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『シングル・オール・ザ・ウェイ』感想(ネタバレ)…Netflix;ゲイ・クリスマス・ロマンス映画の代表作

シングル・オール・ザ・ウェイ

ゲイ・クリスマス・ロマンス映画の代表作に…Netflix映画『シングル・オール・ザ・ウェイ』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Single All the Way
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:マイケル・メイヤー
恋愛描写

シングル・オール・ザ・ウェイ

しんぐるおーるざうぇい
シングル・オール・ザ・ウェイ

『シングル・オール・ザ・ウェイ』あらすじ

もうすぐクリスマス。今度こそ家族に恋人を紹介できると張り切っていたが、まさかの直前でフラれてしまう。そこで妙案を思いつく。親友に恋人のふりをしてもらい、クリスマスに一緒に帰省することにしたのであった。しかし、家族が恋のキューピッド役を買って出たり、まさかのブラインドデートで予想外にステキな出会いがあったりで、人生はどこへ進むのか全くわからないものであることを痛感する。

『シングル・オール・ザ・ウェイ』感想(ネタバレなし)

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同性愛クリスマス・ムービーをもっと

クリスマスはサンタクロースも大忙しでプレゼントの準備をしていますし、街中もどこもかしこもイルミネーションやらデコレーションやらで着飾っています。

そして映画界に起きる変化も。それはクリスマスのラブコメ映画が増えるということ。正直、クリスマスを題材にしたロマンティック・コメディ映画は腐るほどあるので、「もういらなくない?」とも思うのですが、映画界も常に新作を量産する工場みたいなものですから、要るとか要らないとか関係なしに作りまくるのです。ほんと、止まることは絶対にないですね。

そんなクリスマスのロマコメ映画ですが、いくら多いとは言っても中身に偏りがあって…。というのも異性愛を描いたものばかりで同性愛を描いたものが少ない…。どれくらいの割合なのかは知りませんが、たぶん「99:1」で済まないほどにクリスマス・同性愛ラブコメ映画は滅多にない希少性だと思います。

例えば、2005年の“サラ・ジェシカ・パーカー”主演の『幸せのポートレート』というクリスマス・ラブコメ映画は登場人物の中にゲイのキャラクターがいて、それだけで当事者にとっては貴重でした。あまりにも表象が少なすぎて物語内容を評価している段階ですらないという状況でした。

しかし、そんな偏った状態は少しずつ変わっています。2020年の『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』は、女性の同性愛者カップルを中心に描いた最初のメジャースタジオの劇場用映画のひとつになりました。

でもそんな同性愛のキャラクターが主題で描かれた程度でキャッキャと喜んでばかりもいられません。当事者だって物語内容で評価したいのです。カミングアウトばかりが話題になるのは嫌だな…とか、ホモフォビアな描写をわざわざクリスマス・ムービーで観たくないな…とか。要するにいろいろな作品が見たいということ。バラエティーを増やしてほしい…。

ということで2021年はこんなクリスマス・同性愛ラブコメ映画が登場しました。

それが本作『シングル・オール・ザ・ウェイ』です。

本作はゲイの男性2人を主役にしたクリスマス・ムービー。クリスマスに実家に帰るあたりはいつもの定番。でも『シングル・オール・ザ・ウェイ』の主人公たちはすでにカミングアウト済みで、いたって普通にオープンリーに暮らしているので、同性愛を隠すという要素は皆無です。家族みんなが当たり前に同性愛をフェアに受け入れているので、ホモフォビアなシーンも基本はありません。

しかも『シングル・オール・ザ・ウェイ』は異人種カップルを描いており、そこも新しいポイントです。そもそも黒人のクリスマス・ムービーが極めて少ないというのもあり(『ジングル・ジャングル 魔法のクリスマスギフト』の感想も参照)、こういう異人種カップル構成になりづらかったのですが、本作はそこも気持ちよく吹っ切れています。

『シングル・オール・ザ・ウェイ』の監督は、『かもめ』(2018年)を手がけた“マイケル・メイヤー”。彼もオープンリーなゲイ当事者です。

主人公を演じるのは、クィアだと公言しているドラマ『アグリー・ベティ』の“マイケル・ユーリー”。その主人公のお相手となるのは、本作で長編初主役となる“ファイリーモン・チェンバース”。他には『愛についてのキンゼイ・レポート』の“ルーク・マクファーレン”、『ロッキー・ホラー・ショー』の“バリー・ボストウィック”、ドラマ『シッツ・クリーク』の“ジェニファー・ロバートソン”、『プロミシング・ヤング・ウーマン』の“ジェニファー・クーリッジ”など。

