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ドラマ『ブリジャートン家 Bridgerton』感想(ネタバレ)…愛も社交も完璧じゃなくていい

ブリジャートン家

愛も社交も完璧じゃなくていい…ドラマシリーズ『ブリジャートン家』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Bridgerton
製作国:アメリカ(2020年)
シーズン1:2020年にNetflixで配信
製作総指揮:ションダ・ライムズ、クリス・ヴァン・デュセン ほか
性描写 恋愛描写

ブリジャートン家

ぶりじゃーとんけ
ブリジャートン家

『ブリジャートン家』あらすじ

ロンドン社交界でその名を知られるブリジャートン家の8人兄弟姉妹。彼ら彼女らがいる世界では、常にステータスが求められる。男性であれば家を支える柱として。女性であれば良き妻として。その常識に従順なものもいれば、反抗するものもいる。今日もまた良い巡りあわせを期待して、社交の舞台が用意され、各人が勇んで出かけていく。それぞれの愛と幸せは手に入るのか。

『ブリジャートン家』感想(ネタバレなし)

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英国貴族世界の新しい入口に

なぜ「英国貴族モノ」はあんなにも人気なのでしょうか。

イギリスの貴族社会や家系を題材にした作品。それは本国だけでなく、世界中でも支持を集めていますし、日本にも根強いファンがいます。

あのお洒落な世界観が眺めていて楽しい、独特の貴族意識を下地にした人間模様を覗きたくなる…まあ、注目点は人それぞれ。でも単にロマンスや歴史を直球で描くよりも、英国貴族というフィルターを通すと興味が刺激されたりするのは不思議なものです。

今回紹介する作品はそんな「英国貴族モノ」の人気作に新しく仲間入りとなったドラマシリーズ。それが本作『ブリジャートン家』です。

『ブリジャートン家』は2020年12月25日にシーズン1が配信されたのですが、76カ国におけるNetflixの視聴率トップ10でナンバー1に輝き、合計視聴時間と加入者あたりの平均視聴時間でも最高を記録。これは2020年の話題作『クイーンズ・ギャンビット』を早々に抜き去ったことになり、新年からNetflixには幸先のいい始動です(まあ、でも“日本は除く”なんですけどね。いつも日本は世間の流行から外れているの、本当に特異ですよ…)。

Netflixはすでにシーズン1の配信すぐにシーズン2の更新を決定しています。たぶん『ダウントン・アビー』のような息の長いシリーズにするつもりなのかな(でも作品の中身は全然似ていないです)。

本作は“ジュリア・クイン”の2000年から出版された「Bridgerton」シリーズを原作としています。これはいわゆる「リージェンシー」摂政時代を舞台にしています。1800年代の初めですね。この時代は文化が発展し、上品さが際立つファッションや建造物が盛況でした。

まさにこの時代の中で生きる「ブリジャートン家」という貴族家系を中心に社交(デビュタント)の世界を描くのが本作です。フィクションですが、当時の雰囲気はたっぷり味わえます。基本的にはロマンスがメインで、肌色たっぷりのセクシーなシーンも多めなので、小さい子どもには見せづらいですけど…。

ちなみに話が脱線しますけど社交を意味する「debutante」は「deb(デブ)」と省略されるのですが、日本語感覚的には罵倒された気分になりますよね…社交に全然ふさわしくない言葉使いになる不思議…。

ともあれ、そんな王道さがありつつ、『ブリジャートン家』は現代にも受けやすいようなアレンジが施されており、それが大人気になった理由でもあるのでしょう。

製作総指揮を手がけ、本作を引っ張っているのはドラマ『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』で高い評価を受けた“ションダ・ライムズ”。ブリトニー・スピアーズが初主演した『ノット・ア・ガール』(2002年)では脚本を手がけるもゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)を受賞するなどボロボロな初期キャリアでしたが、いつのまにやら名クリエイターに成長。今回はNetflixとの独占契約を結んだ結果のお仕事のようで、かなり本格的に打ち込んでいくと思われます。

華やかな世界を彩る俳優陣も忘れてはいけません。

実質シーズン1の主人公の“フィービー・ディネヴァー”、そのロマンス相手となる“レジ=ジーン・ペイジ”、影の主役として苦悩するキャラクターを演じる“ルビー・バーカー”あたりは、本作の成功によってさらに注目を集めそうな予感です。“レジ=ジーン・ペイジ”に関しては本作のヒットで、「007」の次期ジェームズ・ボンドに押す声も盛んになっているとか。

もちろん他にも『デリー・ガールズ 〜アイルランド青春物語〜』の“ニコラ・コクラン”、『Porters』の“クローディア・ジェシー”、さらにはいろいろと…。とにかくこんなジャンルですから登場人物は多いので選り取り見取りですけど、個性もしっかりしているためか覚えやすいと思います。

現状の社会はかなり陰惨でお先真っ暗ですから、この『ブリジャートン家』を鑑賞して現実逃避するのもいいんじゃないでしょうか。

オススメ度のチェック

ひとり ◯(趣味に合うならハマる)
友人 ◯(英国貴族モノが好きなら)
恋人 ◎(現代と違うロマンスに浸る?)
キッズ △(かなり性描写が多いです)
↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブリジャートン家』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(序盤):社交シーズン開幕

