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『マルコム&マリー』感想(ネタバレ)…Netflix;コロナ禍でもこの2人なら贅沢です

マルコム&マリー

コロナ禍でもこの2人なら贅沢です…Netflix映画『マルコム&マリー』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

原題:Malcolm & Marie
製作国:アメリカ(2021年)
日本では劇場未公開:2021年にNetflixで配信
監督:サム・レヴィンソン

マルコム&マリー

マルコム&マリー

『マルコム&マリー』あらすじ

自分の作品のプレミア上映を終え、真夜中に帰宅した、映画監督とその恋人。監督の男は好評だった雰囲気に満足していた。一方で、恋人の女は何か心に引っかかるものがあるようだった。漂い始めた不穏な気配の中、明らかになる事実に翻弄される2人の愛は一体どこへ向かうのか。歯に衣着せぬ批評はさらに燃料を注ぎ、静かな夜の空気を罵声で震わしていく。

『マルコム&マリー』感想(ネタバレなし)

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ロックダウンでも撮りました

楽しみにしていた映画が公開延期になって最悪だ!…と映画ファンにとって我慢するしかない状況を強いられることになったコロナ禍。映画館も営業自粛をクリアしたとしても、公開可能な新作映画がないのではお手上げです。しかし、問題は劇場で公開できる映画の不足だけではありません。

マスク着用、ソーシャル・ディスタンス、不要不急の外出禁止、他人との会話を極力避ける…こんな条件下でどうやって映画を撮影すればいいというのか…。厳格にこの規制に従っていたら1人芝居の作品しか作れなくなってしまいます。

そこで映画製作者たちはあの手この手の厳重な感染症対策を講じたうえで、慎重に映画撮影に取り掛かっている現状です。それでも出演者に陽性者が確認されればすぐに撮影中断になりますが、それもやむを得ないこととして受け止めるしかりません。

そうなってくると大勢が出演する大作映画はますますコストもかかり、作りづらくなるわけで、しばらくは小中規模の作品に偏るのではないかとも指摘されています。

そんな中、コロナ禍のロックダウンの最中に撮影された映画がいよいよお目見えする時期になってきました。今回紹介する映画もそういうロックダウン中に生み出された一作です。それが本作『マルコム&マリー』

内容は、とある上品な邸宅で一緒に過ごすカップルの2人を描く…これだけ。もの凄いシンプルです。ロックダウンの中で撮るのですから、こうするしかないのも無理はないんですが…。撮影に使っている邸宅も個人のもので、最小限の体制で撮影をしているのだとか。

それにしても『マルコム&マリー』を未来の若い映画ファン世代に説明するとき、「これは新型コロナウイルスというパンデミックでロックダウンが起きた時に撮影されたもので…」と補足しないといけないことになるんですよね。あらためてとんでもない影響を与えたんだなとつくづく実感するのみ…。

そして出演するのもたった2人。本当に2人だけがメイン。なんかもう映画というか、舞台劇みたいな構成ですよね。コロナ禍は映画を舞台化させてしまう効果があったんだなぁ…。

となってくるとこの主役2人を演じる俳優全てに作品の魅力が懸かってきます。でもその重責もなんのそので吹き飛ばせる、最高の俳優のペアが用意されているので問題なしです。

ひとりは、映画愛を炸裂させながら難解な世界観とストーリーを淡々と推し進める監督のもと、いまいち本人もよくわかっていないながらも見事に時間逆行で世界を救ったばかりの“ジョン・デヴィッド・ワシントン”です。『TENET テネット』と違って今作は混乱不可避のSF設定もゼロなので、さぞリラックスして演じられたでしょうね。スパイク・リー監督の映画『マルコムX』(1992年)に端役で出演したのがデビューでしたけど、今回は演じるキャラの名前がマルコムになりました(マルコムXとは関係ありません)。“ジョン・デヴィッド・ワシントン”はもう父の七光りなんて言われない堂々たる活躍ですね。

