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『コンペティション』感想(ネタバレ)…ペネロペ・クルス監督に任せれば傑作?

コンペティション

ペネロペ・クルス監督に任せれば傑作?…映画『コンペティション』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Official Competition
製作国:スペイン・アルゼンチン(2021年)
日本公開日:2023年3月17日
監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
性描写

コンペティション

こんぺてぃしょん
コンペティション

『コンペティション』あらすじ

何かを成し遂げたい大富豪の起業家は自己満足のために、一流の映画監督と俳優を起用した傑作映画を制作しようと思いつく。そこで抜擢されたのが変わり者の天才監督ローラ、そして世界的スターのフェリックスと老練な舞台俳優イバンという3人だった。ベストセラー小説の映画化に挑むことになり、さっそく3人が揃う。しかし、奇想天外な演出論を振りかざす監督と独自の演技法を貫こうとする俳優たちは足並み揃わず…。

『コンペティション』感想(ネタバレなし)

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競争するのもバカらしい?

生物学において「競争(competition)」とは、異なる生物種の間で、もしくは同一の生物種の間で、その生息環境におけるリソース、例えば、餌・住処・繁殖相手などを互いに争い合う…そうした事象を指します。これらの「競争」はあらゆる環境で日常的に起こっています。当然この「競争」が起きるのは双方の生物にとってマイナスなのですが、自然界においてリソースというのは限られるので、どうしても奪い合いのようなことが起きてしまいます。「競争」に勝つものもいれば、妥協して両者がなんとなく中途半端に利益を獲得する場合もあれば、双方が共倒れになってしまうこともあります。

この競争を意味する「competition」という英単語は、映画を趣味にしている人にとっては、映画祭における「コンペティション」としてよく目にするものです。

映画祭の「コンペティション」はその言葉どおり、出品した映画作品が競い合い、どの作品に賞を与えるかを決めます。あらためて考えると別に作品を競い合わせたりする必要はないと思うのですが、映画界ではこれが当たり前に行われてきました。人というものは競争させたくなる性分なのでしょうか…。

そんな映画界の「競争」至上主義を痛烈に皮肉るような映画が今回紹介する作品です。

それがずばりその名も『コンペティション』

スペイン・アルゼンチンの合作映画で、英題は「Official Competition」なのですが、それにしたってなんとも紛らわしいタイトルだ…。なんか本作自体が何かのコンペティションに出品されたみたいに見える…。実際に本作は第78回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティションに出品されているんですけどね…。

『コンペティション』は、映画業界を風刺している作品であり、そういう意味では近年のもので言えば、コロナ禍の映画撮影現場のてんやわんやをコミカルに描いた『ザ・バブル』や、1920年代後半のハリウッドの狂騒の時代を映し出した『バビロン』なんかと同系統ではあります。

しかし、『コンペティション』は基本的にはヨーロッパ映画界の舞台で展開しており、多少の立ち位置の違いはあります。ただ、本作の特徴はあらゆる人が働く業界全体をまんべんなく風刺することにあるのではなく、その題名が示すように、ある当事者間に生じる「競争」に焦点を置いて、それだけを抜き出して描いています。なので作品自体は寓話的なフィクションであり、本作を観てもヨーロッパ映画の業界裏がリアルに覗けるわけではありません。その点は勘違いをしないようにしてください。

『コンペティション』では、ひとりの監督がある映画を製作することになり、2人の主演俳優がキャスティングされ、小規模な撮影が開始。その様子を主に描いて物語が進む中で、映画界の競争原理の不条理がシニカルに浮かび上がってきます。

監督役を演じるのは、あのスペインの実力派俳優の“ペネロペ・クルス”。『ペイン・アンド・グローリー』や『パラレル・マザーズ』など俳優業の実績は今も素晴らしい“ペネロペ・クルス”は実際に監督はしたことはないですが、その彼女が監督役をしているというだけで絵面として非常に面白いです。

そしてその“ペネロペ・クルス”監督にビシバシとディレクションされていくことになる2人の俳優を演じるのが、“アントニオ・バンデラス”“オスカル・マルティネス”。共に世界が認めたベテランの男優ですが、この大物の男たちが“ペネロペ・クルス”の下で…この関係図だけで本作はすでに風刺としてユニークすぎます。キャスティングの時点でちょっともう成功しているような…。

このブラックユーモアたっぷりな『コンペティション』を手がけた監督は、“ペネロペ・クルス”ではもちろんなくて、2009年の『ル・コルビュジエの家』でサンダンス映画祭撮影賞を受賞し、『笑う故郷』(2016年)、『4×4 殺人四駆』(2018年)など、独自の作家性を発揮している“ガストン・ドゥプラット”&“マリアノ・コーン”監督のコンビ。2人ともアルゼンチンのブエノスアイレス出身で、もうずっとクリエイティブなパートナーとして一緒にやってきたそうです。『コンペティション』の中身に反して監督は仲いいですね。

『コンペティション』を観れば、競争するのがバカらしくなるんじゃないかなと思います。今、競争の真最中なら手を止めて、この映画を眺めてください。その競争、そんなに大事ですか?