これまで多数のオリジナル・クリスマス映画を提供してきたNetflix初の同性愛ラブコメになった『シングル・オール・ザ・ウェイ』。ラブコメ映画好きならストレス無しでお気軽に鑑賞できると思います。

ゲイ・クリスマス・ロマンス映画の新たな代表作品になるでしょう。

ちなみによく似たタイトルのクリスマス映画に『ジングル・オール・ザ・ウェイ』(1996年)というのがあるので(内容は全然違う)、混同しないように気を付けてください。

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『シングル・オール・ザ・ウェイ』を観る前のQ&A

Q:『シングル・オール・ザ・ウェイ』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年12月2日から配信中です。
日本語吹き替え あり
内田夕夜(ピーター)/ 興津和幸(ニック)/ 津田健次郎(ジェームズ)/ 勝生真沙子(サンディ)/ 加藤有生子(キャロル)/ 三瓶雄樹(ハロルド)/ 新井笙子(リサ)/ 中野さいま(ソフィア)/ 金子睦(ダニエラ)
参照:本編クレジット

オススメ度のチェック

ひとり 3.5:まったり冬っぽく
友人 3.5:気楽にのんびりと
恋人 4.0:同性愛ロマンスたっぷり
キッズ 3.5:性的描写は無し
↓ここからネタバレが含まれます↓

『シングル・オール・ザ・ウェイ』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):植物と会話する男だけど

上半身裸の雄々しいサンタがズラリと並ぶ…ここは撮影スタジオです。そこでやる気なさそうに椅子に座ってダラダラと仕事しているピーター。隣では同僚のアダムが仕事しており、話題は今日のジョシュとフィリップのパーティの話に。なんでもピーターはカレシを連れてくると言います。

それを聞いたアダムは驚き、「いつから?」と質問。「3カ月と22日」と答えるピーター。

実はピーターは恋愛が長く続かないことで知られており、もう何度も付き合っては別れてを繰り返しているのです。

家では部屋の植物(リンダという名前)に話しかけるピーター。部屋には無数の植木鉢があり、それぞれに名前がついています。

そこに犬を釣れた同居人の男が来ます。このロサンゼルスに来た時からの友人であるニックです。彼は絵本作家ですが、普段は屋根修理などで働いています。

パーティの件で「新しいカレシと行けば?」とニックは言いますが、そのカレシだというティムという男は遅れてくるそうで、とりあえずピーターはニックと会場へ。

さっそくアダムは「カレシは?」と詮索。「カレシは病院で働いていてすぐ来る」とピーター。そう言っているうちにやってきました。そのティムは、アダムも見惚れるイケメンで…。

今年のクリスマスはシングルじゃないので家族も喜ぶはずとピーターは上機嫌。ニューハンプシャーの実家に行くことに関して、ティムも「喜んで一緒に行くよ」とまで言ってくれます。

ピーターはウキウキで父と母、他の家族とビデオ通話。「サプライズがある」と期待をもたせます。

しかし、状況は変わりました。ニックは屋根修理の仕事中にたまたまその家の夫婦の姿を見たのです。その夫は例のピーターのカレシでした。妻子持ちです。

それを知ってすっかり激怒のピーター。騙されてしまった、また振り出しだ…。

しょんぼりしながら実家に帰省する準備をするしかないピーター。7回の失恋。「もう恋愛なんてしない」とひねくれるしかありません。「園芸店のゲイのおじさんになってやる…」

けれどもふと名案が…。ニックに一緒に来てくれとお願いします。恋人のふりで。ニックは独りで過ごす予定でした。根負けしたニックは来てくれることになり、車で向かいます。

母のキャロルはニックを含めて大歓迎。ニックを恋人のふりにさせる作戦はもう開始すぐに崩壊しました。ニックとの間柄は家族もよく知っています。しかも、母はなかなか恋の相手のいないピーターにブラインドデートをセッティングまでしてくれていました。「この町にシングルのゲイなんているわけない」と言うピーターに「あなたにパートナーを見つけてほしいのよ」と熱烈に語る母。

姉のリサの家族も到着。娘2人と夫のトニーもです。さらにまた姉のアシュリー、そしてサンディおばさん。オフ・ブロードウェイ出演経験のあるサンディはいつもどおり豪快です。

明日にブラインドデートする話はすぐにバレてしまい、みんなで囃し立てます。

翌朝。さっそく相手の元へ行くと、その男性はジェームズという名前で、なかなかにハンサムで性格も良い人でした。一緒にツリーを購入してくれたり、随分と気が合います。

そのデートの前半が終わり、すっかり家に馴染んでいるニックに感想を聞かれ、「結構楽しかった」と素直に述べるピーター。

このまま恋は実るのか、それとも…。

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ニックは天使なんだろうか

『シングル・オール・ザ・ウェイ』は相当にシンプル。嘘が誠になる物語という定番。誰でも展開が読める、全くハラハラドキドキもしない、一切の揺れもない予定調和の進行です。

