ついてこなくても死にはしません…映画『バッドボーイズ RIDE OR DIE』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。
製作国:アメリカ(2024年)
日本公開日:2024年6月21日
監督:アディル・エル・アルビ、ビラル・ファラー
ばっどぼーいず らいどおあだい
『バッドボーイズ RIDE OR DIE』物語 簡単紹介
『バッドボーイズ RIDE OR DIE』感想(ネタバレなし)
「バッドボーイズ」第4弾もいつものように
よく単純明快なエンターテインメントのブロックバスター大作映画の感想において、「頭を空っぽにして…」なんて表現が用いられます。言いたいことはわかります。難しいことを考えずに楽しめると言いたいのだろうと…。
でも『Flicker: Your Brain on Movies』という本によれば、どういう映画であれ、映画館で映画を鑑賞している人の脳は、映画によって刺激を受け続けて反応しているそうです。つまり、実際は頭は空っぽになんかなっていません。それどころか脳内は刺激が充満して入り乱れているんですね(本当に頭が空っぽだったら映画を楽しいと感じることもできない)。
例えば、「オペラント条件づけ」という現象があります。映画を観ていて、期待どおりの映像があると「おおおぉぉぉー!」と脳内は喜び、それが自然と体に反応として現れます。逆に期待とは違う映像が目に映れば「え?」と困惑してまた体が反応する。映画鑑賞は席に座っているだけですけど、微細なところではせわしないものです。
今回紹介する映画も、頭を空っぽ…じゃなくて、頭の中が刺激満載でバチバチになるのではないでしょうか。
それが本作『バッドボーイズ RIDE OR DIE』です。
本作は『バッドボーイズ』シリーズの4作目。『バッドボーイズ』シリーズとは何かということについては、前作の『バッドボーイズ フォー・ライフ』の感想で書いたので割愛。
2020年(コロナ禍が本格化する直前の公開だった)の3作目から、そんなに間を開けず、シリーズとしては順調に続編が更新されました。
まあ、そうは言ってもパンデミックを挟み、加えて主演の“ウィル・スミス”によるアカデミー賞授賞式での「ビンタ事件」もありましたからね(事件の詳細は他で調べてください)。でも『バッドボーイズ RIDE OR DIE』はそんなこと何もなかったかのように、全くの通常運転で始まります。
例によって例のごとく、“ウィル・スミス”演じるマイクと、“マーティン・ローレンス”演じるマーカス…このおなじみのコンビでお送りされています。今作でも2人はポリスです。まだ警官を続けていたのか…。あんなことやこんなこともあったのに…。
共演は、前作から引き続き、ドラマ『アッシャー家の崩壊』の“パオラ・ヌニェス”、『スイッチング・プリンセス』の“ヴァネッサ・ハジェンズ”、『エクスペンダブルズ ニューブラッド』の“ジェイコブ・スキピオ”などが揃っています。
今作からの新顔は、ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』の”エリック・デイン”、ドラマ『法医学医 ダニエル・ハロウ』の“ヨアン・グリフィズ”、ドラマ『POWER/パワー ブックII:ゴースト』の”メラニー・リバード”など。
なお、今回も“マイケル・ベイ”がカメオ出演していますが、すぐにわかります。
『バッドボーイズ RIDE OR DIE』の監督は、前作と同じで、“アディル・エル・アルビ”&”ビラル・ファラー”。「アディル&ビラル」のコンビ名ですっかりハリウッドに定着。『Batgirl』は残念ながらお蔵入りしてしまいましたが、ドラマ『ミズ・マーベル』も手がけたり、大作慣れしたので、今後も引っ張りだこでしょう。
4作目も、意味もなく爆走し、爆発し、銃をぶっ放し、カーチェイスし、ヘリも墜落し…やりたい放題にやっています。それ以上のものはありません。
そんなオープンワールド・ゲームで遊んでいるみたいなノリについてこれるかはあなたしだいです。
ちなみに、一部のシーンでかなりカメラがぐるんぐるんと動き回るので、苦手な人は映像酔いするかもしれません。
『バッドボーイズ RIDE OR DIE』を観る前のQ&A
A:過去作を観ていなくてもほぼ問題はないですが、少なくとも3作目『バッドボーイズ フォー・ライフ』だけでも観ておくと話の繋がりがわかりやすいです。3作目に登場したキャラもでてきます。
オススメ度のチェック
ひとり | :シリーズ好きなら |
友人 | :気楽なエンタメ |
恋人 | :ノリが合うなら |
キッズ | :乱暴なノリだけど |
