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『ザ・サークル』感想(ネタバレ)…映画の感想をSNSにあげても大丈夫?

ザ・サークル

映画の感想をSNSにあげても大丈夫?…映画『ザ・サークル』の感想&レビューです。前半はネタバレなし、後半からネタバレありとなっています。

原題:The Circle
製作国:アメリカ(2017年)
日本公開日:2017年11月10日
監督:ジェームズ・ポンソルト
ザ・サークル

ざさーくる
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『ザ・サークル』物語 簡単紹介

ユーザーのあらゆるデータを蓄積し、生活に欠かせないものとして浸透している世界ナンバーワンのシェアを誇る超巨大SNS企業「サークル」。憧れの「サークル」に採用された新入社員のメイは、あることがきっかけでカリスマ経営者のベイリーの目に留まり、ユニークな企画に参加することになる。それは新サービス「シーチェンジ」のモデルケースとして自身の24時間をネット上で公開することだった。
この記事は「シネマンドレイク」執筆による『ザ・サークル』の感想です。

『ザ・サークル』感想(ネタバレなし)

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豪華俳優共演のSNSスリラー

先日、神奈川県座間市のアパートで9人の遺体が見つかるという痛ましい事件が明らかとなり、世間を震撼させました。この事件では殺人を行った男がSNSを通じて自殺希望者とコンタクトをとっていたことが報道され、SNSの闇があらためて浮き彫りにもなりました。実際、SNSで検索すれば容易に自殺を望む人の声を目にすることができます。

「情報」という概念の価値を一変し、私たち誰もが自由に情報を公開・把握することができる社会をもたらしたインターネットの発達。個人だけでなく、企業や国家さえもネットに依存している今、その問題性にも非常に注目が集まりやすいです。多くの人々がSNSを利用するようになってはいますが、内心ではどこか不安を抱えながら利用している人も多いはず。

そんな時代の真っ只中に公開された本作『ザ・サークル』は、まさにSNSに対する不安をピンポイントで直撃するような映画となっています。

お話はシンプル。超巨大IT企業に入社した新入女性社員が、企画によって自分の24時間全てをカメラで公開することになり、それがやがて悲劇を起こす…というもの。そんなことしたら、絶対に良くないことが起こるのはたいていの人なら想像がつくところですが、本作では予想外の事態に発展していきます。

テーマが身近なことも魅力ですが、出演陣が非常に豪華なのも見どころです。主人公を演じるのは“エマ・ワトソン”。最近もヒロインをつとめた実写映画『美女と野獣』の特大ヒットによって圧倒的な魅力を示した彼女ですが、本作の全く真逆の世界観でどんな演技をするのか。そして、舞台となるIT企業のトップを演じるのは名優“トム・ハンクス”。この両者が対峙するシーンは本作の白眉でしょう。また、脇キャラながら重要な役割を担う人物を『スター・ウォーズ フォースの覚醒』で一躍有名となった“ジョン・ボイエガ”が演じているのも注目です。

監督は“ジェームズ・ポンソルト”。前作『人生はローリングストーン』は日本では劇場未公開でビデオスルーだったのですけど、とても素晴らしい作品でした。

かなり作風がガラッと変わりましたが、本作のような題材も手がけるのは意外ですね。ちゃんと脚本にも関わってますから、気合は入ってます。

この映画を観た後は、映画の感想をSNSやブログにアップできなくなるかもしれません(すでにアップしている自分が言うセリフではない)。

↓ここからネタバレが含まれます↓

『ザ・サークル』感想(ネタバレあり)

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大不評の理由

最初に申し上げておきましょう。この映画、批評家からの評価は非常に低いです。映画批評サイト「RottenTomatoes」では肯定的評価は批評家では16%、一般観客では22%となっており、他でもボロボロ。2017年の映画の中でもひときわ残念に終わった作品になってしまいました。“ジェームズ・ポンソルト”監督の前作『人生はローリングストーン』はとても評価が良かっただけにこんな結果になるとは…正直、驚きです。

否定的な批評家の意見はそれぞれ調べてもらうとして、でも、私も本作を観た後、確かに難ある映画だったなと思ってしまいました。

まず「現実離れしすぎ」という批判はおそらく多く聞かれるでしょう。だって、あの「サークル」という、もろにGoogleやAppleを意識しまくった巨大IT企業。その企業が開発した、目玉みたいな小型カメラで映像配信し、映ったものを分析する機能も備えた「SeeChange」というサービスが物語の題材になるわけですが、さすがにあれはないです。あんなの間違いなく違法な盗撮に悪用されるし、それで24時間モニタリングでもしようものなら、それこそネットでボロクソに叩かれます。挙句に死者まで出したのになぜかトップのイーモン・ベイリーをはじめ、企業は普通に存続しているのも謎。株価大暴落になったり、裁判沙汰にならないのかな…。少なくとも絶対にこんな製品を作るような企業は世界的企業にはなれないです。

というか、あの「SeeChange」は完全にスパイグッズですね。『キングスマン』とかで登場しそうな。だから妙に時代錯誤感があって、全然リアルに感じません。そういう意味でも、作品がどんなに頑張ってシリアスな論調に舵を切ろうとも、もうお笑いものにしかならないような…。

