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『ボーイズ・ステイト』感想(ネタバレ)…なぜ政治家が嘘をつくのか体験できた10代たち

ボーイズ・ステイト

10代が疑似政治体験で社会の本質を叫ぶ…「Apple TV+」ドキュメンタリー映画『ボーイズ・ステイト』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Boys State
製作国:アメリカ(2020年)
日本では劇場未公開:2020年にApple TV+で配信
監督:ジェシー・モス、アマンダ・マクベイン

ボーイズ・ステイト

ボーイズ・ステイト

『ボーイズ・ステイト』あらすじ

アメリカで毎年行われている大掛かりな政治体験イベント。それは1000人以上の男子高校生を一堂に集結させ、2つの架空の党に振り分け、架空の知事選を実施させるというもの。高校生たちは思い思いの政治信念を持ち、この一大チャンスに挑む。目指すは最高職の知事というトップの座。しかし、政治の価値観は人それぞれで、党をまとめるのにさえも四苦八苦。政治経験ゼロの高校生たちは大丈夫なのか。

『ボーイズ・ステイト』感想(ネタバレなし)

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若者は政治への関心が低い?

若者は政治への関心が低い…なんてよく聞きますが本当にそうでしょうか。

世界に目をやれば、若者たちのムーブメントが政治が動かす事例が頻発しています。ハッシュタグ・ジェネレーションのパワーはもはや政治の山を動かせるほどです。ジェンダー、人種、医療、教育、環境問題…若者たちが関心を持つ分野は多岐にわたっています。

いや、それは欧米とかだけで日本の若者は違うよ…という意見もあるかもしれません。でもこんなデータもあります。選挙調査会社のグリーン・シップの2020年の調査発表によれば、選挙が行われた場合に選挙に行くかを日本の20代に聞いたところ、「行く」が66.9%、「たぶん行く」が16%で合わせると8割を超えたそうです。これは新型コロナウイルスが原因で政治的関心が高まっていることが理由に挙げられています。

若者は大人社会から舐められがちですが、ひとたび政治に参加し出せば、そのエネルギーは計り知れないでしょう。なにせ若いのです。これから何十年と人生が続く。その今後の自分の人生の行く末に大きな影響を与えるのはやはり政治なのですから、若者はなおさら無関心ではいられません。

その若者たちと政治の関係性を基軸に、面白い試みで政治の本質を浮かび上がらせるドキュメンタリーが2020年に公開されました。それが本作『ボーイズ・ステイト』です。

本作はアメリカで昔から行われている「ボーイズ・ステイト」という政治疑似体験ワークショップのイベントを取材したものです。このイベントは10代の男子たちに政治を体験してもらうのが趣旨。しかし、それは日本の学校とかで行われるような1~2時間程度の授業レベルではありません。なんと1000人以上が参加し、その10代の子たちは無作為に連邦党(Federalists)と国民党(Nationalists)に振り分けられ、まさに架空の政党をゼロから構築します。そして各党は指名候補を選出し、綱領を作成して選挙に挑み、最高位職となる知事を決めるのです。期間は1週間。本格的な政治討論の舌戦が繰り広げられ、相手の政党に勝つために両者死に物狂いで奮闘します。

もちろん台本はなし。大人の介入もなし。全部が10代の若者の自主的な取り組みで進みます。失敗すれば知事を選出するどころか、政党すらも瓦解するでしょうし、全く先は読めません。これはもう巨大な社会実験みたいですね。

このボーイズ・ステイトというイベントは歴史があるものだそうで、過去にはディック・チェイニー、ビル・クリントン、サミュエル・アリート、ラッシュ・リンボー、コリー・ブッカーといった後に政治や法律の世界で大物になる人物も若い時に参加しています。

ドキュメンタリー『ボーイズ・ステイト』はこのイベントに密着し、10代の若者たちの姿をそのままおさめていきます。そこにはいろいろな出自、境遇、政治思想を持った子たちで乱雑に溢れかえっており、さながらカオスなのですが、それもまた予測不可能で面白かったり…。

監督のひとりである“ジェシー・モス”は2014年に『The Overnighters』というドキュメンタリーを手がけた人で、これはノースダコタの石油ブームでアメリカンドリームを狙う失業者たちを追いかけた作品です。

それと通じる面がこの『ボーイズ・ステイト』にもあると思います。いかにもアメリカ的な政治信念に陶酔する10代の若者たちを通して、アメリカという国の在り様を見透かしていくような…。

本作は評価もとても高く、サンダンス映画祭、放送映画批評家協会賞、ナショナル・ボード・オブ・レビューなどで絶賛されました。2020年と言えば大統領選挙があった年ですし、タイミングも完璧でしたね。

それはさておき、この『ボーイズ・ステイト』は日本社会に生きる私たちにとっても「政治って?」「選挙って?」という問いかけを投げかけるものですし、自分の政治との付き合い方を再考させられるのではないでしょうか。「わたし、政治なんて全然興味ないし…」という人もいるでしょうが、その反応もれっきとした政治的態度であり、やっぱり政治からは離れられません。だったら本作をちょっと覗くくらい、簡単ですよね。