『バッドボーイズ RIDE OR DIE』感想/考察(ネタバレあり)
あらすじ(前半)
熱気溢れるマイアミの街。日差しが降り注ぐビーチには観光客がたくさんおり、店も賑わっています。そんなマイアミの主要道路をマイクとマーカスの車は爆走していました。相変わらずのマイクの荒っぽい運転で、マーカスは振り回されます。
今回は警官の仕事ではありません。2人はタキシード姿。実はマイクはクリスティーンという女性と結婚することになったのです。晴れ舞台となるので遅れるわけにはいきません。
しかし、マーカスが立ち寄った店で食欲に負けていると、銃を手にした強盗がのこのことやってきました。これを無視はできません。2人は連携で、あっさりと確保。腕は落ちていません。
こうしてマイクは式に間に合い、新しいパートナーと愛を誓い合い、祝福を受けるのでした。
夜はパーティです。マイクの元恋人リタはロックウッドという政界で躍進している男と交際中だそうで、紹介されます。
そのパーティにてマーカスは式辞を述べ、その後にみんなで踊っていると、マーカスが急に心臓発作で倒れてしまいます。マイクが懸命に心臓マッサージをしmす。
そのとき、意識不明のマーカスは亡くなった上司であるコンラッド・ハワードの幻影を目にしていました。ハワードは以前の事件で殉職しています。そんなハワードはマーカスにまだ死ぬ時ではないと告げてきます。
病室で目覚めたマーカス。健康です。すぐに起きて、晴れやかな気持ちで生を噛みしめます。もう自分には怖いものはありません。運命が生命を繋いでくれている…。
そんなやけに元気になりすぎたマーカスはさておき、マーカスの家にはいつもの温かい家族がいました。妻テレサ、娘メーガン、そのメーガンと婚約したレジ―。
ところが平穏なひとときが吹き飛ぶとんでもない情報が飛び込んできます。あの2人の信頼していた上司のハワードが麻薬カルテルと関係していたと報じられたのです。これは何かの間違いではないのか。マイクとマーカスはすぐさまマイアミ市警に上がり込んで、どういうことなのかを問い詰めますが、それ以上の事実は浮上しません。
動きの鈍い警察組織に不満を抱き、2人は独自に行動を開始します。最新のハワードを知っていたのは彼の死をもたらしたアルマンドです。アルマンドはマイクの息子でもあり、今は刑務所で大人しくしています。そのアルマンドのもとへ2人は手がかりを求めて向かいます。
アルマンドいわく、ハワードは汚職をしていなかったものの、誰が汚職をしていたかを知っていたそうで、ハメられた可能性が高いことがわかりました。ますますじっとはしていられません。
さらにハワードからマイクとマーカスのもとに部内の汚職を警告するビデオが送られてきて、「誰も信じるな」とメッセージが残っていました。
古巣である警察を頼って動けない以上、2人は慎重に行動しないといけません。しかし、2人のいるところは常に大騒ぎになるのがいつものことで…。
「Ride or Die」の意味のとおり
ここから『バッドボーイズ RIDE OR DIE』のネタバレありの感想本文です。
『バッドボーイズ RIDE OR DIE』のタイトルにある「Ride or Die」というのは、常に傍にいて死ぬまで付き添ってくれる究極の間柄を指すスラングで、ヒップホップ界隈で流行って使われているものです。1999年のヒップホップ・グループ「The Lox」による「Ryde or Die, Bitch」という曲が初期には有名ですし、以降も文化的に定着しています。
男女の間柄で使われることが多いスラングでしたが、今作では当然これは一番には「マイク&マーカス」の男同士の関係性を示す、本作の肝となるリレーションシップを体現するキャッチフレーズとして採用されています。
その言葉どおり、このシリーズのマイクとマーカスは、前作で引退みたいな空気を漂わせていましたが、そんなことはお構いなし。いつ何時も死ぬまで一緒なのです。そう言いきった4作目でした。それはつまり、「簡単には退場しないぜ?」というカッコつけでもあるのですが…。
冒頭から、パロディ動画かな?というくらいに通常営業な2人がマイアミを楽しんでいます。コラボCMのように浮いているのですが、まあ、この2人ならどこでも目立ちそうではある…。
アクションシーンなどは、常に編集がシャカシャカしているので、予告動画でも見ているのかというほどに本編が忙しいです。
“アディル・エル・アルビ”&”ビラル・ファラー”もこのシリーズを手がけるのは2度目なので、もうどういう力加減でいけばいいのかマスターしている感じでしょうか。カメラワークも軽快で、自由気ままです。この監督はゲーム要素を取り入れるのが好きですけど、今作でもFPSの銃視点が唐突に挿入されたりと、縦横無尽に暴れまわっていましたね。