その“ジョン・デヴィッド・ワシントン”演じる男と愛を語り合う女性を演じるのは、ドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』の圧倒的名演によって史上最年少のエミー賞主演女優賞をゲットして、今やキャリアも絶好調な“ゼンデイヤ”です。彼女も彼女でディズニー・チャンネルにて一気にブレイクし、そこから『スパイダーマン ホームカミング』からの大作にピックアップされて…とホップステップジャンプで飛躍し、今や若手俳優としてだけでなく、古臭い業界をリニューアルするリーダーですからね。こちらもまた凄い才能です。このZ世代の女優たちは、ミレニアル世代の女優勢と違ってセクシー路線で売っていくことを基本はしておらず、というかそういう業界の女性への対応を公然と批判しており、本当にパワフルなゲームチェンジャーばかりだなと思います。“ゼンデイヤ”もまだ20代なのに、これからどこまで高みを上り詰めていってしまうのか…。

これだけの現時点でロケットダッシュしまくっている俳優2人を揃えたら、それはもう『マルコム&マリー』、魅力としてはじゅうぶんじゃないですか。

監督は“ゼンデイヤ”の新境地を切り開いた『ユーフォリア/EUPHORIA』を指揮した“サム・レヴィンソン”。父親は『レインマン』(1988年)でアカデミー作品賞と監督賞を受賞した“バリー・レヴィンソン”ですが、父の得意とするドラマ性を受け継ぎつつ、いい感じでイマドキに対応させているような…。今後も賞レース界隈を賑わす映画人になりそうです。

また、『マルコム&マリー』は全編モノクロになっており、撮影を手がけたのはハンガリー出身で『ジュピターズ・ムーン』などを撮った“マルセル・レヴ”。なので映像センスも注目ポイントでしょうか。モノクロは映像が映えるので、なるべく大きい画面で見たいところです。

家でじっくり鑑賞するのに最適な映画だと思います。ただし、そんなに甘々なロマンチックなストーリーじゃないですよ。

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『マルコム&マリー』を観る前のQ&A

Q:『マルコム&マリー』はいつどこで配信されていますか?
A:Netflixでオリジナル映画として2021年2月5日から配信中です。

オススメ度のチェック

ひとり◯(会話劇なので集中して)
友人◯(俳優ファン同士で)
恋人◯(割と口論しまくりだけど)
キッズ◯(セクシャルな描写あり)
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『マルコム&マリー』予告動画

『マルコム&マリー』予告編 – Netflix
↓ここからネタバレが含まれます↓

『マルコム&マリー』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):夜はこれから激しく

静かな邸宅に1台の車のライトが近づきます。家に入ってきたのは2人。小綺麗な恰好で、実は2人とも大きな晴れ舞台にいました。

は我慢していたのかドレスのまますぐさまトイレ。は音楽を大音量でかけてノリノリ。「似合うよ、キレイだ、ベイベー!」と女に声をかけ、テンションは高いものの、トイレの女には声はよく届いていません。ノリノリモードは継続中の男は家を歩き回り、ダンス。

「やってやった。脚本を書いて監督した映画がプレミアでみんなを圧倒した」

ラスト8分はみんな泣いてたと大興奮はおさまらないようで上機嫌。批評家が大勢で自分に群がって黒人の自分を褒めることが嬉しいらしく「次のスパイク・リー」なんて称賛にやや注文をつけるも、その男、マルコムは完全に自分に酔っていました。

その彼を見つめることもせず、恋人のマリーは冷静に煙草を吸って、外に視線を流しています。

監督も主演も黒人だから政治的だという言われ方は嫌のようで「俺はフィルムメーカーだ」「枠に収まらない存在だ」と豪語。「人種絡みで語られるのはごめんだ」「インテリやエリートじゃない」「純粋に芸術を楽しませてほしいね」とさっきから言葉が止まりません。以前は酷評されたので今回の高評価の兆しはマルコムを調子づかせました。

さすがにマリーも「もう黙って」と言い放ちます。

マルコムはマリーの体をなで、キスを浴びせます。しかし、マリーはじっと彼を見下ろし、料理を作るだけ。

マルコムが「何に怒っているんだ」と何度も呼びかけるも無視です。「話は明日にしましょう」と言うのみ。「些細なことで騒ぎ立ててお祝いムードに水を差し、ぶち壊すよな」とマルコムは苛立ち始めます。

