7日
監督:ジョン・ワッツ
恋愛描写
スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム
すぱいだーまん のーうぇいほーむ
『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』あらすじ
特殊なクモに噛まれて特殊能力を得た高校生のピーター・パーカーはスパイダーマンとしてニューヨークの治安を守る活動をしていたが、アベンジャーズの一員となって世界を救うという大きな経験もした。しかし、悪い大人のせいで自分に殺害容疑がかけられ、しかも本名まで世間にバレてしまう。一瞬にして世界で一番有名な高校生になってしまったピーターはこの事態を乗り越える策を考えようとするが…。
『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』感想(ネタバレなし)
ネタバレに怯える日々は終わった!
映画鑑賞において最大の強敵、それは…ネタバレです。
いや、気にしない人は全然気にしてないのですが、気にする人はすごく気にする。それがネタバレというやつ。とくに話題作とかだとネタバレは観たくないからさっさと映画館で映画を見てしまうのが吉です。
しかし、ここで大きな問題が。海外映画の公開日のズレ。世界同時公開で日本も一緒に見られるならいいのですが、大きく公開時期が遅くなってしまったら…。今はインターネットの時代。海外の情報なんてわりとフラっと目に映るし、ネタバレのリスクは少なくはない…。
でも有名な映画ならきっと同時公開するよね…と日本の映画ファンが高を括っていたら、とんでもないことになってしまいました。その問題の作品が『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』です。
本作はアメリカでは2021年12月17日公開。全世界的にほぼそんな時期です。しかし、日本だけは2022年1月7日公開。年をまたいで約3週間後の公開というソニーのお知らせに日本の映画ファンは茫然としました。つまり、あれです。3週間もの間、いつどこから飛んでくるかわからないネタバレから身を守らないといけないのです。インフィニティ・ストーンをサノスから守るのと同程度に大変かもしれない…。
なにせこの『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の“トム・ホランド”演じるスパイダーマン単独主演作の3作目なのですが、スパイダーマン版『エンドゲーム』だと事前に評されるくらいに重要な大作なのです。
これは事前に予告動画でも紹介されているのでネタバレじゃないことにしますけど、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』ではスパイダーマンではおなじみの歴代の悪役が勢揃い。これだけだとゲームの「Spider-Man」と同じ展開なのですが、この『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』はもっと凄い。なんと過去のMCUではない“トビー・マグワイア”主演の『スパイダーマン』(2002年から3作続けて製作)と“アンドリュー・ガーフィールド”主演の『アメイジング・スパイダーマン』(2012年から2作製作)の計5作から悪役が参戦。しかも、演じた俳優も同じという豪華さ。
そしてこれは単に豪華というだけではない、つまり、いよいよマルチバースとしてずっとファンが観たかった展開が幕を開けたことを意味していて…。
もうこれ以上書いているとネタバレを書きそうなので、後はとにかく観てください。『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』はスパイダーマンの最終章ですが、同時に新時代の開幕でもあるのですから。
ネタバレに怯えて暮らす日々とはもうおさらばです。
なお、今回もミッドクレジットシーンとポストクレジットシーンがあるのでスタッフクレジットが始まっても席を立たないように。
『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』を観る前のQ&A
A:手から蜘蛛の糸を出す少年です。MCUではスパイダーマンは2016年の『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』で初登場。2017年の『スパイダーマン ホームカミング』で単独主演作の1作目を飾りました。以降、『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』でアベンジャーズの一員として参戦。激闘を経験し、単独主演作の2作目である『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』でさらなる成長を見せますが…。
A:魔術を操るオジサンです。2016年の『ドクター・ストレンジ』で初登場。『マイティ・ソー バトルロイヤル』でちょこっと登場したほか、『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』では世界の命運を握るある決断を…。サンクタムという聖域(ニューヨークにある)で地球をあらゆる別次元からの侵略から守っています。『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』ではスパイダーマンの頼みであることを試すのですが…。
A:正直言って関連作があまりに多すぎてMCU史上かつてないほどにややこしいのですが、もうここは開き直って『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』だけ観ておけばいいということでもいいのかもしれない…。物語自体は『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』のラストと完全に地続きで始まります。
