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『侍タイムスリッパー』感想(ネタバレ)…いつの時代でも心配ご無用!

侍タイムスリッパー

刀には今も本物の魂がこもっています…映画『侍タイムスリッパー』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:A Samurai In Time
製作国:日本(2024年)
日本公開日:2024年8月17日
監督:安田淳一
侍タイムスリッパー

さむらいたいむすりっぱー
『侍タイムスリッパー』のポスター

『侍タイムスリッパー』物語 簡単紹介

幕末の京都。会津藩士の実直な侍である高坂新左衛門は家老から長州藩士を討つよう密命を受けるが、雨の中で標的の男とついに刃を交えた瞬間、突然の落雷の直撃によって気を失ってしまう。目を覚ますと、見慣れたようで何か違和感を感じる町並みに佇んでいた。そこは時代劇の撮影の真っ最中である2000年代の撮影所だということをまだよくわかっていなかったが…。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『侍タイムスリッパー』の感想です。

『侍タイムスリッパー』感想(ネタバレなし)

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2024年の日本のインディーズ映画からの刺客

その年で話題になる映画はたいていは有名な作品や大作です。しかし、低予算のインディーズ映画が口コミで面白さの評判が広がってしだいに大注目を集めて、その1年の顔になるほどに話題をかっさらう現象がたびたび起きます。

日本であれば、2018年(2017年に限定で先行公開)は『カメラを止めるな!』(略称『カメ止め』)がそうでした。

あの『カメ止め』現象以降、日本の映画界では「ポスト“カメラを止めるな!”」となる作品が現れるのかとそわそわと期待されて、「この作品こそ!」みたいな感じで宣伝文句で使われたりもしました。でもなかなかあの『カメラを止めるな!』ほどインパクトのある映画は現れませんでした(まあ、コロナ禍も間に起きたのでね…)。

しかし、2024年に公開されたこの日本のインディーズ映画は久々にあの6年前の盛り上がりを彷彿とさせる勢いをみせてくれました。

それが本作『侍タイムスリッパー』です。

本作はあの『カメ止め』と違って、ネタバレをそんなに気にしなくていいです。そもそも何が起きるのかはタイトルでハッキリ示しています。侍がタイムスリップするのです。時をかけるサムライです。はい、それだけです。

では何か映画ファンに大ウケしたのかと言えば、その幕末の侍が現代にタイムスリップして時代劇撮影所に辿り着き、そこで「斬られ役」として活躍していくという展開。斬られ役というのは、刀を使って斬り合う戦いのシーンでもっぱら主人公とかに斬られる雑魚っぽい感じの役の人です。もちろん本当に斬られているわけではなく、斬られたふりをする演技をしているのですが、でも陰ながら大切な仕事です。

もっと言えば、その展開を通して、日本の時代劇への愛が溢れてくるというテーマ性でした。『カメ止め』もジャンルは違えど同質なところがあったので、やっぱり映画ファンというのは映画愛が濃いラブレターみたいな作品に弱いんですね(単純な奴らですよ、私も含めて…)。

この『侍タイムスリッパー』を監督したのは、“安田淳一”という人物。「未来映画社」という事務所で、2014年の『拳銃と目玉焼』で初めて本格的な映画監督としてスタートし、2017年には『ごはん』を監督。実家が農家だそうで、今は親の後を引き継ぎ、稲作農家をしながら映画作りにも奔走し続けています。

そんな“安田淳一”監督の渾身の『侍タイムスリッパー』は前述したとおり大好評のロングヒットとなり、日本アカデミー賞で最優秀作品賞に輝くなど、異例の大豊作となりました。農業も上手くいっているといいのですけど…。

『侍タイムスリッパー』は当初は自主製作映画としての公開でしたが、評判を聞きつけてすぐに「ギャガ」の配給が加わって公開規模が増え、きっと次は商業映画として大々的に製作するぐらいのチャンスはたぶん掴めたとは思いますが…。

『侍タイムスリッパー』もコメディなのでそんなに時代劇をよく知らない人でも入り込みやすい敷居の低さです。まだ観ていない人もぜひ。日本は米不足かもしれませんけど、映画には不足していません。たらふく食べてください。

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『侍タイムスリッパー』を観る前のQ&A

✔『侍タイムスリッパー』の見どころ
★コミカルなやりとり。
★時代劇への愛溢れるメッセージ。
✔『侍タイムスリッパー』の欠点
☆やや映画時間が長い(約130分)。

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 3.5
子どもでも観れます。
↓ここからネタバレが含まれます↓

『侍タイムスリッパー』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

日本の幕末の時代。静まりかえった夜の外、会津藩士の高坂新左衛門は長州藩士である山形彦九郎を討つ密命を受け、同胞で仲がいい村田左之助とともに京都にやってきて、今は草陰に身を潜めていました。家老より直々とあって、何としてでも期待に答えなくてはいけないと実直な高坂新左衛門は覚悟を決めます。

