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『ブラザーズ・ラブ(Bros)』感想(ネタバレ)…白人ゲイ男性はもうマイノリティじゃない!?

ブラザーズ・ラブ

でも愛はある…映画『ブラザーズ・ラブ』の感想&考察です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Bros
製作国:アメリカ(2022年)
日本では劇場未公開:2025年に配信スルー
監督:ニコラス・ストーラー
性描写 恋愛描写
ブラザーズ・ラブ

ぶらざーずらぶ
ブラザーズ・ラブ

『ブラザーズ・ラブ』物語 簡単紹介

ボビー・リーバーはニューヨーク・シティのLGBTQコミュニティでは有名なシスジェンダーのゲイ男性であった。歯に衣着せぬスタイルで活動を広げ、今では性的マイノリティの歴史を展示する博物館の仕事にも参加している。一方で独身を貫いており、そのこだわりの強さから恋人はできそうになかった。しかし、ある日、ひとりの男を気に入ってしまい、不器用に関係を深めようとする。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ブラザーズ・ラブ』の感想です。

『ブラザーズ・ラブ』感想(ネタバレなし)

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白人ゲイ男性は何したらいいの?

「LGBT」…「LGBTQ」とか「LGBTQIA」とか「LGBTQ+」とかいろいろな派生がありますけども、とにかくその言葉群は同一の意味を持ちます。セクシュアル・マイノリティの権利運動における政治的連帯です。

そういう説明は上記の別記事でやってますのでそちらを読んでもらうとして…。

個別に分解してみていけば、そこにはゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダー、アセクシュアル、インターセックス、その他のさまざまなクィア…これまた多様なラベルをアイデンティティとする(もしくはラベルを使わずともアイデンティティを見出す)人たちがいます。

それらの各ラベルの当事者がみんな一様に同じ構造で同じ体験をしているわけではありません。当然、差異があります。

そして、それらの各ラベルの当事者の中で「マイノリティではあるのだけど、一方で優位性もある」とされる人もいます。その筆頭は「ゲイ男性」です。そこに人種の観点も交えるなら、「白人ゲイ男性」が該当することになります。

白人ゲイ男性にとって今日におけるLGBTQ権利運動での自らの立ち位置は複雑です。自分のマジョリティ性とマイノリティ性を両面で理解したうえで、自己表現していかないといけません。1970年代のひたすら「ゲイ・パワー」と叫んでいるだけの時代ではないのです。現在は欧米の多くの国々では同性婚が実現しています。でも平等な権利が道半ばの他の性的マイノリティたちがいる。白人ゲイ男性は独りよがりではいられません。LGBTQの輪の中にどう加わって、どんな影響力を持てばいいのか…。

そんな現代の白人ゲイ男性の悩みを自虐的に風刺しながら展開するロマコメ映画が今回の紹介する作品です。

それが本作『ブラザーズ・ラブ』

2022年のゲイのロマコメで、ユニバーサル・ピクチャーズが配給しており、なんでも「ハリウッドの大手スタジオによる初のゲイ・ロマンティックコメディ映画」だそうです。初なのか…。確かに大手じゃないスタジオならゲイのロマコメはあったけど…。2022年にやっとかよという感じですけどもね。

そういう点でも注目作だったのですが、案の定、日本では全然公開されず、2025年にひっそり配信スルーになりました。

原題は「Bros」ですが、邦題はなんだか兄弟愛みたいなニュアンスに受け取れるものになっちゃいました。この邦題について「ゲイのイメージが抹消されているな」と不快感を持った人もいると思います。ただ、原題の「Bros」も男性同士が呼びかけるときの言葉で、ことさらゲイに付随するワードではなく、こちらも意図的にゲイっぽさを誤魔化しています。

このタイトルのセンスはたぶん狙ったもので、実際のこの映画の主人公が随分と皮肉屋で、「どうせゲイなんて…」と卑屈になっている感じがあるので、それを反映した題名なのだと思います。ちゃんと題名はゲイっぽさが薄くてもポスターデザインは露骨にゲイで、ギャップをだしまくってるのがその証拠です。フリです。

主人公は白人ゲイ男性で、LGBTQコミュニティの中における自分を相対化するユーモアが満載で、すごく今っぽい風刺のコメディです。ギャグを理解するにはちょっとLGBTQリテラシーを問われますけど。

『ブラザーズ・ラブ』を監督するのは、『ネイバーズ2』『コウノトリ大作戦!』を手がけた“ニコラス・ストーラー”

主演&脚本を務めるのは、コメディアンで最近だとCG版『ライオン・キング』でティモンの声を担当していた“ビリー・アイクナー”です。なお、“ビリー・アイクナー”はゲイ当事者です。