オススメ度のチェック
ひとり | :ファン感涙&感無量 |
友人 | :話題性抜群 |
恋人 | :異性愛ロマンスあり |
キッズ | :子どもも満足 |
『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』感想(ネタバレあり)
あらすじ(前半):今度こそマルチバースです
放射能を浴びたクモに噛まれて、驚異的な身体能力を得た高校生のピーター・パーカーは、その能力を活かしてニューヨークの街でスーツを着て「スパイダーマン」として密かにヒーロー活動をしていたところ、アイアンマンことトニー・スタークにヘッドハンティング。晴れてアベンジャーズのメンバーとなり、全宇宙の生命を半分にする野望に燃えるサノスと激闘しました。しかし、その後にヒーロー不在の世界の弱点を突いて自作自演で世間を騙したミステリオの策略によって、ピーター・パーカーはまたもピンチに。なんとか死闘の末にミステリオを倒したものの、ミステリオが死に際に残した罠のせいで、自分がミステリオを殺害して世界を危険に晒したことにされ、しかもJ・ジョナ・ジェイムソンが仕切るデイリービューグルというメディアによって「スパイダーマンの正体はピーター・パーカーである」と暴露されてしまいました。
この事態によってピーターは世界の好奇のまとに。恋人になったばかりのMJや大親友のネッド、世話をしてくれたメイおばさん、トニー・スタークとの関連で知り合ったハッピー、そうした周囲の人たちを巻き込んで、一時ダメージ・コントロール局に連行され、尋問を受けるハメに。
有能な弁護士のおかげでなんとか有罪は逃れられましたが、元の平穏な生活は消えました。ピーターとメイおばさんはハッピーの家に退避。しかし、MJとネッドと一緒に約束したMITに進学するという夢は絶たれてしまいました。自分はしょうがないにしてもこの2人の進路まで犠牲になるなんて…。
悔やんでも悔やみきれないピーターは最後の頼みの綱を思いつきます。それはドクター・ストレンジ。このニューヨークにいる魔術師です。彼ならなんとかしてくれるかもしれない。
ドクター・ストレンジのいるサンクタムという建物を訪ね、自分の正体がバレるのを時間を巻き戻して無かったことにできないかとお願いしますが、タイムストーンを失ったドクター・ストレンジにそんな能力はありません。
しかし、ドクター・ストレンジからふと妙案が。ピーターの存在を忘れさせることならできる…と。
さっそく忘却の魔術に取り掛かるドクター・ストレンジ。でもピーターは「全員忘れるのは困る。MJの記憶は残して…。あ、ネッドも。それにメイおばさんも。ハッピーも。とにかくバレる前に自分の正体を知っていた人は全員そのままで…」と要求をどんどん追加。
魔術が複雑になってしまい、ドクター・ストレンジは危険を感じて中断します。結果、その魔術は一旦封印しておくことに。
そんな中、ちゃんとMITに抗議した方がいいと言われ、あらためて担当者に直談判しに行くことにしたピーター。渋滞の高速道路で交渉しようとしたところ、嫌な予感を感じます。
そこに現れたのはなぜか自分を知っている謎の機械の触手を操る男。そいつとの対決の最中、ドクター・ストレンジに呼び戻されたピーターは信じられない話を聞きます。「先ほどの魔術のせいで多元宇宙が乱れて、スパイダーマンの正体はピーター・パーカーだと知る者たちを別の平行世界から招いてしまった」
「マルチバースってあるの!?」
今度は本当にマルチバースです、スパイダーマン…。
“おじさん”に酷い目に遭わされ続ける少年
MCUのスパイダーマンは1作目の『スパイダーマン ホームカミング』から一貫して「少年がおじさんに酷い目に遭わされる」という展開の連続です。これは『COP CAR コップ・カー』など少年が悪い大人の男たちにいたぶられる作品を作ってきた“ジョン・ワッツ”監督の得意分野であり、このMCU「スパイダーマン」シリーズでもその持ち味は常に発揮されてきました。
1作目の『スパイダーマン ホームカミング』は、エイドリアン・トゥームスことバルチャーという中流階級の貧困で凋落したおじさんが悪役。加えて自分を子ども扱いするトニー・スタークというおじさんにも振り回されます。
2作目の『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』ではさらに酷くなり、クエンティン・ベックことミステリオという詐欺おじさんに騙され、ニック・フューリーというおじさんには子どもの青春を台無しにされ、亡くなったトニー・スタークの不手際の後始末をすることになるし…。
そして3作目の本作『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』はその迷惑おじさんの数が尋常じゃないほどに増加。『スパイダーマン』からノーマン・オズボーンことグリーン・ゴブリン(演じるのは“ウィレム・デフォー”)、『スパイダーマン2』からオットー・オクタビアスことドクター・オクトパス(演じるのは“アルフレッド・モリーナ”)、『スパイダーマン3』からフリント・マルコことサンドマン(演じるのは“トーマス・ヘイデン・チャーチ”)、『アメイジング・スパイダーマン』からカート・コナーズことリザード(演じるのは“リス・エヴァンス”)、『アメイジング・スパイダーマン2』からマックス・ディロンことエレクトロ(演じるのは“ジェイミー・フォックス”)がマルチバースを越えて参戦。そしてスティーヴン・ストレンジことドクター・ストレンジという無責任魔術おじさんも立ちはだかるし、デイリー・ビューグルのJ・ジョナ・ジェイムソンというデマおじさんも邪魔をする。おじさん軍団ですよ。
面白いのがこれは要するに既存のアメコミ映画のジェンダーバランスの不均衡を逆手にとった皮肉な展開なわけです。どうしても中年男性ばかりが起用されていましたからね。それが全員牙をむく。偏ったジェンダーの歪みに蹂躙されるのが今回のピーターなのです。