しかし、村田左之助は早々に相手の前に飛び出してしまい、一発で倒されてしまいました。

こうなって高坂新左衛門ひとりで対峙するしかありません。刀を抜き、睨み合う2人。雨が降り出し、雷鳴が鳴っても2人は集中を途切れさせません。そして雷が落ちて…。

気がつくと高坂は全く別の場所の町の地面で倒れ込んでいました。山形彦九郎は見当たりません。そもそもさっきまで草原で斬り合いをしていたはずです。なぜ自分がここにいるのかわかりません。

ゆっくり刀を戻し、緊張を解きます。この町は奇妙でした。日中なのにひとりも見かけません。

声が聴こえた方向に歩みを進めると、歩いている人たちがいました。普通の町並みです。

「あのすまん。ちと尋ねるがここはいずこであろうか」と誰に聞いても無視されます。というか喋らないようにしているようです。

そのとき、ひとりの若い女性が浪人風の男たちに絡まれていました。そこに別の男が現れ、妙に芝居じみた口調で「世直し侍の心配無用ノ介」と名乗ります。

男たちは退散してしまい、まわりはホっとしています。呆れて高坂はその場を去ります。

そういえば「江戸」とも言っていました。京都からそんなに離れたのでしょうか。

するとまた周囲の人たちがさっきと同じことを繰り返し始めました。またもあの若い女が全く同じ男たちに同じ場所で襲われています。そこへやっぱり「心配無用ノ介」と名乗るあの男がやってきます。つい数秒前に見た光景と変わりません。

こうなってはと「助太刀いたす!」と乱入する高坂。自分も刀を抜きます。

その瞬間、周囲がざわつき、「アホ!何しとんねん!」と大声が飛んできます。そして異国人なのか見慣れぬ風体の女性に引っ張られます。

「どこの事務所から来ましたか?」

その女性は撮影助監督の山本優子と呼ばれていました。撮影? どういうわけなのかもわからず、とりあえず他所へ行くように促されます。

とぼとぼ歩いていると見知らぬ風景に困惑。そのとき、頭をぶつけ倒れた高坂は気絶してしまい…。

気がつくと、全く見たこともない部屋にいました。寝床のようなものに寝ていましたが、見慣れない布なのか…。部屋も木造ではないように感じます。

そして窓からの景色に驚愕。こんな町は見たことがありませんでした。

武士の世がとうに終わっていたと知ったとき、自分はもう取り残されたと実感します。

これから何をすればいいのか…。

この『侍タイムスリッパー』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/04/10に更新されています。
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業界人が聞きたかった褒め言葉

ここから『侍タイムスリッパー』のネタバレありの感想本文です。

歴史的に古い時代の過去の人物がタイムスリップしてきて、その歴史を描く作品を撮る現代のスタジオに貢献していく…というのが基本軸の『侍タイムスリッパー』。

同じような構成があるSFタイムトラベルものの作品と言えば、1967年の“ハリイ・ハリスン”によるSF小説『テクニカラー・タイムマシン(The Technicolor Time Machine)』があります。“ハリイ・ハリスン”は『ソイレント・グリーン』の元になった原作者でもありますね。

『テクニカラー・タイムマシン』は現代の凡庸な映画製作者が主人公で、ヴィンランド植民地時代を描いた映画を作ろうと考えていたときにタイムマシンが使えることになり、そこで過去の時代に行ってヴァイキングを使えばリアルになると考えて、画策していく…というのがそのだいたいの流れです。その結果、どんどんハチャメチャなことになっていくのですが、『テクニカラー・タイムマシン』は当時のハリウッドのスタジオの業界を滑稽なまでに風刺していました。

『侍タイムスリッパー』は製作者側ではなく過去の人物が不本意に一方的にタイムスリップしてくるので、どこか異世界転生モノに近く、そこで自分のスキルを活かした新たな役割を見いだす展開などは、『パリピ孔明』などの他作品にも通じるものがあります。

もちろん現代の映像製作業界を風刺する面白さは『侍タイムスリッパー』もきっちりカバーしています。

前半は幕末の会津藩士の高坂新左衛門が現代(と言っても2024年ではなく2000年代初頭くらいのようですが)の日本社会に迷い込み、右往左往するさまをたっぷりに描いています。本当に極端な浦島太郎状態ですけど、150年でこんなに日本が変わるとは確かに驚くのも無理はないですよね

とは言え、この『侍タイムスリッパー』はそこまで時代ギャップのコメディに何でも手を出して散らかっていくこともありません。おにぎりに感動したり、ケーキに感涙したり、ささやかな食で時代の変化を感じる高坂新左衛門の感性を匂わす程度…。“山口馬木也”の演技が絶妙でそれでも面白いのがいいんですけどね。