1813年。グロヴナー・スクエアという地域はソワソワしていました。なぜなら社交シーズンがいよいよ始まるからです。ここで若き女子たちは上手くデビューすることが求められ、それは家系そのものの評価に直結します。

フェザリントン男爵家では3人の娘、プルーデンス、フィリッパ、ペネロペを送り出します。あまり良い評判を得られていない今、ここで一気に輝くチャンス。母であるフェザリントン夫人は張り切っていました。

一方、故ブリジャートン子爵夫人家では、長女のダフネについに社交界デビューする瞬間が訪れました。このブリジャートン家では、8人の子がいます。アンソニー、ベネディクト、コリン、ダフネ、エロイーズ、フランチェスカ、グレゴリー、ヒアシンス。全員アルファベット順の名前がついているのが特徴です。

興奮に顔を輝かせるダフネはばっちりドレスアップして登場。舞台俳優の女と密会して体を交えている長男・アンソニーも遅れて会場に到着。

結婚を望むロンドン中の令嬢が一堂に会し、王妃陛下に謁見する場です。重要なのは王妃にどう思われるか。その評価で決まります。フェザリントン家からプルーデンス、フィリッパ、ペネロペの3人が前に立つも、ひとりが緊張で倒れたことで希望は打ち砕かれました。

次にダフネです。そして王妃は自信に溢れたダフネを見るなり、完璧と褒めました。この称賛は社交界新聞として巷で人気の謎の女性であるレディ・ホイッスルダウンが執筆した記事でロンドン中に拡散。今やダフネは時の人です。

最高の賛辞に舞い上がるダフネ。次女のエロイーズは「大勢の女を敵に回した」と皮肉。それでもダフネに男性が群がる未来は容易に想像がつき、これで家柄も安泰だと大半は思っていました。

一方、大失態を犯したフェザリントン家ではお隣のブリジャートン家を褒める新聞にイライラ。そこに父の半ば強引な押し付けで家にいとこがやって来ます。彼女はマリーナ・トンプソン。その若き女子は予想以上に気品溢れる人物でした。

舞踏会に各自向かいます。ここも大事。令嬢たちは素敵な殿方を見つけるべく必死ですし、母は厳しく監視し、父は評判において最良のペアとなるべく画策します。父亡き今、父長であるアンソニーはダフネに近づく男たちを次々と値踏み。しかし、目を離した隙にダフネはバーブルック卿に気色悪く迫られてしまい、逃げます。

そのときダフネはヘイスティングス公爵(サイモン)とぶつかってしまいました。たまたまやむを得ずこの舞踏会に参加していたサイモン。社交の世界が嫌いな彼は、ダフネが出会い欲しさにわざとぶつかってきたと勘繰り、嫌な態度をとります。結局、兄の進言で誰とも踊らず帰ることに。

翌日、紳士がたくさん来るとワクワクしていましたが、厳しい兄のせいで世間には近寄りがたい印象を与えただけでした。一方、フェザリントン家に新たなに加わったマリーナは大人気。

ダフネには求愛者が訪れなくなり、やっと来たと思ったらそれはバーブルック卿。「私はこのためにいる。夫を見つけられなければ価値はなくなる」とダフネは焦ります。

マズイと感じた母はレディ・ダンベリーと画策してサイモンを招いて食事。2人をくっつけようとします。しかし、ダフネは放蕩者と噂のサイモンに敵対的。

ダフネの失墜は今やスキャンダル。恥さらしになりかねず、「バーブルック卿と結婚しろ」と兄は迫ります。夜、ダフネは外でバーブルック卿に迫られ、思わず殴ってしまいました。そこにサイモンが現れ、2人である作戦を企てます。それは“恋に落ちたふりをする”こと。これで名家の好意を得たダフネは他の男に言い寄られやすくなるし、サイモンは逆に女を相手にせずに済む。ウィンウィンになるはず。そして手をつなぎ、大衆の前へ出て踊る2人。それはこのヴォクソールの夜会での最大のどんでん返しになりました。

そんな中、マリーナは実は妊娠しているという事実とどう向き合うか悩んでおり…。

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王妃を主軸に多様性を受け入れる

昨今のこの手の貴族モノは「カラー・ブラインド・キャスティング」がもっぱら主流です。つまり、白人が演じてきたような役について、白人ありきにせずに人種を問わずに最も適していると思われる役者を配するというものです。

『ブリジャートン家』も一目瞭然、そうなっています。

ただ、それだけでなく全体的に非常に現代の若者にウケやすいアレンジが施されています。面白いのが音楽センス。社交の舞踏会では当然演奏がありますが、作中で流れる曲は現代のアーティストの曲のアレンジになっていました。ビリー・アイリッシュの「Bad Guy」とか、アリアナ・グランデの「thank u, next」とか。最近の『ディキンスン ~若き女性詩人の憂鬱~』や『ザ・グレート(The Great)』もこうやって若者ウケでジャンルを馴染みやすくしてしますし、トレンドなのかな。