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『コンペティション』を観る前のQ&A

✔『コンペティション』の見どころ
★連発するシュールな光景。
★競争するのがバカらしくなる。
✔『コンペティション』の欠点
☆独特の風刺なので癖がある。

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:風刺劇が好きなら
友人 3.5:俳優好き同士で
恋人 3.0:ロマンス要素薄め
キッズ 3.0:やや性的なシーンあり
↓ここからネタバレが含まれます↓

『コンペティション』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):そうだ、映画を作ろう

80歳の誕生日を迎えたひとりの老齢の億万長者。その白髪の頭が、絵や花束やオブジェやぬいぐるみなど大量の誕生日プレゼントを前に立っていました。しかし、その大富豪は全く嬉しそうではなく、大きな溜息をつきます。

高層ビルの窓から外を見つめ、昨夜は眠れずに、考えが頭を渦巻いていたと心境を部下に語る大富豪。ミリオネアになっても、世間が自分をどう評価していようとも、この虚しさは晴れない…。富と名声だけでは意味はない…。

独り言を続ける大富豪は、どうすればいいだろうか…橋に自分の名を残すか…とぶつくさ思案します。そしてふと思い立ちます。

「いや、映画だ」

「監督するのですか?」

「違う、資金を出すんだ」

映画、それも傑作を作ろう。最高の監督最高の俳優を用意して、傑作を作ればいいんだ…。大富豪の頭の中に突然やりたいことが湧いてきます。でもどうすればいいかはわからないけど…。

まずは監督を選ぼうということで、素晴らしい実績があることは明白な気鋭のローラ・クエバスという女性に声をかけます。変人ということで有名ですが、受賞歴など経歴は言うことなしです。

さっそくローラに相談すると、ローラは主演俳優の候補としてフェリックス・リベロイバン・トレス、この2人の俳優がベストだとハッキリ推薦します。フェリックスはハリウッド・スターで、イバンは舞台俳優、この全く異なる世界の2人を混ぜるのがいいそうです。

何を映画にするのかと言えば、ノーベル賞を受賞した小説「Rivalry」を基にすることにしました。大富豪は読んでいないそうで、ローラが内容を語ります。壮絶なストーリーで、その語りに聞き入る大富豪。終わりも予測不可能です。これなら面白いものが作れると、よくわかっていない大富豪は納得し、制作が始まります。

1台の車から降りる男。すぐ後に高級なオープンカーが颯爽とやってきて、車内では別の男が女性と熱烈にキスをしてから降りてきます。

フェリックスは手を差し出し、挨拶。イバンもその手をとります。今日はローラとの打ち合わせ。

3人が集って、アイディアがすでに盛り盛りなローラはイバンにキャラクターについて尋ねます。自分なりの分析を語るイバン。一方、フェリックスも聞かれますが、本の中に存在いないキャラクターについてそこまで深く考えるつもりはないようです。イバンはメソッド演技を重視しますが、フェリックスは直感で動き、演技のスタイルは全く食い違っていました。

フェリックスとイバンの2人は横並びになり、読み合わせを始めます。しかし、ローラは同じセリフを何度も何度も言わせ、些細な挨拶の言葉でもローラは異様にこだわるのでした。イバンは従うしかなく、横でフェリックスも緊張します。次は何を要求してくるのか、推測もできません。

それからもローラの奇想天外な監督手法に2人の俳優は振り回されますが、しだいにこの撮影はそれだけでは済まないものになっていき…。

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監督と俳優の競争、というよりは支配

『コンペティション』では映画製作の始まりを実にあられもなく最初に突きつけます。どんな映画もこれがないと作れません。「カネ」です。

本作では80歳の高齢ながらおカネを持て余している大富豪が、本当にただの思いつきで映画を作りだすことにする、その出だしから始まります。笑ってしまうのが、この大富豪はその発言を見るかぎり、映画どころか芸術にさえも興味なく、知識がスカスカだということ。こんな人から出発する映画製作の現実。どんな巧妙な傑作映画でも、その原点はただの素人かもしれない…。