共演は、『シングル・オール・ザ・ウェイ』“ルーク・マクファーレン”で、こちらもゲイであることを公にしています。

それ以外にも、クィア当事者のさまざまな俳優が顔ぶれ豊かに揃っており、大手スタジオでここまで当事者キャスティングが充実しているのも珍しいなと思います。

気楽に観れる『ブラザーズ・ラブ』。LGBTQの中でGが迷子になる前にどうぞ。

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『ブラザーズ・ラブ』を観る前のQ&A

✔『ブラザーズ・ラブ』の見どころ
★2020年代前半の白人ゲイ男性の状況をたっぷり風刺。
✔『ブラザーズ・ラブ』の欠点
☆ユーモアのいくつかはLGBTQのリテラシーが求められる。

鑑賞の案内チェック

基本
キッズ 2.0
性行為の描写があります。
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『ブラザーズ・ラブ』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ブラザーズ・ラブ』感想/考察(ネタバレあり)

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あらすじ(前半)

ボビー・リーバーはニューヨーク市でポッドキャスト・ラジオ番組「The Eleventh Brick at Stonewall」の司会者です。今日も饒舌にトークが止まりません。登録者も増え、絶好調。

LGBTQ+コミュニティの栄えあるセレモニーで、クリスティン・チェノウェスから紹介されて「Cis White Gay Man of The YEAR」に輝いたばかりです。

今はマンハッタンに近々オープンする予定のLGBTQ+歴史博物館の学芸員の職を引き受けました。ゲイは古来から存在し、その奥深い文化を伝えようと張り切っています。

そんなゲイらしいキャリアを送るボビーはプライベートでは独身を貫いていました。たまにヌいてもらう相手はいましたが、深い付き合いになりたくはないのです。長続きしないのでした。

ある日、バーで、友人たちの他愛もない集まりに参加。それぞれ楽しそうにしていて、カップルができた人もいます。ここでもボビーの皮肉はノンストップ。

その後にナイトクラブへ行き、友人と喋っていると、アーロン・シェパードという男を教えてもらいます。彼は群衆に混ざって立っていました。惜しげもなく半裸です。

友人いわくアーロンは「超セクシーだが、超退屈な男」らしいです。上半身半裸のアーロンが横に立ってきて、「きみは退屈なんだってね」と直球で聞いてみると、アーロンは気にせずに淡々と相手してくれます。アーロンは自由気ままで目を離すと一瞬で消え、また現れたりします。

ボビーはアーロンにキスし、誘うも、アーロンは遠慮します。苛立つボビーでしたが、アーロンは興味を持ったようです。

仕事は上手くいきません。LGBTQ+歴史博物館の学芸員たちの会議は紛糾。『シッツ・クリーク』は名作だくらいしか合意を得られそうにない雰囲気です。でもボビーはその作品さえ嫌いで、混ざる気も失せました。

そんなボビーはアーロンとテキストすることで気分転換するようになります。どうでもいいやりとりにリラックスできます。

数日後、ボビーとアーロンは外で落ち会い、一緒に気楽に並んで歩いて時間を過ごすようになります。

これはデート? これは恋人ということ? もう恋愛だけやっていればそれでいいのか…。

この『ブラザーズ・ラブ』のあらすじは「シネマンドレイク」によってオリジナルで書かれました。内容は2025/03/04に更新されています。
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白人ゲイ男性はマイノリティなのか?

ここから『ブラザーズ・ラブ』のネタバレありの感想本文です。

『ブラザーズ・ラブ』は現代のLGBTQコミュニティにおける白人ゲイ男性の立ち位置というものが、これでもかと辛辣に風刺されています。

正直に言って、ニューヨーク・シティでは、白人ゲイ男性はマイノリティでも何でもないわけです。白人男性にとってゲイであることはマイノリティの仲間に入れてもらう入場券にはなりません。むしろ「“白人”で“男性”なんだからマジョリティでしょ?」というツッコミをされてしまうとどうにもぐうの音もでない…。

作中でボビー・リーバーがアーロン・シェパードと公園で寝そべっていてちょっと取っ組み合いっぽくなり、周りにいたスポーツ系マッチョの男たちが「喧嘩か?」と心配して駆け寄ってくるも、当の2人はキスしだして「なんだただの普通のゲイか…」と解散するシーンがありますが、まさにあんな感じ。ゲイであることになんら不利益を受けなくなりました。

もちろんアメリカ全土がそうというわけではないし、これはニューヨーク・シティという地ならではの状況ですが、こうなってしまうと白人ゲイ男性はもうマイノリティですと言えないのではないかと本人すらも内心で感じ始めるわけです。

ボビーは教養があるのでそのへんのことは指摘されずとも重々承知。一方でそれに対する受け止め方としては随分と皮肉屋で斜に構えるしかない感じに陥っています。要はこじらせているんですね。

本作はそのこじらせっぷりをギャグにするのが面白かったです。

ボビーのポッドキャスト・ラジオ番組が「The Eleventh Brick at Stonewall」という名称なのも、LGBTQ権利運動の出発点とされる「ストーンウォールの抵抗」で、最初に警察への抗議でレンガを投げたのは有色人種のブッチ・レズビアンかトランスジェンダー女性だけども、11番目のレンガを投げたのはシス白人ゲイ男性だったから…なんてしょうもない論点があったり…。