おじさんたちへのメンタルヘルス・ケア
ただ、今回の『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』はそのおじさん軍団をぶん殴って倒して一件落着ではない。改心させようとする、もっと言えば適切なケアを与えようとします。
これはメイ・パーカーが取り組んできた「F.E.A.S.T.」という恵まれない人々への慈善サポート活動の精神を受け継ぐ者であり、今作ではこれがMCUのピーター・パーカーのヒーローとしての正しさになります。フェイズ4に突入したMCUはとくにドラマシリーズではメンタルヘルスに意欲的に取り組んでいる気もしていましたが、この『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』も、堕落してしまったおじさんたちへのメンタルヘルス・ケアの提供のお話です。
しかし、ドクター・オクトパスのケアには成功するも他の4名は失敗し、さらにはメイおばさんさえ失ってかつてない絶望に沈むピーター。ここで登場するのが、待ってました、ファン待望の“トビー・マグワイア”主演の『スパイダーマン』のピーター(ピーター2)と“アンドリュー・ガーフィールド”主演の『アメイジング・スパイダーマン』のピーター(ピーター3)。
スパイダーマンがマルチバースで結集するのは『スパイダーマン スパイダーバース』でもやっているので二番煎じではあるのですが、今作では単にチームになるだけでなく、スパイダーマン同士のメンタルヘルス・ケアの役割を果たすというところが重要ですね。
加えてあの3人のピーターが集まって悪役おじさんたちを更生させる(セカンド・チャンスを与える)機器を開発するのですが、その光景は大学の研究室そのもので…。本作はすっごくアカデミックへの敬意がある作りで、そこも良かったです。魔術より数学の方が凄いんです。
アカデミックと言えば、大学の受験でフェアでないと感じたらちゃんと抗議していいんだと示されているのも良かったな。そこはドクター・ストレンジの唯一の良い貢献でしたよ…。
みんなのスパイダーマンはこれからも
終盤はついに大決戦。ファンたちの見たかった映像の連発で、感想なんて追いつかないほどです。ただ雑談しているだけのピーターたちも最高だし、チーム経験を自慢する“トム・ホランド”ピーターも最高だし、こっちのMJを救って感極まっている“アンドリュー・ガーフィールド”ピーターも最高だし…。
最終戦では“トム・ホランド”ピーターは怒りのあまりグリーン・ゴブリンを殺しにかかる勢いで飛行体を振り下ろそうとするのですが、それを食い止めたのは“トビー・マグワイア”ピーター。このシーンは『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』でキャプテン・アメリカがアイアンマンに盾を突き立てた場面と構図が同じですが、それをしなかったピーターは先輩ヒーローよりも成長した存在になれたことに。
でもラストは「全ての人がスパイダーマンがピーター・パーカーであることを忘れる呪文」によって“トム・ホランド”ピーターは孤立します。まさに「No way home」です。
しかし、成長を重ねに重ねたピーターは確実に強くなっていました。体だけでなく心も。高校時代に別れを告げ、次の1歩を踏み出すピーター。スターク・インダストリーとも縁が切れて、新しいスパイダーマンは親愛なる隣人として素に戻り、よりアイデンティティを強固なものにしたのではないでしょうか。すごく不幸なはずなのにすごく幸福さえも感じるあのラストの後味は、ちょっとこれまでのヒーロー映画にはない別格のものがありますね。私たち観客もピーターのことを過保護に見守っていたと思いますけど、もう大人の保護を巣立ってしまったんですよ…。いつの間にか私たち以上の大人になっていた…。
3部作完結として本当に綺麗な着地です。思えば過去の「スパイダーマン」映画は綺麗な閉幕ができずにいましたからね…。もはや全「スパイダーマン」映画を総括した完璧なフィナーレだった…。
無論、MCUは終わらない。ドクター・ストレンジおじさんの反省はこれからですし(大変なことになりそう)、ヴェノムの動向も気になりますし、しれっと登場した“チャーリー・コックス”演じるデアデビルもどう活躍するのか…。
すでにソニーとマーベルは新しい「スパイダーマン」新3部作の検討に入っており、“トム・ホランド”も続投するとのこと。原作コミックの「スパイダーマン」世界は本当に広大で、クモ能力を持ったヒーローは他にもいっぱいいるのでそうした新キャラの主役映画も期待したいところ(というか確実に作られますね)。
これがスパイダーマン最高傑作にして完成形のようにも思えますが、まだまだ進化できる余地がある。スパイダーマンは未知の領域へとついに進むのです。
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 98%
IMDb
8.8 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
作品ポスター・画像 (C)2021 CTMG. (C) & TM 2021 MARVEL. All Rights Reserved. スパイダーマンNWH
以上、『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』の感想でした。
Spider-Man: No Way Home (2021) [Japanese Review] 『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』考察・評価レビュー
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