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『モガディシュ 脱出までの14日間』感想(ネタバレ)…理想化を探る朝鮮二国と安易に地獄化されるアフリカ

モガディシュ 脱出までの14日間

理想化を探る朝鮮二国と安易に地獄化されるアフリカ…映画『モガディシュ 脱出までの14日間』の感想です。前半パートはネタバレなし、後半パートからネタバレありの構成です。

英題:Escape from Mogadishu
製作国:韓国(2021年)
日本公開日:2022年7月1日
監督:リュ・スンワン

モガディシュ 脱出までの14日間

もがでぃしゅ だっしゅつまでのじゅうよんにちかん
モガディシュ 脱出までの14日間

『モガディシュ 脱出までの14日間』あらすじ

1990年、韓国は国連への加盟を目指して多数の投票権を持つアフリカ諸国でロビー活動を展開。ソマリアの首都モガディシュに駐在する韓国大使ハンも、ソマリア政府上層部の支持を取り付けようと奔走していた。一方、韓国に先んじてアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮も同じく国連加盟を目指しており、両国間の睨み合い、互いを敵視していく。そんな中、ソマリアで内戦が勃発してしまい…。

『モガディシュ 脱出までの14日間』感想(ネタバレなし)

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海外では何が起こるかわからない

コロナ禍もすっかり過去のことだと思っている人も普通に見られるようになり、海外旅行へ意気揚々と出かける人たちも大勢います。コロナ禍前と比べるとまだまだ全体の数は乏しいですが、以前と同じ勢いを取り戻すのも時間の問題でしょう。

でも「久しぶりの海外だ!」と浮かれて油断していませんか? 海外では何が起きるかわかりません。そして何か起きてしまったとき、予想以上に孤立無援に追い込まれてしまうこともあります。自国内よりも海外にいるときの方が脆弱になるものです。異国の地で、法律も言葉も人権も通用しない状況になってしまったら…あなたはどうするでしょうか。ちゃんとそこまで備えているでしょうか?

今回紹介する映画も、異国でそれはもう酷い目に遭ってしまう悲惨なシチュエーションで八方塞がりとなった人たちを描く、スリル満載の作品です。

それが本作『モガディシュ 脱出までの14日間』

『モガディシュ 脱出までの14日間』は韓国映画です。監督は『生き残るための3つの取引』(2010年)で高い評価を受け、その後も『ベルリンファイル』(2013年)、『ベテラン』(2015年)と話題作を生み出し続け、今や韓国で最もノリノリなヒットメーカーのひとりである“リュ・スンワン”。2017年には『軍艦島』という日本に強制労働させられる朝鮮人労働者の反乱をビッグ・スケールでスペクタクルたっぷりに描いた映画を公開しました(日本では未公開なのが残念ですが…)。

この『軍艦島』なんてとくにそうなのですが、最近の“リュ・スンワン”監督は韓国映画界の大作インフレの波に乗っかり、その作家性が非常に“マイケル・ベイ”っぽくなっているなと思います。とにかく豪快なのです。滅茶苦茶だけど、そこがいい。

その“リュ・スンワン”監督の2021年の最新作となった本作『モガディシュ 脱出までの14日間』も、大盤振る舞いの映像スケールです。物語は、1990年代のソマリアの首都モガディシュ。そう、もう韓国ですらありません。そこでせっせと働く韓国大使とその関係者が、現地で突如起こった内戦に巻き込まれ、逃げ場無しの状況に追い込まれます。しかも、北朝鮮大使も同じくピンチに陥っており、やむなくこの敵対している韓国と北朝鮮は一時休戦で協力して事態を乗り越えようとする…そんなアクションサスペンス映画です。

こういう異国でクーデターに巻き込まれて大混乱に陥る系の映画はジャンルとして存在しますが、『モガディシュ 脱出までの14日間』はその世界の同ジャンル作品の中でも、埋もれることのない突出した品質です。

まず何よりもオール異国を舞台にここまでのスケールの映画を作れてしまうという韓国映画界のパワーに圧倒されます。今作の製作にあたっては、主にモロッコで3カ月のロケ撮影を実施したそうですが、背景に映る一般住民の数もものすごい多いですし、1990年代のソマリアの街並みも作り込んでおり、それを見事にコントロールして、狂乱の内戦状態を再現しているわけで…。ちょっと今の日本の映画界にはとてもじゃないですけど作れない作品ですね。

『モガディシュ 脱出までの14日間』の俳優陣は、『1987、ある闘いの真実』『暗数殺人』の”キム・ユンソク”、『安市城 グレートバトル』の“チョ・インソン”、ドラマ『キングダム』の“ホ・ジュノ”、ドラマ『D.P. 脱走兵追跡官』の“ク・ギョファン”、『KCIA 南山の部長たち』の“キム・ソジン”、『藁にもすがる獣たち』の“チョン・マンシク”など。全体的に渋い面々です。

韓国国内では自国映画としては2021年ナンバーワンの客入りとなった『モガディシュ 脱出までの14日間』だそうですが、それも納得のクオリティです。でもやっぱり韓国の観客は威勢がいいな…。「この映画、観よう!」っていう空気になるんですよね。観る映画の方向性が日本と全然違う…。