こんな風にツッコミどころは山ほどあります。

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「いいね!」とは言えないこの映画の風刺

でもそんな批判に対して、この映画は「リアル」ではなく「風刺」を描いた童話なんだという擁護もできるでしょう。

監督もインタビューで語っていますが、サークルというのは会社なのかカルト宗教なのかあやふやな描写になっており、あくまで戯画化された「SNSの行き過ぎた脅威」の象徴なのだと解釈もできます。『エクス・マキナ』みたいなノリだと思えば、リアリティをツッコむのは野暮です。

でも、風刺として見ても本作は穴だらけな気がします。

本作では「透明性」という言葉がしきりに前に出てきます。サークルのトップであるベイリーも理想を言ってました。透明性は自由をもたらし、犯罪を失くし、社会を健全にすると。

しかし、ここですでに私は“ちょっと待って”と言いたくなるわけです。透明性ってそういうことか?と。この映画の作り手は透明性という言葉の意味を勘違いしてないだろうかと。

これは、10年以上前に知事室を「ガラス張り」にして政治の透明性をアピールした某知事と同じ過ちなんじゃないでしょうか。

本来、透明性とは「見えやすさやわかりやすさを確保することで第三者が検証可能であることを推進すること」がその意味です。これによって不正や権力の横行を監視できます。

ところが、本作のやっていることは単に「何もかも全てを明らかにすること」なんですね。これではただの「自己顕示欲の強い目立ちたがり屋」か「詮索心の強い覗き魔」でしかありません。つまり、あのサークルが推進している「透明性」とやらは風刺以前にどう考えたって変です。本来はハッカー集団「アノニマス」がやるようなことですよ。それを世界一の大企業がやるって、どうなのと。

で、もうひとつ疑問点としては、SNSの発達によるオープンな社会が究極的に行き着く先は「プライバシーがなくなる」でいいのかということ。別に「オープン=プライバシーがない」ではないと思うのです。

問題視すべきは、ルールや倫理を守らない人、結局は「モラルの欠如=プライバシーがない」なのではないでしょうか。これって別にインターネットやSNSだけの固有の問題じゃないですよ。にもかかわらず本作はSNS利用者はモラルが特別欠如しているといわんばかりに、ことさら横暴に描かれています。加えて、最後のオチも、ベイリーのアカウントを公開するというのは「目には目を歯には歯を」的なカタルシスを狙ったつもりかもしれませんが、それは水掛け論です。悪いのはベイリーだけじゃありません。メイも、「マーサー」と連呼したサークルの社員たちも全員モラルがないわけですから、せめて全社員のアカウントが暴露されるくらいのオチが欲しかったかな…。

風刺としてオチの弱さをさらに決定づけるのは、スノーデン事件の存在です。詳しくは『シチズンフォー スノーデンの暴露』を見てもらうとして、現実でこの『ザ・サークル』よりも酷いことが国家レベルで起きているわけで、ゆえに風刺としては一周遅れな気がします。本作が20年くらい前に製作されていたらもっと評価が上がったかもしれませんね。

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実力のある役者の演説合戦

とまあ、いろいろと苦言をタラタラ書きましたが、監督いわく『ザ・サークル』はプロパガンダではないし、メッセージもなく、エンターテイメント作品として楽しんでもらいたいそうです。

だから、深く考える必要はないのかも。じゃあ、いいか(なんだったんだ)。

まあ、世界観設定やストーリーは別としても、本作の良かった点としては役者陣は素晴らしかったですね。

まず“エマ・ワトソン”の起用は非常にぴったりだったと思います。なんていったってTwitterでは2500万人のフォロワーを抱える、まさに監視されているような状態の人ですから。

“エマ・ワトソン”は本作といい『コロニア』といい、社会派サスペンスに出演すると、ことごとく作品評価が低い結果に終わるのですが、ツいてないのか…。決して下手な役者ではないのに。

そして“トム・ハンクス”はあの演説といい、さすが。ほんとこういうちょっとコミカルが入った役はお手のものです。そして、“エマ・ワトソン”もリアルで人権活動などで演説をしているだけあって、スピーチが上手い。本作はいわゆる演説合戦であり、そこは二人の力量が見事にスパークしてました。ここは本作の大きな見どころでしたね。

本作を観るとSNSの発達でオープンになることは社会を悪くさせるような不安にかられますが、必ずしもそうではありません。例えば、今、ハリウッドを騒がしている大物プロデューサーのセクハラ・レイプ事件の暴露騒動も、誰でも情報が発信できるSNSのオープンさが被害者の背中を押しているわけですから(Twitterの「#metoo」運動とか)。

大事なのは“ネットでもリアルでもモラルを守りましょう”ということ。そんなありきたりな言葉で締めておきましょうか。

『ザ・サークル』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 15% Audience 21%
IMDb
5.3 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
星 3/10 ★★★

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以上、『ザ・サークル』の感想でした。

The Circle (2017) [Japanese Review] 『ザ・サークル』考察・評価レビュー