舞台がマイアミということもあって、ゲームの「グランド・セフト・オート」シリーズをそのまま映像化している雰囲気に見えなくもない…。
また、今作は自虐パロディのノリも強めでした。
例えば、作中でマーカスは臨死体験をして(すっごいアホな導入だけど)、そのせいで死に対して怖いものなしになり、ずっと大胆な行動で周囲を振り回すことになります。これは、実は以前から演じる“マーティン・ローレンス”に健康不安説があったのですが(Black Girl Nerds)、それへのちょっとした遊び心あるセルフパロディみたいに見えてきます。
そして、終盤戦になぜか始まるマーカスからのマイクに対する唐突なビンタ(しかもバカ面に何度もビンタする)。これは言うまでもなく“ウィル・スミス”の「ビンタ事件」を露骨に狙ってますし…。ここから『バッドボーイズ』定番BGMで盛り上げるのがベタですが、でもテンションを上げます。
“ウィル・スミス”も自身のプロデュース作品で真っ先に自分を笑いものにすることで、けじめをつけておこうという一応の姿勢かな。『バッドボーイズ』だからできるノリですけどね。
コパガンダに対するバッドな回避策
『バッドボーイズ RIDE OR DIE』も4作目となるとネタ切れになりかねない中、もうひとつの懸念事項は「コパガンダ(copaganda)」です。
コパガンダというのは、現実社会における警官の悪い部分を揉み消し、世間ウケするようなかっこいい警察の印象を植え付けるためのプロパガンダのことです。近年は警察組織が汚職や人種差別による暴力などで問題視されることが増大し、メディアやエンタメにおけるコパガンダへの非難も高まっています。
『バッドボーイズ』シリーズも典型的なコパガンダ映画としてよく取り上げられるものでした。そりゃあそうです。警官をスーパースターが熱演し、クールに暴れまわっているのをエンターテインメントとして消費しているのですから。意図せずともコパガンダの理想形になっています。
もちろん作り手もそこはわかっていると思いますし、だからこそ4作目の『バッドボーイズ RIDE OR DIE』もバランスを考えているのだろうなと思える節々があちこちにありました。なにせ黒人を主体にした映画ですからね。人種差別に無頓着ではいられません。
今作では麻薬カルテルの裏にある警察と政治の汚職が最大の敵であり、マイクとマーカスも権力に立ち向かう側となっています。加えてアルマンドも仲間に引き入れて「見逃される」展開を設置することで、不当な犯罪収容の雰囲気を払拭しています。
ただ、まあ、それでも『バッドボーイズ RIDE OR DIE』もコパガンダかはさておき、まだまだ保守的なブラック・ムービーに留まっているとは思います。今作でアメリカ海兵隊あがりのレジーを無敵の大活躍させたりして、ちゃっかりアピールするところはしてるし…。いかにも人種差別主義者っぽいような白人の前でもお茶らけるというシーンも、見方によっては非現実的すぎるでしょうし…。
そして最終的なエンディングとかを見ているとわかりますが、このシリーズは「家族」に落ち着けたいのだろうなというのがよくわかります。今作でも(前作であんなことがあったのに)マイクに新妻を用意しているし、とにかく家族を作っておこうという戦法です。
早い話が『ワイルド・スピード』路線を『バッドボーイズ』もやりたいのでしょう。実の家族も同僚も合わせて「ファミリー」として団結していく。バッド・ファミリーです。
そうなってくるとさすがにマイクとマーカスが警官である意味もいい加減になくなってくるので、いっそ清々しく警察をやめて、「バッドボーイズ」というチーム名の”何でも屋”な独立組織になればいいのではとも…。
5作目の製作もきっと動くでしょうけども、方向性はそう変わらないでしょうから、これからも脳に想定されたとおりの刺激をぶち込んでくれることでしょう。
シネマンドレイクの個人的評価
LGBTQレプリゼンテーション評価
–(未評価)
関連作品紹介
ウィル・スミス主演の映画の感想記事です。
・『自由への道』
・『ドリームプラン』
作品ポスター・画像 (C)Sony バッドボーイズ ライド・オア・ダイ
以上、『バッドボーイズ RIDE OR DIE』の感想でした。
Bad Boys: Ride or Die (2024) [Japanese Review] 『バッドボーイズ RIDE OR DIE』考察・評価レビュー
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