映画ってこんなものなんですよ…と最初から理想を打ち砕きつつ、いよいよ製作は開始。

ここからは「競争」が描かれていくことになります。初めに前面にでる「競争」は「監督vs俳優」です。

けれども監督と俳優が互角に戦うという感じではなく、基本は監督のローラの独壇場となります。なにせ今作の場合は、この大富豪の資金提供だけで映画が作られているのか、あとは監督のローラが自由にやっていいという、普通ではなかなかあり得ない自由な創作機会が出来上がってしまっているんですね。ローラにしてみれば最高かもしれないけど…。

ここで注目したいのは、その監督のローラの優位性です。そもそもローラが女性だということも無視できません。一般的には女性の監督はまだまだ少ないですし、活躍の場が与えられにくいです。それでもいざ「監督」という座についてしまえば、あの大物の男性俳優さえもたじたじになるほどに、強力な振る舞いも実行できてしまいます

作中でも、読み合わせのやりとりに始まり、大きな岩を吊り上げてその下で演技させたり、あげくにはトロフィーを工業用のシュレッダーで粉砕したり…もうやりたい放題です。

これは「監督」という職業が持つ業界特有のパワーを可視化させていて、なぜ「監督」ってそもそもこんなパワーが許容されてしまっているんだろうか?と疑問をこちらに抱かせますし、ローラが女性だということで、普段は男性がこういうことをあらゆる社会で平然とやっていたのに、女性がやると突然それが違和感として多くの観客(とくに男性)に認識されやすくなるという皮肉でもあって…。

あの無数の集音マイクに囲まれての、ローラがお手本だと言わんばかりに女性に情熱的にキスし出すシーンにおける、男女逆転(異性愛も反転している)によるセクシャル・ハラスメントの気まずさの提示もシュールで…。いつもの映画業界でのセクハラには多くの男性は普通に黙認してきたのに、こういうシチュエーションになって初めて居心地の悪さを実感できるのでした。

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俳優と俳優の競争、というよりは醜態

そんなふうに前半は監督のローラが男性俳優2人を圧倒していく『コンペティション』ですが、あれだけ滅茶苦茶にされてもこの男2人のエゴはそれ以上だった…というのが後半です。

ここからは「俳優vs俳優」、別の言い方をすれば「男vs男」の競争に移ります。

あのフェリックスとイバンはローラの監督下でも自分のエゴを放棄することは微塵もなく、そのエゴの厄介さを遠慮なしに発揮し出すようになります。丁々発止みたいな快活な感じではないですよね。あれはもう醜い餌の奪い合いをする動物の姿みたいですよ。

当然、監督には逆らえないのですが、でもその管理の中でできる自分の精一杯のパワーの誇示をやめない2人。病気のふりをしたり、相手を褒めるのだって、この俳優にしてみれば自分の演技の凄さをアピールする道具でしかない。ほんと、こいつら何のために俳優をやっているんだろうと呆れるほどに情けない男たちです。

結局、フェリックスは屋上でイバンと揉めて、うっかりアクションで染みついた技のせいで突き落としてしまい、イバンは昏睡状態に陥ります。しかし、結果オーライと開き直って、悲しみにくれる演技をここでも披露してみせるフェリックス。役者はどこまでも役者。ただのクズだけど…。

そこでローラはフェリックスの姿を見て、何かを察して去っていきます。この場面でローラは「男vs男」の競争に対してはたとえ監督でも手の施しようがないなと諦めたようにさえ見えます。

思えばあのローラの監督仕事っぷりも、凝り固まった男たちへのセラピー・カウンセリングみたいに捉えられなくもないかなとも感じます。ああやって男らしさがこびりついてダメになってしまった人間を改善できないかという模索。でも結末は失敗に終わっています。無理でした。

しかし、それは失敗しても、映画にはなってしまうというこれまたキツイ皮肉。フェリックスの一人二役で完成したその映画はどうやら映画祭にもでれてなんだか上手くいったようです。

映画というのは、冒頭の大富豪といい、この男性俳優の顛末といい、男たちの醜態が芸術という飾りつけでいかにも最初からアートであったかのように威風堂々とリメイクされる…そんな過程の結果に生まれる代物なのかもしれない…。なんだろう、映画へのリスペクトは地に堕ちますけどね。

ラストではイバンは病室で意識を回復し、フェリックスに毒づくところで終わります。最も面白そうな結末は描きません(これは序盤で原作の結末が観客に示されないのと呼応する)。

『コンペティション』はこの後に何が続くのでしょうか。そこにさらにエンターテインメントを求めるなら、やっぱり私たちは映画の競争原理にまんまと操られてしまっていますね。

『コンペティション』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 96% Audience 81%
IMDb
7.1 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
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・『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

作品ポスター・画像 (C)2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U. オフィシャル・コンペティション

以上、『コンペティション』の感想でした。

Official Competition (2021) [Japanese Review] 『コンペティション』考察・評価レビュー