『モガディシュ 脱出までの14日間』はとりあえずなるべく大画面で観ましょう。海外旅行に出かける飛行機の中とかで見るのはあまりオススメしないけど…。

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『モガディシュ 脱出までの14日間』を観る前のQ&A

✔『モガディシュ 脱出までの14日間』の見どころ
★凄まじい映像スケール。
★迫力の現地再現度。
✔『モガディシュ 脱出までの14日間』の欠点
☆アフリカの表象としてはイマイチ。
作品を観れます!
『モガディシュ 脱出までの14日間』
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オススメ度のチェック

ひとり3.5:迫力のスリルを味わう
友人3.5:韓国映画好き同士で
恋人3.5:ロマンス要素無し
キッズ3.0:暴力描写多め
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『モガディシュ 脱出までの14日間』予告動画

↓ここからネタバレが含まれます↓

『モガディシュ 脱出までの14日間』感想(ネタバレあり)

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あらすじ(前半):異国で孤立無援に…

韓国の民主化から3年。韓国はソウル五輪も成功させて、国際的な地位を高めようと躍起になっていました。1990年、最も目指しているのは国連への加盟です。それには投票で支持を得るしかなく、そこで多数の投票権を持つアフリカ諸国へのロビー活動に励んでいました。

ソマリアの首都モガディシュに駐在する韓国大使のハン・シンソンもそのために奔走しているひとりです。慣れない異国では苦労の連続ですが、弱音を吐いてはいられません。ひたすらに現地のお偉いさんに気に入られようとごまをする日々。

その頃、ソマリアの空港に白いスーツのカン・テジンがソウルから到着します。駐ソマリア韓国大使館参事官となる男で、ソマリアのモハメド・シアド・バーレ大統領への貢物を持ってきています。

車が来ないのでやむなくうるさい現地タクシーに乗ろうとしますが、そこへやっと車でハンとその仕事仲間の駐ソマリア韓国大使館書記官コン・スチョルが慌ただしく来ます。ハンが迎えるも、目当てはスーツケースの中身で、遠慮なくチェックしだします。そしてタクシーに乗れとハンたちの車は先に行ってしまい、カンは置いてけぼりに…。

ところがハンたちの車が武装した集団に襲撃され、スーツケースを奪われてしまいます。大統領のためのものなのに…。道路のど真ん中で困り果てるハンたちはとりあえず走ります。

遅れてしまったので大統領との面会はキャンセルされてしまい、代わりに面会していたのは北朝鮮のリム・ヨンス大使でした。一番最悪な相手に先を越されるとは…。北朝鮮も国連加盟を目指して根回しをしていました。

北朝鮮はソマリアで反乱軍に武器を提供しているのではないかという噂もあります。きっとあのスーツケース強奪も北朝鮮が仕組んだ妨害工作に違いない…。ハンは苦戦を強いられていました。

ハンはリムと駐ソマリア北朝鮮大使館参事官テ・ジュンギを見かけて「フェアプレイでいきましょう」と忠告。でも「反乱軍に武器を提供しているとそっちが噂を流したのだろう」とリムも怒ります。北朝鮮は韓国よりも20年も前にアフリカで活動しており、そもそも優勢だと言われ…。

そのとき銃声が響き、サイレンが聞こえます。なにやら向こうが騒がしいです。なんでも暴動が起きたらしく、ハンとカンはホテルに退避します。

政府への反乱はすぐに収まらず、混乱は夜にも継続していました。大使館事務所では運転手だったスワマが逃げこんできて、駐ソマリア韓国大使夫人キム・ミョンヒは「もしかしてスワマは反乱軍側ではないか」と疑う一同を冷静にさせていました。

そこへハンたちが戻ってきて、警察に匿っているのではないかと疑われ、その間にスワマは逃げ出し、警察に殺されてしまいました。

権力による暴力は独裁反対のデモをさらに拡大させ、政権打倒を叫び、ますます収拾がつかなくなってしまいます。

動けないハンたち。公務員なので勝手には国から出れません。銀行も旅行代理店も閉鎖され、街の混乱は増すばかり。韓国大使館にも暴動の波が押し寄せ、融和のテープメッセージを流すも、政府が武力で鎮圧。暴力がまかりとおり、通りには死体も平然と転がるようになりました。

空港もパニック状態で、飛行機は飛びません。通信不可能なので本国と連絡できず、ハンたちは孤立します。

一方で、それは北朝鮮大使側も同じで…。

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エンタメの中に自国史への風刺も

『モガディシュ 脱出までの14日間』は前述したとおり、映像面の凄まじさは折り紙つきです。

あのひとたび暴動が起こってしまうと、大使館ですら無力という状況が印象的。一般的に大使館というのは現地にいるその国の人にとっては「何かあったらここに駆け込めばいい」という場所のはずじゃないですか。でも実際はこうもあっさりと無力化してしまうんですね。