それをツイスト(捻り)がないと非難することもできますが、この平凡さもまた本作の良さだったりします。どうしても同性愛を描くとなると、カミングアウトや差別体験を要素に加えがち。なぜならそれはドラマチックだからです。観客を刺激させる仕掛けとして、そういったものは活用されてしまってきました。

しかし、何でもかんでも同性愛だからといってそれありきにする必要はないわけで…。そもそもそんな要素をサスペンスのギミックとして楽しめるのは、非当事者のマジョリティか、心に余裕のある当事者だけではないか。

そこで『シングル・オール・ザ・ウェイ』では波風の立たないとても穏やかなストーリーとして、少なくとも同性愛であることをストーリーテリングの刺激素材には使っていません。あくまで主人公は単に同性愛だったというだけ。

まあ、多少の同性愛らしい要素はあります。例えば、主人公ピーターの母親はLGBTQの本を読んで勉強したと張り切っており、「それはステレオタイプだ」とかいちいち非当事者ゆえに気になってしまい、ああいうアライになろうと一生懸命すぎる人はいますよね。それを叱るでもなく、温かく見守るピーターとニックも優しいのですが…。

確かにゲイだからといって何でもかんでもゲイ同士であれば必ずくっつくというわけでもない。結局は性的指向ではなく相性の問題であり、ピーターの家族一同はそんなピーターの想いを応援してくれます。

あのピーターとニックも、これ以上に関係を踏み込めば友人ですらなくなってしまい、関係が壊れるのではないかと不安に感じたがゆえにあの距離感だったわけですが、家族のサポートでその障壁も無くなりました。

それにしてもあのニックを演じた“ファイリーモン・チェンバース”の天使的な包容力、なかなかに凄かった…。本作が和やかに進んでいくのも、ほぼ90%はニックのおかげですよね。ピーターはもっとニックに感謝の気持ちを伝えるだけでなく、いろいろ奉仕しないとダメなんじゃないか。ただでさえ、この帰省のためにニックの絵本作家収入の貯金を切り崩すように口車に乗せたのだし…。

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個人的な不満点も…

かつてないほどに穏やかで平和なゲイ・ロマンス映画になった『シングル・オール・ザ・ウェイ』なのですが、個人的にはかなり巨大な不満もあったりします。

それは物語全体が「恋愛をすることは万人に有益である」というテイストで進行していることです。

そもそもピーターとニックの友情関係を必死に恋愛へとステップアップさせようと奮闘しているあの家族の面々といい、基本的にその根底には「友情よりも恋愛の方が上位にある」という偏見があり、かなり恋愛伴侶規範が強めのストーリーになっていました。

そう考えると、あの母親が読んだというLGBTQの教育本にはアセクシュアル・アロマンティックについては掲載されていなかったのかなとちょっと寂しくなりますね…。

まあ、別に恋愛をしたい人は恋愛をすればいいのですけど、せめてそうじゃない人だっているということを包括した物語にしておくべきではなかったのではないか、と。例えば、『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』は恋人を作るだけが人生ではないことを主人公以外の別のキャラクターで肯定的に描いていましたし、そういう作りにもいくらでもできる余地はあったはずです。最近だとドラマ『ベビー・シッターズ・クラブ』のとあるエピソードのように、友情を恋愛関係へと発展することだけが2人の幸せの基本コースではないことを高らかに提示する作品もありますし…。

『シングル・オール・ザ・ウェイ』はそうした意識はまるで無いので、なんというか映画の世界観全体が「恋愛は人生を幸せにする最高のプレゼントです!」と満面の笑みで訴えてくる圧力を放っており、一部の性的指向や恋愛的指向の人には容赦のないディストピアに見えてくる…。

私は当事者的な立場からそんなことを思ったりもしました。

今作では男性同性愛を描いていましたが、2021年は海外では『Under the Christmas Tree』のようにレズビアン・ロマンスを描いたクリスマス・ムービーもまたも誕生しています(現時点では日本では観られない)。そういう多様化の流れは歓迎したいところですけど、本音で私が望んでいるのはもっと多様になることです。別にクリスマスだからといって恋人を作らなくていいし、家族と過ごすこともない、そんなクリスマス・ムービーもあってもいいですよね。

『シングル・オール・ザ・ウェイ』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 64% Audience 76%
IMDb
6.2 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)Netflix シングルオールザウェイ

以上、『シングル・オール・ザ・ウェイ』の感想でした。

Single All the Way (2021) [Japanese Review] 『シングル・オール・ザ・ウェイ』考察・評価レビュー