しかし、やはり人種の要素が一番本作を象徴するでしょう。それをポリコレだからと冷たい目で見る人もいるかもしれませんが、ファンタジーだとバッサリ片付けられるものでもありません。その理由が本作のメインキャラクターでないにもかかわらず、世界観にデンと居座っているあの人、王妃の存在です。

彼女は実在のシャーロット王妃です。イギリス国王ジョージ3世の王妃ですが、夫のジョージ3世は精神疾患を患っていたとされており(作中でも支離滅裂なことを言ってました)、いろいろ大変だったようです。

そのシャーロット王妃は実はアフリカの血筋を持っていたのではないかと一部の歴史家は考察しており、その設定が本作には反映されています。演じているのもガイアナ系英国人である“ゴルダ・ロシェウヴェル”です。現在はハリー王子と婚約したメーガン妃が「黒人のプリンセス」として注目され、そして偏見に晒されていますが、すでにもうアフリカ系の王妃は存在していた…かもしれないわけです。

このシャーロット王妃に認められるかたちで、ダフネとサイモンという異人種カップルが成立していくというのはとてもシンボリックなストーリーですよね。最終的に2人は「愛されるのは完璧でないといけないと思わなくていい。不完全なあなたを愛している」とプレッシャーから解放されて、ありのままで愛し合うようになります。

それにしても作中では2人はセックスの快楽に目覚めるかのようにヤりまくりになるのですが、性に疎い(というかろくに周囲が教えてくれない)ダフネが性を知る展開とか、なんだか『フィフティ・シェイズ』シリーズを思い出します。

サイモンも父への恨みで家系を終えることが狙いゆえに、ダフネと子どもを作りたがらないわけですが、それでもセックスはするというのはなんか滑稽ですよね(一応、念のために書いておくと、いわゆる“中だし”をしなければ妊娠しない…というのは誤りですよ)。

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王道に現代的女性像もプラスして

ダフネとサイモンだけを見ているとベタベタなカップルのイチャイチャ・ストーリーなのですが、『ブリジャートン家』はそんなエロティック・ロマンスで終わらないバランスをとっています。

その立役者がまずマリーナです。彼女は原作にないオリジナル・キャラクターらしいですが、妊娠というもののせいで振り回されることになる女性の苦悩をそのまま体現しています。この時代は避妊も中絶もほぼないようなもので、その世界で妊娠するということの重みは今以上に苦しく…。妊娠を隠すべくコリンと結婚しようと急ぐマリーナは痛々しくもあり、でも妊娠の“暗い側面”をしっかり映し出していました。救いがあるとすればコリンが割と“規範に縛られない良い男性”だということですかね。

もうひとりの重要人物が、ブリジャートン家の次女・エロイーズ。彼女は社交にも結婚にも妊娠にも全然興味を持っていません。バカバカしいとさえ感じています。言ってしまえば「フェミニスト」です。

貞操、従順、慎み深さは女性の美徳…という当時の価値観を厳しく批判し、女性だってキャリア一筋で生きてもいいじゃないかと訴えますが、彼女ひとりではどうしようもなく、モヤモヤ。『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』のようにはいきません。でもエロイーズみたいな女性が第1波フェミニズムを支えたんでしょうね。

そんなエロイーズがレディ・ホイッスルダウンに興味を持つのも当然です。女性ながら、権力にすらも歯向かい、自由に言論を行使する…ある意味で最も理想的な反骨精神溢れるフェミニズムを体現しているのですから。その正体不明のレディ・ホイッスルダウンの声を演じるのはあの『メリー・ポピンズ』でおなじみの“ジュリー・アンドリュース”だというのも捻りが効いてます。

私は断然このエロイーズを応援しながら本作を観ましたけどね。

作中でダフネが招かれる婦人だけの社交会もそうですが、全体的にあの世界の女性の生きづらさを強調する展開も多い作品でした。もちろん、アンソニーとサイモンという、家長になりたくないけどならざるを得ない者同士の対立で示される、家父長制に苦しむ男性たちもピックアップされていましたが。

そして忘れてはいけない、フェザリントン家の末娘・ペネロペ。コリンへの好意を密かに胸にしまうも、マリーナにとられそうになることで焦る彼女。ペネロペは一種の“持たざる者”の代弁者(まあ、あくまであの社交界に生きる人たちの間では…の話なのですけど)。そんなペネロペがまさかのレディ・ホイッスルダウンの正体だとシーズン1の最終話ラストで判明。すごく美味しい役どころですし、リージェンシー・ロマンス界隈のインフルエンサーとして何をもたらすのか、原作からのアレンジも含めて楽しみです。

『ブリジャートン家』
ROTTEN TOMATOES
S1: Tomatometer 92% Audience 85%
IMDb
7.4 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Shondaland, Netflix

以上、『ブリジャートン家』の感想でした。

Bridgerton (2020) [Japanese Review] 『ブリジャートン家』考察・評価レビュー