『ボーイズ・ステイト』は「Apple TV+」のオリジナル・ドキュメンタリーとして配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり4.5:傑作ドキュメンタリー必見
友人4.0:率直に語り合える仲と
恋人3.5:政治トークできるなら
キッズ4.0:政治の勉強に
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『ボーイズ・ステイト』予告動画

Boys State | Official Trailer HD | A24
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ボーイズ・ステイト』感想(ネタバレあり)

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もしも政治の場に男しかいなかったら…

『ボーイズ・ステイト』にて映しされるこの巨大なサマープログラム。これについて政治的本題を語る前にまず面白いなと思うのは参加者が全員男子だということです。

女子だけが参加する「ガールズ・ステイト」というのもあります(そちらもどんな光景なのか、観てみたいものです)。ただ、本作ではボーイズの方にのみ焦点があてられています。

これがどう面白いのかというと、つまり「男しかいないという空間」という本来であれば早々実現しないような世界が構築されているということです。男子高みたいな環境というか、それ以上に極端です。なにせ教師もいないのですから。しかも、女性という概念は意図的に排除されているのです。だから雑用は全部女子にやらせるとか、そういうジェンダーロールの割り当てもできない。全部が全部、男だけで構築しないといけない。女子がいないからモテ自慢もできないし、性的アピールもする意味もない。

このある種のSF的な仮想設定のような「男しかいないという空間」が「もしも政治の場に男しかいなかったら…」というたまに考えたくなる疑問の答えをそのまま提供してくれます。

結果。まあ、酷いことに…。「17歳の男子が集まったら真面目な議論はできない」とボヤく子もいましたがまさにそのとおり。典型例のようなホモ・ソーシャルな空間がすぐさま完成。よくわからないけど雄たけびを上げ、なぜか円陣を組み、なぜか半裸になって筋肉を見せびらかす者も現れ、床に寝そべって好き勝手に振舞う奴もいて…滅茶苦茶です。動物園の猿山より秩序がない。

政治的議論も一向に前に進みません。「男らしさを侵害させるな」ととりあえず息巻く者もいるし、プリウスの運転手を州外に追放する法案を提出するなど、悪ノリでウケをとる奴もいる。

でもそういうマチズモ的なノリだけでは全然ダメだと何よりも男子たちが痛感することになります。とくにロバートという子が印象深いです。あの子は場の雰囲気に合わせて調子に乗ることで生きてきたタイプなんでしょう。だからここでも下ネタでふざけたりしていればウケるだろうと当初は考えています。しかし、現実は厳しい。確かに一瞬だけ場を掴めますが、最終的にはそんなの全然価値がないんですね。筋肉アピールも同じ。まあ、政治に全然寄与しないですからね…。

そうなってくるとロバートも最初のノリはどこへやら自分の“弱さ”を直視することになってしまいます。自分のスピーチセンスの低さを面と向かってダメ出しされたり、票数でハッキリと白黒がついたり…。するとロバートは素直に自分の“弱さ”を認め、本当のリーダーを支える側に回り始めます。作中ではこのロバートが一番成長を見せているかもしれないですね。

とにかく学校であればトップに立てるマッチョイズムなだけの男子はここではトップに立てません。おふざけで笑いを取る男子も階段の途中で脱落します。結局、先頭に立てるのはスピーチが上手く大衆の心を掴める男子。まさしくこれがリーダーシップであり、これは同時にリーダーシップと既存のマスキュリニティが一致しないことを証明しているようで、面白い結果だと思います。

例えば、国民党から知事候補で出馬することになったスティーブンは、ハッキリ言えば学校で一番人気になるタイプじゃないし、典型的な“男らしさ”もない。でもこの政治の場ではリーダーに適している。この違いですよね。

最後、知事選に敗れたスティーブンが母に泣きながら電話し、仲間が誇りに思うと労わってくれるのが嬉しいと口にする場面。歪んだホモ・ソーシャルがいつのまにか解体され、歪みのない純粋な男性の連帯が生まれているようで、その変化にハッとさせられます。

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政治対立からは逃げられない

『ボーイズ・ステイト』が浮かび上がらせるもうひとつの面白さ。それはアメリカが縛られているように抜け出せない政治思想の対立です。

このイベントでは実際にある「共和党」「民主党」は存在しません。架空の「連邦党」「国民党」があるだけ。なので既存の政治思想や二大政党対立は無視して構わないわけです。

でもなんだかんだで10代の若者たちがあれこれしている間に、結局はいつもの政治思想が争点になり、お決まりの二大政党対立が再現されてしまいます。

そもそも今回の取材対象のボーイズ・ステイトはテキサス州のもの。この州は保守層の地盤であり、ゆえに参加する若者たちの多くは大部分が保守的な思想を持っています。オバマの欠点をあげつらい、トランプの欠点をフォローするような、それが日常の子たち。