これは同時に、民主化したばかりの韓国だけど実態はまだまだボロボロであっけなく崩壊することだってあるという、韓国の実情を暗示するようにも思えます。韓国は決して民主化したから「強くなった」わけではない。そんな自動的に強固になるようなものじゃないということです。

その異常事態の中、北朝鮮大使と共同戦線のように助け合わなければいけないことになります。この最初に北朝鮮大使側を施設内に招き入れた時の緊張感は何とも言えません。嫌な空気の食事シーンが、この両国の溝の深さを感じさせます。

全体を俯瞰すれば、政府と反政府の対立で内戦となったソマリアという箱の中、もっと前から分断している韓国と北朝鮮が配置されているという構図がまたユニークです。国家分裂という観点では、韓国と北朝鮮はソマリアよりも経験者なんですよね。複雑な思いがあの登場人物の脳裏に浮かんだはずですが、でも簡単には口にできない。

本作は結局は口にできないまま終わるという、非常に歯痒いラストで幕を閉じます。飛行機で避難した後に、韓国と北朝鮮のバスが別々の方向に分かれていく。もしかしてここで融和をとるような選択を勇気をもって実行していれば、韓国と北朝鮮は再びひとつの朝鮮としてまとまれたのではないか…。そんな一瞬の希望を幻視させるようなエンディングでした。

韓国と北朝鮮はモガディシュから脱出できたわけですけど、それは平和を意味しません。両国はこの後も、そして現在に至るまで、対立が続いています。朝鮮半島自体がソマリアのようなもので、『モガディシュ 脱出までの14日間』はエンターテインメント映画でありながら、その根底には自国史へのシニカルな風刺目線が漂っている…やはりすごく韓国映画らしいバランスの作品だったなと思います。

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車にそんなことしても意味ないけど

シリアスな主軸がありますが、『モガディシュ 脱出までの14日間』は“リュ・スンワン”監督作なので、瞬間風速でとんでもないリアリティ度外視のアクション展開も見せてくれます。

一番の見せ場はやっぱりあの政府軍に追われてしまってからのカーチェイスです。防弾になればいいとせめてもの努力で車体に本やらを貼りつけまくって防御力をあげての車列移動。そこからの激しい銃撃と逃走のスピード感は緩急がたまりません。

もちろん真面目に考えるとあのシーンはおかしいとこだらけですよ。どんなに車体の防御を固めてもタイヤを撃たれたら終わりなんだから意味ないだろうとか、ピックアップトラックのテクニカルからの銃撃はピストルと違って強力だから本なんて一瞬で貫通するだろうとか…。

でもそれをゴリ押しするくらいの勢いはありました。あのカーチェイスのハラハラドキドキはハリウッドにはまたないタイプですね。

エンタメの面でも満足させてくれる『モガディシュ 脱出までの14日間』ですが、個人的に気になったのはソマリアの人々の描写です。

本作ではクーデター後のソマリア人はとにかく野蛮で、大人でも子どもでも知性も品性もない、極めて悪魔化されて描かれています。要するにこれはゾンビパニック映画と同じであり、あの韓国と北朝鮮の登場人物たちにとって、よくわからない恐怖の群衆として具現化されているだけです。なのでそこにソマリアの人たちの主体的な政治的葛藤を読み解くのは難しいです。

韓国映画は国内の政治的複雑さを描くことは長けているのですけど、その一方でアジア以外の、とくに発展途上国とされる国々相手だと急に解像度が悪くなる傾向にある気がします。ドラマ『ナルコの神』や『シスターズ』、映画『ただ悪より救いたまえ』などでも最近は同様のことを感じました。

これは韓国のみならず日本を含む東アジア諸国が内在化している、一部国家への自覚なき蔑視なのではないか。そう考えてしまうと、今回のソマリア表象もあまり良いものとは思えません。

ソマリアは2022年時点も地域が分割されており、政府は機能しきれていません。その背景には他のアフリカ諸国と同様に、さまざまなアフリカ以外の外国が私利私欲の思惑込みでアフリカを踏み荒らしていった歴史があるわけですからね。

『モガディシュ 脱出までの14日間』を観て「まあ、でもこんなクーデターは発展途上国でしか起きないでしょ」と安心しきっているそこのあなた。でもつい最近もドイツでクーデター未遂があったばかりですよ。アメリカでもクーデターやる気満々な人たちが大勢います。

世界中いかなる国でも何が起きるかはわかりません。そのときは大使館も無力になっているかもしれません。大切なのは、近くの異国の人と仲良くしておくことです。異なる国同士で助け合う精神は外国サバイバルの必需品ですから。

『モガディシュ 脱出までの14日間』
ROTTEN TOMATOES
Tomatometer 95% Audience 88%
IMDb
7.0 / 10
シネマンドレイクの個人的評価
6.0

作品ポスター・画像 (C)2021 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS & FILMMAKERS R&K All Rights Reserved.

以上、『モガディシュ 脱出までの14日間』の感想でした。

Escape from Mogadishu (2021) [Japanese Review] 『モガディシュ 脱出までの14日間』考察・評価レビュー

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