「Cis White Gay Man of The YEAR」を受賞!というのも、褒めてるんだか馬鹿にしているんだかわからないノリ。

その自虐はもはや痛々しいです。

そんなボビーがLGBTQ+歴史博物館で仕事をする…。どう考えても上手くいくわけないです。一応はここでボビーなりのマイノリティの意地があって、歴史上のゲイたちを取り上げることで「まあ、今の白人ゲイ男性はマイノリティじゃないかもだけど、昔はマイノリティだったからさ!」という精一杯の姿勢を保とうとします。ますます痛々しさが…。

ちなみに第16代アメリカ合衆国大統領の“エイブラハム・リンカーン”が男性と関係を持っていたという歴史家の分析は本当で、それらを整理したドキュメンタリー『Lover of Men: The Untold History of Abraham Lincoln』もあるくらいです。ボビーはリンカーンはゲイだとこだわり、「いや、バイだ」と言い返されてシュンとなってましたけど…。

こういう白人ゲイ男性の立ち位置を意識的に真正面から描くようになったのがすごく時代を感じます。やはり昔のゲイ映画は白人ゲイ男性が中心的でそれに無自覚でした。他の性的マイノリティを描くにしても本当に添え物扱いにとどまることが多かったです。

例えば、2014年の『ノーマル・ハート』などのエイズ/HIV危機を描いた映画なんてとくにそうで、あの時代は最も白人ゲイ男性が堂々とマイノリティでいられる瞬間だったんですよね。だから無自覚に他の性的マイノリティを見下してもいました。

『ブラザーズ・ラブ』はそんな昔の考え方は一切通用しないこの2020年代に白人ゲイ男性はどうするんだ?というテーマがあり、単なるロマコメで終わらず、しっかり自己批判的なユーモアを兼ね備えていたのが良かったです

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Love is not Love

その現代における白人ゲイ男性のロマンスを『ブラザーズ・ラブ』は描き出します。

この時代に白人ゲイ男性同士が恋愛関係を育むことは、それこそ有害な男性の輪に接続してしまうのでしょうか。本作はそうならないためにも、率直な自己開示によって支え合う白人ゲイ男性を描きます。

ボビーはこじらせながらも一歩一歩ぎこちなく素直になっていきます。特権のある白人ゲイ男性がLGBTQコミュニティ内でできることは、卑屈にならずに献身することに新たなアイデンティティを見出すことなのかもしれません。それもそんなに悪いことじゃありませんよね。

アーロンはキャリア上は全然ゲイらしさ無しの人生を送っていて、それに虚しさを感じていました。博物館で偉人たちの展示を見つめながら、もし自分が展示されたらと考えると何もろくなプロフィールを書けないことに劣等感を抱いてしまう…。こういう気持ちは多くの性的マイノリティの人たちも感じたことがあるのではないでしょうか。

そのアーロンは同級生の白人のジョシュが今になってゲイだとカミングアウトする出来事を目にし、まだまだそんなクローゼットの人がいたのかとも痛感します。

白人ゲイ男性と言ってもやっぱり一様ではない。いろいろな人がいますよね。

ラストの「Love is not Love」の歌は「“愛”という言葉で安易に片づけられないほどに複雑な自分たちです」と皮肉たっぷりだけど、でもそこには自己受容があり、やっぱりそれこそ愛なんじゃないかという温かみもありました。

『アウトスタンディング コメディ・レボリューション』を観ていると余計に感じますけど、今回の『ブラザーズ・ラブ』はハリウッドのLGBTQコミュニティのコメディが培ってきた風刺の現在地として見事に存在感を放っていたと思います。こういう当事者の風刺ができるっていいですよね。

一方、本作はトランプ2.0前のアメリカのクィア映画だなという感触も強く抱きました。残念ですがトランプ2.0後はアメリカのLGBTQコミュニティをめぐる状況は様変わりし、緊張感が増していますしね…。

それでもユーモアを武器にしていきたいものです。こういう時代ならなおさらね…。

あと、次は『ナイト・ゲイ・ミュージアム』を作ることを目標にね…。

『ブラザーズ・ラブ』
シネマンドレイクの個人的評価
7.0
LGBTQレプリゼンテーション評価
○(良い)
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関連作品紹介

ゲイ・ロマンスを描いた映画の感想記事です。

・『シングル・オール・ザ・ウェイ』

・『ボーイズ・イン・ザ・バンド』

作品ポスター・画像 (C)Universal Pictures ブラザーズラブ ブロス

以上、『ブラザーズ・ラブ』の感想でした。

Bros (2022) [Japanese Review] 『ブラザーズ・ラブ』考察・評価レビュー
#アメリカ映画2022年 #ニコラスストーラー #ビリーアイクナー #ルークマクファーレン #ゲイ同性愛