耐えかねたマリーは「スピーチよ。私に感謝の言葉もなかった」と不機嫌の原因を口にします。「うっかりミスだ」「上映中も悪かったと謝りたおしただろう」と弁明するも「主人公のモデルは私。貢献をわかっている?」と突きつけられ、黙って立ち尽くすしかないマルコム。

作ってくれた食事を食べると元気を取り戻したのか、「情緒不安定だ!」と愚痴を飛ばすマルコム。「イマーニのモデルは君じゃない、妄想もいいところだ」と言い始めます。

架空の役柄でさえ自分より大切にするマルコムに怒りを露わにするマリーは、演じたテイラーは確かに良い演技だったと褒めるも、マルコムの姿勢に納得いきません。

「あなたは人の愛を確信した瞬間、人を軽んじる」「私がいなくてもあれほどいい映画になった?」

そう詰問され、「いいや」と認めるしかないマルコムでした。

「喧嘩は終わりか?」

やっとおさまったかと思い、マルコムはまたもマリーに甘えてキスを迫ります。

「私を軽んじないで」「ああ」「キスしていいわ」

ソファに倒れこみ、じゃれつく2人。他愛もない映画業界で成功する話を妄想しながら…。

しかし、またも何気ない会話から感情に火がつき、不満は爆発していくことに…。

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あれ、コメディなのかな?

監督の“サム・レヴィンソン”のフィルモグラフィーを観ていくと、『アナザー・ハッピー・デイ ふぞろいな家族たち』(2011年)、『アサシネーション・ネーション』(2018年)、そしてドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』と、どれも深刻な問題を抱える個人の集まった群像劇です。それは家庭内暴力、いじめ、自閉症、自殺、ドラッグ、セックス、ジェンダー、セクシュアリティ…まあ、定番どころが揃っています。

この『マルコム&マリー』もいつもの“サム・レヴィンソン”監督の作家性は全開です。ただ、いかんせん2人しか登場しないので、群像劇でカオスにミックスしていくこれまでの技は使えません。必然的にこの2人を演じる俳優に大きな期待が圧し掛かってきます。

しかし、さすがに2人とも現在最も勢いづく俳優なだけあってサラっとやってのけていました。

今回の“ジョン・デヴィッド・ワシントン”は端的に表現すると「情けなくて可愛い」みたいな存在感。冒頭のマルコム・エリオットのハシャギようからしてバカっぽいですし、一挙手一投足、アホが見える。2021年のマヌケ男に贈る映画賞があるならあげたい。

マリーに作ってもらった食事(マカロニ&チーズ)を食べながら「情緒不安定だ!」と愚痴を飛ばすところとか。あんたの方が錯乱しているんじゃないかっていう姿です。

「イマーニはいろいろな人の集合体だ」と弁解して「誰よ?(Who?)」と聞かれたとき、「…人々(people)」とひねり出して答えるシーンや、終盤に包丁を持ち出したマリーに完全にびびっている状態からの「オーディションでやれよ!」のツッコミとか。土壇場の語彙力がなさすぎるのが面白くて…。ネットでいよいよ批評が出た場面での「購読料を払えって?」「クレジットカードがない。どこに、ああ、見つけた」「スマホはどこだ!」のあまりにも王道のひとり漫才とか、悔しいけど笑ってしまった…。

マリーがちょっといなくなるたびに「悪ふざけはよせ」と言いながら外に探しにいくあたりからも、単なる“かまってちゃん”であることが隠しようもなく駄々洩れているし…。しょんべんしながら論戦をかます男の後ろ姿のダサさも哀愁がある…。

“ジョン・デヴィッド・ワシントン”はやっぱりコメディの才能がありますよね。『TENET テネット』でももうちょっとユーモアを見せていたら味がでたかもしれないなぁ。

そんなガキっぽい男に対してのマリーを演じる“ゼンデイヤ”。彼女は真逆で非常に大人びているながらも、何をするかわからない危うさもある。まあ、『ユーフォリア/EUPHORIA』からそのままスライドしてきたようなジャンキー感のある演技です。ひたすらに空回りしているカレシに対してのあの黙々とした態度。なんかこういうのも『スパイダーマン ホームカミング』と同じで“ゼンデイヤ”の定番になってきていますよね。今回は『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』ほどの明快なデレを見せることはないのですけど、ラストはさりげなくそういうポイントをチラ見せしていたともとれるし、翻弄キャラなんだろうな(なんだそれ)。