そんな中、レネやスティーブンはわりとリベラルな思想の持ち主ですが(スティーブンなんてバーニー・サンダースの影響を受けたと公言してますし、プログレッシブなイマドキの10代ですね)、ずっとこの保守基盤の地域で生きてきたせいか、保守に忖度するのが当たり前になっているのでしょう、保守派を刺激せずに弁論するのが上手いです。党委員長に選ばれるレネの超党派を意識したスピーチなんて見事すぎるバランス感覚ですよ。スティーブンも在郷軍人会を持ち出し、保守派の関心を集める話術は巧妙でした。

それでも対立はいつものパターンに。争点は「銃規制」となっていく際も(テキサスらしくて苦笑)、銃乱射事件を受けて銃規制デモに参加した経験のあるスティーブンがそれをどう保守層に受け入れてもらうか四苦八苦しているさまはいかにも大変そうです。

レネもスティーブンも嘘と言い切っていいかはわかりませんが、本音と建て前をすごく慎重に使い分けることを求められます。あのロバートだって中絶反対ではないけど支持のために反対主張をし、なぜ政治家が選挙で嘘をつくのかわかったと納得する。

よく共和党の議員が自分も同性愛者なのに同性愛者の権利に反対する主張をしていたことが発覚し、なんでそんなことをするんだろうと思ったりもしたものですが、こういうことなんでしょうね。自分の意志とは関係なしに設定されてしまった政治対立に参加せざるを得ない。

知事選にて、相手の票もとらないといけないけど、気をつかいすぎると自分の党の票が逃げる。相手にどこまで理解を示すかの綱渡りを強いられる。10代の若者たちは政治とは好き勝手に自分の主張を言えるSNSとは全然違うものだと身を持って学ぶのでした。

逆に政治思想の対立をひっくり返せたら凄いのですけど、やっぱりこの対立はアメリカ社会に染み込みすぎていて、柔軟性があるはずの10代でさえも脱却は困難なのでしょう。

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冷笑主義はトップに立てないが道具になる

『ボーイズ・ステイト』では、現代の政治戦術がそのままこの10代の子たちからも見えてきます。

まずは役に立たない戦術から。

それは冷笑主義的な態度です。ネットの世界ではあんな人やこんな人など冷笑主義的な論者が幅を利かせており、たくさんの支持者を獲得しています(ここでは名前を挙げないでおこう…)。でもこの『ボーイズ・ステイト』は役に立ちません。政治を前に進ませる力がないからです。つまり、インターネットの海に浮かぶ船の上で調子に乗っているネット論者の人たちは、あくまで政治に参加せずに俯瞰できる立場にいるから優位性を享受できているだけであって、いざ熾烈な生存競争が繰り広げられる政治の海の中に投げ込めば単なる雑魚に過ぎないんですね。

インターネットの世界では極端な主張が勝つけど、でも持続的な議論を求められるここではその手は使えない。日本でもアホなノリで政治に出馬する人がいますが、たいていは一蹴されます。そういう人は身内ウケで成り立つネットと、大衆と向き合う政治の違いを見誤っているのだろうな…。

一方で、冷笑主義が権力者をアシストすることはあります。本作でも白熱する知事選の裏で繰り広げられるSNS上での誹謗中傷合戦が印象的でした。

連邦党のベンは冒頭で自分は政治オタクと言いつつ、「個人の失敗を人種や性別、障がいのせいにはしない」と豪語。自身は義足ながらも、その言葉からはマスキュリニティと融合した努力至上主義が窺えます。でもそんなベンが知事選にて連邦党の候補であるエディと推し進めたのは、相手の候補への個人攻撃なんですね。「団結じゃ勝てない、個人攻撃で差別化しないと」…とまで言ってのける。皮肉な話ですが、冒頭の自分の信念を汚すような行動に出ているわけです。努力って個人攻撃みたいなセコイことだったのか、と。彼は知事選で党を勝たせることに成功しますが、政治家として自分を捨てたとも言えるような…。

一方で政治で負けたスティーブンですが、相手の党からも支持者が出て声をかけてくれる。彼はメキシコ系として劣等感も多い人生だったでしょうけど、人種のせいにせず最後まで戦い抜いて団結を示しました。当初のベンの信念を最も体現したのはスティーブンとも言えます。

政治とはなんとも不思議な力の作用が働くものですね。

『ボーイズ・ステイト』を鑑賞することで、政治の世界が前よりくっきり見えるようになった…かな。

とりあえず…選挙に行きましょう。

『ボーイズ・ステイト』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 94% Audience 90%
IMDb
7.7 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
8.0
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関連作品紹介

政治や選挙に関するドキュメンタリーの感想記事です。

・『レボリューション 米国議会に挑んだ女性たち』

・『ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ』

作品ポスター・画像 (C)Concordia Studio, Apple ボーイズステイト

以上、『ボーイズ・ステイト』の感想でした。

Boys State (2020) [Japanese Review]