本題は時代劇です。京都の時代劇撮影所から始まり、そこで撮られた錦京太郎主演の時代劇ドラマにテレビで夢中になり、斬られ役のプロ集団「剣心会」への入門を希望するまでに至る。この一連の展開が観客側にとって「どうなっていくんだろう?」というワクワクがありますし、ここで一番良いなと思うのは最初はあきらかに笑いを誘うものだったものが、いつの間にかジャンルの醍醐味を味わえていることです。

正直、時代劇(それ以外のジャンルでもそうなのですけど)というのは冷静になるとシュールです。現代の人たちが昔の人たちの格好をしてマネごとをしているのですから。高坂新左衛門だって当初は撮影所で撮影中の場面に遭遇して「心配無用ノ介? は? 何言ってんだ?」と内心では思っていたでしょう。本場の人から見れば、変な風景に思えるのは当然です。

とくに斬り合い(殺陣)のシーンは最もフィクションです。実際に殺すわけでもなく、斬られているふりをしているだけです。子どものチャンバラごっこと変わらないとみなされても仕方ありません。

作中では観客はこの高坂新左衛門とシンクロして、時代劇をどこか他者化しながらクスクスと笑えます。

同時に時代劇に関わっている業界当事者もこのジャンルの勢いが衰退しつつあることを痛感しているので、どこか達観してしまっています。

本作はそんな観客と業界当事者に対して高坂新左衛門という本場の人間が「いや、時代劇ってのは凄いです!」と太鼓判を押してくれることで、その雰囲気を一変させます。これは時代劇を再評価するうえでのウルトラ級のチート技ですね。

「救われたような気がしたんです。あなたがたは素晴らしいお仕事をされています」という強烈なエンパワーメントのセリフは、まさに今の業界人が言われたい言葉そのものでしょう。

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本物の侍がフィクションの中にもいる

そうした業界への賛辞をもたらした後、『侍タイムスリッパー』はもう一歩踏み込んだことを描きます。

後半は、10年前に時代劇からの卒業を宣言したスター俳優の風見恭一郎が登場し、彼を主演とする新作時代劇映画の制作に参加します。しかし、この風見恭一郎こそあの幕末で対峙した山形彦九郎であり、高坂新左衛門よりも30年前に未来に来てしまっていたのでした。

風見恭一郎は高坂新左衛門と違って時代劇に対してそう単純な評価ではなく、ここでは自分たちの歴史が未来の世界ではエンターテインメントになっているということへの複雑な想いが滲みます。人殺しをたとえフィクションとは言えどもそんな見世物にしていいのかという葛藤。本当に人を斬って命を奪う感触を知っている当事者だからこその苦悩です。

そこで映画最後の殺陣となる高坂新左衛門と風見恭一郎の対決シーンの撮影では真剣(本身)を用いることになり、この場面はまさに『カメラを止めるな!』と同じで「カメラで撮るのを止めるんじゃない」という執念の緊張感が迸ります。

結局、高坂新左衛門は風見恭一郎を実際には斬らないわけですけども、まあ、そういうオチになるのは一番無難ではあるのですが、ひとりの古い時代を引きずる者が次の時代に生きる覚悟を決めるという意味では、とてもカタルシスのある閉幕だったと思います。

全体を通して『侍タイムスリッパー』はノスタルジーに偏りすぎる欠点は確かに感じもしました。タイムスリップしてくる侍たちも、現代の時代劇をなんだかんだで肯定してくれる要員であり、今の時代劇を「よいしょよいしょ」と持ち上げてくれることにしか機能しませんから。

もっと「時代劇のここを改善するべきだ」とか手厳しいことを言ってもいいんですけどね。ただでさえ日本のこういう業界はいろいろ問題点だらけなのですし…。

また、映画自体のスローペースは気にはなりました。ギャグをかなりゆっくりめにあちこちで挟めようとするので、まどろっこしいところはあります。

それに昭和のマドンナ的な存在感でプロット上は役割を果たすにとどまる撮影助監督の山本優子のキャラクターも、少々味気ないものではありました。

『侍タイムスリッパー』は撮影現場のプロフェッショナルの仕事を褒め称える映画として、同じ2024年のハリウッドの『フォールガイ』と同一線にある作品でしたが、日本でもまだまだ頑張っているのにスポットライトが当たっていない人はいっぱいいるので、こういう作品は定期的に必要だと思います。

『侍タイムスリッパー』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)

作品ポスター・画像 (C)2024未来映画社 サムライタイムスリッパー

以上、『侍タイムスリッパー』の感想でした。

A Samurai In Time (2024) [Japanese Review] 『侍タイムスリッパー』考察・評価レビュー
#日本映画2024年 #安田淳一 #山口馬木也 #映画業界 #時代劇 #侍 #タイムトラベル