基本的に口論してばっかりの映画ですけど、中身としてはほぼコメディ。バカップル映画だったとも受け取れるような気もします。

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メンドクサイぞ、この男

そんな演技面で評価される『マルコム&マリー』ですが、全体の賛否は割れており、批評家によってはボロクソの最低評価をつけている人もそれなりにいます。それもよくわかります。

批評家に一番嫌われるタイプの映画ですよね。自己満足トークだと言えばそれまでですから。お前の独り語りを映画にされてもどうでもいいよ!ってなるような。思いっきり偏見が混じりますけど、映画を学び始めて業界を知った若手とかが作りそうな作品です。

主人公のマルコムは、一言で言えば「メンドクサイ奴」です。ちょっと脚光を浴びていきがっている若手映画監督。こういう人、いますよ。去年も「自分の作品は政治的じゃない、インテリ気取りが唸り議論するのは嫌だ、これは娯楽だ」とかなんとかSNSで口走って炎上した日本の監督もいたし…。

例えば、あれだけ烈火のごとく怒って世間の映画業界の批評のいい加減さにダメ出ししていましたけど、怒っている相手は「白人女(カレン)」です。でもあのマルコムは男性の大物にはきっとヘコヘコするタイプですよ。しょせんはその程度。一番弱そうな属性を持つ白人女を対象にしかプッシーだなんだと強がりを言えない。この情けなさ。

ちなみにその罵詈雑言の中で、「アセクシュアル」の単語がちょっと飛び出したのがなんか嬉しかったです。まあ、単語が出てきたってだけなんですけどね(表象に飢えているんです…)。

一方のマリーはそのマルコムのダメダメさをすべてわかっています。私の物語を奪われたことを怒るのも最もですし、マルコムの中にあるミソジニーな思考がそういうそもそもの根源にあるのも見透かしています。マリーの背景は全然明らかになりませんが、おそらくこの男についていくことでしか自分の道が今のところ見えておらず、ある種の苦渋の選択なのかなとも思います。そのマリーがマルコムを「ナルシスト。誇大妄想。エゴの塊」と批評するというオチ。批評ってツライね…。

『マルコム&マリー』に似ている最近の邦画を挙げるなら『劇場』だと思いますけど、この『マルコム&マリー』の方は女性が男のナルシシズムにハッキリ刃を突き立てるのでそのぶんしっかりしていたと思います。

なお、『マルコム&マリー』に対して主演2人の年齢差が槍玉にあがりました。これは女性だけが若い年齢ばかりをキャスティングするという年齢問題です。2人の年齢差は12歳くらいで、現実的にはありうる年の差ですけど、“ゼンデイヤ”が結構若そうな顔つきなので余計に違和感として出やすいのは確かにあります。それよりも私はとくに意味もないのに、イチイチ“ゼンデイヤ”をフェティッシュに艶めかしく撮る必要はあったのかとそこが気になるんですが…。どういうシーンでも必ずセクシャルに映していますよね。“ジョン・デヴィッド・ワシントン”は超アホなのに…。

あと、黒人を撮ることに関して、顔が暗くなってよく見えないシーンがあったり、あんまり上手くない気もするような…。

すっごくどうでもいい話だけど、こういうある程度の緑のある環境であんな全面ガラスな家があったら、わんさか虫が集まったりしないんですかね。外の椅子で座るシーンも、“ゼンデイヤ”はあんな露出だと虫に刺されない?とか、湯船につかってじっと聞くシーンは、体が冷えない?たぶんそんなにあっついお湯ではないだろうに…とか、心配になってしまう…。

それにしても飛沫も飛びまくる口論の連続。日本語の吹き替えも用意してあるので、さぞ翻訳と声優は大変だったでしょうね。ご苦労様です。

結論。“ジョン・デヴィッド・ワシントン”に毎日「マカロニ&チーズ」を作ってそれだけを与え続けてあげたいです。

『マルコム&マリー』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 60% Audience 71%
IMDb
6.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 6/10 ★★★★★★

作品ポスター・画像 (C)Netflix マルコム・アンド・マリー

以上、『マルコム&マリー』の感想でした。